3. 自由研究から生まれた『DS教室』

澤野

博物館以外に、DSの用途を広げる活動のひとつで、
『ニンテンドーDS教室』(※14)も担当していました。

※14

『ニンテンドーDS教室』=専用のニンテンドーDSi LLと専用のPCを使って、無線で先生と生徒がつながる、授業支援システム。

岩田

『DS教室』の開発は、どのようにはじまったんですか?

澤野

だいたい3年ほど前になりますが、技術制作部のなかで、
各々のテーマで進める“自由研究”を提案したんです。
他の人よりも、少し詳しい分野をつくることが目的で・・・。

岩田

技術者として、各々に自分の武器を
持ってもらおうということですね。

澤野

はい。そこであるスタッフが、
オープンソース(※15)の言語やOS(※16)を調べたいと言ってきたんです。
そこで、単に調べるだけでは面白くないので、
オープンソースの特徴を活かせるものを課題に出したんです。
それが『DS教室』だったんです。

※15

オープンソース=ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを無償で公開し、誰でも自由に改良や再配布ができるようにすること。

※16

OS=オペーレーティングシステム。コンピューターシステム全体を管理するソフトウェア。

岩田

じゃあ、これは宮本さん主導ではなく、
自由研究生まれということですか?

澤野

そうです。
ほかにもいま、“自由研究”にはいろいろ成果が出ていまして。
余談なんですが、ニンテンドー3DSのAR(※17)技術もそうなんですよ。

※17

AR=Augmented Reality(拡張現実)の略。ニンテンドー3DSには、内蔵ソフト『ARゲームズ』が収録されており、付属のARカードを認識させると、3Dのゲームを楽しめる。→『ARゲームズ』について、詳しくはこちら。

岩田

へええ、あれも自由研究なんですか・・・。
一般的には、自由研究型の取り組みは、
「テーマ設定をうまくやらないと結果につながらない」と
言われているんですが、澤野さんたちの取り組みは、
成果につながる確率が高いですね。

宮本

一応、“学校の授業に使う”というテーマはありましたよね。
でもどうやるか、具体的なことは決まっていなかったと思います。

澤野

当時、DSの学習ソフトというのが90くらいありまして、
DSを授業に導入されている学校は結構あったんです。
パソコンとDSをネットワークでつないで使うといった、
実験的な授業をされている大学もありまして。
そんななかでわたしたちがスタッフに出した課題は、
なるべく安いノートパソコンを使って、
どれだけ多くのDSを無線でつなげるか、ということでした。

岩田

「教室の生徒さん全員の面倒を見られるパソコンを親機に、
DSを子機にして、実際に教室で使える仕組みをつくりなさい」
というのが課題だったんですね。

澤野

そうです。約半年後に完成したので、
部員50人ほどを、ひとつの部屋に集めて実験したところ、
実際に使える感触を持ったんです。
そのあと学校で実証実験をするわけですが、
そこで3つのラッキーなことが起こったんですよ。

岩田

と、言うと?

澤野

1つめが、“百ます計算”で有名な陰山先生(※18)との出会いです。
あるスタッフの子どもさんが立命館小学校に通っていまして、
たまたま父兄会で陰山先生と雑談を交わしたそうなんです。
それを後日、スタッフがたまたま報告してくれたんです。

※18

陰山先生=陰山英男氏。立命館大学 教育開発推進機構 教授(立命館小学校副校長兼任)。反復練習で基礎学力の向上をめざす“陰山メソッド”を確立。“百ます計算”やインターネットの活用などを積極的に導入する教育法を実現。

岩田

それは、たまたまだったんですか。

澤野

はい、それが陰山先生とお会いするキッカケだったんです。
陰山先生は、デジタル機器を使った教育の第一人者なので、
タッグを組んだことで、その後の展開がすごくよくなるんです。
まずは先生のお口添えで、京都の公立の小学校と、
立命館小学校にDSをお貸しして、実際に使っていただいて、
現場の先生から意見を聞くことができたんです。

宮本

みんな、本業の仕事をやりつつ、
教室システムのほうは副業で動いてくれたんです。

岩田

この提案が面白そうだったから、ということかもしれませんね。

澤野

それで現場の意見を取り入れて、
第二水準まで漢字を書けるようにしたり、
分数や計算の余りを入れられるようにしたりして、
徐々に本格的な仕様になっていったんです。

岩田

いわば、プロの現場で鍛えられたんですね。

澤野

はい。2つめのラッキーは、
「時雨殿」のときに、アクオス(※19)
液晶テレビ70台(※20)を時雨殿向けに一部仕様変更いただいた
シャープシステムプロダクト(※21)さんとつながりがありまして。
そこから、本当にたまたま、
「『スタディ』(※22)というパソコン用学習ソフトをつくっているので、
DSで使えないか」という話をいただいたことでした。

※19

アクオス=シャープ株式会社から発売されている液晶テレビシリーズ。

※20

液晶テレビ70台=時雨殿の床には、百人一首を映し出すため、70面のモニターが敷き詰められている。

※21

シャープシステムプロダクト=シャープシステムプロダクト株式会社。ソフトウェア・ハードウェア等、情報システム関連商品の販売を担う、シャープグループの販売会社。

※22

『スタディ』=シャープシステムプロダクト株式会社が開発した学校教育用ソフトウェアシリーズ。

岩田

その会社さんから学習ソフトのお話を
“たまたま”もらうというのも、すごい偶然ですね(笑)。

澤野

そうなんです。ちょうど、先生方からも
「すべての問題をつくるのは手間がかかってしまう」
という声もあったので、シャープシステムプロダクトさんに
教材をつくっていただくことになりました。
それと学校関係の流通をお持ちでしたので、
販売のほうもお願いしようということになったんです。

岩田

そのあとは、おとなりにいる新事業推進室の西澤さんに
話が移るわけですね。

澤野

はい。その前に最後に3つめのラッキーですが・・・(笑)。
実は現場から、画面が小さいという声がありました。
でも広く普及したDSを使うことがコンセプトなので、
どうしようもなかったんです。
そしたら何と、任天堂のなかで、極秘に・・・。

岩田

頼まれてもいないのに、大きいDSをつくっていた(笑)。

澤野

そうなんです!すごいタイミングで、
DSi LLがつくられていたんです(笑)。

岩田

まさに『DS教室』の営業展開をする
直前くらいにできたんですよね。

澤野

はい。そんなふうにラッキーなことが3つ重なって、
『DS教室』が完成したわけなんです。

岩田

宮本さんは、横からどんなことをおっしゃっていたんですか?

宮本

それまでのDS教材は“既存の教材をDSで動かす”もの。
でも僕らの教室システムのアプローチは、
“DSで自分の教材をつくる”ものにしようと話しました。

岩田

だから「教材を自分でつくれるツールを先生方にお渡しする」
という考え方なんですよね。

宮本

はい。それからDSを使えば、クラス全員の状態がわかりますし、
みんなの状態を共有できるから、
授業が進めやすいんじゃないかと思うんですよ。
つまり“授業の補助器具”として好評価をしてくださる先生が多いことが、
『DS教室』ならではのメリットだと思います。

澤野

それから、最終的に『DS教室』が
DSi専用になったことで、通信速度が上がって、
英語の発音を音声で送れるようになったり、
自分の実験結果をカメラで撮影して送ったり、
かなり盛りだくさんなことができるようになりましたよね。

宮本

使いこなせば、かなりいいものができたと思います。