1. 『ファイアーエムブレム』らしさとは何か?

岩田

今日はインテリジェントシステムズ(※1)のみなさんをお迎えしています。
よろしくお願いいたします。

一同

よろしくお願いいたします。

岩田

前回の(※2)のときは
わたしがE3でアメリカに出張していて、
私が訊かせてもらうことが物理的に不可能だったので、
桜井政博さん(※3)に代役をお願いして
→桜井政博さんが訊く」というかたちで助けてもらいましたが、
今回は直接、訊かせてもらいますね(笑)。

成広

あのときは桜井さん、ちょっと大変そうでしたけど
桜井さんとお話ができて楽しかったです(笑)。

※1

(株)インテリジェントシステムズ=『ファイアーエムブレム』シリーズや『ペーパーマリオ』シリーズなどの任天堂ソフトや、歴代ハードの開発支援ツールの開発をしている会社。本社は京都。

※2

『新・暗黒竜と光の剣』=『ファイアーエムブレム 新・暗黒竜と光の剣』。2008年8月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ12作目。

※3

桜井政博さん=『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズのディレクター。ハル研究所から独立し、Wii用ソフト『大乱闘スマッシュブラザーズX』を制作し、現在はニンテンドー3DS用ソフト『新・光神話 パルテナの鏡』を開発中。

岩田

それではまず、みなさんから自己紹介と、
『ファイアーエムブレム』との関わりについて
お話しいただけますか?

成広

はい。『エムブレム』シリーズの
総合プロデュースを担当している成広です。
このシリーズに関しては最初から現在に至るまで、
『エムブレム』シリーズを見続けてきたスタッフのひとりになります。

岩田

(※4)をつくったとき、
成広さんはプログラマーだったんですか?

成広

いえ、最初の『エムブレム』を担当したときは
プログラマーではなく、
オブザーバーのようなかたちで参加しました。
その前に(※5)のプログラムを担当していて、
その開発が終わったあと、シミュレーションのシステムを活かして、
ストーリー性を盛り込んだ、もっと違った遊びを
提案できないだろうかということで、
『エムブレム』の開発はスタートしました。
わたしはその後、スーパーファミコンで発売した
(※6)から本格的にチームに入りまして、
現在に至ります。

岩田

このシリーズで、成広さんが関わらなかったタイトルは
事実上ないと言っていいんですか?

成広

(※7)などの
タイトルには直接関わっていないのですが、
開発当時の苦労話は全部聞いていますので
ひととおりの歴史を見てきた者ということになると思います。

※4

ファミコン版の『エムブレム』=シリーズ第1作目の『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』。1990年4月に、ファミコンソフトとして発売されたシミュレーションRPG。

※5

『ファミコンウォーズ』=1988年8月に、ファミコン用ソフトとして発売された戦略シミュレーションゲーム。

※6

『紋章の謎』=『ファイアーエムブレム 紋章の謎』。1994年1月に、スーパーファミコンソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ第3作目。

※7

シリーズ2作目の『外伝』=『ファイアーエムブレム 外伝』。1992年3月に、ファミコンソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ第2作目。

岩田

樋口さんは『ファイアーエムブレム』はいつからの関わりですか?

樋口

僕は1994年にインテリジェントシステムズに入社して
(※8)のスタッフとしてプロジェクトに入りました。
それ以降は、主にデザイナーとして
このシリーズに参加しています。
今回の『新・紋章の謎』については、
プロジェクトマネージャーとして
全体的な進行管理をしたり、
ディレクターの横でシナリオに口を出したり、
グラフィックにも口を出したりしながら
開発を進めてきました。

※8

『聖戦の系譜』=『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』。1996年5月に、スーパーファミコンソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ第4作目。

岩田

樋口さんは入社以来、
『エムブレム』一筋でやってこられたのですか?

樋口

いえ、途中で『ファミコンウォーズ』シリーズにも参加したりと、
インテリジェントシステムズが開発するシミュレーションゲームに関しては
何らかのかたちで参加してきました。

岩田

そういう意味では
成広さんの経歴と似たところがあるんですね。

樋口

そうですね、ずっと成広さんにひっついています(笑)。

岩田

(笑)。
はい、それでは前田さん。

前田

わたしは、ゲームボーイアドバンスの
(※9)から参加しています。
シリーズでは、主にプランナー、シナリオとして参加し、
本作ではディレクションも担当しました。

※9

『封印の剣』=『ファイアーエムブレム 封印の剣』。2002年3月に、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売されたシミュレーションRPG。シリーズ第7作目。

岩田

ゲームボーイアドバンス版から
開発に参加されたということですけど、
それ以前は『エムブレム』のお客さんだったんですか?

