1. 「転移」というシステム

岩田

社長が訊く『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』の、
第4回目ということで、今日は「砂漠」篇です。
それにしても・・・藤林さんと、
こんなに何度もお話するなんてね(笑)。

藤林

はい(笑)。

岩田

では、今回もよろしくお願いします。

一同

よろしくお願いします。

岩田

それではまず、「砂漠」を担当されたみなさんが、
それぞれどんなことをしたのか、
ということからお訊きしたいと思います。

竹村

情報開発本部の竹村です。
「砂漠」には、独立した3つのエリアがあって、
わたしは3つ目を担当しました。

岩田

「砂漠」には3つもエリアがあるんですか?

竹村

はい。「森」や「火山」では
同じエリアを「繰り返し遊ぶ」ということがテーマですけど、
「砂漠」では、「転移」という
とてもユニークなシステムを使うことで、
今回、独立した3つのエリアをつくることになりました。
それぞれがとても豪華なステージになったと思います。

岩田

これも“濃密ゼルダ”の象徴的な話ですね。
いま、「転移」という、
『ゼルダ』では聞き慣れない単語も出てきましたが、
そのことについては、のちほどじっくり訊きますね。

竹村

はい。

藤野

2つ目のエリアを担当した、
情報開発本部の藤野です。
僕が担当したフィールドでは、
いま話に出た「転移」のシステムを使って
砂漠が海になる、というような・・・

岩田

え? 砂漠が海になるんですか?

藤野

はい(笑)。
で、その砂漠を海にしながら船で進んでいくという・・・

岩田

え? 砂漠を船で進むんですか?

藤野

はい(笑)。
で、最終的に到達するダンジョンが
砂漠の海を漂流している船のステージなんですけど、
そこも担当しました。

北川

情報開発本部の北川です。
わたしは、「砂漠」のステージで最初に入る、
1つ目のフィールドとダンジョンを担当しました。

岩田

席順に訊いていたら、
3、2、1と、紹介する順が
逆になってしまいましたね(笑)。

北川

そうですね(笑)。
その1つ目のエリアでは、「転移」することで、
いろんな遊びを盛り込むことにチャレンジしました。

岩田

「砂漠」では「3つのエリア」があるという、
“濃密ゼルダ”を象徴するような
ちょっと贅沢な感じになっていますけど、
「転移」だとか、「砂漠が海になる」だとか言われて、
この「社長が訊く」を読んでいただいている方には
なんのことだか、わけがわからない感じだと思うんです。
藤林さん、そもそも「砂漠」の構成は
どんなふうにつくられていったんですか?

藤林

これまで「森」「火山」、それに今回の「砂漠」と、
3つのフィールドのお話をしてきましたが、
それぞれの場所にはテーマがあって、
まず「森」のフィールドでは、地形を変えて
いろんなかたちで遊んでもらえるようにしました。
「火山」については、地形を大きく変えるのではなく、
遊びのルールを変えることで楽しめるものにしよう、
ということでつくりました。
「じゃあ、砂漠はどうしようか?」となったとき、
たとえば『時のオカリナ』(※1)では
“現在と未来”があり、
『トワイライトプリンセス』(※2)では
“光と影”があったように・・・。

岩田

対比がはっきりした遊びがありましたよね。
初代『ゼルダ』(※3)の“表と裏”もそうですけど。

※1

『時のオカリナ』=『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。NINTENDO64用ソフトとして、1998年11月に発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

※2

『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wiiおよびゲームキューブ用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。

※3

初代『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』。1986年2月に、ファミコンのディスクシステム用ソフトとして同時発売された、アクションアドベンチャーゲーム。

藤林

そうです。
で、そのような対比のある遊びを
今回はぜひ、砂漠でつくってみたいと思いました。
ただ、『時のオカリナ』のときは
現在と数年後の世界を行き来することができましたけど、
わざわざ「時の神殿」に行く必要があったんです。
なので、今回はWiiの能力を使って、
「好きな場所で、好きなときに、
一瞬で過去と未来を行き来できるようなことが
できるんじゃないか?」と、ずいぶん前から
研究・実験を繰り返していました。

岩田

それはどんな実験だったんですか?

