社長が訊く
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社長が訊く東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 
ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

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社長が訊く『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』

川島隆太教授 篇

目次

6. “無意識下のワーキングメモリー”

岩田

ところでワーキングメモリーには、
“無意識下のワーキングメモリー”
みたいなものがありますよね。
たとえば、データの固まりにスーッと目を通しただけで
「あれ、このデータ、変だ」と、わかるときがあります。
それはある種、
「バックグラウンド処理が脳の中で働いているのでは?」
と思うんです。
同様に、経験豊富な専門家が一目見ただけで
直感的に「これは偽物だ」と見抜くようなときにも
似たようなことが起きていて、わたしは
「ワーキングメモリーの発現のひとつではないか」
と思っています。
それは脳の専門家の立場から見て、どう思われますか?

川島

まったくそのとおりだと、考えられています。
我々が意識的に操作できる脳の領域はけっこう狭くて、
サブリミナルで操作している部分が、じつは大きいんです。
だから、脳では常にバックグラウンドで情報処理をしていて、
その中で必要な情報だけが意識に上がってくる・・・
というのが、いま考えられている脳の理論です。
バックグラウンド処理をする場所はワーキングメモリーなので、
『鬼トレ』をしていただくと、その能力も広がりますよ。
おそらく「鬼計算」で体験できるはずです。

岩田

はい。「鬼計算」で、意識して覚えているわけじゃないのに、
「答えがいくつと、ポンッて頭に浮かぶことがある」と、
プレイした人が言っていました。

川島

僕自身の感覚として、2バックから
3バックを普通にこなせるようになって、
4バックが見えてきたあたりで、切り替わります。

岩田

つまり、意識しているワーキングメモリーだけでは、
鬼計算は3バックぐらいが限界で、
4バックの壁を超えるには
無意識で動くワーキングメモリーを
使えるようにならなければいけないんですね。

川島

そうです。
意識していないのに、答えがわかる。
答えが出てくる。
本当に、頭の中にある数字の、
もっと先の部分を引っ張り出さないといけなくて、
自分の意識のうえでは、この後ろの記憶の陰に
隠れているものが、別にさっと出てくる。
これはものすごい、僕自身も不思議な感覚なんですね。
「あっ、自分の脳、変わったな」
っていうのを体感した瞬間でもありますけどね。

岩田

だからそういう意味で、
本当にワーキングメモリーを鍛えることが
その先の脳の働きを、いろんな方向に
ポテンシャルを伸ばすという意味で、
先生からすると、すごく可能性を感じている分野であり、
ポイントなんですね。

川島

はい、そうですね。
ですから、今回、たとえば『鬼トレ』という形で、
多くの方にやっていただくチャンスが広がると思うんですけど、
「どういう変化が起こるか?」っていうのが、
僕自身も、ものすごく楽しみなんですね。

岩田

単純に「もの忘れがしにくくなった」とか、
そういうわかりやすい脳の働きがよくなった以上の何かが、
みなさんの脳の中に変化として起こるかもしれない。

川島

個人のレベルでは、
多分いろんなことが起こると思いますけども。
ただ、自分自身の変化というのは、
自分で捉えるのがいちばん人間は苦手ですから・・・。
多分最初にですね、これ、僕の予測ですけど、
ご家族とかご友人が、
「ちょっと変わったね」って言ってくれる気がするんですね。

岩田

人間の知覚というのは、
少しずつ変わることを知覚するのが、すごく苦手で。
大きな変化しか知覚できないんで、
他人はしばらく会わなかったり、
しばらくそこに意識を向けなかったりするので、
多分、他人のほうがわかるっていう典型ですね。

川島

岩田さんも同じだと、僕、信じているんですけど、
講演とかで、質問会場で質問があります。
「1つはこれで、2つはこれで、3つは・・・」
なんて言われると、昔はですね、
頭の中で考えながらしゃべっていても、
それぞれ質問に答えられたと思うんですけど、
たとえばいまとか、ちょっと気を抜くと、
「3つめなんだっけ?」って・・・抜けますよね?
これ、ワーキングメモリーの容量が
小さくなった証拠なんですよ(笑)。

