5. スイッチを入れない間も仲間が活躍

岩田

成広さんは、今回の『エムブレム』に
どういう手応えを感じておられるんですか?

成広

今回、開発現場からちょっと距離をおいてみていたんですけど、
「いつまでやっているんだろう」と心配するくらい、
現場のスタッフが新しい仕様をずっと追加していたんです。
しばらく時間をあけて見ると、
見たこともないものが入っていたりしたんですね。
それぞれの担当者がそれぞれの想いを込めて
盛りだくさんに新しい要素を入れていたんです。

岩田

それはたとえばどんなことですか?

前田

たとえば、ゲームのスイッチを入れていない間も、
この世界のなかの時間は流れていて、
その間にキャラクターたちが勝手にアイテムを探しにいったり、
経験値を稼いだりします。
ですから、時間をおいてスイッチを入れる楽しみも
今回のソフトに盛り込まれています。

岩田

仲間が勝手に取ってきたアイテムや経験値は
どうやって確認するんですか?

前田

「進撃準備画面」に「みんなの様子」というのがありまして、
それを選ぶと、ようになっています。

成広

架空の時間が過ぎているという設定になっていて、
自分の持っているキャラクターたちが、
勝手に何かしてくれるのがうれしいんですよね。

前田

ですから、ときどきスイッチをつけてみると
何かが起こっているんです。

成広

しかも意外といいものを拾ってきたりするんです(笑)。

前田

その拾ってきたものによって
「これが手に入ったから、こういうこともできるか」と
次のマップの攻略がしやすくなったりもするんですね。

岩田

さきほど、樋口さんの奥さんは
「進撃準備画面」を見てくれないという話がありましたけど(笑)。

樋口

今度はしっかり見てくれると思います(笑)。

一同

(笑)

岩田

それでは最後にみなさん、つくり手として、
お客さんへのメッセージをお願いします。

成広

おかげさまで、2010年の今年、
『ファイアーエムブレム』20周年を迎えることができました。
その節目の年に、いろんな新しいチャレンジができたのは
とても意義深いことだと感じています。
 
今回は、ある意味若い世代というか、
開発担当者たちが、それぞれに自分なりの答えを模索するというか、
自分たちを客観的に見るということも含めて、
どうやったらいろんな人に楽しんでもらえるかということを
かなり真剣に積み重ねた結果のものになったと思います。
で、先ほどの「倒れた仲間が復活する」モードを
用意するということもそうですが、
内部的にはいろんなことを議論して、
その結果、積み上げてできたものですので、
いろんな意味で、ひとつの新しい遊びとして
楽しんでいただけるタイトルになったと思います。
ですから、これまで『エムブレム』にはご縁のなかった方にも、
ぜひとも遊んでいただきたいと思います。

岩田

でも、従来の『エムブレム』を
ずっと愛してきてくださった方にとって、
間違いなく『エムブレム』でもあるんですよね。

成広

はい。間違いないです。
というか、逆に絶対に遊んでほしいです。
『エムブレム』を愛してくださった方々にぜひ。
 
あと、初めてプレイするお客さんにお伝えしておきたいんですけど、
実は『エムブレム』というゲームは
ゆっくりプレイすると、意外に大丈夫なんです。
もともとそのように設計されていて、
慌てて先に進もうとすると
ボコボコにやられることになるんですけど、
落ち着いて、ゆっくりプレイすると
敵も無茶な攻撃をしてこないんですね。

岩田

だから、自分のペースで
ゆっくり、じっくり楽しんでください、ということですね。

成広

はい。

岩田

それでは、4カ月にわたる濃密な議論をした
樋口さん、お願いします。

樋口

今回はいろいろな議論を重ねていくなかで、
自分のなかでもすごく葛藤がありました。
でもその結果、自分で納得して自信を持って
お客さんに提供できるものになったと思っています。
 
細かい話になりますが、
最初に難易度を4段階から選び、
そのあとで、「遊び方についての説明を見ますか?」という
選択画面が現れるようになっています。
そのとき、「はい」を選択すると、
たぶんその人は初心者だろうと判断して
その次の画面でのカーソルは「カジュアル」を
指すようになっています。
ところが「いいえ」を選択すると
「クラシック」を指すようにしているんです。

岩田

ああ、そこまで細かい配慮をしているんですね。

樋口

はい。こだわってつくりました。
今作はリメイクということでつくりましたが、
スーパーファミコン版の『紋章の謎』を遊んだ方にも、
「焼き直しでしょ」とは絶対に思われないくらい、
とても新しい『エムブレム』の提案ができたと思っています。
これまでのシリーズをプレイしてきた方には
新しい気持ちで楽しんでいただけるゲームをめざしてつくりましたし、
もちろん、初めての人には
まずは「カジュアルモード」で遊んでいただいて、
遊び方のコツがわかったら、
ぜひとも「クラシックモード」に挑戦してほしいと思っています。

岩田

ぜひとも“心地よい緊張感”を味わってほしいということですね。

樋口

はい。

岩田

それでは前田さん。

前田

樋口とも話がかぶりますが、
今作は単なる焼き直しではなくて、
新しい作品をつくるつもりで、いろいろな要素を入れました。
先ほど言った「マイユニット」もそうですし、
スイッチを入れない間も、仲間が活躍するという仕組みもそうですし、
ほかにも、たくさんの新しい要素が入っています。
なので、新作をプレイしたいという人にも、
ぜひ買って遊んでいただければ
満足していただけるものになっていると思います。

岩田

ありがとうございます。
 
わたしは今日の話を訊いて、感じたことをお話しします。
もともと『エムブレム』が好きな人にとっては、
このソフトの魅力は当然理解していただけていますから、
新しいタイトルが出ても、魅力がスッと伝わりやすいんですけど、
残念ながらこれまでご縁がなかった人たちにとっては、
「ハマっている人たちは、すごく楽しそうに深く入って遊んでいるけど、
自分は果たして入れるんだろうか」と
ちょっと不安に思っておられるような感じがしています。
 
なのですが、このソフトの面白さの本質が、
成広さんがさっき言われた“心地よい緊張感”・・・
もともとゲームというのは、
“心地よい緊張感”を味わうために遊ぶわけですが、
今回の『エムブレム』の仕組みは
ほかのゲームとちょっと違う味になっていて、
お客さんがそれぞれ、自分にとって“心地よい緊張感”を
自分で選べるようになった点で、
とても新しい『ファイアーエムブレム』になったように思います。
 
でも、そのような新しさを打ち出すと同時に、
いままで『エムブレム』を遊んでいた人も楽しめる
「これこそが『エムブレム』だ」という骨格は
まったく失われていませんから、
だからこそ、『エムブレム』の魅力をいままでより広い
いろんな方々に理解していただけることを期待しています。
本日はありがとうございました。

一同

こちらこそありがとうございました。

岩田

それにしても樋口さん、いちばん身近な人が
自分のつくったものを楽しんでくれるというのは、
開発者冥利に尽きますよね。

樋口

はい。おかげさまで嫁との会話が増えました(笑)。

一同

(笑)