社長が訊く
IWATA ASKS

社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

シリーズ一覧

社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

開発スタッフ 篇

目次

5. ワンミスが命取り

岩田

ほかに3DSならではの仕様としてどんなものがありましたか?

清水

わたしのなかでは、N64版『時のオカリナ』を
みんな最後までクリアできたのかな? ってことが
ずっと心残りだったんです。
たとえば、水の神殿とかでつまってそのあとやっていないとか・・・。

青沼

きゃー、やめてー!(笑)

一同

(笑)

清水

なので、今回『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※11)
『スーパーマリオギャラクシー 2』(※12)みたいな
おたすけ機能をやりたくて、 ヒント映像を入れています。

※11
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年に、Wii用として発売されたアクションゲーム。
※12
『スーパーマリオギャラクシー 2』=2010年に、Wii用として発売されたアクションゲーム。

岩田

では、ゲームにつまったお客さんを救済するというのは、
最初からテーマのひとつでもあったんですね。

清水

そうです。
ヒントをきちんと与えて、
初心者が最後までできるようにしたんです。
あと、3DSならではのことといえば
60分ごとの妖精のナビィシステムです。
ナビィが60分ごとに「休憩したらどう?」って言ってくれます。
でも、ここで青沼さんとバトルというか、議論があったんです。
いままでの『ゼルダ』は基本的に
まちがってセーブしてしまうと取り返しがつかないから、
セーブはできるだけしない方向でつくられていた、
という流れがあるんです。

青沼

セーブをしないというよりも、
セーブを選んでも「しない」をデフォルトにしていたんです。

清水

それで青沼さんに
「それって本当にいま必要なの?」とつっこんだら、
メールの返事がずーっとこなくて、半日くらいしてからやっと
「・・・いいかも」と返信があって、
結局セーブをデフォルトにする方向で
グレッゾさんに提案したんです。

青沼

確か石井さんからも
「本当にそれでいいんですか?」って聞かれましたよね。

石井

ええ。でも、そういう流れがあったということは、いま知りました。
わたしも以前、セーブをとくに慎重に扱うゲームをつくっていたので、
セーブの確認は徹底していたんです。

岩田

ボタン連打でセーブができてしまうと、
取り返しのつかないことになってしまうかもしれませんからね。

石井

そうです。やはりゲームのセーブデータというのは
お客さんの時間でもあるし、思い出でもあるので、
かんたんに上書きされたり、消したりしていいものではなく、
慎重に扱うべきだと認識していましたから。

清水

ただ、3DSは持ち歩く携帯機だから、
途中で電池が切れてセーブしていない時間があったことと、
まちがってセーブしてしまったことと、どちらが悲劇か?
という話を青沼さんとずっとしていたんです。

青沼

いまはみなさん、お忙しいので、少ない時間をぬって
ゲームを遊んでいることが多いと思うんです。
だからいまのお客さんにとっては、
「遊んでいたのに、セーブしていなかったことのほうが
悲しいのかな」と思ったんです。
あと、セーブはボタン連打できないようなシステムなので、
連打でまちがって・・・という悲劇は起こらないはずです。

守屋

あとは、つまっていたらヒントに誘導するような
システムにしようとか、いろいろアイデアが出て、
どんどんいいものになりました。

岩田

生田さん、できあがったものに対して
マリオクラブのみなさんはどう言っていましたか?

生田

マリオクラブでは
13年前のオリジナル版をやっているメンバーよりも、
今回はじめて『オカリナ』をプレイする人のほうが多かったんですが、
わたしたちが想定していなかったところで
つまってしまうという意見が次々と出てきました。
「必要な情報が入っていない!」とか、
「この次にどこに行って
 何をしたらいいのかサッパリわからない」とか、
「これでいいの?」とか・・・。
そのなかで、新しい発見が本当にたくさんあったんです。

清水

マリオクラブさんから
「かんたんにヒントが見られない!」って意見があり、
「悩まなければ思い出に残らない、
 かんたんに見られないことに意味があるんです!」って
 話をしたこともありましたね。
 そして、「ヒントは答えであってはならない」とも。

