株主・投資家向け情報

2012年4月27日(金)決算説明会
質疑応答
Q 7

 ちょっとアンチテーゼ的な質問になるが、任天堂らしいかどうかは別にして、業績回復に向けての基本戦略は、長らく「ゲーム人口の拡大」という話だった。アンチテーゼというのは、「果たしてこれでいいのか」ということを質問するからで、今までマネジメントの方々が重視してきた一つの指標である世帯当たりのユーザー数と、単年度ないし複数年度累計の利益の相関関係というのは必ずしも高くないと思う。ゲーム人口の拡大というのは、いうなれば恒常的な課題であって、これから復活を期するには、その進捗をマイルストーンごとに確認するためのもっと具体的な目標が必要ではないか。例えば、今回発表のあったパッケージソフトのデジタル販売についても、恐らく機が熟したという判断からの決断だと思うが、お客様に選んでもらうというスタイルではなくて、小売店と任天堂のウィン・ウィンの関係を早くつくって「自分たちはこうしたいんだ」というようなメッセージがあるべきではないか思うが、考えを聞かせてほしい。

A 7

岩田:

 特に今、業績が厳しいですから、「私たち任天堂がやってきたことは間違いではなかったのか」というご指摘をいただいても無理もないと思います。一方で、それでは「ゲーム人口拡大の努力をしなかったら、今頃ゲーム市場はどうなっているのでしょうか」「新しいお客様が増えていかない娯楽に未来はあるのでしょうか」ということについて、私の信念はいささかも揺らいでおりません。「新しいお客様を増やす努力」「ビデオゲームが社会の中でポジティブなものとして受け入れられるようにする努力」を任天堂がやめてしまった時に、どのような未来が待っているのかということについて、私は今より良い未来が待っているとは思いませんので、今後とも努力をしたいと思います。

 ただ、それでは「これまでのやり方はすべて良かったのか」「方針、いわば戦略は今後も同じだとして、戦術は同じで良いのか」ということについては、課題があります。例えば、Wiiというプラットフォームは、確かに『Wii Sports』や『Wii Fit』でかつてゲームをプレイしなかった人たちに手に取っていただき、たくさんの新しいお客様になっていただくことができました。しかし、その方たちに定期的にゲームを遊んでいただくことや、長期にわたって継続的に遊んでいただくことに関しては、うまくいかなかったと思います。そのため、業績の維持ができませんでした。また、残念ながら、新しいお客様を獲得しようとして重視した点と、ゲームを趣味としてお楽しみいただいているお客様に満足していただくために重視した点において、少し偏りがあり過ぎたために、「Wiiというゲーム機は自分たちのものではない」と感じられ、「少々魅力的なソフトが出ても遊んでみる気になれない」というムードをつくってしまったことも事実だと思います。今回、過去のニンテンドーDSやWiiの時と比べて、ニンテンドー3DSでは、いわゆるユーザー拡大型のソフトウェア展開が遅いように見えているということについては、ある程度考えてやっていることでもあります。最初にお客様が、「この機械は自分たちのものではない」と受けとめられた場合、後からその認知を変えることはとても難しいということを私たちは学んでいます。そのため、まず私たちは「幅の広さと深さを両立させたい」と申し上げてニンテンドー3DSやWii Uを展開し、ニンテンドーDSやWiiの時には幅の広さについては多くの方にご評価いただきましたが、奥の深さという点でみなさんに満足いただけたとは言い切れませんので、今度は奥の深さでも、幅でも満足していただきたいと考えています。そのためには、まず深さから始めようということがあり、今のニンテンドー3DSのソフト展開となっていますので、今後についてはこれから変わっていきます。この幅の広さと深さの両方を充実させることで、一つのプラットフォームでより幅広いお客様に満足していただけるようにしたいと思います。Wii Uで考えていることも基本的に同じです。そういうことを継続していった時に、世帯当たりのプレイ人数も多くなり、ユーザー人口の増加とともに、持続力のあるマーケットをつくることができるのではないかと思っています。今申し上げたような形でニンテンドー3DSやWii Uが今後どうなっていくのか、これからお目にかけたいと思います。

