社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』

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社長が訊く『ニンテンドー3DS』

本体機構設計 篇

目次

5. 「手袋をはめて何がわかるんや!」

岩田

ところで今回の3DSは、
とても初ものづくしの多いハードになりましたよね?

赤井

そうですね。
ほかにも、たとえば上ぶたの透明感があるところでは、
耐指紋性UV塗装という新しいものを使っています。

江原

表面強度と光沢のある質感を維持しつつも、
なるべく指紋を目立ちにくくするという処理を
今回初めて採用しました。

岩田

触れば指紋はつくんですけど、
耐指紋性UV塗装をすることで、
従来の製品と比べてつきにくくなって、
しかもその指紋が取れやすくなるんですね。

赤井

そうです。布でふくと、すぐきれいになります。

江原

あと、3DSを開いたときに、
これまでとは違う印象にしたいと考えて、
上画面に全面スクリーンカバーを採用しました。

岩田

DSやDSiなどでは、液晶のあるところだけに
透明の板を貼っていたんですね。

江原

3DSでは上画面の液晶がワイドになりましたし、
なにより3D画面をきれいに見せたいということで、
全面スクリーンカバーを採用して、下地の色は黒にしました。

岩田

最初から黒にしようと思ったんですか?

江原

はい。最初に立体視液晶のデモを見たときにすごく感動して
宮武さんと2人で発売時は「黒のほうが登場感があるね」
という話をしていました。
というのも、周りが黒だと、枠から飛び出るような感覚もありますし、
なにより画面に集中できるというところで、
そこは最初からぶれませんでした。

岩田

なるほど。
あと、今回はランプの数が増えましたよね。

宮武

ランプは6つになって、過去最大です。

岩田

DSiのときでもランプは4つでしたからね。
その6つのランプをレイアウトするとき、
デザインの側ではどんな工夫があったんですか?

宮武

DS LiteやDSiのときは
ヒンジのところにランプを並べていたのですが、
今回は6つに増えたということもあって、
電源ボタンのそばに電源ランプを、
3Dボリュームのそばに3Dランプを配置するようにしました。

岩田

たぶん使う人にとって、1カ所にランプが並んでいるよりも、
そのほうが楽だったりしますよね、きっと。

宮武

そうですね。ランプが増えた分、
わかりやすくする工夫をしています。
無線スイッチについても、そばに無線ランプを置いていたり、
使っていて自然にランプの意味がわかるように、
レイアウトしました。
 
おしらせランプについては、
とくに今回の特徴である「すれちがい通信」や
「いつの間に通信」をお知らせするものなので、
ランプが光ったときに最も目立つよう、
ヒンジ部に残してあります。

赤井

あと、初ものづくしということでは
十字ボタンの上にあるアナログのスライドパッドもそうで、
その操作感に関しては、最終的な仕様を決めるのに、
数え切れないくらい何度もトライしました。

岩田

ハード部隊がスライドパッドの仕様を決めても、
ソフト部隊の人たちが使いはじめると、
新たな要望が出てくるんですよね。

赤井

そうなんです(笑)。

後藤

しかもけっこう後半になってからでした(笑)。

岩田

ものをつくる側からすると、
バネの強さはこれくらいがいいと思っても、
ソフトをつくる側からすると、どれくらい動かすと、
どういう値が出てきて、みたいな話になりますので。

宮武

ですから、そのスライドパッドの素材も
E3で発表したものから変更しているんです。
2色成型にして、指が触れる部分はラバー調にしました。

岩田

E3で発表したときは単一の素材でしたけど、
そのあと表面の素材を変えて、2色成型にしたんですね。

宮武

そうです。
感触の異なる樹脂や、パッド形状も数え切れない量を検討しました。
ニンテンドー3DSの顔となるボタンなので、
ソフト開発の方々も含め、できる限り多くの方の意見を反映して
すごくグリップ感のいいものになったと思います。

岩田

ちょうどE3の話が出てきたのでお訊きしますが、
E3の前は、「出展できるかどうか保証できない」と言ってたのに、
ふたを開けてみれば、200台も用意することができましたよね。
どうしてあのようなことができたのですか?

