社長が訊く
IWATA ASKS

社長が訊く『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』

社長が訊く『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』

目次

6. 「ボス戦は全部おかしい」

岩田

佐野さんはN64版を遊んだ立場として・・・
あえて言いますが、当時は挫折した立場の人が、
新しくできあがった『ムジュラの仮面 3D』を見て、
どんな手ごたえを感じていますか?

佐野

かつてN64版で失敗したところは、
今回もやっぱり失敗したんです。
でも、それはもともと自分にゲームの腕がないからで、
その意味でちゃんと歯ごたえを残せていると感じました。

岩田

失敗しても、それは自分のせいだと思えるから、
納得できるんですね。それで「もう1回やるぞ」って。

佐野

はい。それに、N64版のときは、
なぜ自分が失敗したのか、納得できないことも多くて、
「もう1回やるぞ」とは思えないところもあったんですけど、
それが今回は、ものすごく減ったように感じました。

青沼

「理不尽」という感じが薄らいだよね。

佐野

そうですね。なので、
わたしがもし、このプロジェクトにかかわらないで、
お客さんの立場でこのソフトを買ったとしても、
すごく納得して遊べるものになったと思います。

岩田

N64版の歯ごたえはそのままで、
でも、やさしくして、遊びやすくするというのは、
一見、「そんなこと、できるの?」と思われそうなんですけど、
「理不尽さは取り除くけど、歯ごたえは取り除かない」
ということなんですよね。

青沼

はい、そうです。スタッフにも
「絶対にかんたんにはしてくれるな」
という話を何度も繰り返し言っていましたから。
たとえばボスと戦うときの、手数なんかもそうですけど、
いろんな方法を試して、
いくつかの段階を踏んで倒したからこそ
達成感が生まれると思うんです。

岩田

それに「3日だと足りない」ということで、
ドキドキするのが、このゲームの醍醐味ですから、
そこをあっさりにすると、
たぶん、思い出に何も残らない、
ただの淡泊なゲームになってしまうんですよね。

佐野

そもそも、一度も月が落ちてこないで
クリアできたら、自分のなかに何も残りませんしね。

佐野

青沼

そうそう(笑)。

山村

そういったことは、早い段階から
スタッフみんなのコンセンサスがとれていたと思うんです。
なおすべきところと、なおしてはいけないところを、
みんなで多くの時間で話しあったからこそ・・・。

大岩

“なんじゃこれはリスト”を元にしてね(笑)。

山村

はい。ですから、
問題の答えを最初から教えるというのは、
「解かせる」という意味ではすごくかんたんなんですけど、
それは絶対にやっちゃあいけないことだと思いました。

岩田

やっぱり自分で解いた感がないと、
それは『ゼルダ』じゃないですよね。

一同

(うんうんとうなずく)

岩田

かんたんに謎が解けて、
ごまだれ~(※27)が鳴っても、
ちっともうれしくないですしね(笑)。

※27
「ごまだれ~」=『ゼルダの伝説』シリーズにおいて、重要なアイテムを宝箱などから取得した際のファンファーレの歌詞として、非公式に使用されるフレーズ。

一同

(笑)

山村

だから、答えを教えたり、
無理やり答えに導くというのではなくって、
それよりも、出題の意味がちゃんと伝わるか
ということにパワーをかけることで、
だいぶわかりやすくなって、かつ歯ごたえを残す
ということが実現できたように思います。

青沼

その最たる例が、ボス戦なんです。

大岩

青沼さんが「ボス戦を全部変えたい」
と言ったんですよね。

青沼

「ボス戦はおかしい。全部おかしい」
と言ってたんです。そもそもボスが出現したときは
まず最初に、その弱点を探ろうとするじゃないですか。
「ああ、あそこを剣で斬ればいいんだな」とか。
ところがN64版だと、それがぜんぜん見えなかったんです。

岩田

「解けるものなら解いてみな」という
“挑戦状”のようにつくられていたからですね。

青沼

でも、戦って、それが納得できればいいんですけど、
ごちゃごちゃと力技でやってるうちに勝ってしまって、
どこが弱点だったか、よくわかんないよね、
というものになっていたんです。

大岩

で、自分としても
なおせるものならなおしたいと思っているところに
そういうお話をいただいたので、
わかりやすい目的、気づきの要素、
攻略にかかわる戦略的要素など可能な限り
再構築することにしました。

岩田

ボス戦は全部をつくりなおししたんですか?

