社長が訊く
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社長が訊く『花といきもの立体図鑑』

社長が訊く『花といきもの立体図鑑』

目次

3. 「ヒト」が入ること

岩田

みなさんが「面白く変わった!」と
手ごたえを感じた瞬間はいつでしたか?

西田

やっぱり「いきものリンク」を
任天堂のみなさんに面白がっていただいたときです。
「僕たちがやりたかったことをいっしょにできるんだ」
ということがわかった瞬間でしたので。

岩田

大石さんにとってはどうでしたか?

大石

「いきものリンク」ももちろんですが、
わたしは「ビジュアル目次」ができたときですね。

西田

ああ、あれはすごいですね!

大石

「あ、これを実現してくれたんだ」って
非常にうれしくなりました。
いままで、デジタル図鑑では紙の媒体にくらべて
タタタッとめくれるブラウジングのたやすさとか、
ボリューム感は出せないと思っていたんです。

岩田

確かに、紙の図鑑は厚さでボリューム感が伝わりますし、
パラパラとめくることで、面白い出会いがあるんですが、
デジタル図鑑は1回、画面を遷移するたびに
待ち時間があったり、全体の位置関係がつかめないから
ボリュームが見えづらいですよね。

大石

そうなんです。だからどれだけ写真をつぎこんでも
どこかちょっと“軽い”感じがしていたんですが、
これを見てイメージが変わりました。
まるで自分が美術館にいて、見渡す限りの窓や天井が全部、
絵で埋まっているように感じたんです。
ある一定のボリュームを超えると、
数の多さは図鑑としてのクオリティに変わるものですが、
それをまさに見せつけてくれたなと思いました。

岩田

亀澤さんは?

亀澤

わたしは「いきものリンク」が大きいと思います。
実は今回、植物の先生からのご提案で「ヒト」を入れたんです。
普通は図鑑にヒトが入ることは、あまりないんです。

西田

ああ、そうだよねぇ。

亀澤

図鑑の中に「ヒト」である自分が入っているっていうのは
そもそもありえないので。

西田

たぶん図鑑としてはじめてじゃないですかね。

亀澤

だからヒトである自分も含めて世界が広がる、という点で、
リンクは非常にはば広いものになったなと感じます。

岩田

ちなみに、監修していただいた先生方は、
このソフトについてどんな印象を感じておられるようでしたか?

西田

はじめは、花の造形は非常に複雑だから
「カメラで花の名前を当てることは難しいんじゃないか」
とおっしゃっていました。
ではどうやって先生方が見分けるのかをうかがったら、
「雰囲気だね」っておっしゃるんです。

岩田

え、雰囲気なんですか?(笑)

西田

「花だけを見たら、僕もわかんないなぁ」って。

岩田

それは衝撃の事実ですね(笑)。
でも「花だけを見てもわからない」
というのは納得といいますか、
確かに図鑑を見ていても、花だけ見たら
同じ形に見えるものがけっこうあるんですよね。

西田

そう、ですから専門家の方は植物だけじゃなくて、
まわりもいっしょに見ているんです。

岩田

ああ、そうか。
それが多分、素人と専門家の方との大きな違いなんでしょうね。

西田

はい。そういうところがわかってくると、
やはり環境全体の関連性の中で
花やいきものをとらえることが大切だ
ということに気づかされます。
先生方も、リンクについてはそういうふうに
お考えいただいているからこそ、話し合いの中で
“ヒトを入れる”というアイデアが出てきたんだと思います。

大石

ヒトを入れたことで、コラムの厚みも増しましたね。

岩田

300種類以上のコラムが収録されていますが、
コラムはどのように決めるんですか?

大石

先生方をお招きして、3日ぐらいセッションをしました。
たとえば「宇宙に連れて行った植物」とか、
図鑑で説明する内容以外の話題を出してもらうんです。

岩田

それは、通常の植物図鑑では
掲載されないような話題ですが、
関連性を持つと別の面白さが生まれるんですね。

大石

そうなんです。
たとえば「オニ」とか「サル」という
名前がついている植物や昆虫、動物などは、
「なぜそういう名前がついたか」というテーマで
タテではなくヨコのつながりで見ていくこともできます。

岩田

はあー、面白いですね。

西田

あと「 なぞリンク」も非常に面白いです。
意外なつながりのあるいきもの同士を
リンクして紹介していくものです。

伊豆野

あれも“パラパラ見て楽しむ”ものの延長で、
目的のない方がパッと見られるコンテンツですね。

岩田

「桁となる数字が入っているいきもの」など、
受動的に楽しみたい方にとっては
見るための切り口を次々に提案してくれて、
いいなぁと思います。

西田

あれは毎日、メールでネタ出しをしていたんですけど、
ほとんどボツになりましたねぇ。

伊豆野

3社で300くらいネタを出し合ったんですが、
実際に入ったのは100くらいでした。

西田

けっこう、真面目なものが
最終的に採用されましたよね・・・。

伊豆野

あ、そうですね(笑)。

西田

伊豆野さんに、僕らは真面目なネタしかできないと
思われていたみたいで、くやしかったので
一生懸命、ダジャレを考えたんですよ。
たとえばオオバコという植物には
「オオバコをのせると死んだカエルが生き返る」
という伝説があるので、
「これが本当に生きカエル」って書いたんですけど、
それもボツになりましたねぇ(笑)。

一同

(爆笑)

西田

「いけるかな!?」と思ったんですけど、残念です(笑)。
まぁ、そんなことが書いてある図鑑はないですから。
でも百科事典には、この生き返り伝説は書いてあるんです。
だから百科事典と図鑑がいっしょになったような、
新しいテキストを生んだように感じています。

大石

百科事典を見直したんですよね。

西田

随分、読み直しましたねぇ。

大石

百科事典と図鑑は、
同じようでけっこう違うなっていうのがよくわかりました。

岩田

平凡社さんのみなさんが
百科事典と図鑑の違いを再発見されたわけですね。

西田

はい、再発見しました!
正直、百科事典をこれほど読んだことはないですね(笑)。
まあ、生活の役に立つかはわからないですが、
非常におもしろいネタを今回のソフトには
たくさん盛り込みましたので、
その部分も楽しんでいただければと思います。