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2008年10月31日(金)経営方針説明会/第2四半期(中間)決算説明会
質疑応答
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Q 1  欧州の状況について確認させてほしい。先日、タカラトミーさんに、上期は良かったのに通期利益の計画を変えてない理由を尋ねたところ、これはおもちゃの話ですけども、欧州の現地販売子会社が、小売店の状況が悪化しているので、資金回収リスクを懸念して、需要はあるが出荷の規制をかけているといったような話があった。このようなリスクは、御社の場合は考えなくてよいのか。
A 1

取締役社長 岩田 聡:

 いまのお話は二つの面があると思います。一つは、おもちゃ全般とビデオゲームのビジネスの違い、それからヨーロッパでの、小売店さんごとの信用リスクの問題。

 まず、このような経済環境になって、この年末商戦はどうなるのかは、当然私たちにとっても大きな関心事ですので、いろいろな小売店さんと情報交換をします。「おそらく売れるものと売れないものの差がよりはっきりするだろう」と、ほとんどの小売店さんがおっしゃいます。幸いにしてニンテンドーDS、Wiiは売れるものに入れていただいているようなので、小売店さん(の販売見通し)は強気です。ですが、ものによってはとても弱気になっているということが起こっていると思います。ヨーロッパにおいては、ビデオゲーム、特にDSやWiiが「いま売れるものとして影響を受けない」、「売れるものとして残りそうだ」という見通しがあるということが一つ。

 もう一つ、小売店さんの信用リスクの問題です。これは小売店さんごとの個別案件で、どこの国にも調子のいい小売店さんと調子の悪い小売店さん、あるいは世の中の環境変化に上手に対応しておられるところとそうでないところがございます。私はここで個別名を挙げることが必要だと思いませんので申しあげませんけれども、いろいろ聞いております。ですから、当然信用リスクの高いところに無理をするつもりはありません。ですから、それぞれに合わせて対応する。その中で、われわれの今回お話しした予測に基づいた販売が実現できるとの見通しを現時点では持っています。

Q 2  これまでも、今日も新しい提案が出てきたし、これからもどんどん出てくると感じているが、そういう提案が出てくるというのは、プロジェクトみたいなのがあるのか。それともどこか居酒屋で飲んで決まるとか、目安箱に放り込んで提案が出てくるとか、どういうかたちでそういう新しい試みが出てくるかを教えてほしい。
A 2

岩田:

 一つの決まったパターンというのはありません。宮本がひらめく場合もありますし、私が社内の人たちといろいろ話している中で、「それ、いいじゃない」ということもありますし、いろいろなケースがございます。

 ただ、いま私が非常に意識しているのは、私や宮本のようなソフトについて統括している人間が、現場で出てくるさまざまなアイデアに対して敏感であろうとしていて、おもしろい構造の話が出てきたときには、そこに対して、われわれもすぐ食いつくようにすることです。食いつけば、実際にリソースが割り当てられて何かがつくられ始めるわけですね。

 当然そこで進めてみると、「最初からいいと思ったけれども、本当によさそうだ」というものと、「最初はいいと思ったけど、やってみるとさまざまな問題があって、そうはいかないということがわかる」ということがあるんですが、その判断をどう的確にするかがポイントかなというふうに思っています。


取締役専務・情報開発本部長 宮本 茂:

 やっぱりフットワークといいますか、コンパクトな会議を頻繁に行うというか、コミュニケーションだけだと僕は思います。そういう意味では、いまわりと軽いフットワークの会社の運営ができていると思います。頻繁に、そこらの定食屋さんでお昼を食べたりもしますし、いろんなところで、いろんなメンバーが混ざって話をするようにもしています。まあ、何か答えを出さないといけないという緊迫感さえ持っていれば、あとはフットワークの軽さかと考えています。


岩田:

