株主・投資家向け情報

2011年10月28日(金)第2四半期決算説明会
質疑応答
Q 4

 事業としての優先順位を確認したい。2012年3月期と2013年3月期はニンテンドー3DSの本格的な立ち上がり期に入ってくるが、ニンテンドー3DSハードの普及と単年度の業績のうち、どちらを優先しているのか。プロモーションなどの追加コストを払ってでもニンテンドー3DSハードの普及を加速することが最重要なのか、あるいは業績を守っていくことが重要なのか、考えを聞かせてほしい。

A 4

岩田:

 まず、2012年3月期については、「ニンテンドー3DSのハードの普及を優先させる」と決めましたので、ある意味今期の収益というものを犠牲にしたと言えると思います。コストダウンが進む前にニンテンドー3DSを大胆に値下げしたわけですから、これは紛れもなく今期の収益よりも、ニンテンドー3DSを今後数年、任天堂の社業の一つの軸足となれるようなプラットフォームに育てるためには、今思い切った投資が必要であるという判断をしたということです。2013年3月期になりますと、そのニンテンドー3DSのハードの収益性は今期に比べると大きく改善できる見通しですから、2013年3月期にも「ハードでものすごく大きな損失を出し続けてハードを普及させないといけない」という状況になるとは思っていません。今年に十分な勢いをつければ、来年はより通常の形のビジネスに近付けられると思います。

 それからもう一つ、今のご質問の背景に、任天堂が決算短信上で発表しています通期の広告宣伝費の予想が、前回の見通しに比べて50億円減少していることが、「任天堂は今期の営業利益を無理やり黒字にするために広告宣伝費を減らしているのではないか」という理解をされている方もいらっしゃるかもしれませんので、この点について説明させていただきます。広告宣伝費のうち、外貨で発生する広告宣伝費は円換算いたしますので、前提の為替レートが円高に振れますと、円表示上の広告宣伝費の金額が減少いたします。これが一つの要因です。もう一つが、広告宣伝費の中には、販売促進のためのいわゆる売上連動型といわれているものがあります。これは、例えば海外の小売店さんと任天堂の間で、売上に準じてある一定のパーセンテージでファンドを作り、そのファンドの中で要件を満たすプロモーションに対してお金を出すといった仕組みです。今回、通期売上高の予想数値を下方修正いたしましたので、それによって売上連動の広告宣伝費も減少いたしました。ですから、私たちが2012年3月期に必要だと思っている、ニンテンドー3DSを1,600万台販売するために必要な広告宣伝・プロモーション等に関して、何か姿勢を保守的にしたということではありません。これに関しては、ある程度アグレッシブな投資をしていますし、その姿勢は変わっておりません。ただ、お金さえかければ売れるというものでもありませんので、これはハードの売れる時期に適切なプロモーションを、コスト効率を考えて行い、その上に良いソフトが出る時に相乗効果が出るようにしていくということで考えています。

Q 5

 先ほど社長から、「この年末商戦でゲーム専用機限界説を払拭したい」という力強い言葉があったが、環境変化への対応という視点で質問させてほしい。一つ目は、第1四半期の決算説明会で「年内にアイテム課金ができるような状況を準備する」、「より新しい魅力的な人と人との繋がりの提案をしたい」、「消費されない特別なコンテンツを作ってその価値を維持したい」、「スマートフォンやSNSをどう活用するかを考えていきたい」といった話があり、今日のプレゼンテーションでは「『ニンテンドーeショップ』をWeb化してPCやスマートフォンからアクセスできるようにする」と言う事例が出てきたが、もう少し詳しい進捗や他に何かあればコメントいただきたい。もう一つ、「切れ目なくソフトを出せる体制」というのは非常に難しく、永遠の課題ではないかと思うが、その実現に向けて今どういうことをしているのか。

A 5

岩田:

ニンテンドーeショップ

 これはプレゼンテーションの中でお示ししたスライドですが、「アイテム課金」と「追加コンテンツ」は、仕組みとしては全く同じです。すなわち、ゲーム内から少額課金でアイテムを購入したり追加コンテンツを買ったりできるような仕組みが11月末に予定している『ニンテンドーeショップ』の更新で入ります。7月末にお話しした、「年内にできるようになります」というのは、「追加コンテンツ」だけができるようになって「アイテム課金」ができないのではなくて、これは私の説明不足だったかもしれませんが、両方が対応します。

 同時に、任天堂としては、こういうものについてどういう考えを持っているかというのは前回お話しいたしましたが、任天堂も恐らく来年何らかの形で、お客様にご支持いただけるような形で、こういうこと(前回の説明会での質疑で例として挙げたのは、しかるべきクリエイティブの労力を注ぎ込んで開発した追加のステージ等を追加コンテンツとして買っていただくこと)をソフトの中でやっていくでしょうし、来年早々からソフトメーカーさんの中で新しい『ニンテンドーeショップ』の仕組みを使われるソフトが出てくるというようなことも聞き及んでいます。具体的にどのソフトがどういうことをするのかということは、それぞれのパブリッシャーさんが発表されるべきことなので今日ここでは申し上げませんけれども、そういうことがまずあります。
(※一部に、「任天堂がソーシャルゲームのようなアイテム課金型ゲームを投入予定」との報道がございましたが、これは、事実ではございません。)

