1. 任天堂とゲームをつくることになって

岩田

今日は、コーエーテクモさんのオフィスにお邪魔しています。
午後に京都で動かせない予定があるために、
11時にはここを出ないといけないので、
朝9時から押しかけてしまいました。
ところでみなさんは、いつも朝の9時から会社におられるんですか?

齊藤

いないです(笑)。

一同

(笑)

岩田

そうですよね(笑)。
みなさんにとっては災難で申し訳ないんですけど、
せっかくの機会なので、働いている職場で話をお訊きしたいと思って、
『METROID Other M』を実際に現場でつくったみなさんに
今日は朝早くから集まっていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。

一同

よろしくお願いいたします。

岩田

では、みなさんそれぞれ自己紹介をお願いします。
まずはTeam NINJA(※1)さん4人と、
映像制作を担当した太陽企画(※2)の永澤さんから
『METROID Other M』で何をしたか、訊かせてもらえますか。

※1

Team NINJA=格闘ゲーム『DEAD OR ALIVE』シリーズ、アクションゲーム『NINJA GAIDEN』シリーズなどを開発してきた、テクモ株式会社所属の開発チーム。

※2

太陽企画=太陽企画株式会社。テレビコマーシャルを始め、WEBコンテンツ、展示映像、CG作品などの企画制作を行う、映像プロダクション。本社・東京。

小池

サウンドチーフを担当しましたTeam NINJAの小池と申します。
今回の『METROID』シリーズは、自分としては
小学生の頃からプレイをしていたゲームだったので・・・。

岩田

小池さんは小学校の頃から
→『スーパーメトロイド』(※3)で遊ばれていたんですか?

小池

いえ、その前のディスクシステムで出た
初代の→『METROID』(※4)のときから、ずっとプレイしています。
まさかそのシリーズの開発に携われるとは思ってもいませんでしたので、
今回のプロジェクトに参加できたことはすごく光栄でした。
それで、まず最初にBGMを提示してほしいと言われまして、
とりあえず3曲つくって、坂本(※5)さんたちに聴いていただいたんです。
そのうちの1曲はこれまでのシリーズのような世界観でつくったんですけど、
その曲にはOKが出なかったんです。
ですから、「ええっ?今回はどういう世界になるんだろう・・・」と
本当に手探りな感じではじまりました。
でもとても楽しかったです。ちょっと涙もしましたけど(笑)。

岩田

はい、またあとでお訊きします(笑)。

※3

『スーパーメトロイド』=1994年3月に発売された、スーパーファミコン用アクションゲーム。シリーズ3作目。
【お詫び】シリーズを「2作目」としておりましたが、正しくは「3作目」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。 (2010年8月23日)

※4

『METROID』=『メトロイド』。ファミコンのディスクシステム用ソフトとして、1986年8月に発売されたアクションゲーム。シリーズ1作目。

※5

坂本=今作のプロデューサー・坂本賀勇。『メトロイド』シリーズのほか、『ファミコン探偵倶楽部』『カードヒーロー』『トモダチコレクション』などのゲーム開発に関わる。任天堂企画開発部 第1プロダクショングループマネージャー。前回のインタビュー、→社長が訊く『METROID Other M』コラボレーション篇に登場。

坂本

大塚

チーフプランナーを担当しましたTeam NINJAの大塚です。
Team NINJAではいままで『DEAD OR ALIVE』(※6)など
近接距離で戦うゲームをつくってきましたけど、
今回は初めてビームという飛び道具を使う主人公ということで
そこからしてTeam NINJAでつくってきたゲームとはだいぶ違いました。
今回のプロジェクトに参加することになって、
『スーパーメトロイド』や→『メトロイド ゼロミッション』(※7)
探索する楽しさや、坂本さんがとくにこだわっておられたストーリーを
お客さんに届けられるようなゲームデザインを担当させていただきました。

※6

『DEAD OR ALIVE』=Team NINJAが開発し、テクモから発売された3D格闘ゲーム。第1作目の発売は1996年10月。

※7

『メトロイド ゼロミッション』=2004年5月に発売された、ゲームボーイアドバンス用アクションゲーム。シリーズ5作目。

荒蒔

チーフプログラマーを担当しましたTeam NINJAの荒蒔です。
いままで、アクションゲームをつくってはきましたが、
社内で自由につくってきたものばかりでしたので・・・。

岩田

ほかの会社の人が考えたものを、
あずかってつくるのは初めてということなんですね。

荒蒔

そうなんです。
それが僕らにとって大きなチャレンジでした。
そこで、今回のサムスの動きをどう実現するか、
ということをいろいろ考えたんですけど、頭で考えるよりも
まずはつくってしまって、それを任天堂さんに見ていただく、
という感じで、進めてきました。
結果的に、お互いにいいものを出し合うような
とてもいいコラボレーションができたと思っています。

