3. たっぷりなのに、「ちょっと」

岩田

「理系編」と「文系編」に分ける話になる前に、
過去の『脳トレ』から、どんなことを引き継ぐべきかと
そんな話もしていましたね。

河本

そうですね。
たとえば、従来の『脳トレ』には
セーブファイルが4つあって、
4人それぞれが描いた絵の
展覧会が開かれたりとかして、
みんなで楽しむことができました。

岩田

『脳トレ』には基本的なトレーニングを
楽しむだけでなく、
DSを共有する人たちの
世代を超えたコミュニケーションの
キッカケになるような仕掛けが
いろいろ用意されていて、
展覧会もそのひとつでしたね。

河本

はい。
コミュニケーション自体が脳の活性化に役立つことは
川島先生の著書にいっぱい書かれていて、
そういったことも入れようと。
ちなみに、あの展覧会は
『どうぶつの森』がヒントになってるんです。

岩田

『どうぶつの森』?

河本

どうぶつに書いた手紙が、
「あいつ、こんなの書いてたよ」と
ほかのプレイヤーに見せられるようなことがありますよね。
そういうことを『脳トレ』でもやってみようと。

岩田

なるほど。『どうぶつの森』の手紙が、
『脳トレ』では展覧会とか
漢字の筆跡診断に発展したんですね。

河本

『どうぶつの森』からは、ほかにもいろいろと。
たとえばどうぶつが
「こんにちは、何日ぶりですね」と言いますよね。
あれもそのまんまいただいてますし。

岩田

へえ〜。知らなかった。
あのネタ元も『どうぶつの森』だったんだ。

河本

『どうぶつの森』を見ながら
『脳トレ』をつくったくらいですから(笑)。
 
で、セーブファイルの話に戻しますと、
今回、DSiは自分仕様の「マイDS」がテーマですし、
ふつうにセーブ領域を考えると1個にするのが当然ですよね。
でも、そうすると、これまでのシリーズにあった
コミュニケーションの楽しさが欠落してしまう。
そこで考えたのが保存されるゲストモード(※4)です。

※4

ゲストモード=ゲーム内では「ご家族・お友達モード」という名称です。

岩田

『Wii Fit』などにも入っている
お客さんがお試し的に遊ぶことができるモードのことですね。

河本

ふつう、ゲストのデータは
保存されることがないんですけど、
今回は保存されるゲストを用意しました。
たとえば、脳年齢が残ったり、描いた絵が残せたり、
写真や声も残せたりするんです。

岩田

要するに、人と比べてみたいものを残すと。

河本

その通りです。

岩田

「1人1台」というマイDSの理念を求めつつ、
『脳トレ』の魅力のひとつだった
コミュニケーションのキッカケとなるような部分も
同時に実現することができたんですね。

河本

コミュニケーションと
1人1台という二兎を追いかけたら、
その先に保存されるゲストモードがあったんです。

岩田

では、今回の新作トレーニングについても
訊いてみたいんですけど、
高橋さんは何がおもしろかったですか?

高橋

ひとつ前に見た写真を示すという、
すごく単純なトレーニングなんですけど・・・。

岩田

どんな仕組みなんですか?

河本

まず、写真が左側に1枚出ていて、
この写真を覚えてくださいと言われます。
で、それが消えると
右側のスクリーンに6枚の写真が表示されて、
「さっきの写真はどれですか?」と、
ただそれだけ。かなり単純なトレーニングです。

高橋

本当にすごく単純なんですけど、
次に難易度が上がって、
2つ前に見た写真はどれ?と聞かれたときに、
まったくわからなかったんです。

岩田

わずか2つ前なのに。

高橋

すごいショックなんですね、できない自分に(笑)。
でも、わりと多くの人がそうみたいです。

河本

最初はあまりにできないので
ビックリする人も多いですね。
もちろん、がんばってトレーニングしていくと、
だんだんできるようにはなるんですけど。

高橋

あと、おもしろいのが漢字のシューティング。

河本

漢字の敵が現れて、その漢字を書くと、
シューティングゲームみたいな絵や音でやっつけられるんです。
僕はもともとゲーム大好き人間ですから、
つい力が余って入れちゃいました(笑)。

岩田

これ、脳が活性化したんですか?

河本

しました。もともと漢字のゲームは、
『脳トレ』とは関係ないところで
つくってたんですけど、
ちょっと入れちゃえと(笑)。

高橋

書き順も正確じゃないと
やっつけられないんですよね。
僕、書き順がめちゃくちゃなので。

河本

だから、一般的な書き順を勉強するのにも役立つかもしれません。
文系が漢字なら、理系は数字だろうということで、
理系編には同じような対となる計算のトレーニングも入ってます。
実はこれ、すごく格闘ゲームっぽい絵や音なんです。

岩田

ゲーマーの血が騒いで入れちゃったんですね?

河本

はい(笑)。たとえば「2」「9」と出てくれば、
合計の11を書くとか、そういうゲームです。
レトロなゲームっぽいので
懐かしがっていただけるお客さんも
いらっしゃるんじゃないかなと。

高橋

あとはあれですね、
脳年齢が20歳になった人向けに・・・。

河本

そうですね。
川島先生とふつうに雑談していて、
「脳年齢が20歳になったらやめちゃったという方が
これまでの『脳トレ』にはいらっしゃるみたいなんです」
という話をしたら、すごく悔しがられて。

岩田

川島先生、悔しがってましたか(笑)。

河本

そこで今回は、脳年齢が20歳になると、
ちょっと違った風体の方が出てくるようにしました。

岩田

違った風体の方ね(笑)。

高橋

その方は厳しいご指導をなさるんです。

河本

その方はちょっと厳しい課題を突きつけてきます。

高橋

だから20歳になって飽きてしまった人にも
挑戦しがいがあると思います。

岩田

じゃあ、まずはがんばって脳年齢を20歳にしないと。
20歳は20歳で終わりなんですか?

河本

えー・・・それプラス、ランクのようなものを・・・
違った風体の方がくれるかもしれません。

岩田

2つに分けたのに、ぜんぜん「ちょっと」じゃないですね(笑)。

高橋

遊ぶ時間は「ちょっと」なんですけど、
中身はそれなりにしっかりとモノが詰まっています(笑)。

岩田

河本さんの中で、この『ちょっと脳』は
シリーズ3作目という感じはあるんですか?

河本

『脳トレ3』という感じはないですね。
ニンテンドーDSiの中に内蔵して持ち歩く『脳トレ』に
ふさわしい形にまとめたという感じです。
この『ちょっと脳』をきっかけにして、
いままで『脳トレ』を遊んだことのない人も、
さわってくれたらいいなと思います。

岩田

『脳トレ』シリーズに関して、
「あれだけ売れたんだから、さわったことのない人は
いらっしゃらないのではないか?」
って思っておられる方も多いんですけど、
そんなことはぜんぜんないんですよね。
やっぱり、ハードの普及台数に対して
ソフトの売れてる数ってずっと小さいですから。
 
今回のソフトが発売されて、
「ちょっと」の定義が伝わっていくなかで、
機会がなくて触ったことのなかった人や、
忙しくて、いったんちょっと離れちゃった人にも
改めてもう1回、楽しみながら脳を鍛えていただきたいですね。
みなさん、お疲れ様でした。

一同

ありがとうございました。