 それから、スマートフォンやSNSを活用していきたいというのは、例えばSNSを活用するという意味で言えば、「Nintendo Direct」の開催予定を、開催2日前にTwitterを通じて任天堂が発信すると10万人単位の方にご覧いただけるということが実現できていますから、既に活用は始まっているわけです。ただ、任天堂のゲームを体験できるのは任天堂のゲーム機だけでよいと思っているのですが、プレゼンテーションスライドにある、例えば『ニンテンドーeショップ』のWeb化などが一つの事例で、任天堂のゲームの情報に触れる場は、テレビ広告・印刷媒体広告一辺倒の時代から、ソーシャルメディアを通じて情報が伝わるというふうに変わってきましたので、ソーシャルメディアを活かさない手はないわけです。その媒体としてスマートフォンというものが若い世代の方を中心に今、急激に普及が進んでいますので、日本は今年がスマートフォンが本格普及を始めた年という感じですが、アメリカは少し前からそうだったと思いますし、それらを利用することが活用の一つだと思います。今度はWii Uの発売時にさらに踏み込んでいくことになると思います。今世の中にはたくさん注目を集めたい製品が存在していて、アテンションの取り合いの競争をしています。そのような状況の中で任天堂のゲームのことを少しでも思い出していただいたり、自分のライフスタイル、自分の趣味、自分の価値観と相性の良い製品が見つかりやすくするために、そのようなデバイスやサービスをどんどん積極的に使っていこうというような考えだとご理解ください。

 二つ目のご質問にある「切れ目ないソフトの展開」というのは、これは当然、今ご指摘のあった通り永遠の課題です。切れ目なくソフトを出すことが重要だと思っていなかったので今年の前半にソフトがなかったわけではなくて、分かっていてもできない時があったということです。私たちには、そのためのバックアップ体制が不足していたと思っています。もともと、今年の前半にソフトが一切出る予定がないという計画ではなかったのですが、いくつものソフトが同時に後ろにずれてしまったので、対応ができなくなってしまったということが今回の要因です。また、その時期には、ソフトメーカーさんからもヒットタイトルが生まれなかったということでもあります。

 今後、切れ目なくソフトを供給するためには、「任天堂が作ったものをすぐ発売するのではなくて、少し貯められないか」ということが一つあります。これは鮮度の問題がありますから、あまりとっておくこともできないのですが、「作ってから発売までに少し時間をおくようなことはできないか」ということが一つで、こういう取り組みをニンテンドー3DSでは徐々に始めつつあります。例えば、年内にこれ以上3DSソフトを任天堂が発売しても、恐らくトータルの売上はこれ以上増やせないくらい密度が高いと思います。ですから、そういうものがあって、意図的に年明けにしたものもあります。

 それから、もう一つは、私たちとソフトメーカーさんの連携、サードパーティーのパブリッシャーのみなさんとの連携をより強化することです。ニンテンドーDSとWiiの時はプラットフォームの登場時に当時のゲーム業界の主流の考え方ではない、非常にユニークな提案をしたものですから、任天堂自身が中心になってハードを立ち上げざるを得ず、従って、お客様も特性上、任天堂のファンのお客様が中心になりました。特に日本のWiiで集中的に起こったことですが、「サードパーティーさんのタイトルがなかなか売れる実績が作れない」、「売れる実績が作れないので、サードパーティーのみなさんが開発意欲を維持できない」、あるいは海外でもWiiのサードパーティー製ヒットタイトルはありますが、「例えばファーストパーソン・シューターのような、HD機で遊びたいというジャンルのゲームには対応しきれない」といった課題があったわけです。この問題はWii Uやニンテンドー3DSでは改善できますし、事実いろいろなソフトメーカーさん、あるいはソフト開発者のみなさんが「これなら自分の作りたいソフトが作れる」ということで、いろいろな形で動き始めておられますので、その意味で、「今回のようなぽっかり穴が半年近く空いてしまうようなことは再び起きない手だてが整っているのではないか」と私は思っています。

Q 6

 今回の業績悪化は、ニンテンドー3DSを逆ザヤで売ったというところもあるが、ニンテンドーDSとニンテンドー3DS、WiiとWii Uのそれぞれに開発人月を突っ込んでしまい、タイトルがちょっと延期になると全然出ないといったことが起こってしまったというのが大きいと思っているがどうか。また、先般から「ニンテンドー3DSカンファレンス」、「Nintendo Direct」といった形でかなりユーザーに直接アピールするマーケティングに変えていると思うが、今般の報道を見ていても、御社の業績悪化は単純に「ニンテンドー3DSが売れていないことが原因」みたいなことを書かれてしまっているので、アナリスト、報道に頼らないようなマーケティングに軸足を変える可能性もあるのか。

