5. 人生を変えるソフトに

岩田

それでは最後にお客さんへのメッセージをお願いします。
まずは杉岡さんから。

杉岡

先ほど畠山さんが『マリオペイント』に
すごく夢中になったという話をしましたよね。

岩田

夜遅くまでやっても
親御さんに怒られなかったという話ですね。

杉岡

実際、わたしのまわりのスタッフに聞いても、
あのソフトでゲームをつくる楽しさを教えられた、と
そんな人がとても多いんです。
とくに20代の前半の人たちに。

畠山

僕のまわりはみんな持ってましたよ(笑)。

一同

(笑)

岩田

『マリオペイント』が
今日の畠山さんにつながってる気がしますか?

畠山

それは確実にあります。
当時のことは鮮明に覚えてますし。

岩田

『メイドイン俺』もそうなれるかもしれないと。

杉岡

そうなんです。

畠山

『マリオペイント』のときは
アニメーションしかつくれませんでしたけど、
今回はゲームがつくれますしね。

岩田

最大8秒ですけどね(笑)。

畠山

でもゲームがつくれるのは大きいです。
そこでゲーム開発者が育ってくれれば・・・。

杉岡

そうそう。もしかしたら『メイドイン俺』は
人の人生を変えてしまうんじゃないかと、
それくらいのことを期待してるんです。

岩田

人の人生を変えてしまうソフト。
大きく出ましたねえ(笑)。

一同

(笑)

杉岡

『マリオペイント』の前に
『ファミリーベーシック』(※8)がありましたよね。
今回のサウンドを担当したスタッフは
あれでゲームミュージックに目覚めたと言うんです。

岩田

『ファミリーベーシック』は25年くらい前に
ファミコンで発売された専用キーボード付のソフトでしたよね。
あれで、ゲーム開発に目覚めた人も多いんでしょうね。

※8

『ファミリーベーシック』=専用キーボードを使って、ゲームをつくるためのファミコン専用の周辺機器。1984年発売。

杉岡

『メイドイン俺』のサウンドスタッフも
あれでサンプルのショパンの曲を入れて
今回も同じショパンの曲を入れたと言うんです。
そんな感じで、このツールを使って、
眠っている才能を呼び覚ましてくれるとうれしいですね。

岩田

「目覚めよ才能!」というわけですね。
じゃあ、畠山さん。

畠山

何年もお客さんのなかに
残ってくれるソフトになればいいなと思ってます。
もともとは「つくる」ためのソフトなんですけど、
『メイドイン俺』はかなり遊べるものなので、
つくらなくて、遊ぶだけの人でも
十分に楽しんでいただけると思います。

岩田

つくることに興味がない人でも、
まわりにつくる人がいたら、恩恵が受けられるし、
さらにコンテストなどの配信で
予想もしなかったような楽しさも味わえるということですね。

畠山

はい。だから、新作としての
『メイドインワリオ』を楽しんでほしいと。
でも、つくることにはもともと興味がない人も、
少しでもいいから、つくるところにも手を出してほしいですね。

岩田

で、気がついたらつくる人になっていたということを
期待しているんですよね。

畠山

そうですそうです。
そうしたら、何年も遊べるソフトに
きっとなると思います。

岩田

じゃあ、最後に阿部さん。

阿部

僕は、自分がいま小学生だったら、
たぶんいちばん欲しかったものなんですよ、これは。

岩田

自分が欲しかったものをつくったんですね。

阿部

いままでのゲーム、いままで手がけたゲームは
開発中にすごく遊び尽くしてしまうんで、
発売日にはいちおう買うんですけど、
そんなにやらないんですね、発売されてからは。

岩田

阿部さんにとっては、
自分で担当したゲームは、買うけど、
どちらかと言えばそれは記念アイテムであって、
遊ぶものじゃないんですね。

阿部

人に見せるだけとか、そういうレベルなんですけど、
今回は自分のものとして本当に欲しいんです。

岩田

発売日が楽しみです、みたいな(笑)。

阿部

はい(笑)。
ただ、「ゲームをつくれる」とは言っても
最初は何をつくったらいいんだろうと、
とっかかりを見つけられない人もいると思うんです。
そんなときはできるだけ
“身近な人に見せる”ことを考えるといいと思います。

岩田

つまり友だちとか家族とか
見てもらう人のことをイメージするといいんですね。

阿部

自分の経験で言うと、僕、誕生日にゲームをもらったんです。

岩田

誕生日プレゼントでプチゲーム(笑)。

阿部

スタッフがつくってくれたんですけど
画面のろうそくにタッチペンで火をつけたら、
ケーキが突然現れて、「おめでとう!」
というメッセージが出てきたんですね。

杉岡

サウンドもついてましたよね。

阿部

「♪ハッピーバースデー トゥー ユー」って(笑)。

岩田

へえ〜、うれしかったでしょう。

阿部

ちょっと感動しました(笑)。
そんなふうに、特定の個人に対して
プチゲームをつくってみるのもおもしろいと思うんです。
さらに、目の前にお茶があるから
お茶を飲むゲームをつくろうとか、
自分の体験談とか日記みたいなことでもいいので、
それをゲームにしてみると、
そこからいろんなものがつくれていくので
身構えずにどんどん触ってもらえればいいなと思ってます。

岩田

みなさんのゲームづくり人生のはじまりは、
『ファミリーベーシック』だったり
『マリオペイント』だったり、
あるいは他のソフトだったりしたと思うんですが、
わたしのゲームづくり人生は、
プログラム電卓からはじまりました。
その機械では数字しか表示できないものでした。
それでも苦労して、やっと手に入れたその機械で
ゲームをつくり、周囲の人と一緒に遊ぶことが、
自分の高校生時代の楽しい遊びだったんですね。
 
そんな経験をしてきた人間からすると、
ものすごくうらやましいんです、いまの人は。
だって、このような商品がお店にあって、
つくり放題なわけでしょう。
もちろんゲームをいっさいつくらなくても、
面白さを体験できると思うんですけど、
わたし自身は、ゲームはつくる面白さに目覚めると
遊ぶ面白さよりも深いですよ、ということを
けっこう強く思っていますので、
そういう目覚めのおこす人を世の中に1人でも多く
この『メイドイン俺』で
増やすことができたらいいなと思います。

阿部

そこはすごく期待していますね。
だから、ゲーム専門学校のような教育機関でも
教材として使ってもらえるといいかなと。

一同

(笑)

岩田

任天堂ゲームセミナーでも、『俺』を使いましょうか(笑)。

畠山

選考も『俺』で・・・。

阿部

審査するんだ。

岩田

センスも出るし。

畠山

かなり出ます(笑)。

岩田

じゃあ、来年の任天堂の採用も・・・。

阿部

冗談ですよね?

岩田

はい(キッパリ)。

一同

(笑)