1. 3Dゲームを平面のように遊ぶ面白さ

岩田

宮本さん、これまでのマリオシリーズの歴史を振り返ると
3Dマリオはひとつのプラットホームで1本しか出さない、
という流れで来ていましたよね。

宮本

ええ、そうですね。

岩田

ところが今回の『スーパーマリオギャラクシー 2』は
Wiiで2作目(※1)ということになりますよね。
これは、→『時のオカリナ』(※2)のあとに、
→『ムジュラの仮面』(※3)をつくったときと同じような気持ちで
つくったということなんですか?

宮本

僕が言おうと思ったことを
先に説明されちゃいましたね(笑)。

岩田

(笑)

※1

2作目=1作目のWii用アクションゲーム、→『スーパーマリオギャラクシー』は2007年11月発売。

※2

『時のオカリナ』=『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。『ゼルダ』シリーズで、初めて3D化された。NINTENDO64用ソフトとして、1998年11月発売。

※3

『ムジュラの仮面』=『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』。NINTENDO64用ソフト。『時のオカリナ』が登場して1年5ヵ月後の、2000年4月に発売。

宮本

そうですね・・・大きなくくりとしてはそうです。
『ムジュラの仮面』では『時のオカリナ』の3Dの仕組みを
そのまま活かしてつくれると思ったんですね。
そもそも新作のゲームをつくるとき、
プレイヤーの動きをつくるだけで丸1年はかかっちゃいますから。

岩田

ええ。

宮本

ものすごいエネルギーと時間をたっぷりかけて
プレイヤーを快適に操作する仕組みをつくったのに、
そのあとにコースをつくって、それでおしまいではもったいないと。
そこで、『ムジュラの仮面』のときは、
すごくコンパクトな世界のなかに
密度の濃いものを詰め込むようなことにトライしてみたんです。

岩田

だから、しばりをつくりましたよね。

宮本

そうです。「1年でつくろう」と。
そういうしばりをつくっておけば、
新しいフィールドをどんどんつくるような
余計なことはしないだろうと思ったんです(笑)。
そしてそれが「3日間システム」(※4)につながっていきました。

岩田

はい(笑)。

※4

「3日間システム」=ゲーム中で設定された3日間が過ぎると世界が滅んでゲームオーバーになるため、プレイヤーはゲームを先にすすめては初日に戻るということを繰り返すシステム。

宮本

そうやって『ムジュラの仮面』をつくり、
今回の『マリオギャラクシー 2』をつくるにあたっては、
前作で使った球状地形を見直してみると、
いろんなことに気づかされたんです。

岩田

それは、球状地形の良さを
全部使い切れなかったということですか?

宮本

ええ。そもそも→『マリオ64』(※5)からはじまった
3Dマリオというのは、
まず箱庭があって、プレイヤーはそのなかを自由に歩き回って、
少しずつ地形を理解していく構造のゲームなんですね。
いろんな場所にスターが置いてあって、
「このスターは簡単に取れそうだ」とか、
「こっちのスターは難しそうだ」というのを
プレイヤーはそれを見ただけで、わかるようにしていたんです。

※5

『マリオ64』=『スーパーマリオ64』。NINTENDO64と同時に発売された、マリオシリーズ初の3Dアクションゲーム。1996年6月発売。

岩田

取るのがちょっと難しそうなスターは、
もうちょっとうまくなってから
取りに来ようとか考えるんですよね。

宮本

そうです。そうやって、同じコースを何度か行き来することで
地形を覚えていくゲームだったんです。
前作の『マリオギャラクシー』も
それと同じ仕組みでつくっているんですけど、
改めて見直してみると、同じ地形でも
新しいネタを入れたら、さらに面白くなりそうなところが
いっぱい残っていたんです。

岩田

ということは、『2』の開発は、
前作の地形をそのまま使うところからはじまったんですね。

宮本

そうなんです。
そこで、「1年でつくろう」ということで、
『マリオギャラクシー 1.5』という仮称で
開発をスタートさせました。

岩田

『2』ではなく、あえて『1.5』と呼んだんですね。
頑張りすぎないように。

宮本

はい。そうやって『1.5』のつもりでつくりはじめたんですけど、
現場のスタッフたちが、
「もっとこんな地形があったら面白いだろう」とか
「もっと新しい遊びを入れよう」とか言いながら
「もっともっと」と言っているうちに
どんどん新しい地形が増えてきてしまって、
気がついたときには90パーセント以上のコースが
新しいものになっていて、
前作のどこの地形を流用したのか
わからないくらいになってしまったんです。

岩田

結果として『1.5』ではなく『2』になってしまったと。

宮本

そうなんです。

岩田

でも、『2』を開発した動機はそれだけじゃないんですよね?