輿石

それはもちろん、スタッフみんなの頑張りが
いちばん大きかったと思いますが、最初の話にも出たように、
デザインがなかなか決まりませんでしたので、
正直なところ「これは間に合わないな」と思いました。
そこで、杉野(憲一)(※11)さんを
「ここまで引っ張っちゃうと、E3で出せる保証がありません」
と少しおどかす一方で、実設計のメンバーに対しては
ビシビシとムチを打つようなことをしてました(笑)。

※1
杉野憲一=任天堂 開発技術部所属。詳しくは、社長が訊く『ニンテンドー3DS』本体コンセプト 篇をご覧ください。

岩田

ああ、そうだったんですか(笑)。

輿石

「この日に、これができていなければ、
絶対にE3には間に合わない」と、
毎日のように言ってました。

赤井

ふつうハードをつくる場合、
あの時期であれば、1週間とか、ひと月といった
大まかな単位でスケジュールを組むことが多いのですが、
今回は1日単位でスケジュールを組んでいたこともありました。

岩田

へえ~、あの時期で1日単位というのはすごいですね。

輿石

それくらい無理がありました。

岩田

どうでした、ムチを入れられた側としては?(笑)

後藤

それはもう、あの頃は余裕がほとんどなくて、
責任感だけで動いていたという感じでした。
僕は今回、初めてメインで設計したということもあって、
どうしてもE3に出したいという気持ちが強かったんです。
なので、その気持ちだけでやりきったように思います。

江原

あと、中国での米山(和夫)(※12)さんの
頑張りもすごかったと思います。
何度も現地の工場を誰よりも行き来してましたから。

※12
米山和夫=任天堂 開発技術部所属。

岩田

超ベテランの米山さんには
社長が訊く「ニンテンドーDSi LL」のときに登場していただきましたけど、
今回も獅子奮迅の大活躍だったようですね。

江原

そうです。米山さんがいなかったら、
E3での実機展示は達成できなかったと思います。

赤井

今回もいろいろ難しい問題に直面したんですけど、
そんなときもかんたんには諦めずに
「必ず解決策があるはずだ」と言うんです。

岩田

「必ずできる」と言って、やり続ける人なんですね。

江原

はい。ふつうは「それはできません」と言われるところを、
「デザイナーがそう言ってるんやから、やらなあかんやろう」と、
そんなことを言いながら、
できるまでずっとずっとやり続けていました。

赤井

しかも、細かいところへのこだわりが
とても強いんですよね。

宮武

そうですね。さっきの話に出た
スライドパッドの操作性や手触り感もそうですし、
とくにボタンの感触については、いつもお客さん目線に立ちながら
すごくこだわっていましたよね。

岩田

わたしは、E3出展用の最初の試作品ができたときに、
ボタンの感触があまりよくない状態だったので、
米山さんが「こんなのをお客さんに触らせるつもりか!」と、
みんなにカミナリを落としたという話を聞きましたけど(笑)。

赤井

はい、そういうこともありました(笑)。

輿石

実は中国でも同じようなことがあったんです。
量産のためのラインでチェックをするときは
指紋がつかないように手袋を着ける必要があるんですね。
それで赤井さんが手袋をはめて
ボタンのチェックをしていたら、米山さんから
「手袋をはめて何がわかるんや!」と怒られまして・・・。

一同

(笑)

岩田

中国の工場でカミナリが落ちたんですか(笑)。
まあ、確かにボタンの感触は手袋をしているとわかりませんから。

赤井

でも、自己弁護するわけではないんですけど
実はあの話には伏線があるんです。
僕にカミナリを落とす以前の話なんですけど、
米山さんが現地で手袋を着けて確認しているところに、
製造本部長の永井(信夫)さん(※13)がたまたま視察に来て、
「手袋していたら感触わからへんやろ!」
と言われたことがあったそうで・・・。

岩田

あははは(笑)。

※13
永井信夫=任天堂代表取締役専務。製造本部長として宇治工場を統括。

赤井

その話からはじまっているんです(笑)。
それ以降、ボタンのチェックは
「手袋をとって確認しろ」ということになったんです。

岩田

後から入って来る後輩に対しても、
みんなで「手袋をとって確認しろ」と言うんですね(笑)。

赤井

はい(笑)。

後藤

とにかく、米山さんはすごくバイタリティがあるんです!

輿石

現場にはいつもいちばんに入っていくようなところがありますし、
自分で触らないと気がすまないところもあるんですね。
だから「いつも、元気だなあ」と思っています。