2. みんなおばけを探したい

岩田

試作段階で、みなさんはどんな企画を考えたんですか?
では、アーゼストの大島さんからお願いします。

大島

うちは8本の企画を出しました。
そのうち→「アイスクリームチャレンジ」
→「ゴーストマンション」→「ジャンピングランド」
の3本を試作して、そのまま本制作に入りました。
試作段階では製品版に近いものができたんですけど、
最終的に調整が大量に入ってしまって最後まで大変でした。

野中

とくに「アイスクリームチャレンジ」ですよね。

岩田

最初から、すぐに手ごたえが出たものと、
やっていくうちにじわじわときたものはありましたか?

大島

うちはどちらかといえば、最初は順調で、
最後の一歩になかなか到達できず、
ジワジワと追いつかれたという感じで。

岩田

仕上がりの水準も競争だったんですね。
中さんはいかがですか?

うちはWiiモーションプラスが発表された時点で、
じつは2年前の春、「ホーンテッドタワー」という企画を
任天堂さんに提出していたんです。
これは画面外のモンスターをやっつける遊びで、
リビングルームがアトラクションのようになるんです。

岩田

テレビではない方向にリモコンを向けて
プレイするんですよね。

はい。でもそのときはお蔵入りになってしまったんです。
今回お話があった際、その企画をもっとつくりこんだ
試作版をつくって、あらためて持っていったんですが、
大島さんのところと企画がぶつかってしまって・・・。
題材がまったく同じ“おばけ”だったんです。
それでうちが落ちてしまったんですけど、
試作期間残り2週間でつくったものが
→「360°シューティング」なんです。

岩田

見事に敗者復活されたんですね。

はい。ちょうど野中さんたちが打ち合わせに来られる前、
ほんの5日くらいで「360°シューティング」の
プロトタイプをつくったら、好評だったんです。
しかもそのとき「シューティングをお願いしたい」と
野中さんから提案されたので、見事にシンクロしまして。
だから逆転満塁ホームランみたいな感じで、
喜びもひとしおでした。

岩田

最後のひとねばりで大きく変わることが
ゲームの世界ではたくさん起こるんですが、
今回は競作形式という特殊な環境の中、
瀬戸際でひとねばりしたからこそ起こった典型的なことで、
ドラマティックですごく面白いお話ですね。
バンプールの谷口さんはいかがですか?

谷口

試作にいたるまで、いろいろな企画を出したんですが、
うちの悪いクセでヘンなものばかり出してしまうんです。
たとえばWiiリモコンプラスをコブラの笛に見立てて、
笛を吹くように動かすとコブラが上がっていくとか、
木の棒に見立てて、飼っているてんとう虫が
飛ばないようにするとか・・・(苦笑)。

野中

企画を聞いたときは面白いと思ったんですけどね・・・。
任天堂へ提案する前にバンプールさんのほうで断念されたようです。

谷口

けっきょく、4本を試作しました。
まずはパンチをすると瓦が何千枚も割れる「瓦割り」、
Wiiリモコンプラスを横に持って芝を刈る「芝刈り」、
ビルから人が飛び降りるのをトランポリンで救出するゲーム、
それから傘で風を受けて走る「傘ライダー」を出して、
けっきょく→「傘ライダー」だけ通りました。
でも正直、「傘ライダー」は試作4本のうち、
さわり心地はよかったんですが、完成度は低かったんです。

岩田

そのタイトルが選ばれて、どう感じました?

谷口

通ったことはうれしかったんですが、
「どうするかなあ・・・」っていう気持ちもありました。
傘で風を受けて走るのは、聞くと楽しそうなんですが、
それをどう遊びに変えるかは、けっこう苦労しました。
開発室で、実際に傘をバサバサと広げてみたりして(笑)。

岩田

野中さん、「傘ライダー」はなぜ選ばれたんですか?

野中

世界観はシュールなんですが、
傘と連動して風を受け止めたときの操作感が
気持ちよかったんです。

岩田

確かに、画面上で傘に風を受けたら、
手が引っ張られるような印象を受けますね。

高橋

一見、シュールな絵づらの中で、
きちんと遊びになっているところとか、
スピード重視をやめて、傘に引っ張られる感じと
フワッという感覚の差を出すようにしたところが
よかったですよね。

野中

あと、Aボタンを押すと傘が開いて、
離すと閉じるんですが、ボタンのオンオフによって
風を受ける感覚が発生するのもよかったんです。

岩田

谷口さんは、いつごろ手ごたえが変わったと感じましたか?

