社長が訊く
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社長が訊く『マリオ&ルイージRPG4 ドリームアドベンチャー』

社長が訊く『マリオ&ルイージRPG4 ドリームアドベンチャー』

目次

3. 「やっぱり現場が好き」

岩田

ところで前川さん、ディレクターをしていた時と
一歩引いてプロデューサーをしていた時と、
見えるものはどう変わりましたか?

前川

そうですね。
じつは1作目や『トマトアドベンチャー』の時は
ほぼ現場をやりつつ、
ディレクションするスタイルでやっていました。

岩田

ゲームの規模的にも、それが可能だったんですね。

前川

はい。でも1作目がおわったあと、
「現場はやらないでください」って
伊豆野さんに言われたことを覚えています(笑)。
とはいっても・・・窪田もディレクションしながら
『2』も『3』も部分的に現場をやってもらっていたよね?

窪田

シナリオもつくりましたし、
イベントをデータに打ち込む作業もしました。

岩田

えっ、ディレクターなのに
イベントのデータも打ち込んでいたんですか?

窪田

はい(笑)。

前川

僕もじつは今回・・・
ボスモンスターの仕様を1体だけ書いています。

岩田

いま、明かされる衝撃の事実ですね(笑)。

前川

それ以外は基本的に窪田にやってもらいましたけど(笑)。
ですから、「ゲームの内容をどうするか」に
注力するディレクターではなく、人的なものを含めて
「どうやってプロジェクトをモノにしていくか」という
プロデューサーとしてかかわっていたのですが・・・。

前川2

岩田

前川さんは、現場が好きですか?

前川

はい、大好きです!

岩田

気持ちはよくわかります(笑)。
わたしも現役時代にそういう傾向があって、
終盤はうれしそうにプログラムを直していました。

大谷

わたしも本当は俯瞰(ふかん)で
プロジェクトを見る立場ですが、
もとはディレクター出身なので
現場に入ってしまう傾向があります。

岩田

伊豆野さん、いまの話を聞いてどう思いました?

伊豆野

いえ、自分もできれば、
現場に入りたいなぁ、と・・・(笑)。

一同

(笑)

伊豆野

でも結果、チームの総合力がうまくかみあって、
いいものができたと思いますので、
このチームはバランスがいいんだと思います。

岩田

アルファドリームさんは、
任天堂側の意見に対して
「なるほど」と思うことばかりじゃないと思うんですけど、
そういう時はどうしているんですか?

前川

その時はいったん持ち帰って
社内でもんで納得する部分もありますし、
そうでない場合は会議で直接議論します。

大谷

「ここはおかしい」って窪田さんも
はっきり言ってくれるのでやりやすいです。
おたがいに腹立つときは、本当に腹立ちますけどね(笑)。

窪田

そうですね(笑)。

岩田

真剣に考えている人同士の意見が違うと、
一瞬、空気が凍ることがありますからね。

大谷

やっぱり「なぜ?」は必要だと思うんですよね。
とことん話しあって、理由を了解してもらってはじめて
「これはやりましょう」ってなりますから。

大谷3

岩田

ストレスはあるけれども、
そこからでき上がるものはそれだけ太く、
強くなっていくと思います。

大谷

はい。あとは今回、女性陣が
とくに頑張ってくれた印象が強いです。

岩田

このシリーズはとくに
多くの女性のお客さんに遊んでもらっていますよね。
RPGをつくるうえで、女性からの視点の貴重さを
男性陣がどうとらえているか訊いてみたいですね。

大谷

やっぱり女性ならではの視点や配慮が必ずあるので、
自分が気づかない部分に気づきを教えてくれると思いました。
この部分が活きているからこそ
女性の方にも遊んでいただいているのかなぁと思います。

岩田

窪田さんはどう思いますか?

窪田

アルファドリームの女性陣は、
アクションゲームやRPGが苦手な人が多いんです。
だからライトなお客さんの意見としてすごく参考になります。

前川

僕も窪田と同じです。
アルファドリームのバトル担当が
スキあらばどんどん難しくしようとするんですよ。
でも女性陣にテストプレイをしてもらった瞬間に、
「難しい、ダメ!」って速攻で返ってくるんです。
とくに佐野さんの
アクションゲームのダメっぷりが・・・ねっ?(笑)

佐野

・・・そうですねぇ(笑)。
あまりにできないことを信じてもらうため、
会議の席でプロジェクターを使いながら実際にプレイして、
どれだけ失敗するかをみんなの前で見てもらったことがあります。
ルイージの巨大化バトルで、
最後はみんなが応援してくれたんですけど、
やっぱりダメでした。

岩田

佐野さんが、お客さんの実態を教えてくれる
センサーのように機能してくれたということですね。

佐野

でも、わたしのようにアクションが苦手な人でも
“サポート機能”が充実しているからかなり助けられます。
まず全滅したときにその場でやり直せますし、
その場で1回かぎり、マリオやルイージが
一時的に強い状態でやり直せるんです。

窪田

それは「イージーモード」と呼ばれていて、
お客さんが選べるかたちで入っています。

佐野

さらに全滅したあとに同じバトルを
やり直すと「ヒントブロック」も表示されます。
『マリオ&ルイージ』シリーズでは
敵の攻撃のしかたが全部違っていて、
ヒントを見ると敵の弱点や避けるコツなどがわかるんです。
でも、結局は自分で頑張らないといけないんですけど・・・。

岩田

プレイする楽しみは奪わないけど、
どうやったら進みやすくなるかを教えてくれるんですね。

佐野

はい。このほか「ブラザーアタック」(※8)を何度か失敗すると
「スローアタックモード」が発動して、決め技の瞬間、
スローになってタイミングをあわせやすくなります。

※8
「ブラザーアタック」=マリオとルイージが協力して繰り出す強力な攻撃のこと。

大谷

じつは今回、これだけサポート機能を充実させたのは
「RPGはこういう遊びかたです」という説明が
いままで不十分だったことに気づいたからなんです。
通常の『マリオ』はアクションゲームですから、
レベル上げをせず敵を避けて進むことができますよね?
でも『マリオ&ルイージ』はRPGなので、
レベル上げを意識しないと、途中で行きづまってしまうんです。

岩田

どうしても長く仕事をしていると、
価値観が固まって、ある前提が
当たり前になってしまいますからね。

大谷

はい。『マリオ&ルイージ』は
アクション要素のあるRPGなので、
そういったバランス調整は非常に重要なんです。
その点、今回バランスはしっかりとれていると思います。
手ごたえがほしい方には、RPGにはめずらしいですけど、
クリアしたら「ハードモード」が出てくるんです。

岩田

RPGに「ハードモード」ですか?

大谷

はい。上級者の方向けなんですが、
僕らもプレイできないほどの難易度です(笑)。

佐野

これが本当に難しくて・・・
気を抜くとチュートリアルで全滅します(笑)。

岩田

チュートリアルで全滅ですか?
それは容赦ないですね。

大谷

手ごたえはじゅうぶんにありますから、
いろんな方に向けられるものになったと思います。