4. チャロをゲームに

岩田

長野さんは『リトル・チャロ』がゲーム化されると聞いたとき、
どう思われましたか?
クロスメディアとしては正しい方向性だとは思いますけど。

長野

まさにおっしゃる通りです。
最初に『リトル・チャロ』のプランニング表を書いたんですけど、
そのときからゲーム化されればいいなぁと考えていました。

岩田

最初から長野さんの構想にあったんですね。

長野

はい。テレビやラジオだけでなく、
いろんなメディアに展開するという構想のなかに、
ウェブとか携帯などもあって、
そういったことはNHK内部でもできますけど、
ゲームになるとNHKではなくなってくるわけですね。
ですから、NHKエデュケーショナルがコンテンツを提供して
任天堂さんがゲーム化する、ということが決まったときは、
「やった!」という喜びがありました。

岩田

どうしてゲーム化したいと考えていたんですか?

長野

やはりテレビやラジオというメディアは、
情報の流れが、どうしても一方通行になりがちなんです。
テレビを見ているだけだと、
見るだけで終わっちゃうこともありますので。
ところがゲームですと、ウェブや携帯でもそうですが、
インタラクティブな部分があります。
こうしたメディアも取り込むことで
英語の学習を立体的にすることが可能になると思ったんです。
ゲームだと、自分で考えて何かのアクションを
起こさないといけませんし。

岩田

ゲームの場合は、自分で考えて
操作しないと先に進みませんからね。

長野

そういった機能が、
英語学習に求められる要素のひとつだと考えているんです。
だから、テレビとかラジオとかだけではできない部分を、
ゲームで補完できると思ったんです。

岩田

なるほど。
純名さんはゲーム化の話を聞いて、どう思われました?

純名

実はわたしもずっと望んでいたことなんです。
「ゲーム化の話はないんですか?」と、
わたしからも聞いたりしていたくらいなんです。

岩田

え、そうなんですか? ありがたい話ですけど
ちょっとできすぎな回答のような気がします(笑)。

純名

実はわたし、携帯電話で参加するチャロの特番(※7)を見ながら
実際に参加していたときに、自分からアクションを起こすということが、
こんなにも面白いことなんだと実感したんです。
点数がバーンと出ちゃうと、もっとやる気になりますしね。
ただ、いままでも、英語の教材のようなゲームは
たぶん出ていたと思うんですけど・・・。

※7

携帯電話で参加するチャロの特番=2008年度に4回、2010年度に1回、NHKで放送された『リトル・チャロ』の特集番組。生放送で出される英語問題に携帯電話で回答する、双方向型クイズ番組。回答は瞬時に集計され、正解不正解のほか、全国順位などがわかる。

岩田

ええ。もちろん出ているんですけど、
これまでの英語教材のソフトというのは、どっちかと言うと、
「これで勉強しなさい」というタイプのものが多いんです。
でも、それって相性が合わないと
“苦行”のようになってしまうこともあるんです。

純名

確かにそうですね。

岩田

もちろん、目標がすごくはっきりしている人は、
そんな苦行も乗り越えて、しっかり目的を果たすんですけど、
「なんとなく英語ができるようになりたい」みたいな
取り組み方だと負けちゃうんですね。
ところが今回の『リトル・チャロ』のアプローチの仕方は、
教材としてはこれまでにないタイプのものになっていて、
ちょっと珍しいと思うんです。

純名

ストーリーを楽しみながら英語が学べるというものは、
ほかのゲームにはないかもしれないですよね。

長野

ただ、どんな英語教材でも、
それだけで英語がペラペラになるということは、
たぶんないと思うんです。
でも、『リトル・チャロ』は
まさに岩田さんがおっしゃったように、
英語の勉強をしたいと思いながらも、途中で挫折してしまったり、
毎日真剣に、何時間も苦行したくないというような人でも、
「これなら続けられる」とか、
「最後までいった」というような達成感を
感じてもらえるんじゃないかと思うんです。

岩田

その結果、英語が前よりも好きになったり、
いままでわからなかったことがわかったり、
たとえば字幕つきの洋画を観たときも、
「あ、いま言ったことがわかった!」
みたいなことが起こると面白いですよね。

長野

そういうことですね。映画を観ていて、
「あれは『チャロ』に出ていたセリフといっしょだ」
みたいな発見でもいいんです。
そういう小さな喜びが、次につながると思うので。

純名

その結果、英語にもっと興味が出てくるんですよね。

長野

そう、そうすると「苦行もしてみようかな」という気になって、
そこから本格的にスタートしてもらえればいいなあと。
そういう気持ちになっていただければ、
『リトル・チャロ』としては目的を果たせたかなと思います。

岩田

わかりました。ありがとうございました。
それでは最後に、『リトル・チャロ』のことを
すでにテレビやラジオなどでご存じの方と、
ご存じじゃない方のそれぞれのお客さんに対して、
ひとことずつメッセージをお願いできますか?