 一つだけ追加したいことが、いま思い浮かびました。何か「これはおもしろい」と思っても、ものになるには極端に時間がかかるときがあります。これはホームページの企画で外に向かってお話ししていることなので、秘密でも何でもないんですが、Wiiの中にMiiという似顔絵機能があります。これは「宮本の20年近く考え続けた執念」が実った結果だと私は思っています。

 どういうことかといいますと、ファミコンのディスクシステムの頃ですから、ほぼ20年前に、宮本は「似顔絵をつくるのはおもしろいはずだ」ともう言いだしているわけです。で、つくるんですが、当時は売る方法がありませんでした。それから任天堂がNINTENDO64を出したとき、64DDというディスクドライブのついた仕組みがありましたが、そこでも似顔絵をつくるソフトをつくりました。これはビジネスとしては結果が出せませんでした。それから今度はゲームキューブになったときにゲームボーイアドバンスにカメラをつけて、「マネビト」とか「ステージデビュー」と呼ばれたソフトをつくります。これも結果が出ませんでした。普通ならあきらめます。ですが、本人は「似顔絵はおもしろいと思うんだよね」と、Wiiをつくるときにまだ言っているわけです。

 で、最初は開発スタッフたちは、少しあきれるところから始まるわけです。「まだ言っているよ、宮本さん」ですが、「本当はおもしろいはずだが、ただその出口がちゃんと見つかっていないだけ」のときに、ある日突然、出口が見つかるわけです。その出口が見つかってからは、非常に柔軟に社内でチームを組んで、一気に仕上げました。

 ですから、「一つのテーマについて、長くしつこく考え続けることが大切で、考え続けていることの蓄積の量が生んでいる部分というのもあるんだな」と私は思っています。

Q 3  DSiのカメラ機能や音楽再生機能など新たな機能を活かしたゲームソフトがこれからたくさん出てくると期待しているが、まだ発売前で、サードパーティの見方は分かれている可能性があると思う。現時点でのサードパーティの反応やソフトの開発意欲などについて、教えてほしい。
A 3

取締役専務・営業本部長 波多野 信治:

 発表した10月2日の前後ぐらいから、ソフトメーカーさんに仕様の開示を始めたばかりで、まだ具体的にこんなタイトルという企画を明確にいただいておりません。ちょうどいま開発ツールを、お渡しし始めたところでして、皆さんにご説明したときの感触といいますか、ご意見では、具体的にカメラを使ってどうとか、音楽をどうこうとかいう企画を明確にはまだ表明はされておりませんけれども、非常に可能性を感じているし、何か新しいソフトをつくれそうだという感触を、ほとんどの日本のみならず海外の有力なパブリッシャーさん、開発会社さんからも、お聞きしております。

 現状はそんな段階で、たぶん企画がまとまるにはそれなりの時間は必要だと思いますし、たぶんもう少し、1カ月ぐらいは必要だと思います。これは何もDSiだから遅れているということでも何でもございませんで、新しいハード、新しい機能を持ったハードを出すときは、開発者は必ずどんなことができるんだろうということを、仕様をもとにいろいろ考えられ、構想を企画に、そして実験をおやりになって企画を最終的にまとめられますので、そういう意味では企画が出てくるのはもう少し先になるのではないかと思います。