A 6

岩田:

 まず、なぜソフト不足になったかという点について言いますと、今ご指摘のあるように、「ニンテンドーDSからニンテンドー3DSへの移行を進めないといけないというタイミング」と、「Wii Uの準備をしないといけないというタイミング」とが重なってしまいました。これが重ならずに、例えば3年とか4年とか空いていれば、任天堂が同時にケアしなければいけないプラットフォームは現役の二つプラス新しいもの一つで済むわけですが、現役の二つのプラットフォームに新しいプラットフォームを二つということになりましたので、その点で、よりかじ取りが難しくなったといえると思います。ただ、プラットフォームの乗り換えは、いつかはしなければいけないことですが、それは必ず一定の期間で来るというものではありませんし、例えばニンテンドーDSはわりとロングライフで大きなビジネスができて、結果、非常に大きなインストールベースと、携帯型としては過去に前例がないような大きなソフト販売本数を実現できたわけですから、何年サイクルと固定的に考えるべきではないと思うのですが、ニンテンドーDSのサイクルが少し長くなったことが、より難しい側面を生んだのは事実だと思います。

 その中で、任天堂は「社内でやることと社外でやることのバランスをもう一度考え直すべきである」ということを最近非常に強く意識しています。具体的に言いますと、やはり、ニンテンドーDSやWiiにおける、ある種の体験というのは、自社を中心に作り上げたいくつかのキーとなる商品が全体をドライブしたということがありますので、どうしても組織全体が、それが自分たちのこれまでの体験の中でうまくいった方法 ― 私は「成功」という言葉を、特にこのような局面では使いたくないのですけど、あえて成功体験と言わせていただきますが ― そういう成功体験をした集団ですから、つい何でも「自分たちでやるのが一番安心で確実」というような意識になりやすいのです。ただ、当然のことながら、現役のプラットフォームを支えながら次の準備をしなければならない時期が必ず来るわけですから、その時に何でも自分でやるのではなく、「絶対に社内でやった方がよいことは何なのか」ということをなるべくコンパクトにして、逆に「どうやって社外のみなさんと協力しながらやっていくか」ということを考えています。例えば、かつて任天堂の情報開発本部の宮本のチームが、社外の方と共同で作ることはなかったようなタイトルを、社外の方に協力いただきながら一緒に作るというようなことが、かなり積極的に進むようになりました。これは、そういうことをやっていかないと、ある時期、瞬間的には「プラットフォーム4つについて考えないといけない」ということに対応できなくなったから今回そういう形で新しい行動が始まったわけで、社内でなければできないという思い込みもだいぶ減ってきています。ですので、今後はこの問題は今より良い方向に改善できていくと思っています。同じように、例えば任天堂は一般的に「ネットワーク上でサービスを展開するのは上手じゃない」というご批判もよくいただきますし、「任天堂がネットワーク上で展開するサービスを実現するためにヒットゲームが作れる開発者たちを非常に長い間拘束しているとしたら、それは開発人材の活用の仕方として正しいのか」という議論も社内であります。その意味では、「社内のゲーム開発者はなるべくユニークで面白くて新しいゲームを作ることに専念して、それ以外の任天堂が得意ではないことは社外の方とうまく協力をしながら展開していこう」というのが基本的な考えです。

 それから、直接アピールの話ですけれども、これは今日冒頭でお話しした以上のことではないのですが、一言でいいますと、「情報の種類によって、発信される場所は選んだ方がいいと考えている」ということです。例えば、先日の「Nintendo Direct」等で扱った情報、ゲームの中身の詳しい仕様について、ゲームを遊ばれない方にご説明して、その方に報道していただくというのは、やはり無理があるのです。ですから、そういう情報は私たちが直接お客様に届ける手段が今あるので、そうした方がいいと思っています。一方で、あらゆる情報を直接お客様にお届けすればいいかというと、そういうメディアを通じて能動的に情報を見ていただけるお客様は、やはり人数的に限りがあるわけですから、広くあまねくお伝えするということについては、当然マスコミのみなさんのお力をお借りしないといけませんし、投資家の皆様に広く情報をお伝えするには、今日この説明会にご出席の皆様のお力をお借りしないとできないと思っていますので、「あらゆることを直接伝えれば解決する」という発想は持っておりません。要は、「情報の種類によって出し方を変えよう」と思っているということです。対象ごとに、それぞれのみなさんが聞きたいと思っておられて、理解していただきやすい情報を、そのような形にきちんと編集してイベントや種々の方法でお届けしようということです。


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