2. キリがいいから「50」

岩田

それにしても『GO VACATION』の舞台は
一方では真夏だけど、一方では真冬で、
50個ものいろいろな遊びが楽しめる
不思議なリゾートですよね。

坂上

実はぶっちゃけますと、
「50個つくれ」とは
誰も最初から言っていなかったんです。

岩田

それは、小林さんが宣言したんですか?

小林

はい。チームで相談して、「50」で行こう、
と決めました。

坂上

僕はずっと「30個ぐらいにしといたら?」って
言っていたんですが、となりの小林くんが
「いや、でも50個のほうがキリがいいですから!」と(笑)。

岩田

キリがいい?

小林

はい(笑)。
当時、発売されていた近いジャンルのタイトルでは、
だいたい10〜15個が一般的な収録数でしたが、
僕らとしては「ファミリーゲームの決定版をつくる!」
という意気込みでしたから、
僕らが頑張ればなんとか実現可能で、
かつ魅力的なボリュームを考えると、
どうしても「50」という数字がほしかったんです。
その数字ならお客様も驚いてくれるかなと。
驚いてくれるということは印象に深く残るということですから。
そういった思いも込めて、
“キリがいいところ”で「50個」と決めました。
でも、その数字があまりにキリがよすぎて、
最初に宣言した手前、終盤はなかば
意地で50個つめこみました。

岩田

小林さんの意地で、50個入ったんですか(笑)。

小林

チーム全員の意地です(笑)。
『GO VACATION』が発売される時期を考えると、
それぐらいのポテンシャルを持っているタイトルじゃないと、
すでにお店に並んでいるライバルに勝つのは難しいですから。
なんとか「50個で頑張ろう!!」とチームメンバーに説きました。

坂上

でも、「頑張ろう」って、精神論ですから・・・(笑)。
しかも1つのフィールドが5キロ四方もあって、
非常に広いんです。それも
「3キロ四方ぐらいにしといたら?」
って言ったんですけど、小林くんは
「実際にリゾートに出かけたら、やっぱり広いですからー!」
と、意見を変えないんです・・・。

一同

(笑)

岩田

そうやって、仕事と制作期間は
着実に増えていったわけですね。

坂上

はい。よく言えば、妥協をしなかったんです。
まあその結果、最初の予定より
時間がかかってしまいましたけど、ね?

小林

はい・・・。
ふたを開けてみれば、こんなに大変だとは・・・
思いもよらず・・・。

岩田

でも、動画を観るだけで
エネルギーがものすごくかかっていることを
感じられますよね。
このソフトは、一過性のゲームの売れ方ではなく、
Wiiのライフサイクルのあいだでずっと売れつづけるような
定番ソフトになるのではないか、と感じました。

坂上

はい。われわれも季節ごとに
この商品がピックアップされるといいなと思います。

岩田

それから、リゾート内でいろいろな乗り物が登場しますが、
やはり乗り物がとても好きな方が関わっているんですか?

小林

そうです。
基本的に『リッジレーサー』を
つくったスタッフがメインなので、
乗り物の挙動をつくることには長けています。
マリンバイクとかバギーとか、乗ってみたいけど
乗ったことがない乗り物ってたくさんありますよね。
だからリゾートで見られる乗り物は
たくさん入れよう、と最初から決めていました。

岩田

そうはいっても、乗り物全部が
4つ車輪のある車というわけではないですから、
『リッジレーサー』のノウハウを
そのまま全部、使えるわけではないですよね。

坂上

そう。まるっきり、使えなかったものも
たくさんありましたよね(笑)。

小林

はい。ただ挙動の設計は物理的な知識と
あとはセンスによるところも大きいですから。
もちろんかなりの数のプログラマーに参加してもらいましたが・・・。

坂上

1個ずつブラッシュアップしていきましたね。

小林

はい・・・。

岩田

「こんなに大変だと思わなかった」
という話題になると、
小林さんが少しずつ、少しずつ、小さくなっていきますね(笑)。

坂上

あははは(笑)。
正直、最初に内容を聞いた瞬間は
「こりゃ4年コースだな」と思ったんです。
でも本人は「1年半でつくります!」と言い切るんです。
結果的に2年半かかったんですけれど、
まあ当初の予想よりも1年半は短くできているな、
と自分の中で納得させています(笑)。

岩田

つくっているものの大きさからすれば、
4年かかるところを、2年半でできたということですね。

小林

そ、そうですね・・・。

坂上

きっぱり言い切りましたからね、
「できます!!」と(笑)。

小林

(汗をふきながら)は、はい・・・・・・。

岩田

これだけ濃いレジャーやスポーツがそろっているんですが、
この『GO VACATION』にとっての
看板ゲームはどんなものがありますか?