岩田

それぞれ単独ではできないことができた感じですね。

荒蒔

はい、できた感じがします。
つくっている過程が、自分でもうれしい瞬間の連続でした。

齊藤

Team NINJAでムービーチームと
デザインチームを率いています齊藤と申します。
今回は任天堂の森澤さんといっしょに
アートディレクターを担当しました。
このプロジェクトに参加するにあたって、
まず最初に坂本さんのシナリオを読ませていただいたのですが、
「キャラクターの心理描写がすごく多いな」というのが第一印象でした。
キャラクターの設定についても、主人公のサムスだけでなく
周りを固めるキャラクターも個性的な人が多かったので、
まず、その人たちを魅力的に描くためのベースモデルを
どうやってつくるか、というところから、
ステージも含めて、いろいろ工夫しながら取り組みました。

永澤

太陽企画の永澤と申します。
ふだんはテレビCMなどの広告に関する映像制作をやっています。
僕自身は6年ほど前からTeam NINJAさんとごいっしょさせていただいていて、
ゲームに関わるCGムービーなどを制作してきました。
今回はそのつながりもあって、このプロジェクトに参加することになりました。

僕の役割としては、映像監督である
北裏さん(※8)の演出を具現化するためのプロデュースと、
そのプロデュースをするにあたって、
坂本さんの書かれたシナリオをどう実現していくか、
どう見せていくか、ということを考えたりだとか、
あとは北裏さんの補佐として
坂本さんとの間を行き来しながら、
坂本さんが狙っているサムスの心理描写を
より細やかな表現ができるように考えてきました。

※8

北裏さん=今作の映像監督(エグゼクティブ・ディレクター)の北裏龍次氏。CG映像コンテンツ制作ユニット・株式会社D-Rockets代表。前回のインタビュー、→社長が訊く『METROID Other M』コラボレーション篇に登場。

北裏

岩田

ありがとうございました。
さて、→前回の「社長が訊く」でも話題になりましたが、
世の中の大多数の人たちにとって
「どうしてこの人たちがいっしょに仕事をしているんだろう?」
というのが率直な印象だと思うんです。
そこでまず、Team NINJAのみなさんにお訊きしますけど、
「任天堂といっしょにゲームをつくることになった」
という話を聞いたとき、どんな感想を持たれましたか?
齊藤さん、どうでしたか?

齊藤

初めてその話を聞いたときは
何と言ったらいいんでしょうか・・・。
まるで他人事のような感じがしました。

岩田

まるで現実感がなかったんですね。

齊藤

はい。まったく現実感がありませんでした。

岩田

人生の予定になかったですか?(笑)

齊藤

はい。予定になかったですし、
その話を聞いたあとも、
「自分が関わることはきっとないだろう」と思っていたんです。
ところが、だんだんとその話が自分の近くに迫ってきまして・・・。

岩田

「自分も無関係ではいられない」ということが
うすうすわかってきたんですね。

齊藤

はい。ただ最後にはお酒を飲んでいるときだったんですけど、
Team NINJAのチームリーダーである
早矢仕(※9)に「やりたい」と自分から・・・。
けっきょく自ら飛び込んでいくかたちになりました。

岩田

じゃあ、志願していただいたんですね。

齊藤

最終的にはそうです。
「早矢仕といっしょにやりたい」ということを言いました。

※9

早矢仕=今作のディレクター・早矢仕洋介氏。コーエーテクモゲームスのTeam NINJAリーダー。前回のインタビュー、→社長が訊く『METROID Other M』コラボレーション篇に登場。

早矢仕

岩田

チーフプログラマーの荒蒔さんはどう思われましたか?

荒蒔

「まさか」というのが第一印象でした。
僕自身、世の中の人たちの印象と同じように、
いままで僕らが得意にしてきた分野というのは
任天堂さんとは対極にあるように思っていました。
でも、そんな真逆の会社がいっしょになって、
ひとつのゲームをつくるのも面白いだろうなとも思いました。

岩田

「まさか」とは思いつつも
それに対して抵抗があるというよりは、
好奇心と興味があったんですね。

荒蒔

そうです。楽しみな気持ちのほうが強かったですね。

岩田

チーフプランナーの大塚さんはいかがでした?

大塚

そもそも『METROID』は、
自分の感覚ではシューティングなんですよね。
ですから、「どうしてTeam NINJAにシューティングゲームの話を
持ってきたんだろう?」というのが最初に感じた疑問でした。

岩田

近接格闘ではないのに、と。

大塚

そうなんです。だから早矢仕に対して
「本当にうちでやるんですか?」と確かめたくらいなんです。
でもシューティングの良さと、
Team NINJAの近接格闘の良さの2つを融合させたら
どんなゲームができるのか、
その時点では具体的な想像はできなかったんですけど、
逆に、「いままでにない、新しいものができるんじゃないか」と感じて、
すごくワクワクしたというのがありました。

岩田

サウンドのチーフを担当した小池さんは?

小池

先ほども申しあげたように、
僕はシリーズが大好きなので、『METROID』という単語が
Team NINJA内で出てきたときに、「夢だろう」と思いました。

岩田

「何かの間違いに決まっている」と思われましたか?(笑)

小池

はい(笑)。
やっぱり、いくら『METROID』のことが好きであっても、
まさかテクモに入って、このソフトの開発に関わることなんて
絶対にありえないことだと思っていましたので、
このプロジェクトが正式に決まったとき、
僕自身は夢のような気持ちになりました。