6. 3カ月かかったカービィのデザイン

岩田

少しキャラクター監修の話に戻りますけど、
山本さん、ビジュアルの監修や設定などに関することは
スムーズに進んだんですか?

山本

おおむねスムーズに進んだのですが、
やはり「カービィの目と口のバランスがちょっと・・・」
みたいなことが、最初の頃はありました。

岩田

造形がシンプルであればあるほど、
そのプロポーションがわずかに違うだけで
まったく違う印象になりますからね。

山本

はい。なのでカービィのデザインだけで
3カ月ほど、いろいろやっていただきまして。

岩田

3カ月もですか?
前半ではその話に触れませんでしたけど、
実は3カ月も苦労していただいたんですね。

山本

最初にカービィの絵をいただいてから
「ちょっと違います」「これでは?」「まだちょっと違います」
みたいなことをずっと繰り返していたんです。

岩田

この話はグッド・フィールさんに訊かないといけませんね。
瀬井さん、その3カ月は地獄だったんじゃないですか?

瀬井

えー、いや、あの、楽しかったです・・・はい(笑)。

岩田

(笑)

瀬井

デザイナーが頑張ってくれていたのですが、
僕には違いがわからなかったんです。
「目が違う」と言われても、「え?」と。
でも時間が経って、前のを振り返ってみると、
「あ、ぜんぜん違う」と思って。
デザインチーフからは、
「やっとその領域に達しましたか」と言われたりしました。

一同

(笑)

山本

そうやって、カービィのデザインがまとまったら、
そのあとに動きが入ることになるんですが、
当然動きにも“カービィらしさ”が求められますので
ドキドキしながら確認したんですけど、
そこではまったく違和感がなかったんです。
しかもカービィだけでなく、他のキャラクターに関しても
細かい特徴や動きまできっちり押さえていただいて、
“毛糸の世界”で、うまく再現されていたんです。
ですから、すごくうれしくて、
「カービィを好きになっていただけたのかなあ」と思ったんです。

岩田

最初の3カ月間にカービィのプロポーションについて
やりとりする過程のなかで、その違いが埋まったときには
他のことも埋まっていたということなんでしょうか。

山本

はい、埋まっていたんだと思います。
なので、それから後はお任せして進めることができました。

岩田

瀬井さん、どうしてそれができたんでしょうか?
やっぱりデザイナーの方の研究のたまものなんでしょうか?

瀬井

そうですね・・・。
やっぱり最終的にスタッフみんながカービィのことを好きになっていって
キャラクターを「かわいいな」と感じるようになったからだと思います。
そもそも最初の頃のハル研さんとの打ち合わせでは
「カービィさん」と呼んでいたんです。

岩田

ああ、カービィを「さん」付けで呼ぶほど
カービィはお客さん扱いされていたんですね(笑)。

瀬井

やっぱりお借りするものですから。
なので「カービィさん」と呼んでいるときはダメだったと思いますね。
ところが、途中からカービィと呼べるようになりまして、
その頃には、みんなで「カービィはこうじゃない」とか
「こっちのほうがかわいい」とか、
社内でもいろいろ言えるようになっていたんです。

岩田

グッド・フィールさんのなかで、
「さん」がとれるほどカービィが身内的な存在になり、
「カービィはこうじゃない」とか言っていただけるようになると、
たぶん山本さんの仕事はどんどん減っていったんでしょうね。

山本

はい。おかげで途中からは楽をさせていただきました(笑)。

岩田

じゃあ、最後にみなさんからお客さんへのメッセージを
ひとことずついただこうと思います。
まず、池上さんからいいですか?

