1. 坂道を駆け上がった先に見えるもの

岩田

『ゼルダ』の中身が“濃密”なので、
「社長が訊く」も“濃密”に・・・ということで、
今回は「火山」と「敵モンスター」についてお訊きします。
→前回まで参加している藤林さん以外のみなさんから、
今回、何を担当したのか、自己紹介をお願いします。

冨永

はい。主に火山のフィールドや、
ダンジョンのプランニングを担当しました、
情報開発本部の冨永です。

岩田

冨永さんは火山の世界をつくった人、なんですね。

冨永

はい、そうです。
今日はよろしくお願いします。

木内

同じく、情報開発本部の木内です。
僕は主に、敵キャラクターのデザインを担当しました。

岩田

火山に出てくるものも含めて、
敵キャラクターは木内さんがつくったんですね。

木内

そうです。

尾山

今回はデザイナーのサポートと、
演出まわりを担当しました、情報開発本部の尾山です。

岩田

尾山さんは、もうずいぶん前になりますけど、
→「社長が訊く Wiiプロジェクト」の
『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』篇
にも出てもらいましたね。

尾山

はい。かれこれ5年くらい前になります。

岩田

さて、藤林さん、
フィールドが「火山」ということですが、
どうして火山をつくることになったんですか?

藤林

前回お話しした「森」のフィールドは
平面を基本につくっていたんですが、
高低差を取り入れたフィールドも遊びが多彩になるのでやりたいと。
それにふさわしい場所は何かと考えたときに、
「山」しかないだろうと思ったんです。

岩田

なぜふつうの「山」じゃなくて、
「火山」なんですか?

藤林

やっぱり『ゼルダ』といえば、
シリーズでおなじみの火山地帯、
いわゆる「デスマウンテン」が思い浮かびますし、
遊びのネタがたくさん出るのが火山だったので、
選びました。

岩田

では、「遊びのネタがたくさん出る」ということで、
「火山の担当」となったとき、
冨永さんはまず何から考えたんですか?

冨永

今回は「がんばりダッシュ」という
新しいアクションができるようになりましたので、
高低差のある火山というフィールドと組み合わさると、
坂道をまずはテーマに、面白いことができそうだと思いました。

岩田

まず「がんばりダッシュ」の機能を活かすための
地形をつくろうと考えたんですね。

冨永

そうです。
→険しい山の急な斜面でも、
今回は「がんばりダッシュ」で
一気に駆け上がる
ことができますし、
で、そうなると、高いところから
ふもとを見おろせるようにしたいとも思いました。

岩田

これまでのシリーズでも、
高いところに登って、景色を眺めるというのは
少なからずできていたと思うんですけど、
今回はどこが違うと思いますか?

冨永

中だるみをしなくなりましたね。
これまでのシリーズでは、山道をつくろうとすると
ジグザグにするしかなくて、高いところまで登るには、
けっこう時間もかかったりしたんです。

岩田

今回は「がんばりダッシュ」で駆け上がることができるので、
そうはならないんですね。

冨永

はい。思いっきり長い登り坂をつくっても、
テンポよく登ることができますし、
すごく高いところまで短時間で到達できます。
なので、そこからふもとを見おろして、
「いい眺めだなあ・・・」という気持ちになればいいなと思いました。

岩田

「絶景ポイント」があるんですね。

冨永

そうなんです。
それと、火山のてっぺんまで行かなくても、
中腹からも景色が見られるようにしました。
ふつうはひとつの坂道を登り切ると、
そのまま先にどんどん進もうとするんですが、
今回はちょっと立ち止まって、後ろを振り返り、
ゆっくり景色も楽しんでほしいと思います。

岩田

Aボタンが空いたことで
「がんばりダッシュ」ができるようになり、
その機能が坂道をどんどん増やすことになり、
さらにその結果、見晴らしのよい景色が
楽しめるようになるというのは、
一見無関係なつながりのように見えるだけに、
なんだか不思議ですよね。

冨永

そうですね。
確かに気づいたら、「そういう楽しみもできていた」
という感じなんですけど、
プレイヤーの性能がひとつ増えたことで、
新しいことができていくんだなあと、
つくりながらも、とても新鮮な気持ちになりました。

岩田

ちなみに「火山」というものを活かしたネタでは、
ほかにはどんなものがあるんですか?

冨永

やはり火山ですから、
→ダンジョンだけでなく、フィールドのいたるところで
溶岩がぐつぐつ煮えて
います。
その溶岩は上がったり、下がったりすることもあって、
ときにはその溶岩を抜かないと
先に進めないようなこともあります。
あとは・・・あ、でも、これ以上は・・・。

岩田

遊んでからのお楽しみ、ということですか?

冨永

はい(笑)。
まあ、今回も『ゼルダ』らしい謎解きや遊びを
随所に盛り込むことができたと思います。

岩田

演出まわりを担当した尾山さんは、
火山の地形では、どんなことを考えてつくりましたか?

尾山

わたしは火山だけに特化して何か、
というのはとくにないのですが、
プレイヤーの演出を入れるにあたり、
リンクが溶岩に落ちたときは
どんな演出にするのかについて、
時間をかけていろいろ試してみました。

岩田

これまでの演出だと、リンクが溶岩に落ちると、
ちょっと苦しそうな感じでしたよね。

尾山

そうなんです。
『トワイライトプリンセス』(※1)のときは
比較的シリアスに表現していましたけど、
今回の『スカイウォードソード』は
『風のタクト』(※2)ほどコミカルではないんですが、
『トワイライトプリンセス』ほどシリアスにはならないように・・・。

岩田

絵づくりが、これまでの、どの『ゼルダ』とも違いますよね。

※1

『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

※2

『風のタクト』=『ゼルダの伝説 風のタクト』。ゲームキューブ用ソフトとして、2002年12月に発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

尾山

はい。開発序盤では
『トワイライトプリンセス』に近い演出が入っていたんです。
すると、まわりのスタッフから
「今回は、これじゃないよね」「違和感があるね」
という声があがったんですね。
やっぱりシリアスすぎると、今回の絵には合わなかったんです。
たとえば『マリオ』の場合、敵にやられても
不快には感じませんよね。

岩田

確かに『マリオ』だと、
みんなで笑って、「さあ次!」
ということになりますね。

尾山

そうなんです。なので今回は、
「さあ次!」と、何度もトライしたくなるような
演出にすることを大事にしました。
そこで、リンクが溶岩に落ちたら
どのような動きをすればいいのか、
みんなの声を聞きながら、何度も調整しました。

藤林

「苦しそう」ではなく、
「あ、リンク、熱そう」という感じを出すようにしたんです。

尾山

なので不快な気持ちにならず、
リトライできるようになっていると思います。

岩田

なるほど。それは今回のデザイン論全般に
共通して言えることのような気がします。
『トワイライトプリンセス』のように
リアリティを目指す、フォトリアリティの世界と、
『風のタクト』のように
デフォルメする世界とがあって、
そのふたつの世界との間で、どうバランスをとるか、というのは、
たぶんすごく大きなテーマだったはずなんですよね。

尾山

そうなんです。
そのあたりのことは、きれいにかみ合わないと、
世界から浮いてしまいますので。

藤林

なので今回のリンクが溶岩に落ちると・・・。

尾山

→けっこう跳び上がります(笑)。
しかも、緑の服に火がついたりとか

ちょっとだけコミカル寄りの演出にしています。