社長が訊く
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社長が訊く『ポケモン不思議のダンジョン 
~マグナゲートと∞迷宮(むげんだいめいきゅう)~』

社長が訊く『ポケモン不思議のダンジョン ~マグナゲートと∞迷宮(むげんだいめいきゅう)~』

目次

3. “決定版”

岩田

ところで、いままで『ポケモン不思議のダンジョン』といえば、
2パッケージで発売されることがほとんどでしたが、
今回1パッケージにされた理由はなんですか?

石原

ひとことで言えば、
「1パッケージで十分」と感じたからです。
今回は物語を楽しむ遊びと、
丸いものを見つけて冒険する遊びと、
みんなで協力する遊びと、
すれちがい通信(※15)の遊びと、
とにかくいろんな要素が入っています。
だから“決定版”として、ひとつにするのが
「わかりやすい」と思ったんです。

※15
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。

岩田

石原さんにとって、
「『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズの
“決定版”ができた」というイメージなんですね。

石原

はい、「いちばん濃いものができた」と思います。
もし途中でストーリーに詰まったとしても、
遊びのバリエーションがたくさんあるので
「横道にそれながら、進んでいただければ」と思います。
たとえば、丸いものを撮影してダンジョンに入って、
そこで集めたどうぐを本編の主人公に送ってあげたら、
展開がまったく変わってくるかもしれません。

岩田

ああ、そうか。
途中でダンジョン攻略自体が
つらくなる要素を持っているゲームだからこそ、
寄り道をたくさんつくっておくことで、
息抜きができたり、
攻略のキッカケが生まれるんですね。

石原

そうです。

岩田

長畑さんは、
石原さんが位置づけている“決定版”感について、
それはどこから生まれていると思いますか?

長畑

シナリオが厚い要素もありますけど、
いろんなデバイスのおもちゃ箱みたいに、
たくさんの要素が密度濃く
入っているところだと思います。

岩田

しかも、単にいっぱい詰まっているだけでなく、
全部に、相互のつながりがあるところも大きい気がしますね。

長畑

はい、それも大きいです。
遊ぶ人によって進めかたが
ずいぶん変わるゲームですけど、
お客さんそれぞれの進めかたに対して、
かなり柔軟に受け入れることができたと思います。
そんな懐の深さが、“決定版”感に
つながっている印象を受けました。

岩田

冨江さんはどう思われますか?

冨江

そうですね・・・。
自分にとっては、いままでのシリーズも
今回も一生懸命書きましたので、
「今回がいちばんいい」ということはないんですが、
今作でとくに意識したのは、
とにかくプレイした方が
「明日から仕事や勉強を頑張ろう」
と思えるものになればいいな、というのを目指して書きました。

岩田

“元気が出るシナリオ”ということですか?

冨江

はい。ぜひ、
「エンディングまでやっていただきたい」
と思います。

岩田

ちなみに今回はシリーズとしてはじめて、
追加コンテンツにもチャレンジされていますね。
そのことで広がる可能性について、
石原さんはどうお考えですか?

石原

僕にとって、
『不思議のダンジョン』というのは
“1000回遊べるダンジョン”であってほしいんです。
だから「もっと遊びたい!」という人に対して、
「超高難度ですが、トライしてみますか?」と
「おまけを提示したい」と考えたときに、
追加コンテンツの仕組みとの相性がよかったんです。

岩田

もっと長くお客さんに楽しんでもらえますし、
もっとタフな挑戦がしたい方にとっても、
普通のパッケージでは受け皿がないようなものを
提供できるということで、可能性が広がりますね。

石原

はい。それに本編を進めるうえで、
攻略の手助けになるものもサービスできます。

岩田

長畑さんは遊び手の視点から、
ダンジョンが増えていく仕組みについて
どう思いますか?

長畑

わたしは、すごく「あり」だと思っています。
たとえばゲームが一本道しかなかったら、
難しくて先に進めないこともあるかもしれません。
でも選択肢を増やしていくことができれば、
「そんな状況を緩和できる」と思うんです。

石原

あと、攻略の手助けという意味で、
「すれちがい救助」という要素もあります。
救助隊としてポケモンの世界を救うだけでなく、
ダンジョン内のプレイヤーも
助けてあげることができます。

岩田

すれちがい通信ですれちがうことで、
ほかのプレイヤーを
助けてあげるというシステムですね。

石原

はい。従来はその人が
倒れているところまで行って、
助けてあげるというプロセスでしたけど、
もっと気楽に、3DSを持ち歩いていたら
「いつの間にか誰かに救助されていた」
ということが起こります。

岩田

まさに「いつの間に救助」ですね(笑)。
でも、“自分との戦い”を極めることを特徴とする
シリーズを担当してきた長畑さんにとって、
どこまでお客さんに親切にしてあげるべきか、
葛藤はありませんでしたか?

長畑

それは大変難しい問題でした。
昔に比べると、どうしてもいまの
『不思議のダンジョン』は、
易しめになっていますので。

岩田

あえてこの言葉を使いますけど、
昔は“マゾゲー”というくらい超高難度で、
「自分は苦難を味わいたいのか?」という感じで
ゲームをやっていましたからね。
“シレンジャー”の人たちはそれを誇りにしていましたし(笑)。

長畑

はい(笑)。

岩田

いや、チュンソフトさんの持ち味は
“システム的な徹底した親切さ”だと、
わたしは思っているんです。
これは『ドラゴンクエスト』を
つくられていたときから(※16)、ずっと感じていて。
ただ、システムやUI(※17)はていねいなんだけど・・・
ゲームそのものは、プレイヤーに対して、
突き放すようなこともされますよね(笑)。

※16
『ドラゴンクエスト』をつくられていたときから=1986年5月に発売されたシリーズ1作目から5作目『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』まで、チュンソフトがプログラムミングを担当した。発売元は、エニックス(現スクウェア・エニックス)。
※17
UI=ユーザー・インターフェイスの略称。コンピューターを操作するときの画面表示、ウィンドウ、メニューなどの表現や操作感を指す。

長畑

はい・・・そのとおりです(笑)。
「難易度はゲーム性だ」という方もいれば、
「難しすぎてやっていられない!」
という方もいるので、バランスが難しいです。

岩田

ゲームに対するお客さんの我慢度は、
時代とともに変わってきている気がしています。
ファミコン時代のゲームの難易度って、
いまのお客さんにとっては
あり得ないでしょうから。

長畑

確かに、ゲームの難しさを
そのままゲーム性として認めていただける方は、
徐々に減ってきている感じはあります。

岩田

とはいえ、
「『ポケモン不思議のダンジョン』が
 ぬるいゲームなのか?」
というと、決してそうではありませんよね。
「かわいい顔をしているけど、ナメてかかるとひどい目に遭うぞ」
みたいなところが、いまも変わらずあると思います(笑)。
「そのバランスをどうやって取っているのか?」
ぜひ、その話をつぎにお訊きしたいと思います。