高橋さんがつくるものの世界観には、
ＳＦ的な要素がたくさん詰め込まれていますけど、
その素養はいつごろ培（つちか）われたんですか？

最初の記憶に残っているのは、
幼稚園に入る前のちっちゃいころに
『キャプテンウルトラ』^（※7）や『ウルトラセブン』^（※8）などを
テレビにしがみついて夢中で見ていたことです。
ああいった番組をＳＦと言っていいのかどうか、
僕はよくわからないんですけど・・・。

ＳＦ（サイエンス・フィクション）は
「空想科学」とも訳されますし、
『ウルトラセブン』も「空想特撮シリーズ」でしたから、
やっぱりＳＦでしょう。

とにかく、ちっちゃいころから
そんな空想特撮ものが大好きで、
自分の原点はそこにあるかなと思います。

もしかして『サンダーバード』^（※9）も
見ていませんでしたか？

もちろん見ていました。

わたしのルーツは『サンダーバード』なんです。
幼稚園児のころでしたけど（笑）。

（笑）。そのあとは、『スタートレック』^（※10）や
『スター・ウォーズ』も大好きでした。
その当時、僕は静岡に住んでいましたので、
映画館に行くと一日中・・・。

昔の映画館は、いまのように
入れ替え制^（※11）ではなかったんですよね。

ええ。地方の映画館でしたから、
１日に何回も見ることができて、
しかも２本の映画を見ることができたんです。
『スタートレック』と『スター・ウォーズ』が
同時にかかったこともあって、
そんなときは一日中、映画館にいました。

そのようなＳＦものの
どこに惹かれたんでしょうね、高橋少年は。

僕はもともと機械いじりが好きだったんです。
だから、機械の描写をするようになって
宇宙船やロケットなどの絵を描いたりして・・・
・・・ああ、いま思い出しました。
どうしてロケットが好きなのかなと考えたんですけど、
これはトラウマでした。
４歳のころ、大阪の万博^（※12）に行ったんです。

１９７０年に開かれた万国博覧会ですね。

僕は「月の石」^（※13）がすごく見たくって、
どうしてもアメリカ館に行きたかったんです。
ところが、岩田さんはご存じだと思いますけど、
ものすごい人だかりで・・・。

アメリカ館は最も長い行列ができた
パビリオンでしたよね。

はい。そのアメリカ館の前で、うちの親父がキレたんです。
「これじゃあ、何時間待っても入れない」って。

（笑）

で、「ほかのところを回ろう」と言い出して、
行列のないパビリオンばかり入りまして・・・。

行列がないというのは
人気があまりないということでもあるんですよね。

だから、どのパビリオンに入ったのか
まったく記憶にないんですけど（笑）。

あははは（笑）。

僕としては、アメリカ館とロボット館^（※14）に
ぜひ行ってみたかったんですが、両方とも行けなくて・・・
それってやっぱりトラウマですかね（笑）。

それはトラウマでしょう。
４５年も前に起こった
悔しい出来事を覚えているくらいですから（笑）。

ちっちゃいころのトラウマといえば、
もうひとつありまして・・・。
どうしても欲しかったロボットのおもちゃがあったのですが
それを親父に買ってもらえなくて、
大泣きしながら帰ったこともありました。
そのくらいロボットも大好きでしたね。

ロボットが大好きということは、
やはり『ガンダム』^（※15）などにもハマったんですか？

もちろんハマりました。うちの息子からは
「ガンオタ」と呼ばれてるくらいですから（笑）。

「ガンダムおたく」なんですね（笑）。

そうなんです。

つまり、「月の石」を見られなかったり、
ロボットのおもちゃを買ってもらえなかったことが
トラウマになるほどの悔しさにつながり、
それが、のちに高橋さんがＳＦ世界に没入していく
原動力になったのかもしれませんね。

そうですね。逆に言うと、もし、あのとき
アメリカ館に入ることができたら、
ちょっと違う人生を歩んでいたかもしれません。
ですので、そういうトラウマ経験もあって
『ガンダム』に限らず、
ＳＦ好きの少年が通る道は、
ひととおり通ったかなとは思っています。

そもそもＳＦって、
設定の矛盾とかもいっぱいあって
ツッコミどころが満載ですし、
そういうことを語りはじめると
またおもしろくなるんですよね。

そうなんです。
たしか中学生のころだったと思いますけど、
『スターログ』^（※16）とか、ＳＦ雑誌があったじゃないですか。
そういう専門誌を読んでは、理論武装をして、
それなりにお話を考えたりとか、
自分なりに表現するようなこともはじめていました。

たくさんインプットして、自分のなかにたまったものを
どんどんアウトプットするようになったんですね。

はい。

ちなみに、先ほど
「機械いじりが好きだった」ということでしたが
具体的にはどんなことをしてたんですか？

家電製品なんかを分解していました。
もちろん岩田さんもやってましたよね？

わたしも好きでしたよ、当然（笑）。

ただ僕の場合、家のステレオを分解したりとか、
テレビを分解したりとか、
かなり危険なことをやってたんです（笑）。

テレビは内部に高電圧が掛かっているところがあって、
危ないですからね（笑）。

家に大きくて豪華なステレオがあったんですけど、
それをばらしたあと、もとに戻らなくなりまして（笑）。
そのときは親父にすごく怒られました。

そのときも、お父さんはキレたんですか？

はい。たしか、逆さづりにされた記憶があります。
押し入れの中で（笑）。

あははは（笑）。
それはいくつくらいのときですか？

幼稚園くらいだったでしょうか・・・。

幼稚園、ですか？
幼稚園児でステレオを分解するというのは、
かなり早熟かもしれませんね（笑）。

とにかく、ねじを見ると、
はずしたくなる子どもだったんです。
中がどうなってるのか、すごく興味があったんですね。

電子回路の工作とかはしましたか？

電子回路と言っていいのかわからないですけど、
なんとかブロックという名前の・・・。

「電子ブロック」^（※17）ですね。

ええ、電子ブロックです。あれはよく遊びましたね。

電子ブロックはとても高かったので
わたしは買ってもらえなかったんですけどね（笑）。
それにしても、高橋さんとわたしは、ちょっと歳が違いますが、
共通の体験をいっぱいしてますね。

そうですね。

まさか万博の話が出るとは思いませんでしたし（笑）。

はい（笑）。

でも、高橋さんの「月の石」じゃないですけど、
万博で未来に触れたという経験をすることで
そののちの人生を変えてる人は
けっこういると思うんです。

けっこういますよね。
昭和３０年代、４０年代生まれの世代には
とくにそんな人が多いと思います。

わたしは３０年代生まれで、
高橋さんは４０年代生まれですけど、
子どものころの嗜好がすごく似ているものの、
わたしの場合は、コンピューターのプログラムの道に入って、
札幌に住んでいた高校生のときに、
プログラム電卓^（※18）を触りながら
ゲームをつくるようなことをしていたことが、
のちに、ビデオゲームへのかかわりに
とても役に立ったわけですが・・・。

はい。

一方、高橋さんの場合は、
たくさんのＳＦ作品に触れることで
物語を考えたり、絵を描いたり、という方向につながり、
それが、のちのビデオゲームの世界で表現するときに
とても役に立ったということなんですね。

そう思います。