5. 欲張り仕様

岩田

「生活リズム計」を
『ポケットピカチュウ』の進化形として
ふさわしいものにするために、
石原さんはまずどんなことを考えたんですか?

石原

名前は「ポケウォーカー」(※24)にしましたけど
やっぱり画面表示は絶対にほしいと思うようになりました。
それで、どんな遊びや仕様を入れたらいいのか、
ゲームフリークに企画書をつくってもらったんですけど、
『ポケットピカチュウ』の3倍くらい濃い仕様書で(笑)。

※24

「ポケウォーカー」=『ハートゴールド・ソウルシルバー』に同梱される歩数計。『ハートゴールド・ソウルシルバー』でつかまえた、好きなポケモン(1匹)を預けられるほか、野生のポケモンを捕まえたり、「どうぐ」を探すこともできる。

森本

濃いものを書いてしまいました(笑)。

石原

ひゃあ、ここまでやるのかと(笑)。
いまからこんなことをやると、
また発売が延びちゃうんじゃないかと・・・。

岩田

(笑)

石原

もともと僕が考えていたのは、
ピカチュウだけじゃなく、
他のポケモンが少し連れて歩けるといいね、と
それくらいのイメージだったんです。

岩田

ところが、ありとあらゆるポケモンを連れて歩けますよね。

石原

それどころか、連れて歩いたポケモンが、
別のポケモンを仲間にして帰ってくるとか。
でも、そういったことは最終的には実現しましたけど、
最初の企画書には、とにかく、
いろんな仕様が盛り込まれていました。

森本

最初にわたしたちが考えたのは、
好きなポケモンを連れて歩けるだけでも
絶対に楽しいものになるということでした。
それだけでも、遊びとしては十分で
とにかくそこはしっかりつくろうと。
さらに、他のポケモンを捕まえられたり
「どうぐ」も手に入れられるようにして、
「ポケウォーカー」どうしでも
赤外線を使って通信できるようにしました。

岩田

デザインもポケモンらしいですしね。

石原

デザインに関しては、
アニメにちょうどいい設定資料があったんです。
もともとモンスターボールがどんな形状なのか
ゲームでは細かな設定がなかったものですから
湯山監督(※25)が提案してくださったんです。
「モンスターボールは最初は小さくて
真ん中のボタンをピッと押したら、
まん丸に大きくふくらんで、
それを投げるというのはどうでしょう」と。

※25

湯山監督=アニメーション監督の湯山邦彦氏。テレビアニメや劇場版「ポケットモンスター」の総監督をつとめる。

岩田

それで、今回の「ポケウォーカー」は
大きくなる前のモンスターボールと
ちょうど同じくらいのサイズ(直径48mm 厚さ13.9mm)に
なったんですね。

石原

はい。
その小さいものを左右3個ずつベルトにつけるのが、
ポケモントレーナーのスタイルなんです。
それとほぼイメージどおりのものになったんですよ。
だから僕としても
「6個つけて歩くのをやりたい」と(笑)。

一同

(笑)

石原

そこで「6個買ってもらうにはどうしよう?」とか。
まあ、でも、さすがにそこまではと(笑)。
ただ、この「ポケウォーカー」で、
まさしく『ファイアレッド・リーフグリーン』の
ワイヤレスアダプタと同様に、
『ハートゴールド・ソウルシルバー』が
より魅力的な商品になったと思いますし、
「コミュニケーションができる携帯玩具」という意味では、
これ自体がDSと通信をして、つながることによって、
成長していくということでもあるんです。
『ハートゴールド・ソウルシルバー』と
「ポケウォーカー」の組み合わせは
その意味でも、とても強いかけ算ができたと思います。

岩田

ただ、正直に言いますと、
普通は、ひとつのソフトのために、
「ポケウォーカー」のようなものは
つくれないんですよね(笑)。

森本

そうですよね(笑)。

岩田

ただ『ポケモン』というソフトは特殊ですし、
“携帯玩具王”石原さんが
「これはいい」とこれほどまでに言うんだから、
わたしとしては、何とかするべきだろうと思ったんです。
もちろん、元になった「生活リズム計」を
そのまま使えるわけでもありませんので
短期間でデザインや仕様を決めるのは
とても慌ただしかったと思うんですけど・・・。