 また、パッケージソフトのデジタル販売について、「お客様に選んでいただくではなく、私たちはこうしたいんだと提案すべきではないか」とご質問にありました。もちろん、それも一つの方法だと思いますが、私たちが「お客様に選んでいただく」と申し上げたのは、お客様にとって、物理的なパッケージソフトをご購入いただくこともデジタル版をご購入いただくことも、それぞれ一長一短があるからです。

先ほど、スライドで◎と×を使ってご説明しましたけれども、どこを重視するかはお客様のプレイスタイルによって違います。お客様のお好みと違うにもかかわらず、「こっちをしたいから、こっちだけにしてくれ」というアプローチをしますと、私がお客様の立場であれば「傲慢な会社だなぁ」と思うはずですので、お客様と誠実に向き合うのであれば、お客様自身に選んでいただく方法をとりたいと考えます。私は長期的にはデジタルの利便性を徐々に評価していただけて、デジタル版の割合が高まっていくと思っているのですが、お客様が選んでいただいた時にデジタル版の割合が高まることも含めて小売店さんともウィン・ウィンの関係がつくれるということをご提案したつもりです。実際にこれから商談を進めていく中でどのように評価していただけるかは、これからになります。いろいろな取引先様と、一般論としての意見交換をして感触を得ており、だからこそ、新しいこの形態ならうまくいくだろうという考えの下、提案をしています。皆様にお知らせした今日以降、正式なお話をしていく予定です。そのため、具体的にどういうご評価をいただけるかは分かりませんが、私は非常に前向きにご協力いただける小売店さんが世界中で多く出てくると思っています。論理的に考えれば、小売店さんにとっても、メリットがあると思うからです。これはウィン・ウィンの関係になっていると思ってご提案しましたし、受け入れていただけると思います。また今日は言及していませんが、ソフトメーカーさんにもこういう取り組みに参加していただけるような構造を一緒につくってご提案すれば、ソフトメーカーさんも「是非そうしたい」と賛同していただけると思います。そうすれば、露出が多くなってお客様にお店でご購入いただけることに加え、今までデジタル商品に手を出されなかったお客様にもご購入いただくことができれば、よりビジネスの機会が拡大すると感じていただけるソフトメーカーさんは多くいらっしゃると思います。いろいろな方にご提案をし、「選んでいただく」姿勢で取り組みたいと思います。

Q 8

 小売店とのウィン・ウィンの関係について、基本的にデジタル版も物理的なパッケージ版も卸売価格は同じで、小売価格に関しては小売店の実勢に任せるという説明であったが、在庫リスクがないということもあり、結局そうなると価格しか差別化するところがなくなり、卸売価格にかなり近いところに小売価格が収れんしていくことで、小売店ではほとんど利益が残らないのではないかという気もするが、その点に関してはどう考えているか。

A 8

岩田:

 まず、卸売価格が(デジタル版と物理的なパッケージ版で)同じであるというのは誤解です。先ほど申し上げたように、在庫リスクがない形態であれば、在庫リスクを負っていただく分のマージンがなくなるのはフェアな商取引だと思いますので、卸売価格が同じなので限界まで収れんするということは必ずしも言えないと思います。また、今でも小売店さんはいろいろな業態があって、「少し割高だけど便利でサービスが良いところ」「とにかく値段で勝負するところ」と、いろいろな業態がありますので、今までの業態と同じように、それぞれの小売店さんの特長を活かされて健全な競争をされると思っています。そのため、今回のデジタル販売に関する提案が即小売店さんの利益を限界まで削ることの引き金になってしまうとは思っていません。また、そうならない未来であるべきだと思っています。


このページの一番上へ