小林

今回は、家族のそれぞれに
お気に入りのゲームを見つけてほしい、
という思いでつくっていますので、
男の子ならレースゲームや水鉄砲など
対戦系の遊びがオススメですし、
お母さんや女の子にオススメの、
別荘の模様替えや洋服の着せ替え、
スキューバダイビングで海中散歩したりというような、
のんびり系の遊びも用意しています。
家族で遊ぶなら、ビーチバレーや
ミニゴルフなどの球技もありますし、
とにかくいろいろなゲームを用意しています。

岩田

『リッジレーサー』チームがつくっているゲームで、
別荘の模様替えができたり、洋服の着せ替えができたり、
という話が出てくるとは思いませんでした(笑)。

坂上

いや、けっこう、楽しみながらつくりました(笑)。
そういう意味で『GO VACATION』は、
自分たちが身近に体験したいことや思い出があるものが
いろいろ入っているなぁと感じます。
たとえばスキューバとかバンジージャンプとか、
やってみたいけれど実際にやれないことが多いので。

岩田

自分の体験と地続きにあるものと、
その先にあるあこがれが、どっさり入っているものだから、
つくっている人もワクワクしているんでしょうね。

小林

リゾート生活のあこがれと言えば愛犬の要素もあります。
そうなると大型犬から小型犬まで、
それなりの犬種を用意したくなりまして・・・。

岩田

したいことが増えるたびに、
仕事がどんどん増えていくんですね。

坂上

愛犬がすごくかわいくて、どこまでもついてくるんです。
スキー場でも、すべっている後ろから
犬がものすごいスピードで追いかけてきます(笑)。

小林

はい、そこは、愛犬ですから(笑)。

坂上

なかなかプログラマー泣かせな企画だと思うんですが、
プログラマー自身もやりたいと言うんです。
不思議なもので、共感が生まれると、
みんながそれにむかって努力できるんですよ。

小林

最初からわかっていたことですが、
これだけのボリュームをどうやってつくりあげるか
ということは、最大の難題でした。
社内スタッフのやりくりだけではどうしても足りなくて、
最終的には社外の制作会社4社にも参加していただきました。

岩田

そうすると、チームがすごく大きくなるから、
全体の統一感とか整合性とかが大変だったんじゃないですか?

小林

はい! ほんっとうに大変でした・・・。
社外の方と一緒にお仕事をすることも
チームとしてははじめてでしたし、
社内でつくったものとあわせて
最終的に1個にする開発スタイルは、
社内的にもはじめてのチャレンジでしたので、
思いも寄らない小さなトラブルがいっぱい生まれて・・・。

岩田

小林さんは2年半のあいだ、
迷うことなく突き進めましたか?

小林

いえ、毎日、迷う日々でした。
でも自分もチームも、
すごいものをつくっているという自負はありましたし、
新しいチャレンジがいっぱいあったので、
いま振り返ってみるとあっという間の2年半でした。
企画立案した当時にはもう戻りたくありませんが(笑)。

岩田

「キリがいいから50個です!」
「1年半でつくります!」
って言っちゃったんですもんね。

小林

はい(笑)。
本当に密度の濃い、
さまざまな経験ができた2年半でした。

岩田

わたしはできている物量から考えて
2年半でできたことは本当にすごいと思います。

坂上

デバッグも大変でしたよね。

小林

ボリュームがボリュームなので・・・。
バグの件数で言えば、
社内の記録を更新したかもしれません。

坂上

デバッグチームから「終わりません!」って言われて。
あの1万件のデバッグリストを見たら、
僕もちょっと吐きそうになりました(笑)。

岩田

バグの件数って、デバッグを始めるころは
なかなか減らなくて、バグが直る件数よりも
新しく見つかる件数が多かったりするんですよね。
それが減少に転じたときは、
すごくうれしかったんじゃないですか?

小林

「あー、やっとゴールが見えてきた」と思いました。

岩田

ちなみに総勢何人ぐらいでつくっていたんですか?

坂上

内部が100人ぐらいで、外が・・・。
総勢、200名ぐらいですかね。

岩田

はー! やっぱりすごいですねぇ!
映像を観て「ただものじゃない」と感じた
わたしの想像は、次々に裏づけられていきます。

一同

(笑)