池上

はい。とにかく楽しんでいただきたいと思います。
今回はこのようなご縁があって、
『カービィ』の新作をお届けすることができて
本当によかったと思っていますので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
それで実は今回の『毛糸のカービィ』とは別に、
ハル研でも『カービィ』をつくっていまして、
引き続き頑張りたいと思っていますので、
そちらのほうもぜひご期待ください。

岩田

「今回のタイトルに負けないようなものをつくってます」
ということですね。

池上

あ、はい(笑)。

岩田

では、安藤さん。

安藤

絶対にいいものなので、途中で投げないように
すべてのステージを見てほしいですね。

岩田

それは大丈夫でしょう。
渡辺さんが毎週チェックしたわけですから。

安藤

でも、かんたんには出ない面もありますので、
すべてを見てほしいですし、
なかでも後半部分はぜひ楽しんでほしいと思います。

岩田

自分が演奏した曲も聴いてほしいですからね(笑)。

安藤

はい(笑)。

石川

今回の『毛糸のカービィ』は、
絵も音もとてもふわふわしているので、
そういうふわふわ感、手触り感、手で触っている感じを
テレビゲームで出せているというのは、
とてもよかったなあと思っていますので、ぜひ遊んでください。

岩田

今日はあまり触れられなかったんですけど、
このソフトは、ものの動きとか、物理シミュレーションの部分なども
とてもうまくつくられていて、
初めて見るような手触り感もたくさんありますから、
そこを音楽も含めて味わってほしいということですね。

石川

はい。あと、安藤さんは後半をぜひ遊んでほしいという話でしたけど、
ぜひともラスボス戦も楽しんでいただきたいです。

岩田

ラスボス戦の音楽は、石川さんがつくったんですか?

石川

はい。それまで『毛糸のカービィ』を遊んでいた人に
どうやったら驚いてもらえるだろうかと考えて、
曲をつくりました。

池上

曲調ががらっと変わるんです。

岩田

それは意図的にされたんですね。

石川

はい。なので、最後まで遊んでいただきたいです。

山本

今回の『毛糸のカービィ』には
いいところはすごくたくさんあるんですけども、
わたしが強調したいのは、→2人で遊べるところです。
2人が同時にひとつの画面のなかで遊べますので、
ぜひとも世の中のお父さんと娘さん、
お母さんと息子さんというように
ご家族で楽しんでいただきたいなと思います。
 
それからもうひとつ。
実はWiiチャンネルのなかの『Wiiの間』(※10)
動画配信サービスをやっているのですが、
9月上旬にアニメ『星のカービィ』の
100話までの全配信を終えましたので、
そちらのほうもぜひお楽しみいただきたいと思います。

岩田

テレビで放映されたときは、土曜の朝の放映でしたので
朝寝坊して見逃した方はぜひ、ということですね。

山本

はい。

※10

『Wiiの間』=2009年にサービスが開始されたWiiチャンネルのひとつ。お役立ち映像やアニメ、映画などの多彩な動画をインターネットを通じて楽しむことができる(一部有料)。

岩田

ありがとうございました。
今回わたしがいちばんお伝えしたいことは、
もともと『カービィ』じゃないかたちではじまったものが、
『カービィ』になることで、とてもいい結果になったということです。
それは単に、たくさんの人から目を向けてもらえるという意味での
「よかった」ではなくって、『カービィ』というものと、
今回の企画原案の相性がすごくよかったと感じているんです。
相性がよかったからこそ、面白さや楽しさが
途中からググッと加速したのでしょうし、
今日お越しいただいたハル研究所の人たちが
『カービィ』の新作に無理やりつきあわされたというより、
「すごく光栄だ」と言ってくださったり、
3カ月くらいカービィの目と口の位置のやりとりをしていたあと、
何も言わなくてもどんどんカービィらしいものが入っていくのを見て
感動したというのは、両社のチームは物理的には離れているんですけど、
一体で動けている感じがして、そのエピソードを訊いただけでも
とても相性のいいものになって、
このゲームのなかに込められたように感じています。
 
それから、もうひとつ、毛糸と布の世界のあの独特のビジュアルが
一見、低年齢層向けという印象を持たれやすいのですが、
『カービィ』を20年近く遊んできた人も
これまでのシリーズとは違う意味で面白さを感じていただけるでしょうし、
渡辺さんから松宮さんまで、幅広い人に楽しめる出来栄えになったことも
今作の大きなポイントだと思いますので、
たくさんの方々に触ってもらいたいと思います。
みなさん、お疲れ様でした。

一同

ありがとうございました。