社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第12回:『鉄拳3D プライムエディション』

目次

4. 「この条件は譲れない」

原田

それと今回、3DSでつくるにあたって、
いままでの層とは違うお客さんを意識しています。

岩田

はい。

原田

それにはキッカケがありまして、
以前、メジャーリーグゲーミング(※13)という
アメリカのプロゲーマー大会を見たとき、
『鉄拳』と『スマッシュブラザーズ』(※14)の部門があって、
そのお客さんの層と反響に衝撃を受けたからなんです。
『鉄拳』にはそれこそ18歳以上、
上は40歳近くのムキムキの男たちが集まっていたんです。

岩田

『鉄拳』の中に出てきそうな人たちが
実際にいたわけですね(笑)。

原田

そうです。「お前が闘ったほうが早いだろ!」
という人ばかりだったんですけど(笑)。
一方、『スマッシュブラザーズ』は大人から子ども、
女性まで、和気あいあいとプレイするのかと思いきや、
「うぉおおお!!」とすごい歓声を上げて
勝ち抜き戦をやっていたんです。
それを見て、『スマブラ』も『鉄拳』も、
対戦ゲームに対してお客さんの感じるものは
絶対に同じだなと思いました。

※13
メジャーリーグゲーミング=北米最大のゲームのプロリーグのひとつ。
※14
『スマッシュブラザーズ』=『大乱闘スマッシュブラザーズ』。1作目は1999年1月、NINTENDO64用ソフトとして発売された対戦アクションゲーム。

岩田

多分、表現は多少違っていても、
脳が快感を得ている部分は共通なんじゃないでしょうかね。

原田

それを見て、
「この人たちにも『鉄拳』を遊んでほしい!」と思ったことが、
3DSで出すキッカケのひとつでした。

岩田

3DSというハードで『鉄拳』をつくる際、
いちばん意識されたところはどこですか?

原田

僕は『鉄拳』の映画(※15)もちょうど制作していたので、
最初から「映画もソフトに入れたい」と思っていました。

※15
『鉄拳』の映画=2011年9月3日に公開された、劇場版3DCG映画『鉄拳ブラッド・ベンジェンス』。本作『鉄拳3D プライムエディション』に、この映画が全編収録されている。

岩田

映画を入れることは最初から決めていたんですか?

原田

はい。じつはそれをいちばん意識したところで、
いいものでも、入り口を何個も開かないと見てもらえません。
だから楽しそうに感じてもらうには、
純粋な格闘ゲームだけを
突きつめたままではダメだと思っていたところ、
ちょうど『鉄拳』の映画を3Dでつくっていたので、
それが大きな扉になると思ったんです。

岩田

まるで、いくつもの物がスーッと吸い寄せられた感じですね。

原田

そうなんです。
だから格闘ゲームはしばらく遊んでいなかったけど、
ちょっと興味がある人たちにも届くといいなと思っています。
パッケージにもキャラクターをなるべくたくさん出したり、
映画も入っていることを言いつつ、
「いままでの『鉄拳』とはひと味違うぞ!」
という感じでアピールしたいと思っています。

岩田

昔は格闘ゲームをやっていたけれど、
いまはついていけない、という人が
けっこういらっしゃる気がしますよね。
池田さんは最初からかかわっていたんですか?

池田

いえ、僕はちょうどその時期、
『鉄拳タッグトーナメント2』(※16)の追い込み時期だったので、
原田さんが別で動いていて、アリカ(※17)さんと
共同開発をすることにしました。
僕は去年の7月ごろから加わりました。

※16
『鉄拳タッグトーナメント2』=2011年9月にアーケードゲームに登場した、3D対戦型格闘ゲーム。
※17
アリカ=株式会社アリカ。日本のゲーム制作会社。

原田

そのとき、技術的にこだわったのは
「秒間60フレーム(※18)、これは死守」ってことでした。
「立体視にしたときカクつくよね」と言われてしまえば、
「『鉄拳』ってそういうゲームだ」
という印象になってしまいますから、
この条件は最初から絶対に譲れませんでした。

岩田

『マリオカート7』(※19)チームも同じことを言ってました。
それが最終的な操作の気持ちよさにつながるんですよね。

※18
秒間60フレーム=1秒あたり、60コマの画像を使って動画を動かすこと。1秒あたりのコマ数が増えるほど、映像の動きがなめらかになる。なお、本作『鉄拳3D プライムエディション』では、通信プレイ時も秒間フレーム数は60フレームだが、3D表示には対応していない。
※19
『マリオカート7』=2011年12月、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたアクションレースゲーム。

原田

そうなんです。
秒間60フレーム前提で
アニメーションをつくっているので、
秒間30フレームにして半分に間引いてしまうと
技の見栄えがしないんです。
最初はそれができるかどうか、
ずっとドキドキしていました。

池田

それに映画も入れるということで、
容量との戦いもありました。
あの映画は3Dなので、
そもそものデータ量が膨大なんです。
だからゲームの容量を確保しつつ、
映画もつめ込んで、さらにゲームをプレイしながら
すぐ映画を見られるようにするところが、
今回いちばん大変でした。

原田

はじめ、プログラマーさんにもアリカさんにも
「ふざけるな!」って言われてしまったんです(笑)。
ただ、我々は3Dの『鉄拳』映画は、
3DSの立体視と相性がいいと予想していたんです。

岩田

そうなんですね。

原田

CG映画は3Dメガネをつけると
画面がちょっと暗くなっちゃうんですが、
3DSなら画面の大きさ的にも、
裸眼で見られるという点でも見やすいんです。
かなり大きなアクションでも
目がついていけるんじゃないかというところで、
相性がいいはず、という確信がありました。

岩田

実際にソフトが手のひらで動いたとき、
どんな印象でしたか?

原田

まず僕がやったのは、
これが本当にゲームカードから流されている映像なのか、
確かめることでした。
最初、何度も3DS本体を裏返して、
何もつながっていないことを確認したんです(笑)。

岩田

このゲームカードから本当に映像が出ているのかを
裏返して確かめた、ということですか?(笑)

原田

はい(笑)。
こんなにセレクトできるキャラクターがいて、
こんな長い映像が入っていて、すごいボリュームですから、
ゲームカードに本当に全部入っているのかと思いまして(笑)。
でも、ほんとにここから出ているんだなぁ・・・と。

岩田

いままで短編映像はあっても、
3DSのゲームカードに長編映像が入るのははじめてですからね。

池田

あのとき、原田さんが何度も
3DSをひっくり返して裏側を見ていたので
「何をやってるんだろうなあ」と思ってましたけど・・・。
いま、そういうことだったんだとわかりました(笑)。

原田

ゲームカードから出ているのを確認して、
すごいなと感動していました(笑)。

岩田

どこにでも持っていけるもので
こんなことができるようになったんだ、と
素朴に感動されたんですね(笑)。

原田

職場や学校でゲームをプレイするのは難しいですけど、
映画の1シーンを相手に見せて、
「これ何?」「『鉄拳』だよ」という感じで
ひとりでも多くの人に知っていただけたらと思っています。

岩田

映画を3Dでつくっておいてよかったと・・・。

原田

本当にそう思います。