前田

そうです。いちファンでした。

岩田

ファンが高じて、
開発を担当している会社に入ったということなんでしょうか?

前田

そのとおりです。
シリーズもすべて遊んでいましたし、大好きでした。
いちばん最初にプレイしたのはファミコンで出た第1作目で、
当時、僕はまだ中学生になったばかりだったと思います。

岩田

それからずっとシリーズをプレイされてきたんですか?

前田

発売後すぐにプレイしたというわけではなかったんですが、
基本的にシリーズすべてをやってきました。

岩田

では最初に、『ファイアーエムブレム』らしさについて、
若い方から順にお訊きしたいと思います。
これまでも「社長が訊く」では、
→『マリオ』らしさ」や「→『ゼルダ』らしさ
を語ってきましたが、前から『エムブレム』ファンだった前田さんが
「『エムブレム』らしさとは何か?」と訊かれたら
どのような答えになりますか?

前田

ひとつはキャラクターへの愛着だと思います。
頑張ってキャラクターを育てる楽しさ。
そしてもうひとつは、頭を使いながら敵と戦い、
うまく倒せたときの楽しさ。
この2つがうまく合わさったのが『エムブレム』だと思います。

岩田

その2つの要素が合わさったものは、
世の中にはあまりないと感じていますか?

前田

そう思っています。
どちらか一方が強く打ち出されているものはたぶんあって、
頭を使うのであればシミュレーションゲームの
『ファミコンウォーズ』がそうだと思いますし、
育てるユニットへの愛着とか、育てる楽しみで言うと
RPGなどが相当すると思いますが、
両方の要素がうまいバランスで合わさっているという点が
『エムブレム』ならではの特徴だと思います。

岩田

たしかに、魅力的なキャラクターがたくさん登場し、
RPG的な要素としてのストーリーがあって、
しかもタクティクス型のソフトとして融合しているのは
おそらく『エムブレム』が先駆け的な存在だと思うんです。
ただ、そのような遊びが、世の中に受け入れられてから
ほかにもそういった融合がいくらかは試みられたと思うんですが、
そのなかで『エムブレム』の立ち位置が独特なのは
どんなところにあると思いますか?

前田

それは、戦闘で倒されてしまった仲間が
二度と戻らないところにあると思います。

岩田

一度失った仲間とは二度と会えないのが
『エムブレム』らしさだということですね。
ここはあとでたっぷりお訊きします(笑)。
やっぱり、こういうスタイルで遊ぶゲームは
ほかにはないという感じがしますか?

前田

そう思います。
仲間を失って、それが二度と戻ってこないというのは、
キャラクターへの感情移入が大きくなりますし、
プレイ中の緊張感を高める大きな要素になっていると思います。

岩田

前田さんがお客さんだった頃は、
リセットボタンをたくさん押されましたか?

前田

はい、押していました(笑)。
やっぱり大切な仲間とは最後までいっしょにいたいですし、
不慮の事故で大切な仲間を失ったときは、
リセットボタンを押して、最初からやり直すようなこともしていました。

岩田

では、樋口さんは『エムブレム』らしさについてどう思いますか?

樋口

実際に開発スタッフの間でも、
「『エムブレム』らしさって何だ?」という話がときどき出るんです。
でも、スタッフによって答えはバラバラなんです。
「『エムブレム』はストーリーがいちばんだ」と言う人もいれば、
「たくさん登場するキャラクターがいい」と言う人もいますし、
「タクティクス型ゲームとしての駆け引きが楽しい」と言う人もいるんです。
で、僕個人の考えとしては、
『エムブレム』の根本的な面白さは何かと言うと、
失った仲間は生き返らないという、
人の命の重みを表現しているところだと考えています。

岩田

それは、前田さんと同じなんですね。

樋口

はい。失ってしまった仲間が、二度と戻ってこないからこそ
キャラクターへの愛着が強くなりますし、
もし仮に仲間が倒されて、その人の最期のセリフを聞いたときに、
「この人はこんなことを考えていたんだ」というドラマが感じられるんです。
それに、「ここで倒されてはいけない」
「倒されたら全部やり直しだ」という緊張感のもとでプレイを続け、
大切な仲間といっしょに最後までクリアしたときに、
「ああよかった」と、大きな喜びを感じることができるのが
『ファイアーエムブレム』ならではの本当の醍醐味だと思っています。