5. DSで全力投球

岩田

さて、今回の『ドラゴンクエストIX』について
どうしてニンテンドーDSなのか、
そして、どんなことを考えてつくられたのか、
そういったお話をお訊きしたいのですが。

堀井

DSに決めたのは、その当時、
僕はネットワークゲームに興味があったんですよ。
でも、敷居がものすごく高いんですよね。

岩田

ここ数年は一般的になったとはいえ・・・。

堀井

まだまだ面倒なことが多いですからね。
でも、DSというゲーム機だと
みんなで集まって、スイッチを入れるだけで
目の前にいる友だちとつながって遊べると。

岩田

ワイヤレス通信(※18)はカンタンにできますからね。

堀井

それに僕、ずっと
『おいでよ どうぶつの森』(※19)をやってまして・・・。

岩田

『どうぶつの森』でおでかけするようなことが
『ドラクエ』でもできたら、というイメージだったんですか?

※18

ワイヤレス通信=DS本体に標準装備されているワイヤレス機能により、接続ケーブルなしで手軽に周囲のプレイヤーとチャットや対戦ゲームなどを楽しむことができる。

※19

『おいでよ どうぶつの森』=2005年11月にニンテンドーDS用ソフトとして発売されたコミュニケーションゲーム。

堀井

村を行き来する感じが面白いなと思ったんです。
たとえば僕、けっこうズルっこが好きなんで。

岩田

ズルっこ?(笑)

堀井

たとえば、「カブ」の売買ができますよね。
そこで、友だちの村をとりあえず開いてもらって
その友だちが仕事をしている間に
ワイヤレス通信を使って、
その村を行ったり来たりしながら
僕はカブでもうけたりとか(笑)。

一同

(笑)

堀井

そんな他愛のない遊びでも、
すごく面白いと思ったんですよ。
とてもカンタンにつながりますし。
だから、『ドラクエ』でもワイヤレス通信を使った
面白い遊びができるんじゃないかと。
そう思って、DSでつくることにしたんですね。

岩田

いちばんの決定打になったのは
DSが手軽につながるということだったんですか?

堀井

手軽につながるのはいいんですけど、
僕的には人の村に行って、そこでずっと
いっしょに何かをするのはイヤなんですよ。
自分としては、好きなことをしていたいんです。

岩田

つながっていても、自由に遊びたいと。

堀井

そういったことを『ドラクエ』で実現したかったんですね。
マルチプレイでいっしょに冒険もできるけど、
ほうっておいて、ぜんぜん違うこともできると。

岩田

みんなバラバラになって。

堀井

そう、バラバラに行って遊ぶみたいな。
それを実現するためには、
開発はすごく苦労したみたいですけど(笑)。

岩田

そうですね。サラッとおっしゃってますけど、
実現する人にとっては、なかなかハードな話でしょうね。

堀井

片やボスと戦っていても、
こっちは村で買い物したりできるわけです。

岩田

買い物とボス戦の同時進行(笑)。

堀井

そういうことが自然にできるのは、
ユーザーのみなさんにとっては
当たり前のことなんですけどね。
こっちは、すごく苦労しましたけど(笑)。

岩田

そのように苦労して、
DSでカンタンにマルチプレイができるようになりました。
とは言っても、そもそも『ドラクエ』本編の新作は
「テレビで遊ぶものでしょう」という声もあったりしますよね。

堀井

そこはすごく悩んだんですよ、
これを“外伝”にするか、“ナンバリング”にするかで。
それでけっこうみんなで話し合ったんですけど、
外伝にしちゃうと、本編もつくんなきゃなんないじゃないですか。

岩田

理由はそこですか(笑)。

堀井

いえ、もちろんそれだけじゃないんですよ(笑)。
でも、外伝をつくりながら、同時に本編をつくるのは
スケジュール的に絶対にムリですし、
外伝をつくってから本編をつくろうとすると
何年かかっちゃうかわかんないんですよね。
そこで、どうせだったら、全力投球しちゃおうよと。
DSで本編をつくることに
全力で取り組むことにしたんです。