 感触とすれば、新しい、いままでにないソフトがつくれそうだ、楽しそうだという感想を皆さんからいただいています。

Q 4  昨今日本のゲームソフトウェアメーカーの開発力が低下したという話が出てきている。それを各社に聞くと、「高性能機に開発しておかないととか、リアルなグラフィックとかやっていかないと、これから対応できない」との説明を受ける。一方でWiiが普及したので、要するに御社のせいで高機能な開発力が劣ってきているんじゃないかみたいなことを言われる。
 ところが事実上、競争力の源泉がそうなら、WiiはSD(※1)で、性能も固定シェーダー(※2)で、DirectX 8(※3)レベルしかないと言われていて、そういうところでしか開発していない御社は、世界一競争力がないということになり非常におかしな感じがするし、「マリオカート」は950万も出ていて、「Wii Fit」も海外で600万出ている状況を見ていると、高性能機で開発するということが、はたして国際競争力につながっているとはちょっと思えない。
 ソフトの観点から宮本さんに、任天堂が持っている国際競争力はどういうところにあるのか。竹田さんにはハードの開発、たとえばWiiリモコンだとモーションプラスなんかも探してこられているわけで、ああいう斬新なベンチャーからのものというのは、通常のハードウェアメーカーではなかなか見つけてこれないと思うが、そういう点で競争力はどういうところにあるのか。岩田社長には、両方の視点でどういうふうに思っているかを、教えてほしい。

(※1)SD: Standard Definition の略。アナログTVの標準的な解像度。
(※2)固定シェーダー:描画する手順がハードウェアによって固定されている3D表示機能。プログラムによって自由に描画機能を組み替えられるプログラマブルシェーダと対比して、それ以前の仕組みを指す。
(※3)DirectX 8:マイクロソフト社が提供しているグラフィックス表示環境とそのバージョン。2008年11月現在の最新バージョンは10。
A 4

宮本:

 おっしゃるように技術というのはいったん開発を止めてしまいますと、挽回するのが難しい。だから、引き続き研究を続けるとか、勉強を続けるということは必要でしょうね。ただし、いま言われているあたりの技術というのは、ツールメーカーについている技術であったり、個人の能力についている技術が多くてですね、「それを企業が追いかけても、海外も含めてどんどん人が動くような時代に入ったときに、本当に社内に定着するんだろうか。逆に(外から)人を雇ってきたら全部解決するじゃないか」みたいなところがあって、社内のどれくらいのパワーをかけてそれを維持するかという問題ですね。

 任天堂の中では当然そういう努力は続けていますし、たぶん大手のソフトメーカーさんも、続けられていると思います。ただ、「そういうつくり方をしたものが本当に競争力のあるソフトになるのか、競争力はあるけれども採算は合うのか」ということですね。競争力のあるもののうち、勝つのはごく一部ですから。でも技術とソフトのアイデア全体のバランスという意味では、ちょっと技術に偏った評価をされる評論家の方が多いと思います。

 僕がソフトメーカーさんにもお勧めしたいのは、技術が一通り揃ってきますと、同じものができてきますので、同じものができてくる中で、それぞれの個性をどういうふうに出すかということです。やっぱり、「誰がつくっているか」ということが非常に重要な課題になってきます。組織の中でもやっぱり個性を活かしたものづくり、マネジメントもそれをちゃんと大事にする時代になっているということをもう一度認識する必要があると思います。それから、もう一つはその企業の個性というか、その企業らしいものをつくるという、何でもかんでもつくるわけにはいかないですから、そういう中で社内の文化をどう根づかせるかとか、そのあたりの啓蒙が非常に必要かと思います。

 この間、CEDECという日本のゲームディベロッパーカンファレンスでちょっとスピーチをすることになりまして、これはクローズドだったんですけど、特に若手の開発者がたくさん集まってくれまして、そこでもやっぱりそういう、「個人が発信していないと世界中にも届かない」という話をさせてもらったところです。


取締役専務・総合開発本部長 竹田 玄洋:

 任天堂の国際競争力はどこにあるかという質問なのですけど、一つは左にいる宮本という、いわゆるコンテンツをつくっている部隊と、われわれプラットフォームをつくっている部隊が同じ会社の中にあるというのは、任天堂の一つの大きな強みだと思います。ですから、人間、お客さんがどういうふうに機械とインタフェースをするかという技術を考えてみても、それをどう使って、さらにそれを増幅して、お客さんに提供するかという、そういうことを考えている部隊と一緒になって、開発を進めていけるという、いわゆる技術のための技術ではなくて、どういうふうにお客さんに届けることができるかということを、同じ建物の中で一緒に考えることが出来る、世界の中でも数少ない組み合わせの会社だと思います。これが一言でいえば、任天堂の一つの強みではないかなと思います。


