社長が訊く
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社長が訊く『スターフォックス64 3D』

社長が訊く『スターフォックス64 3D』

目次

3. 伏見稲荷大社とフォックスの関係

岩田

ちなみに 『スターフォックス』に出てくる
動物たちのキャラクター
に関しては、
宮本さんがどのようなリクエストを出して、
今村さんがどう描いたのですか?

宮本

あの当時、日本でSFものをつくろうとすると、
ロボットアニメものか、戦隊もの、
あるいは怪獣ものになる傾向が強かったと思うんです。
でも、自分としては、それらと同じことをするのは
なんだか面白くなかったんです。

岩田

既存のSFものとは
明らかに違うものにしたかったのはわかりますが、
でもそれが、どうしてキツネになるんですか?

宮本

僕は昔から動物のキャラを描いていたこともあって、
今村さんに「動物のキャラを出すのはどう?」と言ったんです。
今村さんは「えーっ!?」とビックリしてましたけど(笑)。

岩田

(笑)

宮本

「シューティングゲームに動物のキャラを載せるのは
どうかなあ」という話にもなったんですが、
「逆にインパクトがあるだろう」ということになって、
「何の動物を出そうか?」と考えることにしたんです。

岩田

はい。

宮本

で、僕がそのとき考えたのが、
『スターフォックス』では、
戦闘機でゲートをくぐっていくシーン
多いんですけど、
くぐるといえば、鳥居ですよね。
鳥居といえば、千本鳥居の伏見稲荷大社(※11)やし、
その頃の試作にも、そこをくぐっていくような
シーンがいっぱいあったんです。
それで、伏見稲荷といえば、やっぱりキツネやなあと。

岩田

ああ、そういう連想でキツネなんですか(笑)。

宮本

はい(笑)。伏見稲荷大社は
旧本社(※12)から歩いて15分くらいの場所にありますし、
それに、いまはもうなくなってしまったんですけど、
地元に「稲荷フォックス」という
少年野球チームもあったんです。
それで「フォックス! かっこいいなあ」と思って。

岩田

(笑)

※11
伏見稲荷大社=「お稲荷さん」の総本宮。赤い鳥居が連なる千本鳥居とキツネが有名。
※12
旧本社=任天堂本社が2000年に京都市南区(現所在地)に移転する前は、京都市東山区に所在した。現在、旧本社跡には、京都リサーチセンターがある。

宮本

だから、はなっから「フォックス」なんです。
「キツネ」じゃなく。

岩田

なるほど。

高野

あの・・・ちょっといいですか?

岩田

はい。

高野

じつは、今村さんが最初に描いた
『スターフォックス』の原画
借りてきたんです。これなんですけど・・・。

宮本

ああ、これこれ。

ディラン

懐かしいですね。

岩田

・・・あ、フォックスの足もとに
鳥居が描かれていますね(笑)。

宮本

でしょう(笑)。

岩田

あと、鳥、ウサギ、そしてカエルと
主要キャラクターも描かれてますよね。
キツネはわかりましたけど、
どうして、鳥やウサギなんですか?

高野

僕が昔、今村さんから直接聞いたんですけど、
日本のおとぎ話からイメージをふくらませたそうです。
それで、ウサギ(ペッピー)やキジ(ファルコ)を
出すことにしたと。

岩田

ああ、そういうことなんですね(笑)。

高野

で、「犬猿の仲」ということで
イヌの軍隊とサルの軍隊が戦っていると。

ディラン

岩田

でも、どうしてカエルが出てくるんですか?

宮本

カエルはちょっと異質ですよね(笑)。
今村さんがいきなりさっきの絵を描いてきて、
「カエルもいいね」と言ったのは覚えているんですけど・・・。

ディラン

あのとき、スタッフにいたでしょう・・・?

高野

そうそう(笑)。

宮本

ん?・・・ ああ、そうか!
カエルをマスコットにしているスタッフがいたんですよ。
メモとかに、いつも「ケロケロ」とか書いてたりして(笑)。

ディラン

そうですそうです(笑)。

岩田

けっこうスタッフ発のキャラクターが多いですよね、
情報開発本部のソフトでは(笑)。

宮本

はい。ヨッシーもそうだし、
いつも手づくりな感じですね(笑)。

岩田

スーパーファミコン版のパッケージは
実際にマペット(人形)をつくって
それを撮影したものでしたけど、
どうしてあのようなデザインにしたんですか?

宮本

僕はもともと『サンダーバード』(※13)とか、
イギリスの人形劇が大好きで。

※13
『サンダーバード』=1965年にイギリスで制作され、同年にNHKで放送された人形劇による特撮テレビ番組。

岩田

はい、わたしも大好きです(笑)。

宮本

で、この話は発売当時に妄想してたんですけど、
もし『スターフォックス』がたくさん売れたら、
『サンダーバード』の制作会社が「人形劇にしたい」と
イギリスからはるばる交渉にやってくるんじゃないかと。

岩田

はい(笑)。

宮本

そのとき僕は言うんです。
「じつは僕、『サンダーバード』が好きだったんですよ」と。
そう言いながら、ライセンスするというのは
「夢のようやなぁ・・・」って。
まあ、夢のままなんですけど(笑)。

一同

(笑)

岩田

そういう野望なんですか(笑)。

宮本

はい(笑)。

高野

だから、N64版もそうなんですけど、
ゲーム画面のキャラクターも、
ホント言うと、ちゃんとした動きの
アニメーションにするのがふつうなんですけど、
マペットのイメージがあったので
パクパクしゃべる感じにしているんです。

岩田

それは意図的にそうしていたんですか?

高野

はい。意図的にアニメーションを少なくしてました。

宮本

そもそも、あの当時は
「ロボットものにしたほうがかっこいいですよ」
と言う人もいたんです。
でも、僕にとって大事だったのは、
すでに『スター・ウォーズ』(※14)
『機動戦士ガンダム』(※15)が登場したあとですし、
SFの世界を表現したヒット作がたくさんあるなかで、
「僕らなりのオリジナルのSFをつくるんだ!」と考えてました。
既存のSFもののゲーム化のようにはしたくなかったんですね。
そうすると、もうキツネしかいない(笑)。

岩田

(笑)

※14
『スター・ウォーズ』=1977年に第1作目が公開されたSF映画の人気シリーズ。制作はジョージ・ルーカス氏。
※15
『機動戦士ガンダム』=1979年に第1作目が放送された日本のロボットアニメ。制作は日本サンライズ(現・サンライズ)。

宮本

でも、キツネにして本当によかったと思います。
初代のときはちょっと変な顔でしたけど、
ハードの進化とともに、ちょっとずつ、
かっこいいキツネになっていますから。

ディラン

そうですね。
スーパーファミコン当時の
フォックスの顔はすごかったですね(笑)。

宮本

(ほっぺたを両手でひっぱりながら)
こーんな顔してたし。

一同

(笑)