3. シンプル

このゲームは、仕組みがとにかくシンプルです。
いくら言い尽くしても言い足りないくらい、
この『ゼルダ』はシンプルです。
どこまでもシンプルです。

青沼

これも、深いコメントです(笑)。

岩田

この方がおっしゃるとおり、
根本の構造はとにかくシンプルなんですよね。
それぞれの要素の役割が、きちんと
何のためにあるのか、はっきり決まっている。
そのうえで、ひとつひとつの徹底ぶりが・・・
ひどいくらい濃密と(笑)。

青沼

はい(笑)。シンプルな構造だからこそ、
そこにいろんなものを
どんどん入れていけたんです。

岩田

シンプル&ディープ、なんですね。

青沼

そうです。シンプルだからこそ、
何度も遊べる感覚も生まれたんだと思います。
今回、冒険の拠点である「スカイロフト」から
地上に降りるのも、感覚的には
「ちょっとご近所に行く延長線」
くらいの気軽さになっているんじゃないかと(笑)。

岩田

もともと「→マリオのコース選択(※10)みたいな発想ですし、
ポンとすぐに行って、さぁ冒険、みたいな感じですからね。

※10

マリオのコース選択=ワールドマップ上のキャラクターアイコンを操作し、マップを移動するシステム。『スカイウォードソード』ではこの発想を元に、空のフィールド移動のシステムがつくられた。

青沼

じつはそういった背景には、
セーブシステムを変えたことも
大きくかかわっているんです。
これまでの『ゼルダ』は、代々、
どこでもセーブできる方式だったんですけど、
再開はリンクの家だったり
ダンジョンの入り口からだったりで、
その場からの再開はなかったんです。
これには、一度通った場所から改めて再開したほうが
その世界に慣れて、スムーズに進める感覚を得られる、
という意図があったからなんです。

岩田

それがいままでの「ゼルダ作法」でしたよね。

青沼

ただそうすると、たとえば
ダンジョンのボスに負けてしまったとき、
入り口からやり直すことになるのは、
いまはストレスに感じることのほうが多いんじゃないかと。
倒すための別のアイデアを思いついても、
すぐには試せないわけですから。

岩田

なるほど。
それで、アイデアを思いついたらすぐ試せるように、
時間のサイクルを短くする工夫を
いろいろ凝らしたんですね。

青沼

そうです。
今回はセーブポイントを特定の場所に定めて、
その起点から、いろいろすぐに試せる構造になっています。
これも結果、シンプルさにつながっています。

岩田

セーブの仕方も含めて、今回はとにかく
トライ&エラーの仕組みがうまくできていますね。
思いついたことがシンプルなステップで
すぐにできて、あらゆる場面でストレスを意識させない。
同じ時間のなかでも、次々にいろんなことができる。
だから、プレイ時間も濃密に過ごせるんですね。

初めてプレイしたこのゲームは日本語版だったのですが、
実はわたしは、日本語をまったく理解していませんでした。
でも『スカイウォードソード』の前では、
それを意識することなく、快適にプレイできていたのです。
人々の意思の疎通には英語や日本語の言語が必要ですが、
『ゼルダ』の世界に、それは必要ないものでした。

青沼

この方はフランスの方なんですが、
キャラクターの表情や演出だけで、
言葉がわからなくても次に自分が何をすればいいかわかる、
って書かれています。

岩田

青沼さん、すごいことですよ、これは。
第三者の視点で言われて初めて、はっとする言葉です。
だって、わたしたちのなかでは、『ゼルダ』って
ある程度言葉の説明がないとできないゲーム、と
思い込んでいたじゃないですか。

青沼

そうですね・・・つくり手としては
その先に何があるかを少しずつ説明して
理解してもらいながら進んでもらおう、
と思ってるわけですし、
そこは言葉で伝えないと無理だと思ってたんですが、
今回はそれがなくても伝わっていた、
ということなんでしょうか。

岩田

そうみたいですね。

青沼

まあ、これも、
基本がシンプルだからこそ伝わって、
どんどんディープに楽しめるわけですよね。
『ゼルダ』におけるシンプルさって、
これほど重要なことだったんだなぁって、
改めて再認識させられました。

岩田

開発者としては、悩ましい部分なんですよね。
このシンプルさを、お客さんに満足してもらえるのか、
怖い部分があるじゃないですか。

青沼

たしかに『ゼルダ』というタイトルは、
いろんなことを求められている感覚があります。
ある種、複雑にしていかないと
満足してもらえないんじゃないかって、
不安が常にあるタイトルでしたから。

