4. ちょっとした遊び心も

岩田

レトロスタジオの人たちの
Wiiに対する評価が180度変わり、
スタッフのやる気が出てきたとは言っても、
開発の道のりは決して平坦ではなかったんでしょうね。

田端

はい。Wiiリモコンやヌンチャクになって
操作性が新しくなるのは当たり前ですし、
これまでのシリーズを遊んでくださった人たちに、
「『メトロイドプライム3』は新しくなったね」と
もっと言ってもらえるようなものをつくろう
という気持ちがありました。
そんなとき、レトロスタジオから提案されたことは、
サムスの愛機であるスターシップを活用したいということでした。
でも、それだと、アイテムがひとつ増えるだけのことですから、
ゲームを通じた新しい体験にはなりません。
そこで、レトロスタジオの人たちと膝をつき合わせながら、
新しいアイデアについて、とことん話し合っていく中で、
「ハイパーモード」というシステムが生まれてきて・・・
ええと、うまく言えません・・・。
田邊さん、お願いします!

一同

(笑)

田邊

あ、はい(笑)。
大きな筋の話をしますと、
サムスがフェイゾンという物質に浸食されていく一方で、
全体の世界では、惑星も汚染されていきます。
『CORRUPTION(汚染)』というサブタイトルをつけたのは、
そのような設定にしたからです。
ただ、サムスが浸食されていくことを
単に時間軸にそって、演出として表現するのではなく、
ゲームシステムとして、新しいことができないかということになり、
最終的にとりいれたのが、ハイパーモードです。
ハイパーモードでは、フェイゾンで侵されたことを逆手にとり、
サムスの攻撃力と防御力を飛躍的にパワーアップさせることができます。
ある意味、難易度バランスが崩れてしまうくらいに強くなるのですが、
だからこそ、うまく使いこなせば有利になるシステムなんです。
→ハイパーモード

岩田

そのハイパーモードに関しては、
レトロスタジオとはずいぶん意見の相違があったようですね。

田邊

そうなんです。我々の中には、
ハイパーモードを単なるブースター機能(※10)にしたくない
という気持ちがありました。
パワーアップするシステムは、いろんなゲームにありますし、
そうではなく、いつでもどこでも自分の意志でパワーアップできるけれど、
使い方を誤ってしまうとゲームオーバーになってしまうリスクもあるという
諸刃の剣のようなシステムにしたいと思いました。
一方で、レトロの人たちが考えていたのは、
わかりやすくてシンプルな方向性でした。
「『2』は難しかったのでは?」という意見もあって、
『3』をより簡単なシステムにしたいという考えがあったようです。
その意味で、ハイパーモードを入れると
ゲームが複雑になってしまうということで、
彼らとは意見がなかなか合いませんでした。

※10

ブースター機能=パワーを増幅させる機能のこと。

田端

だから、かなり早い段階から、
ハイパーモードの実験をはじめてはいたのですが、
ゲームの中で使える形になったのは、開発のかなり後半でした。

田邊

最終的にモニターの人たちが、
ハイパーモードをうまく使いこなしている姿を見て、
彼らも納得してくれたんです。
もうひとつ、開発の終盤になってから入れた仕様なんですが、
ハイパーモードからいつでも抜けることができるようにしました。
そうすることで、彼らも全面的に賛成してくれました。

田端

でも、彼らが賛成してくれるまで
本当に時間がかかりましたよね。

田邊

このプロジェクトでは、そこのところが
いちばん苦労した部分だったかもしれないです。
いや、もうひとつ大きな苦労がありました。
それは岩田さんからいただいた言葉で・・・(苦笑)。

岩田

いよいよその話題に来ましたね(笑)。

田邊

2006年の後半に、その時点で出来上がっていた
『メトロイドプライム3』を岩田さんに見てもらったら、
「このままじゃダメです。発売は延期してもいいですから、
『トワイライトプリンセス』(※11)と肩を並べられるくらいの
クオリティにしてください」と言われて、
「エーッ!」と真っ青になったことがありました(笑)。
もともと、アメリカでは
Wiiと同時に発売するつもりでつくってきましたので
「どうしよう・・・!?」って。

※11

『トワイライトプリンセス』=日米ともにWiiと同時に発売された『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のこと。日本では2006年12月発売。

岩田

同時発売ができなくても、
Wiiの発売直後には出すというのが当初の目標でしたし、
そのために早い時期から開発をスタートさせて、
レトロスタジオも、それに合わせて頑張っていましたしね。
だから、「発売延期してもいいから」と言われても、
開発日程に余裕をもらって改良できることがうれしいというよりは、
早く開発を終わらせたいという気持ちのほうが強かったんでしょう。

