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社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

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社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

サウンド 篇

目次

2. 近藤浩治のちゃぶ台返し

横田

いまでは当たり前になっているんですけど、
アクションゲームの冒険中に、戦いの場面になったら
シームレスに戦闘の曲に切り替わるというのは、
『時のオカリナ』以前のゲームにはなかったような気がします。

岩田

あれは新しかったですね。

横田

戦闘に入ると、敵のフレーズに変わるんですけど、
戦闘が終われば、また元の曲に戻るのが
すごくスムーズで、キレイだなあと思ったんです。
なので、冒険への没入感がすごく大きくて、
あの当時、わたしがほかの会社で働いていたから
こう言うわけではないんですけど、
『時のオカリナ』は自分のなかではすごい名作なんです。

岩田

そんなふうに『時のオカリナ』のことを
愛してやまない横田さんが、
ニンテンドー3DS版の開発にかかわることになったのは
どんな経緯があったんですか?

横田

1年前の3月くらいに、
『時のオカリナ 3D』の音楽の担当者が決まっていないので、
「誰かあいてないか?」と。
初めの頃は、若い人に任せようと思っていたんですけど、
近藤さんから「横田くんが面倒を見てください」と言われまして。

岩田

近藤さんご指名なんですか。

近藤

そうです。
入社早々の若い人ということもあって、
ゲーム音楽について、いろいろ教えてあげてほしいと思ったんです。

横田

そこでまず、わたしは監修のような立場で、
『時のオカリナ 3D』にかかわることになりました。

岩田

でも、監修という立場では
黙っていられなかったんでしょう?(笑)

横田

ええ、そこはやっぱり・・・(笑)。
なので、「自分に全部、見させてくれ」と。

岩田

愛がありますからね(笑)。

横田

ただ先ほど、以前はストリーミングで音楽を流すことが多かった、
という話がありましたけど、今回も技術的な制約があって、
初めはそのストリーミングを使うことになっていたんです。
シチュエーションに合わせて、リアルタイムに曲を
変化させることは技術的に難しかったんですね。
だから最初の頃は、ちょっと色気を出しまして、
いまの時代に合わせた曲にアレンジしようとしたんです。
で、半分くらいつくったところで、
突然、近藤さんから言われたんです。
「NINTENDO64の音を“忠実に”再現してね」と。

岩田

はい(笑)。

横田

本当に、いきなりですよ。
近藤さんのちゃぶ台返しがありまして・・・。

近藤

あれって、ちゃぶ台返しかな?

横田

ちゃぶ台返しですよ~(笑)。

岩田

ちゃぶ台を返した自覚のない近藤さんです(笑)。

横田

そこで、開発チームを全員集めて、
「音楽は全部つくりなおすことになりました」
「N64の再現を目指しますので、みなさん、頑張りましょう!」
という感じで、全部つくりなおすことにしたんです。

岩田

N64版を忠実に再現することにしたんですね。

横田

そうです。
ところで、近藤さん、
どうしてハイラル平原の曲をあのように
毎回違ったように聴こえる仕組みにしたんですか?

近藤

最初に『時のオカリナ』の企画を聞いたとき、
「これはすごく大きなゲームになる」と思ったんです。
中央にはすごく広いハイラル平原があって、
そこでは馬に乗らないと、
端っこまでたどり着けないと言うし。

岩田

確かに馬のありがたみがわかるくらい
広かったですよね、ハイラル平原は。

近藤

それに、いろんなダンジョンに行っては、
ハイラル平原に戻ってくるというので、
いつも同じ音楽がそこに流れているというのは・・・。

岩田

飽きてしまうということですね。

近藤

そうなんです。
なので、ダンジョンに行って戻ったら、
またいつも同じ感じで曲の頭から流れるようなことは
ぜひとも避けたいと思いまして、
いつ聴いても違った感じに聞こえる曲を流すには
どうしたらいいのか、ということをまず考えたんです。
そこで、8小節の細かい“部品”をいくつかつくって、
それがランダムに鳴るようにしてみました。

岩田

それはつまり、コード進行が決まっていて、
“部品”を取り替えながら鳴らすような仕組みなんですね。

近藤

そうです。なので8小節の最後は、
どの“部品”にもうまくつながるようなコードにして、
それをランダムに流しても、自然に聴けるようにしました。

岩田

その、8小節の“部品”って、何個くらいあるんですか?

近藤

20個くらいです。戦闘とかも入れて。

岩田

だから、全体的な曲の雰囲気は同じでも、
毎回違うように聴こえるんですね。

近藤

そうです。で、敵が来たときに、
普通のRPGだと、曲がガラッと変わって・・・。

岩田

あの当時のRPGでは、
画面がまず切り替わって、ファンファーレが鳴り、
戦闘用の曲にバーンと切り替わるのが、お約束でしたよね。

近藤

はい。だけど、『時のオカリナ』では、
すごく遠くから敵の姿が見えますので、
そこで音楽を戦闘モードに切り替えてしまうと、
まだ戦ってないのに戦闘の曲になったり、
逃げたらまた元の曲に戻るなど頻繁に曲が変わって
ゲームの流れが寸断されてしまうんです。

横田

それだと、ゲームに没入できないんですよね。

近藤

そこで、戦闘の曲も8小節のパターンにして、
敵に近づくにしたがって、スムーズに
戦闘の曲に変わっていくような仕組みにしたんです。

横田

しかも、戦闘が終わると
スムーズに元の曲に戻るんですよね。

岩田

1998年のあの当時、
そういったことまで、曲づくりをしたというのは、
やっぱり宮本さんとゲームづくりをしているからこそ、
生まれてきた発想なんでしょうね。

横田

そうですよね。
映画だったら、安全なシーン、戦いのシーン、
落ち着いたシーンというのは、最初から尺が決まっていて・・・。

岩田

映画音楽だと、映像の尺を最初に決めて、
それに合わせて音楽がつくれますからね。
ところが、ゲームの場合は
インタラクティブにキャラクターを動かしますから、
音楽もインタラクティブに対応する必要があるということなんですね。

横田

なので、今回の『時のオカリナ 3D』でも、
近藤さんがいちばんこだわったのは、
そのインタラクティブな部分なんです。
「そこは絶対に再現しなさい」と。

近藤

そうですね。

横田

だから、どんなアレンジ曲をつくっていても・・・。

岩田

ダダーンとちゃぶ台返しですか(笑)。

横田

そうです(笑)。

近藤

でも、僕にはちゃぶ台を返したつもりは
まったくなかったんですけどね。
だって、もしその部分を変えてしまうと、
『時のオカリナ』ではなくなっちゃうし。

横田

ああ・・・はい、本当にそうです。
頑張って直してよかったです!

一同

(笑)