純名

『リトル・チャロ』を知らない方に対しては、
「まずはゲームとして楽しんでください」とお伝えしたいです。
「キャラクターを動かして、そしたらいつの間にか、
英語が好きになっているかもしれませんよ」と。
それから、すでにご存じの方に対しては、
今回のゲームは、2008年から1年間放送された
最初の『リトル・チャロ』のストーリーをもとにしているので、
どこまで自分の英語力が上達しているかを確かめる意味でも、
ぜひ試してほしいですね。

長野

わたしは知ってる人にも知らない人にも、
実は同じことを申し上げたいんです。
『リトル・チャロ』に興味を持ってください、
『リトル・チャロ』の世界を楽しんでください、ということです。
で、楽しんだり、興味を持ったりしていただければ、
もれなくオマケのように英語がついてきますので、
とってもお買い得ですよ、と。

岩田

「英語を勉強しよう」と肩ひじを張らずに、
まずはこの世界観を楽しんでください、ということですね。

長野

そうです。それで、先ほどもお話ししましたように、
もともと『リトル・チャロ』はクロスメディアの企画ですので、
この世界を楽しむために、テレビであっても、
ラジオであっても、本であっても、ウェブであっても、
どこから入っていただいてもいいんです。
そこで今回のゲーム化によって、
入口がまたひとつ増えたように感じています。

純名

『リトル・チャロ』の世界がより身近になりますね。

岩田

DSはどこにでも持っていけますし、好きなときにできますから。

長野

ええ。それで今回のゲームで『リトル・チャロ』を知った方が、
「こんなに面白い世界だったら、別のもやってみたい」と、
テレビアニメをご覧いただいたり、
ラジオにチャレンジしてみようかなという動きがあってもいいですし、
そのようにメディアのハシゴをしていただいて、
この世界をどっぷり楽しんでほしいというのが、
プロデューサーとしての願いです。

岩田

わたしたち任天堂は、DSやWiiで
これまで“ゲーム人口の拡大”をめざしてきましたけど、
長野さんが『リトル・チャロ』でトライされたことは、
“英語の語学番組人口の拡大”そのものですね。

長野

そうです、まさにそういうことですね。

岩田

ですから、今回の『リトル・チャロ』は
もともと “ゲーム人口の拡大”をめざしてつくった
DS用にできたソフトだということで、
何か不思議なご縁のような気がしているんです。
しかも、“苦行”を強いることなく、
英語との距離を縮められるというのが、
このソフトが存在する独自性のように感じますし。

長野

そうですね。
そもそも、人間というのは、楽しんだり、
関心を持ったりすると覚えたり、身についたりするんですよね。
ところが、イヤだと思っていると、なかなか身につかないので、
そういう意味でも楽しんでほしいというのが、
『リトル・チャロ』でいちばん言いたいことです。

岩田

ところで純名さん、ずっと『リトル・チャロ』に関わることで、
英語が身につき、それで変わったようなこともあるんでしょうね。

純名

やっぱり外国の方に会っても、怖気づかなくなりました。
最近は日本でも、外国の方がすごく多いじゃないですか。
京都にもたくさんの方が観光に来られるでしょうし。

岩田

京都は海外から来られる方が多いですよ。

純名

この間も銀座のお店に行くと、
サンドウィッチをお肉なしで欲しいというようなことを、
一生懸命おっしゃってる外国の方がいたんです。
ところが、お店の人に通じていなかったんですね。
そこで You are a vegetarian, right?(ベジタリアンですか?)
と聞いて、代わりにお店の人に伝えたら、
とても感謝されたことがありました。

岩田

それって、チャロが頼る人がいない異国の地で、
心通う友だちができたときと、ちょっと似てますね(笑)。

純名

はい、おんなじです(笑)。

岩田

きっと日本人の大多数の人は、
よほど英語が得意という意識がある人以外は、
外国の人が近寄ってきたとき「わたしに話しかけないで!」
というオーラが出ちゃうと思うんです。

純名

そう思います。

岩田

でも、純名さんからはきっとウェルカム光線が出てますね。

純名

はい、出てます(笑)。なので、いつ話しかけられても、
助けてあげようという気持ちになりました。

岩田

今回のことがきっかけで、そういう人が増えたらうれしいですね。
長野さん、純名さん、今日はどうもありがとうございました。

長野・純名

こちらこそありがとうございました。