藤林

たとえば、何にもない砂漠に1本の矢を放って、
それがあるものに当たると、そこが一気に
緑の大地へとバーッとリアルタイムに変わっていく実験です。
目の前で時をさかのぼる感じにできないかと思ったんですが、
その展開はすごくインパクトがありました。
また、「森」のフィールドを使って、
たとえば、木がにょきにょき生えてきたりとか、
あるモノがなくなったり、逆に増えたりとかいう
『ゼルダ』らしい遊びの研究もしたり。

竹村

じつは最初、このシステムだけで1本のゲームが
つくれると思っていたくらいでしたから(笑)。

藤林

そうなんですよね。
アイデアがどんどん出てきたので、
3つのエリアを別々につくることにしたんです。

岩田

そもそも「転移」というシステムはどんなものなのか、
かんたんに説明してもらえますか?

藤林

はい。
さっきお話しした砂漠での対比遊びをするために
実験していたものの完成形が「転移」なんですが、
「空間が切り抜かれてそこが過去になる」というものです。
砂漠にある→「時空石」という石を剣で叩くと、輪を拡げるように
現在のものが過去にバーッと切り替わっていく
という・・・。

岩田

ああ、→任天堂カンファレンス(※4)で流した
映像
のなかに入っていましたよね。
「転移」が起こって、一気に拡がっていく感じは、
わたしも見ていて、「おおっ」と思いました。

※4

任天堂カンファレンス=「ニンテンドー3DSカンファレンス 2011」。2011年9月13日に行われた発表会。

藤林

つくっている自分たちにとっても、
手ごたえをすごく感じていました。
で、時空石をフィールドのあちこちに配置することで、
いろんな遊びに拡げて、歯ごたえのある遊びも
つくれそうだということになっていきました。

岩田

「森」と「火山」のあとのステージであれば、
多少歯ごたえのあるものをつくっても
お客さんは遊び方に慣れているので
楽しんでいただけると考えたんですね。

藤林

そうです。
で、→「社長が訊く」の第1回目のときに
「古代文明」の話
をしましたが・・・。

岩田

“ロケットパンチが生んだ古代文明”ですね。

藤林

はい(笑)。リンクが踏み入った現在は
砂漠地帯になっているんですけど、
じつは流砂の下に「古代文明」が埋もれている、
という設定にしました。
そこで、時空石を剣で叩くと、過去に「転移」して
「古代文明」が明らかになるんです。

岩田

なるほど。
さて、「砂漠」で最初のエリアを担当した北川さんは、
どんなことを意識しながらつくりましたか?

北川

やはり最初のステージですので、
「何を変化させると、わかりやすいか?」とか、
「何を変化させると、わかりにくいか?」というのを
すごく意識しながらつくりました。

岩田

まず「転移」というシステムを
お客さんに理解してもらうことを優先したんですね。

北川

そうです。
でも、枯れている草に緑が戻ったり、
サボテンがあったのに、それがなくなるということは
見た目にもすごくわかりやすいんですけど、
それを遊びのネタにしようとすると
すごく単純なものになってしまうんです。

岩田

深い遊びにつながらないんですね。

北川

はい。なので、「転移」の応用ネタを考えるのに、
いままでにないほど今回は悩みました。
そこで、たとえば→乗り込んでも動かない
壊れているようなトロッコが、
「転移」することで動く
ようにすれば・・・。

岩田

現在は使えないようなトロッコも、
過去に戻ることで復活するわけですね。

北川

そうです。
で、そのトロッコを使うことで
それまでは行けなかったところへも進めるようになり、
そこから遊びがどんどん拡がっていきました。

岩田

そもそも、のちにビートルになりましたけど、
ブーメランから発展して、
最初にロケットパンチというアイテムを考えたことが
「古代文明」という設定につながり、
そこに「転移」というシステムが加わることで、
いろんな遊びが考えられるようになったんですね。

北川

そうなんです。
もうぜんぶロケットパンチのおかげです(笑)。