岩田

その全力投球感は、すごく伝わってきますね。

堀井

でも実は、
もっとカンタンにつくれると思ってたんです(笑)。
ところが、がんばりすぎちゃいまして
すごく時間がかかってしまって。

岩田

はい。

堀井

DSに決めたときはそんな感じだったんですけど、
その頃から、テレビ番組などを見ながら、
ゲームをする人が増えてるなあと感じるようになりまして。

岩田

DSはいつでもどこでも遊べますし。

堀井

そう。DSだと、
ちょこんとスイッチを入れればどこでもできるし、
いつでもやめられるし。
それがすごく楽なんですよね。
しかも、同時に友だちと遊べると。

岩田

『IX』をつくっていくうちに、
時代がより携帯ゲーム機で遊ぶムードになっていったと
堀井さんは感じるようになったんですね。

堀井

そうなんです。
もちろん、据置ゲーム機は据置機として、
いいところはいっぱいあるんですけど。

岩田

もちろんそうですね。

堀井

ただ、DSの普及率もすごいですし。

岩田

おかげさまで。
だからこそ、『ドラクエ』のようなソフトが
DSに投げ込まれたときに
どんなことが起こるんだろうかと思いますよね。

堀井

お客さんの層も、幅広いですしね。
僕はいつもゲームをつくるときに思うんですけど
何が起こるかわからないというワクワク感がいちばん大事だと。
今回、DSでつながって、
いろんな人がいろんなところでできるというところで、
いろんなドラマが生まれちゃうと思うんですよ。
すれちがい通信(※20)もありますし。
それに、近くにさえいれば、
知らない人ともつながっちゃうんですよね。
マルチプレイでゲスト募集状態にしていれば。

岩田

すると、いろんなところで
マルチプレイを使ったパーティーも発生するんですね。

堀井

そうなんです。

※20

すれちがい通信=DSの電源を入れたまま持ち歩くことで、見知らぬ人とのデータのやりとりができるシステム。『ドラゴンクエストIX』では、プレイヤーの戦績やカンタンなプロフィールなどを交換することができる。

すぎやま

ゲームって結局ね、
ゲームシステムやルールが面白いかが勝負なんですよね。
堀井さんがつくる『ドラクエ』は、
ゲーム自体が面白いわけですし。
でも、グラフィックとか、音楽の音色とか、
そういう部分ではDSで勝負できないわけですよ。

岩田

そこだけで勝負するなら、
もっと相応しいハードがあるわけで。

すぎやま

据置型ゲーム機のほうがいいんです。
でも、ゲームそのものは
そのシステムなりルールが
どれだけ面白いかが本質であって、
そこが堀井さんのいちばんの勝負どころだと思うんです。
だから音楽で言うと、メロディがいい曲かどうかが勝負で、
いかに立派な音色が出せても、
つまんない節はやっぱりつまんないわけで。
本質部分での勝負なんだから、
『ドラクエ』がDSになって
僕は本当によかったと思ってるんですね。

岩田

先生の立場からすると、これまでは、
どんどん豪華な音づくりができる方向に行っていたわけですよね。
ところが今回は携帯ゲーム機で出るというのは
久しぶりに「メロディで勝負」ということになるんですか?

すぎやま

僕はファミコンの時代から、
ずっとメロディで勝負だという姿勢でしたし、
印象に残るようなメロディをつくることを基本にやってきたんです。
それに、最近も『ドラゴンクエストモンスターズ』(※21)やなんかで
そういったことを、すでにやってますからね。
だから、今回DSでつくることに関しては
何の違和感もありませんでしたね。

※21

『ドラゴンクエストモンスターズ』=『ドラクエ』の外伝的シリーズ。4作目の『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』は2006年12月、DS用ソフトとして発売。