田邊

だと思います。それに、たぶん
『トワイライトプリンセス』と同じレベルのクオリティにすることが、
具体的にはピンとこなかったと思うんです。
我々もそうでしたし、別のジャンルのゲームですから。
でも、岩田さんから
「こんなところまで徹底的にこだわってつくっているということが、
どこかひとつでも感じてもらえるようにしてほしい」
と言われましたので、そのひと言が大きな励みになりました。
そこで、いろいろ知恵を絞って考えたのが、
我々の間で「ユニークAI」と呼んでいたシステムです。

岩田

「ユニークAI」というのは新しい言葉ですね。

田邊

賢いAI(人工知能)というのは、
敵のキャラクターが、こちらの攻撃を予測して避けたり、
どんな場所にいても、ちゃんと階段を昇ったりしますけど、
そのように単に賢いAIを組まれたFPSのゲームは
世の中にはたくさんありますよね。
そうではなく、シチュエーションとしてすごく変わっていて、
ユニークなAI、おもしろいAIをつくってみたいと思い、
それを各ステージの中に最低ひとつずつ入れるようなことをしました。

岩田

具体的にはどのようなAIを入れたのですか?

田邊

たとえば、追いかけっこのようなことですね。
子どものころ、宝物を友達にとられて
追いついたと思ったら、ほかの友達にパス、
みたいな遊びをしていましたよね。
そんな要素を、ゲームの序盤で入れようと。

岩田

レトロスタジオの人たちは、
大まじめに『メトロイドプライム3』をつくろうとしているのに、
東洋からやってきた日本人は、そんなことを言うから(笑)。

田邊

だから、ちょっと抵抗されましたけど、
→3匹のパイレーツで追いかけっこができるようになりました。
でも、一見ムダとも思える、ナンセンスなネタに関しては、
けっこう頑張ったつもりです。
『ちびロボ!』(※12)のように、
タライをサムスの頭の上に落とすようなアイデアは、
さすがに採用されませんでしたけど(笑)。

※12

『ちびロボ!』=2005年6月にゲームキューブで発売された、アクションアドベンチャーソフト。

田端

田邊さんって、こういうネタを言ってるときは、
本当にうれしそうな表情をするんです。
レトロスタジオのスタッフには
本気になって反対されましたけど(笑)。
カッコイイSFの『メトロイド』の世界には合わないから、
「そんなことやめてくれ」って。

岩田

でも、わたしも田邊さんと同じで、
遊び心があるのは大好きです。
すごくマジメな世界の中に、
ちょっと入っていると、
それがたまらないツボになるんです。

田邊

たとえば、戦闘をしていて、ある状況になると、
敵のパイレーツが上のほうに吸い上げられてしまう。
でも、パイレーツも往生際が悪くて、
どこかにしがみついて、必死に吸い上げられまいとするんです。
そこで、サムスがつかまっている手を撃つと、
パイレーツは→ひゅうと吸い上げられて
天井にゴツンと当たり、
それで狙うべきターゲットが下がってくるみたいな・・・。
そんな提案をしてみたら、
レトロスタジオの人は最初は、苦笑いでしたね。(笑)。
でも、実際につくってみて、
モニターにプレイしてもらったら
評判がとてもよかったらしいです。
それで、彼らも納得してくれたんじゃないでしょうか。

田端

そこまでやっても、世界観が崩れない
という気持ちも生まれたんでしょうし。

田邊

ラストでは、銀河連邦の兵士を連れて、
ゴールまで規定人数を守りきらないといけない
という場所があるんですけど、
最初は、兵士がやられるのは
戦闘を盛り上げる演出としての「デモ」だけだったんです。
でも、それをゲームのシステムとしてつくりあげようと提案したら、
すごく大変なはずなのに、最後は率先してやってくれました。
しかも、出来上がってきたものも、
ほとんど修正の必要のないクオリティの高いものでした。
岩田さんから「発売延期」と言われたときは、
うれしいやら悲しいやらだったんですけど(苦笑)。

岩田

開発が終わるまで、テキサス出張を繰り返さないといけないですしね(笑)。
でも今作は、三部作の一区切りという思いもありましたし、
3作目がいい印象で終わることが、
とても大事なことだと考えていましたので、
発売を延期してでも、みんなが納得できるような
商品に仕上げてほしいと思っていたんです。
でも結果として、すごく大変な思いをさせてしまいましたね。

田邊

いえいえ、最終的にはありがたい判断だったと思っています。