岩田:

 今日ここに並んでいる6人は山内溥という人の教え子です。山内溥という人は、何にこだわっていたか。「娯楽はよそと同じが一番あかん。」で、とにかく何をつくって持っていっても、「それはよそのとどう違うんだ」と聞かれるわけです。「いや、違わないけど、ちょっといいんです」というのは一番だめな答えで、それではものすごく怒られるわけです。それがいかに娯楽にとって愚かなことかということを、徹底していたんですね。で、そういう意味では、「よそと違うことをしなさい」ということは、われわれのDNAの中に深く刻まれています。だから、競争力というのは「人がやらなさそうな、人と違う軸で、かつ多くの人が魅力を感じることは何かということを必死で探すこと」じゃないかなと思います。

 一方で、「Wiiのせいで高性能機の開発ができないので、競争力が落ちる」という議論があるようですけど、私はまったくそうは思っておりません。先ほど宮本も少し言っていましたが、確かに完全に会社中からそういうもの(高性能ハードに向けた技術開発)を全部なくしてしまって、一切新しい動向を追いかけなくなれば、それはそういうものをつくれなくなりますけれども、当然未来にいろんな技術が進歩していくわけですから、新しい技術を追いかける役割の人というのを、会社の中にちゃんと置いていけば、ノウハウ的に完全に置いてきぼりになるということはないと思います。

 その意味で、(Wiiを開発するときに)私も宮本も、高性能が差別化にならないし、そのことだけで売れるものをつくれるとは思えなかったからそこを選ばなかっただけです。私たちは、高性能に恨みもなければ、嫌いでもありませんし、むしろきれいならきれいだなと思いますから。ですから、そういう技術が当たり前に使えるようになり、リーズナブルなコストで出せるようになったときに、どう使ってみせるかということは、当然いまから考えているわけです。そういう中で、準備もしてますし、別に置いてかれたという意識もありません。ただ、「どこかで新しいものを追いかけておくこと」と、「いまお客様に何を提示すれば、いままでのものとの違いをはっきり認識していただいて、魅力的だと言っていただけるか」は別のことなので、そこらは混同しないようにしたいと思います。とにかく人と同じ軸で力の勝負をすると疲れますし、勝っても勝ち続けることはできませんので、何とか違う土俵をつくり続けたいなと思っていますし、それをするのが任天堂のやり方だと言えるんじゃないでしょうか。

Q 5  昨今でも、事件が起こるとすぐゲームのせいにされるという報道が出てきていて、私はアナリストの立場として「それは違う」と言っている。御社の立場からも、「ゲームというのはもっと安全で楽しめる娯楽である」というのをアピールしてもらえないかとも思うが、そのへんの立場というのを教えてほしい。
A 5

岩田:

 ある意味、ゲームのことにまったく興味のなかった方に、「ゲームという娯楽は体験してみると意外とおもしろいな」と思っていただくことほど、ゲームに対して誤解を解くためにいい行動はないと思っています。私も、同じような思いで残念な思いをしたことは、過去にたくさんありましたが、ゲームをつくっている会社がいくら声高に「ゲームは悪くありません」と言っても、「それは任天堂の商売に都合が悪いからそう言っているんだろう」と思われてしまうだけなので、やはり触りもしないで、何となくだめなものだと思っている人が、触ってみたら、「おもしろいよ、これは」と言っていただくことほど、効果的なことはないんじゃないかと思います。

 ですから、ゲーム人口拡大というのは、任天堂のビジネスを拡大するための戦略でもあるんですが、同時にビデオゲームというものの社会的な地位が高まっていくための戦略でもあるというふうに、私は基本的に位置づけています。

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