青沼

すべて、つくりなおしです。
ボスのモデルはN64版と同じようなものなんですけど。

山村

でも、ボスの動きから攻略方法まで
すべてが変わってるので、新規のものをつくるのと
まったく同じ手間がかかってるんです。

岩田

さらっと言いましたね、リメイク版なのに。

山村

(笑)。そこまで力を入れてつくりましたので、
初めてプレイする人にも遊びやすくなったと思いますし、
かつてN64版を遊んだ人にも
新鮮なバトルを楽しんでいただけると思います。

青沼

なので今回は、グレッゾさんには本当に
リメイクの枠を越えて頑張っていただきました。

大岩

ボス戦のほかにも今回は
いろいろアイデアを出させていただきましたしね。

青沼

けど、ちょっとやりすぎかな?
と思えるような提案もありましたよね(笑)。

大岩

ああ、ごめんなさい(笑)。
でも、そのへんはちゃんと釘を刺していただけましたので。

青沼

本当にやる気がすごいので、
「こんなの、やりたいんですけど」と見せられて、
「あれー、それはちょっとやりすぎかなー」
っていうことがけっこうあったりしましたしね。
でも一方で、僕たちが気づかなかったところを、
つくってくれたりもしたんです。

大岩

先ほどの話にもありましたけど、
せっかくおもしろいネタが入っているのに
それを気づいてもらえないのはもったいないなあと思って、
すみからすみまでこだわって改良と調整をしたんですが、
その代表的なものがボンバーズ(※28)のヒントだったり、
団員手帳(※29)だったりします。

※28
ボンバーズ=人々を助ける活動をする正義の秘密結社。団長のジムを筆頭に、クロックタウンに住む5人の少年たちで構成されている。
※29
団員手帳=ボンバーズの一員であるという証で、悩みを持つ人たちのスケジュールが自動的に書き込まれる手帳。

青沼

クロックタウンという町にいるボンバーズは、
5人の少年グループなんですけど、
「町の情報を集めてるんだ」とか言うんです。
けど、N64版のときはたいした情報をくれなかったんですよ。
だから「なんだ、こいつらは!」という感じで(笑)。

青沼

岩田

自分でつくっておいて、それはないでしょう(笑)。

一同

(笑)

青沼

そういう反省もあって、今回は
「この子たちをもっと活かしましょう」
という話になったんです。

大岩

町のなかではいろんなイベントが起こるんですけど、
N64版のときは、何が起きているのか
気づかないことも多かったんです。

青沼

しかも、イベントが起こる時間が決まってますので、
そのときに、その場に行かないと、
一生気づかないまま終わってしまっていたんです。

大岩

そこで、ボンバーズたちが
ヒントを言ってくれるようにしました。

青沼

さらに、団員手帳が
ものすごく進化したんです。
3DSの2画面でとても見やすくなりましたし
情報量もすごく増えましたし、
アラーム機能までついて、イベントが発生する時間を
教えてくれるようになったんです。
あれは、本当に便利ですよね。

大岩

はい。本格的に秘密結社として
情報収集してくれるようになったおかげです(笑)。

岩田

じゃあ、ボンバーズの少年たちは
「なんだ、こいつらは!」ではなくなったんですね。

青沼

僕のなかではすっかり印象が変わりました。
「君たち、やるじゃん!」って(笑)。

一同

(笑)