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2010年1月29日(金)第3四半期決算説明会
質疑応答
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Q 7 DSは『Facebook』で遊べるようになっているが、外のオープンのプラットフォームと、御社のハードの関わりについてどういうふうに思っているのか。DSの存在感というのはそれなりに大きいと思うが、自社製のプラットフォームを使うのか、外のプラットフォームを使うのがいいのか、というところについてお聞きしたい。
A 7

岩田:

 「DSiカメラ」に『Facebook』と連携する機能が追加されたのは、DSiができたときに、NOA(Nintendo of America)の人たちから、「DSiカメラの魅力を世の中の人に伝えていくには、『Facebook』とつなぐべきだ」という提案があったことがきっかけです。

 もうかなり前のことですが、「(アメリカにおいて)SNSといえば『MySpace』だ」という時代があり、『Facebook』の黎明期には、「『Facebook』というのは学生さんが使うサービスでしょ?」というのが世の中の認識であった時代があり、それがプラットフォームのオープン化をされたことで一気にユーザーベースを拡大して、その認識が急激に変化して、SNSの中の断トツの存在になっていったわけですが、ちょうどその過程で、そういう提案がNOAから出てきたんですね。われわれ自身は日本にいると『Facebook』のそういう変化というのは、その当時に日本ではあまり実感できませんでした。当然今だとみんな知っているわけですが、一昔前の話でしたから。

 そういう形で『Facebook』との連携というのは始まったんですが、そういうことを経験しながら私がつくづく今思っているのは、「任天堂に今(ネットワーク関連で)一番足りないものがあるとしたら何だろう?」ということについてです。それは「展開スピード」だと思っているんです。基本的に自社のプラットフォームを自社ソフトでまず立ち上げて、ソフトメーカーさんにも魅力を感じていただける市場を作って、ソフトメーカーさんに入ってきていただくという循環でずっと任天堂のビジネスはやってきましたから、基本的に「(最初は)自分でやるんだ」という意識が任天堂の中にはあるわけです。

 一方で、インターネットでさまざまなサービスを展開する時に、全部本当に自分でやるべきなのだろうかと考えるんです。例えばWiiを立ち上げた時に、『お天気チャンネル』とか『ニュースチャンネル』を作りました。自分たちが中心となって立ち上げましたけれども、時計を戻せるなら、「あれって、任天堂が直接やらなくても、どこかのサービスとうまく提携することで任天堂自身がやらなければいけないことをもっと減らせたんじゃないだろうか」ということを考えたりしています。逆に言うと、これから任天堂がもっと展開スピードを上げていこうと思うと、「任天堂が絶対社内から外に出さない部分」と、「この部分は外と積極的にパートナーシップを組んで進めていくことでもっと展開スピードを上げる部分」を明確に分けるべきだということです。これは確か2回くらい前のこういう場だったと思うのですが、任天堂の展開スピードについて「リソース不足じゃないのか」というご指摘をいただいた頃からずっと考え続けてきていることなんですけれども。今後、われわれはすべてのことを自前でやらなければいけないと思っているわけではないということが1つあります。

 一方で、もう1つ大事なことがありまして、それは「任天堂のプラットフォームはいろいろな人にとって安心であるべきだ」ということについては、すごく強いこだわりがあるということです。インターネット上では、大半の人は善意で行動されますが、そうでない場合もあります。お客様がインターネットの世界で他の人と交流された結果、嫌な思いをする方が続出してしまうというのは全く私たちの望むところではないので、「どういう形であればお客様にそういう世界に入っていっていただいていいのか」、「どうやってお客様の安心を保つのか」ということが非常に重要だと思っています。したがって、「これからすべてのサービス、特にインターネット系のサービスをすべて自前でそろえなければと考えているのではない」と申し上げるのと同時に、任天堂の中にそういうものを組み入れる時の基本的な考え方としては、「いかにそこを安心な場であるように担保し、不愉快なことが起きにくい場にするか」ということがもう1つの大きなテーマであって、それがうまく解決できた時に任天堂の展開スピードというのはもっと変わっていくのかなと思っています。

Q 8  社会性があるという意味では3D、特に映画、あるいはテレビでも一部開発が進んでいる。実際に放送局でも3D対応のコンテンツを手がけていくということが報道されているわけで、ビデオゲーム業界に対する影響、特に据置型の動向について、中長期で見てどの程度のインパクトのある話なのかという点について説明してほしい。
A 8

岩田:

 任天堂は「バーチャルボーイ」(1995年発売)というゲーム機を出したことがありまして、当時は「バーチャル・リアリティー」ということが話題にされていた時代でした。もう「バーチャル・リアリティー」なんて言葉は普通の人は大体忘れておられるんじゃないかと思うような一種の「バズワード」でしたけれども、その時には「3Dの空間に入り込んだら、強い没入感のあるゲームは魅力があるんじゃないか」と考えてチャレンジしたのだと思います。「バーチャルボーイ」がなぜビジネス上の結果を残せなかったか、ということについては、「あれはフルカラーが当たり前の時代に、赤しか出ない単色の世界を提案したので、それが問題だったんじゃないか」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんし、「バーチャルボーイをのぞいている格好を周囲の人はあまり好意的に見られなかったからではないか」という見方もあるかもしれません。

