社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第13回:『THEATRHYTHM FINAL FANTASY』

目次

4. 心の一曲を

岩田

間さんは『シアトリズムFF』を
ひとことで人に伝えるとき、
なんと言って説明されているんですか?

それも難しいんですよね・・・。
ずばりそのまま言うと、
「『FF』の音楽ゲームです」と
いうことになるんですが・・・。

岩田

ひとことではなかなか
自分が最初につくりたいと思ったものを、
100%伝えられないですよね。

そうなんです、そこがもどかしくて(笑)。
店頭ポスターなどでは
「思い出を自ら奏でよう」という
キャッチコピーを付けています。

岩田

まぁ、ひらたく言ってしまうと、
『FF』を一度でも遊んだことのある人がさわると、
“そのときの気持ちを思い出せるソフト”なんですね。

あー、もう、その通りです(笑)。
あとはもう、新しい体験版もあることですし、
「さわってみてください!」に尽きます。

岩田

つくづく感じるのは、
音楽と映像の組み合わせというのは、
記憶を想起させる力が
本当に強いんだなということなんです。

そうですね。最初は漠然と、
音楽と映像で『FF』の感動を再現しようという
アイデアから生まれたものなんですが、
最終的にはスタッフそれぞれの想いもありますし、
遊ぶ人たちの記憶がまた、
絶妙な隠し味になっていると思います。

岩田

今回、野村さんもスタッフの一員、
クリエイティブプロデューサーとして
参加されていますが、なにか印象的な
アドバイスやリクエストはありましたか?

内容に関してはもちろん多々ありましたが、
売りの部分でもアイデアを多くいただきました。
じつは、さきほどのキャッチコピーも
野村が自分で手がけたものなんです。
パッケージのデザインもチェックしてますし、
あと『シアトリズム~』というタイトルの
名付け親も野村なんです。
シアター(劇場)でリズムを奏でる、という造語です。

岩田

耳に残るし、わかりやすいですね。

あとは、「体験版をやろう」って
いちばん最初に言ったのも彼だったんです。
「さわってもらえれば絶対よさがわかるから」って。
アイデアを思いつくたびに、
突然電話がかかってきたりもしました(笑)。

岩田

間さんの思いが、野村さんのなかに
響いているんですね、きっと。
自分にとってもつくりたかったものを、
間さんが初めて形にしている様子を見て、
自然と口も手も出てしまうんだと思います。

すごくありがたかったです。
たぶん「自分で好きにやらせてほしい」と言う人も
いると思うんですけど、自分はやっぱり
“みんなでつくってる感”がほしかったので、
彼のひとことひとことが、すべて嬉しかったし、
すべて役立たせてもらいました。

岩田

わかりました。
ところで今回は楽曲のダウンロード販売という
取り組みがあるんですが、
これはどんな経緯で実現したんですか?

さきほどお話したとおり、
収録楽曲は基本アンケートで
人気があるものを選んだんですが、
シリーズ単位の構成上の違和感から、
どうしても入れられない曲が出てくるんです。
そういった曲は悩んだ末に外したんですが、
そもそもの容量として入れられる曲数にも限度があるので、
いろいろと取捨選択が必要でした。
でも、開発の後半に、
ダウンロード販売の可能性のお話を聞き、
やっぱりお客さんの声にお応えしたかった、
というのが理由のひとつです。
それにもうひとつは、
やっぱり初めてのチャレンジを
任天堂さんとやりたかった、というのがあります。

岩田

ニンテンドー3DSとしては
パッケージソフトで追加コンテンツを
ダウンロード販売するのは初めてですからね。
わたしもそこはどんな風にお客さんに受け入れられるか、
楽しみにしています。
ちなみに、最初から収録されている楽曲数は
どのくらいあるんですか?

具体的な数は秘密ですけど、
70曲以上あって、これだけでもたっぷり遊び込める
ボリュームになっています。

岩田

でも逆に言えば、もとからそれだけ入って、
さらに遊びたい曲があるというのは
『FF』シリーズの音楽資産がどれだけ豊富か、
というのがとてもよくわかりますよね。

それはありますね。
それに今回のケースは
遊ぶ方のスタイルにもよると思うんです。
「ぜんぶほしい」とか、
「自分の好きな曲だけやりたい」とか、
いろいろな場合がありますから。

岩田

それは音楽ゲーム共通の悩みでしたからね。
楽曲に対してのお客様の嗜好がバラバラなので、
満足度やおもしろさに絶対というものはないんですよね。

はい。当然、まずは商品単体で
十二分に遊び尽くせるものである必要があって、
そのさきは、お客さんの好みで自由に選択して、
という遊び方をしてもらえると嬉しいです。
あと、今回はすれちがい通信(※16)
“プロフィカ”っていう、
自分のプロフィールのカードみたいなものを
交換できる仕組みがあるんですけど、
そこに自分のいちばん楽しんでいる曲名が
表示されるようになっています。

※16
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。

岩田

ああ、それはおもしろいですね。
人によって、遊び込んでる楽曲は絶対違うから、
そこから“心の一曲”談義が始まりそうです。
ワクワクしますね。

そうなんですよ!社内でも
「間さん、なんで××が入ってないんですか!?」
とかって、よく言われるんです。
そのあと、かなりの確率で談義になります(笑)。

岩田

ちなみに、間さんの“心の一曲”は何ですか?

とても難しい質問なんですけど、
最初にお話した『VI』の“ティナのテーマ”です、
1曲だけ選ぶとしたら。

岩田

やっぱり原体験があるものが強いんでしょうね。
でも楽曲だけでそういう談義に花が咲く、
というのは、考えてみればすごいことですよね。

そう思います。
それこそ、初めて任天堂さんに
この企画をプレゼンさせていただいたときも、
窓口担当の方からの第一声が、
「これ“反乱軍のテーマ”(※17)入ってますか?」
でしたから(笑)。

※17
反乱軍のテーマ=『ファイナルファンタジーII』の楽曲。

岩田

いきなりリクエストしましたか(笑)。

はい。それを聞いたときに、
「あぁ、この企画は大丈夫だ」って、強く思いました。
もちろん“反乱軍のテーマ”、入ってます(笑)。