宮本

・・・はい(笑)。

岩田

世の中には「2Dマリオと違って、3Dマリオだと迷う」とか
「3Dマリオは2Dマリオより難しいので自分の手には負えない」
というような声があるようなんですけど、
宮本さんはそういった声に対して、
「いつかオレが何とかしてやる」と考えているんじゃないかと
わたしは以前から感じていたんです。

宮本

そうですね。でも、3Dマリオが抱えている問題に関しては
前作の『マリオギャラクシー』でかなり解けたと思っているんです。
→球状地形なので、走っていると必ず元の場所に戻りますから。

岩田

だから迷いようがないんですね。

宮本

はい。で、今回の『マリオギャラクシー 2』をつくっていて、
気がついたことがあるんです。
よく3Dマリオって言いますけど、
実は3Dでつくられた世界で遊んでいるだけで、
遊び自体は平面が面白いんです。

岩田

平面が面白いというのはどういうことですか?

宮本

つまりフィールド自体は3Dでできていても、
そこにモノがあって、マリオがいて、
上から見ると実は平面の遊びなんですよ。

岩田

なるほど。
つまり、→カメラが真上や真横にあれば
2Dのゲームのように遊びやすくできるんですね。

宮本

そうなんです。
しかも、2Dのマリオゲームでは横からのシーンだけですが
3Dでは奥行きがある平面の遊びが新鮮です。

岩田

そういった平面的な遊びにしようという意識は、
前作より強くなったんですか?

宮本

ええ。前作のときよりも、ハッキリ。
前作のネタを見直してみても、追っかけ合いとか、
やっぱり平面で遊んだほうが面白いものが多いという結論になったんです。
さらに今回は→ヨッシーを操作できるんですけど、
ぺろんと舌を出すときはポインターを使うようになっています。
前作ではポインターでスターピースを集めたりしましたけど、
それと同じような操作感で、ヨッシーの舌で
いろんなアイテムをポインターでピッと選んで、
Bボタンを押すと、ばくばく食べることができるんですね。

岩田

今回は唐辛子も食べられるみたいですね。

宮本

はい。でも辛いから
→猛ダッシュしちゃうんですけど(笑)。
で、ヨッシーの舌を使って、
→空中に浮かんでいる花を連続でつかむことができて、
ひょいひょいっと飛んで、高いところまで行くことができるんです。
そういったアクションは、頭のなかでは2Dで理解して、
しかしちゃんと3Dで遊べているという感覚なんですね。

岩田

なるほど。

宮本

あと、→「あべこべ引力」というのがあって
これは前作にもあったんですけど、今回はさらに強化しました。

岩田

矢印の方向に重力があって、
天井だと思っていたところが床になったりと
とても不思議なコースですよね。

宮本

はい。新しいおもちゃで遊んでいる感じのコースなんですけど、
あそこも実は2Dの横スクロールの遊びと同じだったりするんです。

岩田

もちろん3Dの世界なんですけれども、
3D世界特有のわかりにくかったり、迷ったりということを
しっかりととり除いて、
面白さの本質としては平面の構造で遊んでもらうということを
意識した仕上げにしてあるんですね。

宮本

そうです。だから遊びやすいと思います。
それから球状地形にしても、
今回は→ドリルという遊びを入れまして。

岩田

ビデオで見ました。
マリオがドリルを抱えて、地中に潜り、
反対側から出てくる遊びですね。

宮本

せっかく球面なので、
裏表を貫通するようなネタが欲しいと思ったんですね。
そんな感じで、前作の土台となるシステムを使って
快適に遊べるようにつくりました。

岩田

実際できあがったものを見せてもらうと
すごく盛りだくさんの印象があります。

宮本

もともと「1年でつくろう」と言ったのに
結果的には2年半もかかってしまいましたから。

岩田

しかも、最初にプレイヤーの動きをつくるのに
1年かける必要もなかったですから、
開発期間が、全て遊びの舞台となる仕掛けをつくって
しっかり調整するのに使えていますからね。

宮本

ですから、たっぷり時間をかけて
いろんな遊びを詰め込むことができたと思っています。