岩田

とくにシリーズを重ねると、どうしても
こねくりまわしがちになってきますよね。

青沼

そこはやっぱり、つくり手としては
より高度なもののほうが、新しい驚きだったり、
探求心に結びつくはずだ、と思っているわけですから。
でも、そうじゃなかったんですね。
一見矛盾しているようなんですが、
まるで「北風と太陽」のお話のように、
今回、それがよくわかりました(笑)。

岩田

そうですね(笑)。
そのたとえ、よくわかります。

現代の人々が楽しいと感じるものは、
短期的な達成感とやりがい。
『スカイウォードソード』はそれらを与えてくれます。

青沼

これは、NOA(※11)の方ですね。
さきほど言った、やり直しが簡単、
ということも大きいと思いますし、
そういう点が現代のニーズに
マッチしたものになったのかなと思います。

※11

NOA=Nintendo of America(任天堂のアメリカ現地法人)。

岩田

「剣を振るだけでおもしろい!」
って感じる瞬間が常に継続してあるわけで、
退屈する場面がないということなんでしょうね。

青沼

たしかに“やらされている感”は
ほとんどないんじゃないかと思います。
とくに海外の方は自由度を求める傾向が強くて
一本道で進むRPGを好まない傾向があるんですが、
『スカイウォードソード』の場合は
システム的には一本道なのに、自由度がない、
といった印象を持たれていないんです。

岩田

すべての戦闘において
自由度が満載だからですかね?

青沼

はい、そう思います。
もう試したくなることが山ほど出てくるわけで。
そういう点が大きいんだと思います。

プレイすると、似て非なるその違いは明白。
Wiiリモコンプラスによる戦闘と、画期的なアイテム選択。

これまでの『ゼルダ』とはすべて同じで、すべて違う。

わたしがもともとゲームが得意でないこともあって、
これまで最後までクリアできずに終わっていました。
しかし今作ではていねいに次の行き先が示唆され、
「シーカーストーン」という攻略の手助けとなる
ギミックも映像も用意されているので、
より幅広い方が、最後までプレイできると思います。

長年の夢、走れる!
敵がガード!(いままでの『ゼルダ』では考えられない)。
空の移動。自由度が高くなって
誰もが空を飛んでみたいと思う気持ちを叶えてくれる。

敵キャラにちゃんと個性が備わっている点。
単にやられるだけの役回りじゃなくて、
生きて、歩き回って、リンクの行く手を阻む意思を感じる。

プレイヤーは常に、自分をサポートしてくれる
本当の仲間がいるんだ、という感情を抱きます。
これまでプレイしたなかで、
もっとも心打たれる『ゼルダ』でした。

(違うのは)ダメな大人が存在すること。

岩田

まとめてご紹介しましたが、これらはすべて、
これまでの『ゼルダ』と何が同じで、何が違うのか?
という設問に対してのコメントです。

青沼

最後の方が続けて書いてくださってることが
おもしろいので、続きを紹介しますね。

NPC(ノンプレイヤーキャラ)のなかで、
息子が夜の見回りで一生懸命稼いだお金を、
あまりにも簡単に使ってしまう「キコアのお母さん」。
ゼルダ救出のために動き回っている自分の生徒に、
趣味である新種の植物を探すように言う「アウール先生」。
娘がいなくなったのに、まったく探す気のない「ゲラン」。

岩田

あぁ、たしかにダメな大人です。
しかも濃すぎです(笑)。
でもこのコメントからは、愛をすごく感じますね。

青沼

全般的に、
「キャラクターがものすごく魅力的です」
と書かれているコメントが多いんです。

岩田

これまでのシリーズでもキャラクターは
十分に魅力的なはずですが、
今回とくにそう言われている理由は
どこにあるんでしょうか?

青沼

いちばんの大きな理由は、
さっきのコメントにもあったように、
普通の登場人物以外に
敵キャラにも個性が感じられる点だと思います。
それは戦闘のリアクションの効果が大きいんですが、
「ボコブリンはパンツに執着心がある」とか、
ファイがひとこと説明をしてくれるわけです(笑)。
それはあくまで設定上の遊びだったりするんですけど、
みんながそれを、
「こいつはそういうやつに違いない」
って感じてくれているんです。

岩田

なるほど。
あと、わたしが驚いたのは、
みなさんがそんな風に思い入れを持って
語ってくださるポイントやディテールが
けっこう違うことなんです。

青沼

あ、たしかに。
みんなそれぞれ違いますね。

岩田

戦闘がおもしろい、
みたいなところは共通でありますが、
「誰々が好き」とか、「○○がいい」という話が、
じつにバラバラで、楽しそうに語ってくださるんです。
これがとてもよいことですし、うれしいことですね。