 私は、映画がどんどん3Dになっていくのは1人のユーザーとしてワクワクしますし、2時間の映画をメガネをかけて座って見るということに関しては抵抗はむしろありません。ただ、「家庭のテレビゲームが、本当にメガネをかけてみんなが遊ぶようになるんだろうか」、あるいは、「メガネをかけている人の横でメガネをかけていない人の目には、それはどう見えるんだろうか」とかいうことを考えた時に、「1人で遊ぶ」、「ほかの人は家にいない」という構造であれば、それなりに相性がいい気がするんですが、任天堂は「世帯内のお客様の数を重要視します」と申し上げているので、「われわれにとって、メガネをかける3Dというのは相性がいいのか」ということに関しては、ちょっと疑問を感じています。実は3Dの可能性ということはずいぶん昔から議論があって、それこそゲームキューブを作った時代から3Dのディスプレイができた時のために左目用の絵と右目用の絵を分けて出せるような回路が実はこっそりと仕込んであったんです。ですから着目しているといえば着目しているのですが、一方で「メガネをかけてみんなでゲームをするのか」ということに関しては疑問がありますし、2時間の映画を観るのと比較しますと、ゲームというのはもう少し時間の単位が長くて、「2時間でゲームが終わって、はいおしまい」ということになると、「それでは短くて割高に感じる」と多くのお客様にご指摘いただくようなケースが多いものですから、もっと長い時間遊んでいただくとすると、今度は「人体への影響はどうなんだ」とか、いろんなことを考えないといけないなということもあります。したがって、興味がないわけではありませんが、解決しなきゃいけないハードルは高くて、そんなにすぐに「ビデオゲームは全部3Dになります」とは言えないんじゃないんですか、と思っています。

Q 9  過去数年の間にいわゆるゲームに関連したコンテンツのできるプラットフォームが非常に多様化していて、そのトレンドは加速している。例えばソーシャルゲームと家庭用パッケージソフトを比較したような意見も一部で聞かれるが、一方で、そういった新規参入のところと任天堂のビジネスモデルは、戦略の範囲も、例えば周囲獲得形成も違うので、一概に単純に比較できないと考えている。ただ、ゲームができるプラットフォームがこれからどんどん多様化していくことで、脅威になる新規参入者を想定されるか、このプラットフォームの、メディア周りの多様化がこれで一巡しているのか、まだこれから加速するのか。そことの親和性というか、協調してやられる方針か、あるいは競合の関係であるのか、そのあたりの考え方を。
A 9

岩田:

 幅広い意味でとらえますと、お客様の時間と興味と予算を取り合うという意味では、別にソーシャルゲームや携帯電話のゲームに限らず、あらゆる娯楽が競合関係であるとも言えますが、一方で、例えば私たちが、『アバター』(映画)が大ヒットしたからそれを脅威に感じるか、というと別に感じないわけです。それは、『アバター』を見る人が増えたらテレビゲームをする人が減るわけではないからで、それと同じようなとらえ方をしています。なので、むしろ私たちにとって一番大切なポイントは、「一度うまくいったパターンを繰り返していけばお客様が次もその商品を買ってくださると思い込んでしまうことが怖い」ということです。

 前にもお話ししたことがありますが、「携帯ゲームはいずれ携帯電話に飲み込まれるだろう」ということが、2001年、2002年ごろにずいぶん言われていました。その時の論調というのは、ゲームボーイアドバンスというゲーム機が出ていたころですが、「ゲームボーイアドバンスでできるようなことはいずれ携帯電話でできるようになる。携帯電話でできるようになったら、携帯電話はみんな必需品として持つので、誰も携帯ゲーム機なんか買わなくなるんだ。」ということを当時は特に海外のメディアの方から言われ、取材の時に必ず聞かれました。もし任天堂がゲームボーイアドバンスのまま、あるいはそれでできそうなことをちょっと豪華にした、という流れのまま今日も携帯ゲーム機ビジネスを展開していたなら、きっとそのようにおっしゃっていた未来に近づいていたんじゃないか、すなわち、携帯型ゲーム機というのは今日のような市場を築いていなかったんじゃないかと思います。一方でわれわれは、ニンテンドーDSというゲーム機を出して、全く違うことをしました。特別なハードを出したからというよりは、ハードだけではなくて新しい切り口のソフト、新しいテーマのソフト、ゲームの定義を拡大するソフト、今までになかったような遊び方ができるゲームソフトを出し続けてきたことで今日があると思います。ただ、ついつい、前作でこれに満足いただけたら、「次はそれをちょっと良くすればいいや」というふうになりがちなので、いかにそこで止まらないようにするかが大事で、止まらなければ、おっしゃるようにいろんな新しいものが出てきたとしても、別にわれわれはそれを恐れる必要はないと思っています。

 私たちが意識しているのは、「競合にどう勝つか」ということよりも、むしろ、「自分たちが提案していることはお客様にとって新しく楽しそうに見えるのか」ということです。近頃のゲームって、遊ぶと面白いものは山ほどあるんですが、遊ぶと面白いものの一握りしか実際には売れていないんです。じゃあ、本当は遊ぶと面白いのに売れないものがあるのはどうしてなんでしょうか。任天堂発売の商品でも、「これ実際に遊んでもらったら面白いはずなのに、どうしてこんなに売れないんだろう?」ということがいっぱいあるんです。そういう時に、「われわれには何が足りていなかったのだろう」と考えると、結局「お客様がそれに興味を持ち、お客様が手にとってみる動機が足りないんだな」と思うんですね。特に「無料です」と言ってお客様を集めておられるタイプの娯楽の場合は、お客様の敷居は有料のものより低くなりますから、そういう無料のものに対して存在感が失われないためには、お客様の動機に対してどうアピールできるか、ということがすごく大事だと思っていて、それをしっかりやることがわれわれの未来にとって重要なんだと思います。

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