谷口

いま、高橋さんが言われたように、
最初は、スピード重視の方向性だったんです。
でもそこに傘独特のフワフワと滑空する遊びを取り入れて、
風向きに合わせて舞い上がったり、滑空したりという
タテの遊びを入れたことで、傘ならではの遊びが生まれたんです。
そのとき「イケる!」と確信しまして、
開発の温度が一気に上がりました。

岩田

スキップの江藤さんは、どのようにはじまりましたか?

江藤

うちも最初はアイデアを50本くらい出したんですが、
5本にしぼって試作をはじめて、
実際にかたちになったのが→「ふわっとバルーン」でした。
うちわの振り方は人それぞれ個性があるので、
いろいろな人のうちわの振り方を調整するのが大変でした。

岩田

うちわを振るとひとことで言っても、
人それぞれの振り方をするんでしょうから、
Wiiリモコンプラスから読み取れるデータも
一律ではない、いろいろなパターンになるんですね。
ということは、いろいろな方にうちわを振ってもらって、
どのように振るのかを解析したんですか?

江藤

はい。チュートリアルで振り方を説明したり、
エフェクトを入れたりして、いまのかたちになりました。

野中

しかもはじめは横スクロールだったんですよね。

江藤

そうです。
最初はうちわを横に振ってもらって、
風船が落ちないようにするゲームだったんです。
それを上へ上へ風船をあおぐゲームに変えたんです。
それから→「ポーズMiiプラス」ですが、
最初の試作は「ちょんまげ」というタイトルでした。
リモコンを頭の上に乗せて、その傾き具合で
トンネルの障害物をくぐり抜けていくゲームです。
でも、操作のとっつきが悪かったんですよね。

岩田

リモコンは、どうやって頭に固定したんですか?

江藤

あ、固定はせず、手で支えたままプレイします(笑)。
僕としては、プレイスタイル自体が面白かったんですが・・・。

岩田

どのように「ちょんまげ」が
「ポーズMiiプラス」に変わっていったんですか?

細川

けっきょく、頭に乗せる行為自体は面白くても、
お客さんの大部分がそうして遊んでくれるとは限らない
という結論だったんです。であれば、
“穴の中を通る”部分をフィーチャーしたほうがいいと思い、
飛行機にしてはどうかと提案したんです。
そのうち高橋さんから「ポーズMii」(※25)
飛行機を組み合わせたらどうか、と話が出たんですよ。

※25

「ポーズMii」=『はじめてのWii』に収録されているミニゲームのひとつ。3種類のシルエットに同じポーズのMiiをあてはめるゲーム。

高橋

そうそう、根本は“障害物を避ける”ゲームなので、
構造はいっしょだったんです。

野中

それから、ほかにも試作品がありましたよね。

江藤

はい。じつは、うちもおばけを探すゲームを・・・(笑)。

岩田

え? みんなそんなにおばけを探したいんですか?

江藤

そうみたいですね(笑)。スキップが考えたのは、
トロッコに乗りながらおばけを探すゲームでした。
おばけはカメラに写るけれど、実際には見えなくて、
画面のモニターを見ながらおばけを撃つ、
というものでした。

大島

じつはですね。アーゼストとして本当にやりたかったのは
“スイカ割り”だったんですよ。
スイカ割りは、まわりの声を頼りに、
あたりをつけてパーンと振り下ろすじゃないですか。
でも全世界のお客さんが遊ぶことを考えると、
スイカよりおばけがメジャーだなと思って、
スイカをおばけに置き換えたんです。
それでまわりの声を頼りにおばけを退治する、
というおばけゲームになりました。

スキップの江藤さんのトロッコに乗っておばけ退治をする話と、
アーゼストの大島さんのスイカの話は非常に共感できるんです。
じつは・・・うちが2年前に出した企画も
トロッコに乗って幽霊を撃つものだったんです(笑)。
みんなにWiiリモコンを持ってもらってですね、
Wiiリモコンから音と振動を出して
スイカ割りの要領で「右、右」「あそこ、あそこ」って
ワイワイ言いながら遊べるものを考えていたんです。
そういう意味で“スイカ割りとおばけ”の発想は
非常に近いものがありますね。

岩田

へえー。

Wiiリモコンプラスは、
テレビ画面外でも反応するところが特長ですよね。
“見えないもの”が画面外のリビングにいる、
という発想から、おばけの企画につながるんです。
だから、みんな同じように考えるんだと思います。