岩田

だから一定以上の年の方は、
ぜひ、若いころ持っていた
最大パフォーマンスを再び引き出すために。
若い方は、その人が持っているけど、
発現できていないポテンシャルを開花させるために。
というのが、今回の提案ということになりますかね。

川島

そうですね。

岩田

ちなみにご提案いただいてから、なぜ開発から
発売まで3年もかかってしまったかといいますと・・・
とにかくつらくて、すぐやめたくなるんですよ。

川島

はい、わかります(笑)。

岩田

「これをつづけるにはどうしたらいいか?」
ものすごく制作チームが工夫したと思うんです。
強い意志を持たない方でも、気持ちを切らさずにやってもらう、
あるいは「またやってみたい」と思ってもらうために、
すごくたくさん仕掛けを入れたつもりです。
だから「我々のスタッフの3年間の努力が
みなさんに通じてほしいなあ」と思います。

川島

特に、我々から非常にハードル高いものを提供しましたから。
それが世の中で、どうこなれていくか、本当に楽しみですね。
それからもうひとつ、
今回キーになるのは“競争”だと思います。
すれちがい通信(※17)にはすごく期待しているので、
僕自身、早く街に持って出て、
「僕の鍛えた成績を配りたいな」と思っています。

※17
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。今作の『鬼トレ』では、自分の鍛えた結果の成績データをすれちがった人と交換でき、さらにその成績を比較して対決することができる。

岩田

はい。さらに今回の新たな取り組みとして、
いつの間に通信(※18)がありますね。
これは、先生と我々の開発チームとの会話から生まれた話ですが、
3DSのいつの間に通信を使って、
もちろん、お客さんの同意をいただいたうえでのことですし、
プライバシーにかかわる情報が送られることはありませんが、
お客さんがはじめてから1か月分ぐらいの
トレーニングデータを送っていただき、
川島先生をはじめとする先生方に
お送りするしくみ(※19)をつくりました。
『鬼トレ』を体験した方の脳がどのように変化するのかという、
学術的に貴重なサンプルデータを
ご提供できるのではないかと思います。

※18
いつの間に通信=ニンテンドー3DSが、インターネット無線アクセスポイントを探して自動的に通信を行い、さまざまな情報やコンテンツを受信する機能。
※19
本機能の提供は2019年8月9日をもって終了いたしました。

川島

はい。おそらく何十万件も集まる可能性がありますので、
情報科学をやっている先生にもお手伝いいただき、
データを解析して研究してみたいです。
何か新しいものが見えてきたら、面白いですね。

岩田

また先生の研究がつぎのステップにつづき、
新たな因果が発見されたり、
仮説が立ったりするかもしれませんね。

川島

はい。たとえば『鬼トレ』では
いろいろなトレーニングがあるので、
人によって得手不得手があるんですね。
専門用語では「認知パターン」というんですが、
それを群わけして、
「あるやり方が得意な人が、どうなるか?」
なんて観点で見ていくのも、面白いかもしれないですね。

岩田

確かに、以前の『脳トレ』で、
「計算は得意だけど、覚えるのはダメ」など、
人によっていろいろなパターンがありました。
同じようにワーキングメモリーを鍛えていく過程でも、
得意不得意があるんでしょうね。
そういう意味で、新しい研究に向けて、
我々の商品化がお役に立てる可能性があるのが、
「面白いところかな」と思っています。

川島

それで何らかの結論なり、
結果が見えることを考えると、
とってもチャレンジングでワクワクしますね。

岩田

おたがいに、楽しみな船出ですが
今後ともよろしくお願いします。
ありがとうございました。

川島

こちらこそ、よろしくお願いします。
ありがとうございました。