石原

それに「生活リズム計」がなければ・・・。

岩田

できなかったです、絶対。

石原

ここまで到達できなかったでしょうし。

岩田

到達できなかったでしょうね。
ちなみに「生活リズム計」は、
さすがにお風呂に入ったり、
洗濯したりに耐えうるような設計ではないのですが、
汗をかいたポケットに入れたりしても
それには耐えるようになっています。
このような生活防水仕様をちゃんと実現したいということで、
終盤で何度も型を変えて、防水機能のアップをしてたんです。
そういったトライアルがあったからこそ
1ヶ月間、雨ざらしになった
石原さんの愛犬ポキィの
「生活リズム計」も動いたわけで(笑)、
もしそれが動かなかったら、
これを『ポケモン』に使おうなんて
石原さんも閃かなかったかもしれないですよね。

石原

だと思いますね。

岩田

では、そろそろソフト本編について話を訊くことにします。
森本さんは、『金・銀』のリメイクということで
どんなことを考えながらつくられたんですか?

森本

まず第一に考えたのは
10年前に『金・銀』を遊んでくださった人たちの
気持ちを大事にしたいということでした。
「このトレーナーはやっぱり強かった」とか、
「ここでこうしたら、こういう反応があった」とか、
当時、遊んだ思い出や記憶が
すごく強く残っていると思いますので
そういった気持ちを大切にしたいと思いました。

岩田

10年前に遊んでくださったお客さんには
新しくなった『ポケモン』を
懐かしんでプレイしてほしいということですね。

森本

はい。
一方で、当時の『金・銀』はまったく知らなくて、
ゲームボーイアドバンスとかDSから
『ポケモン』をはじめられたユーザーの方も
たくさんいらっしゃると思うんです。
そういった人たちにも
新作ソフトのような感覚で楽しんでいただけるよう
意識してつくりました。

岩田

だから、単なる
『金・銀』のリメイクではないんですよね?

石原

欲張り仕様なんですよ。

森本

今回はめちゃくちゃ欲張っちゃいまして(笑)。
『ダイヤモンド・パール』(※26)
『プラチナ』(※27)に入っていた遊びは
とにかく全部入れてしまおうと。

※26

『ダイヤモンド・パール』=『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』。DS用ソフトとして、2006年9月28日発売。

※27

『プラチナ』=『ポケットモンスター プラチナ』。『ダイヤモンド・パール』の新バージョンとして、2008年9月13日発売。

岩田

『金・銀』には入っていなかった遊びを?

森本

はい。
その意味では、
DSの『ポケットモンスター』シリーズの、
まさに“良いとこどり”になっていると思います。

岩田

さらに「ポケウォーカー」も足されたわけですからね。

森本

だから、スタッフにもかなり無理をさせちゃったんです。
ここはちょっと反省点なんですけど。

岩田

でも、もともとの『金・銀』のなかに、
最新のあらゆるしくみを詰め込もうとすると、
いろいろ都合が悪かったり、
困ったりしたことも少なくなかったんじゃないですか?

森本

それはもう、たくさんありました。
たとえば『プラチナ』で入ったWi-Fiの遊びも、
そのまま移植すれば普通に遊べるんじゃないかと
はじめは、すごく楽観的に考えていたんです。

岩田

Wi-Fiの遊びというのは
たとえば、最大20人のプレイヤーが
同じ広場で同時に遊べるようなことですよね。

森本

はい。
そもそも『金・銀』をベースにして
『ダイヤモンド・パール』、
それに『プラチナ』に入っていた遊びは
全部入れてしまおうというのは、
口ではカンタンに言えるんですが、
そんなに単純なことではないんですね。
まあ、いろんなことができると楽観的に考えるのは、
ディレクターとしてどうかと思うんですけど(笑)。

岩田

(笑)

森本

でも、自分が楽観的に考えていたからこそ
最終的にはやりたいことを
全部詰め込むことができたかなあと思ってるんです。

岩田

今回の欲張り仕様は、
森本さんの楽観的な野望のおかげですか?

森本

いや、がんばってくれたスタッフのおかげです。

岩田

実際、少し前まで、
今日のインタビューに参加できない
という話もあったくらいでしたからね(笑)。

森本

はい。大変申し訳ございません!

岩田

いえいえ、間に合ってよかったです。

森本

はい、ホッとしてます(笑)。