生田

そう、ヒントは寸止めでなければならないんです。

岩田

『ゼルダ』は謎が解けたときに、
「俺ってなんて頭がいいんだ!」
と思うことがうれしいゲームでもあるので、
それをお客さんから奪ってしまってはダメですからね。

青沼

ただ、どうしても解けない謎って、
ギブアップして答えが欲しくなっちゃうものなんですよね。
だからそれをどこまでで止めるか、何度もリテイクをかけました。
あとヒントは、ヒントを見ることができる
“ある石の場所”に行かないと見られないんです。
すぐ見られちゃうと思い出に残らないですからね。

生田

0コンマ何秒、ラストのこのシーンだけは
見せちゃダメなのでヒントから抜きましょう、とかですね。
最終的には、はじめてプレイするメンバーから
「ヒント映像があったから、最後まで遊べました」
という声が聞けたので、そこでようやく手ごたえがつかめました。
はじめての方も挫折しないで、
エンディングまで冒険を遊びつくしてもらえると思います。
あと、最後の最後におまけの裏ゼルダ(※13)もひと調整入れました。

※13
裏ゼルダ=『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』には、ダンジョンや謎解きの内容が本編と異なる「裏ゼルダ」が収録されており、本編をクリア後にチャレンジすることができる。

青沼

裏ゼルダをやる人たちは手ごわさを求めているんですよね。
でもオリジナル版のままだと
それほど歯ごたえを感じないと思ったので、
リンクが受けるすべてのダメージを2倍にしたんです。
そしたらマリオクラブから、すっごい好評で・・・。

岩田

やっぱり自分だから解けた、という達成感が違うんでしょうね。

青沼

はい。さらに、すべて反転した鏡写しの世界にしたので
「1回解いたところだし楽勝」って行くと、
たとえば崖から落ちただけでやられちゃうときもあります。
「あれ!? いまのでゲームオーバー!?」みたいな感じに(笑)。

生田

そう、裏ゼルダは“ワンミスが命取り”なんですよね。

外岡

最近は普通にプレイすればクリアできるものが多いので、
ボス戦に行く前に回復しに戻るという行動が新鮮なんです。
ものすごく緊張感があって、やりごたえのある
裏ゼルダになったと思います。

清水

「ひとつめのダンジョンがクリアできませーん」って、
生田さんから電話がかかってきたんですよ(笑)。

生田

じつはわたし、
「デクの樹サマ」のダンジョンで10回以上やられました。

岩田

そうなんですか(笑)。

外岡

裏をクリアすると、久しぶりに自慢できる感覚がありますね。

岩田

そこまで高い難易度のゲームを出すのは
久しぶりかもしれないですね。

青沼

ここ最近の『ゼルダ』シリーズは、
みんなにゴールに行って欲しくて、
難易度を下げる傾向にあったんです。
ボス戦の前に回復アイテムを置いたりだとか・・・。
ただ、宮本さんはずっと「引っかかりがないと思い出に残らない」
と言っていたんです。

岩田

そもそも『Newスーパーマリオブラザーズ Wii』などに
「おたすけプレイ」を入れた動機は、
誰でもかんたんにクリアできるゲームにするためじゃなくて、
その正反対の、たとえ面を難しくしてやりがいがあるようにしても
多くのお客さんに最後まで遊んでいただくためでしたからね。

青沼

そうです。
今回の『ゼルダ』もオリジナルの難易度は下げていません。
ただみんながゴールにたどりつけるためのガイドとして、
ヒント映像を入れました。

清水

本編はヒントがあり、裏は手ごたえがある。
商品としていいバランスになったよね?

青沼

本編は本編で、裏は裏で、それぞれ
クリアしたらぜんぜん違う思い出が残るはずです。
自慢できるというのは、大きいと思います。
そういうものはやっぱり、ゲームとしてすごく
重要なことだなとあらためて思いました。