社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第19回:『ルーンファクトリー4』

目次

5. コツコツつくる喜び

岩田

『牧場物語』や『ルーンファクトリー』は、
海外展開もされているんですか?

はしもと

はい。とくに『牧場物語』は
日本よりも多く売れたタイトルもあります。
のんびり遊ぶゲームなので、
ちょっと意外な感じはしますよね。

岩田

少し似たようなジャンルのゲームで、
任天堂が『どうぶつの森』(※17)をつくったとき、
わたしはまだ任天堂の人間ではなかったんですが、
「海外では受け入れていただけるんだろうか?」と思っていたんですね。
でも日本ほどではないにしても、
非常に広く、受け入れていただいたんです。

※17
『どうぶつの森』=2001年4月にNINTENDO64用ソフトとして発売された、コミュニケーションゲーム。

はしもと

海外の比較的都市部の方のあこがれのひとつに、
「将来田舎で何エーカー(※18)もある、
 大きな畑を持つのがステイタス」みたいな
ところはあるみたいですね。
遊んでいる方の声を見てみると、
「いつかは畑を持ちたい、でもいまはこれだ」って
楽しんでいらっしゃる方もいます(笑)。

※18
エーカー=ヤード・ポンド法の面積の単位。

岩田

なるほど(笑)。

はしもと

『ルーンファクトリー』のほうは
『牧場物語』とはまたちょっとちがうんですけど、
いわゆる“牧場テイストのゲーム”として、
受け入れていただいているようです。

岩田

日本と海外のお客さんのちがいって、
ほかに何か感じられることはありますか?

はしもと

いろいろあるんですけど、
日本の方のほうが、
比較的地味な作業というか、
何かをずっと続けることや、
整とんすることが好きみたいですね。
とくに、女性の方にその傾向が多いようです。

岩田

コツコツやり続けて実を結ぶことって、
日本のお客さんはわりと好まれるんですよね。

はしもと

畑仕事なんかも、
たとえば5日で収穫する農作物があるとしたら、
日本の方はその日々の世話や成長の過程も
喜びとなって楽しまれている印象がありますけど、
海外の方からはけっこう、
「なんで次の日に収穫できないんだ?」って
言われたりしますね(笑)。

岩田

そこは、国民性のちがいなんでしょうか。

はしもと

そうでしょうね。
でもそこはやっぱり、変えられないんです。

岩田

きっと愛着がすごく変わりますよね。
1週間手間ひまかけてやっとできたものと、
1日で簡単にできるものとでは。

はしもと

たしかに、ゲーム的に言えば、
“作物が一瞬で育つ薬”とか、
「お金をかせいだらトラクターでも買って、
 一気につくれたら楽でいいじゃないか」って
スピードや効率を上げる発想もあると思います。
ただ、そういったことを実際、
研究でためしてみたこともあるんですが、
そうやって得た達成感って、まったく別物なんです。
アクションゲームで言うと、
ボーナスステージで無敵状態というか・・・。

岩田

わかります。

はしもと

だから、自分の手で土を耕して、
種をまいて、水をまいて、収穫する、
っていう一連の流れだけは、
『牧場物語』『ルーンファクトリー』全作を通じて
これまで変えることはしませんでしたし、
これからも変わらないと思います。

岩田

それは根幹のこだわりとして
ぜったいゆずれないテーマなんですね。

はしもと

そうですね。やっぱり
「自分の手で、汗水流してつくる」のが、
農作業の基本だと思いますので、
そこはずっと「残したい」と思っています。

岩田

それでは最後に『ルーンファクトリー4』について、
シリーズのファンの方と、
はじめて興味を持った方、
それぞれにメッセージをお願いします。

はしもと

はい。シリーズファンの方へはまず何より、
「新しいハードのためにつくった、
 新しい『ルーンファクトリー』です」ということを伝えたいです。
『4』という正統新作であると同時に、
集大成といえる内容になっていると思います。
また今回は、女の子の主人公を選べます。
女性のファンの方もぜひ、男性キャラクターとの
「淡い恋愛、甘い結婚」を
楽しんでいただければと思います。

岩田

はい。

はしもと

はじめての方へは、
たとえば『ロード・オブ・ザ・リング』(※19)
ホビットたちが住む村にあこがれるような方に
ぜひ、オススメしたいですね。
ファンタジーの中でも村には普通の暮らしがあり、
そして一歩その外に出ると
冒険がいっぱいあって楽しめる、という。

※19
『ロード・オブ・ザ・リング』=2001年~2003年にかけて公開された、J・R・R・トールキン作の『指輪物語』を原作とする実写映画。小柄なホビットという種族が主人公。

岩田

「あんなファンタジーの世界に、
 自分が入って暮らせますよ」ってことですね。

はしもと

はい、そうですね。

岩田

わたしは今日、『ルーンファクトリー』も『牧場物語』も
もちろん名前は知っていましたし、
ある程度予備知識はあったんですが、
2つのシリーズの成り立ちだったり、
それに対してのはしもとさんのアプローチを、
非常に新鮮に思いました。
そして両シリーズのナンバリング新作を
同時並行でつくりあげたということにも、
ちょっとビックリしました。
お話を訊くうちに謎がいろいろ解けて
おもしろかったです。

はしもと

ありがとうございます。
わたしも、とてもおもしろかったです。

岩田

おそらく、はしもとさんは思いついたことを、
振り分けて考えられる方なんですね。
こっちは『牧場物語』、
こっちは『ルーンファクトリー』みたいに、
無意識に行っていると思います。
そうでないとたぶん、両方同時に進めませんから。

はしもと

そうかもしれません。
あとはよく自分の中で時間を決めて、
考えたりしています。
たとえば19時までは『牧場物語』、
19時から夜中までは『ルーンファクトリー』みたいな感じで。

岩田

忙しくほかのことをしてるときほど、
別のおもしろいことを思いつくことがありませんか?

はしもと

すごくありますね(笑)。

岩田

わたし、決算発表前の忙しいときに、
開発上のすごくいいことを思いついたりして、
「ああ、これをいままとめないと消えてなくなる!
 でも、時間がない!」
って、なることがあるんです。

一同

(笑)

はしもと

脳がぐるぐる回っているときのほうが、
突き抜けたことを思いつきやすいんでしょうね。

岩田

でも本当に、新しい人に出会って、
新しいお話をするたびに、
お互いに新しい発見がどんどん出てきます。
そういう意味で言うと、
わたしは特殊な経験をしてきたので、
訊き手としてめずらしいタイプだとは思います。

はしもと

こんなふうに2つのシリーズを
自分の言葉でひもといて語ることができたのは、
じつは今回がはじめてのことなので、
自分でもいろんな新しい発見がありました。
今日は、ありがとうございました。

岩田

こちらこそ楽しかったです。
ありがとうございました。