4. 番外編『バンブラ』が出来るまで

岩田

少し時間があるので訊きますけど、
ゲームボーイの時代から開発していた「バンブラ」ですが、
具体的にはどんな紆余曲折があったのですか?

北村

最初はダンスゲームをつくるつもりだったんです。
当時はその手のゲームがとても流行っていましたし。

岩田

どうしてダンスゲームではなくなったのですか?

北村

ダンスができなかったんです。
スタッフの誰ひとりとして。

一同

(笑)

岩田

そもそも無謀な企画だったんですね。

北村

わたしはもともとデザイナーですし、
ゲームをつくったことは一度もありませんでした。
そこで、冷静になってスタッフを見回してみると、
楽器を趣味にしている人たちがいたんです。
それで、ダンスはダメだけど、
バンドのゲームだったらつくれるんじゃないかと・・・。

岩田

・・・。迷走すべくして迷走したんですね。

北村

でも、当時はとても本気でした。

岩田

何とかバーバラを世に出したいと・・・。
その想いにサウンドチップが結びついて、ダンスはダメだけど、
楽器ならなんとかなりそうだと思ったんですね。

北村

たしかに発想は安直でした・・・。
カートリッジの容量が小さいゲームボーイカラーでしたので、
すべての楽器音を入れるのは不可能なことがわかりましたし。
そこで何とかしなきゃと思って、
考えついたのが、楽器別にカートリッジを出すアイデアで・・・。

岩田

それもまた安直な発想ですね(笑)。

北村

でも、異なる楽器のカートリッジを持ち寄れば、
合奏ができるようになるというそのときの発想が、
『バンドブラザーズ』の原型になっているんです。
ゲームボーイアドバンスで開発することになると、
いくつかの問題点も解消されて、
2001年には、東京ゲームショウにも出展できましたし・・・。

北村

ただ、本体のスピーカーからは
自分が演奏する楽器の音しか聞こえませんでしたので、
セッションをしようとすると、
お互いの演奏の音が聞こえなかったんですね。
そこで、別途スピーカーを同梱しようと。
あれはビジュアル的なインパクトが
すごくあったと思ったんですが・・・。

岩田

たしかにこのソフトは、
プレゼンテーションを見てるだけでも、すごく魅力的なんですよね。
北村さんを含む開発スタッフのみなさんは、とても楽しそうに演奏していましたし、
社内のずいぶんいろんな場でプレゼンテーションしてもらいましたよね。

北村

はい、プレゼンテーションのインパクトを強めるために、
どんな演奏をすればいいのか、と合奏の練習ばかりしていた時期もありました。
仮装して演奏に出て行ったこともあります。

岩田

山内社長(当時)の部屋で合奏したこともありましたよね。

北村

あのときのことは、緊張したことしか覚えていません。

岩田

開発が中止になったときはいかがでしたか。

北村

本当にショックでした・・・。
だから、岩田さんが社長になってしばらくしてから、
アンケートが送られてきたときは、
溺れる者はわらをもつかむというか
渡りに舟というか、そんな感じでした。

岩田

アンケートというのは、任天堂の開発部門で働くみなさんが、
現状をどんなふうに考えてるのか知りたくて、
全開発スタッフにメールで質問を送ったことがあったんです。
99パーセントの人たちは、わたしの質問に対し、
とてもまじめに答えてくれましたが、
アンケートとは無関係なことを長々と書いてきた人もいて・・・。
その1人が北村さん(笑)。

北村

「『ゲームボーイミュージック』を
もう一度やらせてください!」って。

岩田

しかも長々と(笑)。

北村

あのアンケートがなければ、『バンブラ』が世に出ることは
たぶんなかったんじゃないかと思っています。
それに、タイトル名も岩田さんのアイデアでしたし。

岩田

誰が見ても、『大乱闘!スマッシュブラザーズ』に似てますよね。
普通は反則ですね(笑)。
『バンブラ』と略して多くの方に親しんでいただければいいなぁ、と考えたんです。

北村

わたしは「バーバラ」と『バンブラ』の語感が似てるから、
すごくいいなあって思いました。

岩田

そもそも、バーバラはどのように生まれたのですか?

北村

わたしたちとしては、
ありきたりのキャラクターにはしたくなかったんです。
もともと、これまでの任天堂にはいなかったような
キャラクターをつくりたかったんです。

岩田

だから、ちょっとトゲがあるんですね。
でも、最初に描いたときは
誰もゲームに使ってくれなかったバーバラも、
今や『えいご漬け』や『大乱闘!スマッシュブラザーズX』など、
『バンブラ』以外のゲームにも登場するようになりましたね。

北村

はい。すごくありがたいです。

岩田

どのようにして、
バーバラのあのような性格が決まったのですか?

北村

最初は単なる悪役のようなイメージで描いたんですけど、
性格に関しては、わたしだけがつくりあげていったのではなくって、
スタッフみんなの手であのように仕立てあげられてしまったんです。
それに、とても便利なキャラクターでもあるんですね。
ゲームの中で都合が悪いことは、すべてバーバラのせいにできちゃいますから。
セリフは誰が書いても、なぜかちゃんとバーバラの言葉になります(笑)。

久馬

でも、僕がテキストを書いて北村さんに送ると、
戻ってきたときはしっかりバーバラ口調になっていましたよ。

北村

えーっ、わたしはほとんど手直ししていないですって。

岩田

じつはわたしも、この企画は強引に突破したいと
思っているときの北村さんがバーバラとダブって見えることがあるんです。
いつもは違うんですけど、ときどき何かが乗り移ってる感じが(笑)。

北村

乗り移るんだったらアイドルのほうがいいです!

一同

(笑)