社長が訊く
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社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)

社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』

目次

4. “強いちから”を手に入れて

岩田

キャラクターをウサギからイカに変更すると決めて、
開発はスムーズに進むようになったんですか?

野上

それが、そうでもありませんでした(笑)。

阪口

イカは墨を吐く生き物なので
インクを塗るのにピッタリなキャラですし、
「イカはマップ上で矢印の形に見えるのでいいですよね」
と井上さんが言っていたので、自分も
「UI(※13)で、イカの形をしたカーソルがあるといいね」
というような話で、最初は盛り上がっていたんです。

※13
UI=ユーザー・インターフェイスの略称。コンピューターを操作するときの画面表示や、ウィンドウ、メニューなどの表現や操作感を指す。

井上

でも、ウサギに比べて、
親近感がわきにくいんですよね、イカは。
それに、キャラクター化しづらいところもありましたし。

阪口

なので、最初に考えていたキャラクターは
“イカっぽいヒト”みたいなやつでした。

イカっぽいヒト

野上

正確に言うと、“ヒトっぽいイカ”なんです。
イカがヒトになったという設定でしたからね。

天野

イカを擬人化したようなデザインだったので、
キャッチーではなかったですし、
“インク生命体”と“ヒューマン体”の違いも
ハッキリしていなかったんです。

阪口

そこで、スタッフの間から
「クリオネとかウミウシのように
 ほかの海洋生物はどうなんだろう」
という意見も出るようになったんです。
でも、僕としては、矢印の話もありましたので、
イカに光明を見いだしていたのですが、
ある時に、天野さんがボソッと言ったんです。
「イカとヒトを切り替えるんやから、
 イカはイカっぽく、ヒトはヒトっぽくしても
 いいんじゃない」と。

岩田

“ヒトっぽいイカ”ではなく
“ヒトっぽいヒト”でいいと・・・。

天野

僕、そんなことを言ったなんて
ぜんぜん覚えてないんですけど(笑)。

一同

(笑)

阪口

僕はその時
「天野さん、すごい」と思いましたから(笑)。
「そうか、“ヒトっぽいヒト”でもいいんだ」と。
“インク生命体”はイカ、“ヒューマン体”はヒトと
性能を整理したように、
デザインも整理すれば良いんだと気づきました。

岩田

ヒトはイカっぽくしなければならないと
思い込んでいたんですね、ずっと。

阪口

そうなんです。思い込みがありました。
でも、イカとヒトをハッキリ分けることで、
アイデアがまとまって、
開発のスピード感がグッと上がったんです。

井上

キャラクターのデザインも
最終の形態とほとんど
変わらないものになりましたし。

井上

阪口

それに、それまでは
「インクのなかに“隠れる”」と言ってたんですが、
“潜る”という表現にしようと思いました。

岩田

“インク生命体”ではなくなり、
完全なるイカとして潜れるようになったんですね。

天野

その時、自分たちは
“強いちから”を手に入れたように思いました。
このゲームには大きな柱が立ったので、
もうそこに何を入れても大丈夫だろうと。

野上

すると、ゲームのなかに
いろんな人のセンスがどんどん入るようになったんです。
井上さんが、アートディレクターとして
まとめてくれましたので
ひとつのものにまとまってるように見えるんですけど。

岩田

たとえばどんなことですか?

野上

ヒトのキャラクターを
いろんな衣装でカスタマイズ
できますけど、
それがストリート系のファッションになってるのは、
そういうのがすごく好きなスタッフがいたからなんです。

岩田

大きな柱が立ったからこそ
自分たちの好きな世界で埋められたんですね。

野上

そうです。あと、音楽もそうで、
インクを使ったナワバリ争いは、
あの世界ではスケボーのような
“やんちゃ”な遊びというイメージなのですが、
それに合うようなロック調の曲をつけたりして、
自分たちがいいと思うものを
ひたすら詰め込んだ、という感じでしたね。
それはある意味、
“悪ノリ”に近かったんですけど(笑)。

天野

そのような“悪ノリ”をしても
イカとヒトを切り替えて遊ぶアクションゲームという
基本コンセプトはまったく壊れなかったんです。

岩田

それだけ“強いちから”だったんですね。

天野

はい。いろんなものを載せても、
揺るがないほどの強度があった、
ということなんだと思います。

野上

そのようなことができたのは、
いちばん最初に、みんなで70個もの
アイデアを出し合ったことが大きかったと思います。
その時に提案されたアイデアが
全部なくなったかというと、
そうではなくって、70個のなかから、
たとえば天野さんが考えていたネタが、
最終的にこのゲームのなかに入っていたりします。

天野

僕はネットワークゲームが大好きで、
「チーム戦で何かをする」
というアイデアを考えていたんです。
ですから、敵を倒して遊ぶというよりも
チームで協力して何かをするということを
遊びの構造として入れたかったんです。

岩田

天野さんが最初に考えたネタは
『スプラトゥーン』に実現されていると。

野上

はい。それに、
みんなで企画を出し合ったことは、
たとえそれが採用されなくても
チーム力を向上させるのに
とても役に立っているんです。

阪口

今回のスタッフはみんな
自分で一生懸命、いちから企画を考えて、
関係者の前でプレゼンをして、
「それ、ホンマにおもろいんか?」
と、即座に否定されるような経験を
少なくとも一度はしているんですが、
みんながそういう試練に
一度はさらされているからこそ、
人の意見に対しても真剣に耳を傾けるし、
自分の意見を問われたときも
「こういう理由で、こうするべきだ」と
ちゃんと言えるような関係性が生まれて、
その結果、それぞれのアイデアを
ロジカルに考えて積み上げることができたんです。

阪口

岩田

企画を考えて、それが実現しなくても
無駄ではなかったんですね。

野上

はい。それに今回は、
物事を深く考えることができる人が
チームにたくさんいたこともラッキーでした。
開発の途中でもがくような状況になっても、
誰かがひとつのアイデアを出すことによって、
ポコッと天井を突き抜け、
ほかのみんながそろってそこまでググッと上がっていく、
という感じでアイデアを発展していけました。

岩田

ひとつのアイデアが突破口になり、
全体がレベルアップしていったんですね。

野上

そうです。で、また問題が起こると、
また別の人がアイデアを出して、
ということを繰り返していって・・・。
ちょっと手前味噌になりますけど、
今回はすごく高みに
持っていけたように思います。

岩田

それ、すごくよくわかります。
深く考えている人が何人もいたからこそ、
この世に似たものがないゲームを
生み出すことができたんですね。
「あの○○を、任天堂がつくるとこうなった」
というものではない、まったく新しいものを。

野上

はい。スタッフみんなのおかげで
それができたように思っています。