社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第15回:『KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance]』

目次

2. 「絶対におもしろくなる」

岩田

それで、ディズニーさんのところへ
打ち合わせに行ったんですか?

野村

はい。とりあえず話をすることになって、
最初はどんな話になるかわけもわからないまま、
話を聞きにいきました。
そのとき自分の中で、
つくりたいものはぼんやりあったんですけど。

岩田

野村さんはわりと最初に、
つくりたいもののイメージが、
頭の中で具体的にビジュアル化されて動くタイプですか?

野村

そうですね。
僕はもう3D空間で
イメージが最初にできちゃうんです。
頭の中でなんとなく形になりつつある中で行ったんですけど、
ディズニーさんからも
「こういうのをつくってくれないか?」と、
いろいろプレゼンされるんです。

岩田

当然、それは自分のイメージとは違いますよね。

野村

そうなんです。
「このキャラクターのゲームを」とか
先方は先方で、オーダーしたものを
つくってくれると思っていたようで、
すごいノリノリで説明してくれるんですけど、
僕は正直、ぜんぜん興味がなくて(笑)。

一同

(笑)

岩田

野村さんからすると、
ディズニーさんのキャラクターを借りて、
『マリオ64』に対抗できるような
新しくておもしろいゲームがつくりたくて、
頭の中にそのイメージがあるのに、
まったくかみ合わないわけですね。

野村

はい。だから、「いや、いいです」って、
途中で相手のプレゼンを止めちゃったんです。
限られた時間が、先方のプレゼンだけで
終わるスケジュールになっていたので、
「僕はそういうゲームはつくらないですよ」って、
まず結論を。

岩田

へぇ~(笑)。
向こうはおどろきますよね?

野村

ええ、おどろいてました(笑)。
ただ、相手は英語なので
何を言っているのかわからないから気にせず、
『キングダム ハーツ』のとっかかりの話をして、
「ディズニーのキャラクターたちの世界を、
 オリジナルの新しいキャラクターが旅をする話をやりたい」
っていうことを説明して、何回か通うことになりました。
最初に、主人公であるソラの原型のデザイン絵を見せたんですけど、
でっかいチェーンソーみたいな武器を持たせていたら、
みんな「これはなんだ?」って。

一同

(笑)

岩田

ディズニーの世界ですからね(笑)。

野村

「これはチェーンソーです」って言ったら、
みんなすごいびっくりして、絶句状態でした(笑)。
1枚のデザイン画を数名が取り囲んでいて、
多分、「それはまずいよ」ってことを言っているんだろうけど、
僕はぜんぜん、英語がわからないんで。

岩田

その場合、わからないことは強みですね(笑)。

野村

はい(笑)。
それで何回かすり合わせをしていくうち、
いまのソラになっていきました。

岩田

一方、ディズニーさんは
最初、突拍子もなく絶句したものを
受け入れたんですよね。

野村

そうですね、かなり寛容でした。

岩田

おそらくディズニーさん側も、
新しい刺激や変革を求めていたんじゃないですかね。
実際に結果として『キングダム ハーツ』の世界から
ディズニーさんのことを好きになる人がいっぱい生まれているわけですし、
いまや10年間つくりつづけられたってことは、
ディズニーさんが認めているということですね。

野村

「『キングダム ハーツ』は大事なコンテンツだ」
とずっと言ってくれているので、
よかったなと思っています。

岩田

はじめてこの話を訊いて、わたしは
「えっ、こんなのありなの!?」って思いました。

野村

ああ(笑)。

岩田

というのも、向こうが絶句したとか、
「このキャラクターのゲームをつくってほしい」と言われたとか、
そういうことを乗り越えないと、
いまの形には到達しないはずなんです。
「普通できないはずなのに、なんでできたんだろう?」
って思ったんです。

野村

まあ、本当によく言われますけど、
当時僕は、ぜんぜん無理だと思ってなかったんです。

岩田

確かに、人間って無理だと思うことはできませんからね。
「できる」と堅く信じた人がいて、
その人が前にどんどん進んでいくと、
けっこう何とかなることが多いんです。

野村

そうですよね。
「できあがればおもしろくなるはずだ」と信じていたんで、
「やらなかったら損だよ」って、
話をずっとしていました(笑)。

岩田

そのプレゼンの仕方は、アメリカ的でいいですね(笑)。
でもビジュアルイメージをつくって、
すり合わせをしていく過程の中で、
相手が認めていく瞬間がきっとあるはずですよね。

野村

そうですね・・・。
そのときは、先方の当時の社長さんと直接話をする機会も
多かったんですけど、
かなり寛容な方だったんです。
周りのスタッフが反対するようなことでも、
その社長さんは「いいよ」と言ってくれたので、
話が進んだ、というのはあります。

岩田

理解者が向こうに一人いて、
その人の権限が強かったというのは、
ご縁として重要なファクターですね。

野村

はい、ラッキーでした。

岩田

一方で、当時のスクウェアさんは
ずっとRPGをつくられていたから、
これだけアクションの側に振ったゲームをつくった経験のある人は
そんなにおられなかったのではないですか?

野村

そうですね、ほとんどいなかったです。

岩田

多分、イメージを形にして、満足する状態にもっていくまで、
一筋縄ではいかなかったんじゃないかという感じがしますが、
どうでしたか?

野村

いちからスタッフを集めるところからはじめましたし、
アクションをつくったことのないスタッフが多かったので、
やっぱり暗黒の時代は長かったです。

岩田

だって、初ディレクターが
スタッフを集めるところからはじめて、
ディズニーさんを説得して
つくったことのないジャンルのゲームをつくるわけでしょう?
普通のゲームよりもハードルが3倍も4倍も高いですよ。

野村

そうですよね(笑)。
開発中には何度かスタッフ陣が焦りから不安になって、
自分たちがつくっているものがおもしろいのか、
わからなくなることもありました。

岩田

ずっとつくっている当事者には、
おもしろいのかどうかわからなくなりますからね。

野村

そうなんです。
僕は「大丈夫、おもしろくなるよ」って
ずっと言いつづけていましたけど。

岩田

その中でも、本人は「絶対におもしろくなる」と
ゴールを堅く信じていたんですね。

野村

はい。