6. “人にやさしいDS”として

岩田

「ニンテンドーDSi XL」に決めたのは、
日本では「Lサイズ」よりも大きなサイズを
「LLサイズ」と呼びますけど、
海外では「extra large」を略して、「XLサイズ」と
呼んでいるからなんです。
でも、日本人にとって「XL」というのは
どうも馴染みがなかったんですよね。
もちろん、おわかりになるお客さんもたくさんいらっしゃるんですが、
「XL」と聞いただけで
すぐに「特大」を思い浮かべていただけるとは限らないんですね。
“5歳から95歳まで”を標榜する任天堂としては、
あらゆるお客さんには伝わらない可能性のある言葉を使うのは
果たしてどうなのかと、すごく悩みました。
あと、発音するときも、「エックスエル」と長いんですね。
日本人にとって、決して発音しやすくもないですから。

そこで出した結論は、
日本では「ニンテンドーDSi LL」で出そうと。
本来なら新しいゲーム機を出すときに
日本と海外で別の名称にするのはありえないんですけど、
プラットホームの名称はあくまで「ニンテンドーDSi」で、
「LL」や「XL」は、サイズを表示していると・・・
そのように開き直ることにしたんですね。

桑原

じゃあ、次は「S」とか「M」ですか?と・・・。

一同

(笑)

岩田

それでは最後に、お客さまに対して、
開発者としてのメッセージをお願いできますか?

米山

すでにお買い求めいただいた方はご存知かと思うのですが、
「プレイしやすいでしょ?」と僕は言いたいです。
先ほども話が出ましたけど、
「ゲーム機はデカくなっただけでは何も変わらない」と、
多くの人たちは、そんな先入観をお持ちだと思うんです。
でも、実際に触っていただくと、
“誰にとってもやさしい商品”であると
感じていただけると思います。

岩田

つまり“人にやさしいDS”。

米山

そうそう、そんな感じです(笑)。

岩田

もともとDSは
“人にやさしい商品”としてつくってきたつもりですけど、
“DSがもっと人にやさしくなりました”という感じですね。

米山

はい。
人にやさしくて、やわらかなイメージですね。
その感触を、ぜひ手にとって確かめていただきたいですね。

岩田

では、藤野さん。

藤野

いま話に出た“人にやさしいDS”については
デザイン面でもいろいろ反映しています。
たとえばパワーボタンを大きくしたり、
音量ボタンも扱いやすいものに変更しています。
また、横から見るとわかるのですが、
逆台形の形をしているんですね。
これは、ふたを開けやすいようにということで
デザインしました。

岩田

だから「ただデカくしただけでしょ?」と感じる人が
大半だと思うんですけど、実はそうじゃないんですね。

藤野

はい。
ですから、お店に行って
「デカッ!」と言っていただくのもいいんですけど(笑)、
ぜひ手にとって、細部のこだわりを
感じていただけるとうれしいですね。

岩田

それでは、天野さん。

天野

僕はやっぱりトップパネルに
量産に入る前の3ヵ月間、苦労させられたこともあって(苦笑)、
ゲームとは関係ないんですけど、
みなさんにはじっくりと
この光沢感を楽しんでくださいと言いたいです。

岩田

表面張力の雰囲気も、ですよね(笑)。

天野

はい。
トップパネルの光沢感は、
ホームページなどでは
なかなかお伝えすることができませんので、
ぜひ店頭でご覧いただきたいですね。

岩田

では、最後に桑原さん。

桑原

DSが発売されてから丸5年になりますけど、
その間、さまざまなメーカーさんから
いろんなジャンルのソフトが発売されています。
これまでは、「小さい画面はちょっと」と、
距離を置かれていた方にも、
そういったたくさんのソフトを
遊んでいただける機会にしていただければと思っています。

岩田

過去に遊んだソフトをもう一度、
大画面で遊びなおすのも新鮮なんですよね。
わたしにとっては『バンブラDX』がそうでしたし。

桑原

それに、『Wiiの間』(※14)から
好きな映像をダウンロードして見るのも新鮮です。

岩田

そうそう。
『どこでもWiiの間』(※15)の価値は、
DSi LLで劇的に変わったと言っていいでしょうね。
最近はわけもなく『Wiiの間』から動画をダウンロードして、
周囲の人といっしょに見られるのが、妙にうれしいんです(笑)。

※14

『Wiiの間』=Wiiで視聴できるチャンネルのひとつ。インターネットに接続された状態で、「Wiiショッピングチャンネル」から『Wiiの間』をダウンロードすると、さまざまな映像が楽しめる(一部の映像は課金制)。

※15

『どこでもWiiの間』=『Wiiの間』で配信されてる映像を、DSiおよびDSi LLにダウンロードして、どこでも視聴できるニンテンドーDSiウェアのこと。

桑原

そうですね(笑)。
それからもうひとつ。
サイズがデカくなったので、
重そうに感じる方もいらっしゃると思うんです。

岩田

DSiと比べて100グラム重くなったんですよね。
でも、クラブニンテンドーのお客さんのコメントには、
「あまり重いとは感じない」と書かれてる方の割合が
けっこう多かったですよ。

桑原

実際、わたしの4歳の子どもが
自分で持って遊べているくらいですので
大丈夫だと思います。
ですから、今回は“4歳から95歳まで”の商品になったかなと(笑)。

岩田

1歳、若返りましたか。

一同

(笑)

岩田

それでは、最後にちょっと長めの話をわたしから。

このDSi LLという商品で、携帯ゲーム機に
「サイズバリエーション」という考え方があってもいいんじゃないか、
という提案をしていることがひとつです。

もうひとつは、「携帯ゲーム機というのは、ひとりで遊ぶものだ」
という、これまでは当たり前だったことを、
「いや、周りにいる人もいっしょに楽しめるかもよ」
というふうに変えられる可能性を感じています。

その2点を、開発のみなさんが実現してくれたおかげで、
リビングやダイニングのテーブルの上に
ずっと出しっぱなしにしておきたくなるような
商品になったと、わたしは思っています。

それに、いままでは
家のなかの誰かがDSで遊んでいたとしても、
周りの人は気にとめにくいし、
気をとめたとしても、何をやっているかわからなかったのが、
DSi LLには、すぐいっしょに参加できる感じがあって、
その点でも、とても面白い商品ができたように思っています。
そもそも、ビデオゲームのこれまでの普及は、
遊んでいる人の周りに、それを見ている人がいて、
遊んでいる姿を見てビデオゲームに興味を持つ人が
増えていったことで実現されてきたのですから、
周囲の人が一緒に楽しめることは
ゲームにとってすごく意義のある、大切なことだと思っています。

もともと、この商品は
シニア専用商品でもなければ、
子ども専用商品でもありません。
それに、「携帯ゲーム機というものは、
小さくて薄いものがいいんだ」
というようなこれまでの価値観に対し、
今回は“人にやさしいDS”として
新しい可能性の提案がひとつできたような気がしています。

それにしても、桑原さんがボール紙のようなものに
液晶のサイズを手描きしてから、1年もたたないうちに
こうやってモノができるんだから、すごいですよね。

桑原

そうですね。でも僕は
そんなに苦労しませんでしたので・・・。
今日は来ていないのですが、我々以外にも
ソフトウェアコーディネート、ソフト開発、
機構設計、回路設計、工場、営業、
それにプロジェクト運営などなど、
本当に多くの部門のスタッフの
甚大な努力と苦労のおかげで、商品を完成させることができました。
本当にありがとうございました。
(両側に座った3人に対して頭を下げながら)
ありがとうございました。ありがとうございました。

岩田

みなさん、本当にお疲れ様でした。