開発者に訊きました『星のカービィ ディスカバリー』 企画制作部第2プロダクションG 二宮 啓 株式会社ハル研究所ゼネラルディレクター 熊崎 信也 株式会社ハル研究所ディレクター 神山 達哉 株式会社ハル研究所レベルデザインディレクター 遠藤 裕貴

2022.3.24

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

なぜ密度が上がらないのだろう?

任天堂のモノづくりに対する考えやこだわりを、
開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第4回として、
3月25日(金)に発売となる
『星のカービィ ディスカバリー』の
開発者のみなさんに話を訊いてみました。

まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。

二宮

任天堂の二宮です。
今作のアソシエイトプロデューサーとして、
ハル研究所※1のみなさんと相談しながら開発を進めてきました。
「星のカービィ」シリーズの開発には
『星のカービィ ロボボプラネット』から携わっています。

※1株式会社ハル研究所。『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズなどを手掛けてきたソフトメーカー。

熊崎

ハル研究所の熊崎です。
「星のカービィ」シリーズに携わって約20年になります。
『星のカービィ ロボボプラネット』からは、
ゼネラルディレクターを務めています。
今作では企画全体と、キャラクターデザインやサウンドなどの監修、
演出やストーリー、テキスト執筆などを担当しました。

神山

ハル研究所の神山です。
『星のカービィ Wii』からシリーズに関わっており、
今作では初めてディレクターを担当しています。
ゲーム全体の構成やキャラクターの挙動確認、
ストーリー原案やデモ※2などを担当しました。

※2イベントシーン。キャラクターの会話や、敵との掛け合いなど、物語を表現するムービーのこと。

遠藤

ハル研究所の遠藤です。
シリーズでは『星のカービィ Wii』以降に関わっており、
敵や仕掛けの仕様作成と監修をし、
またそれらを配置してステージを作ったりしてきた、
レベルデザインディレクターです。

ありがとうございます。今回はリモートになりますが、「星のカービィ」シリーズの開発をされているハル研究所さんにご参加いただき、ハル研さんと任天堂の両社の今作への想い、開発エピソード、試行錯誤などを伺っていきたいと思います。
では、まず二宮さん、今回発売する『星のカービィ ディスカバリー』について、簡単にご説明いただけますか。

二宮

はい。
『星のカービィ ディスカバリー』は
「星のカービィ」シリーズ本編で、初の3Dアクションゲームです。

「かつて文明が存在した世界」という
新しい舞台で、カービィを操り
自由に動き回ってステージをクリアしていくことになります。

いつものように飛んだり、すいこんで能力をコピーしたりするのはもちろん、
コピー能力を進化させたり、ほおばったりと、
新しい能力も加わって、
多彩なアクションで遊べるのが特徴です。

今回、初めて本編のカービィが3Dアクションになった、ということですが、どのようなきっかけで、この新しい挑戦は始まったのでしょうか?

熊崎

少しシリーズの歴史を振り返るお話になりますが、
「星のカービィ」シリーズには過去、
約11年もの間、製品の企画開発がうまくまとまらず、
据置型ゲーム機で本編カービィが発売できないという
難産の時代がありました。
その当時から今作に至るまで、
試作や本編ではないシリーズ※3、サブゲームなどで試行錯誤を繰り返し、
カービィの3Dアクションのノウハウは少しずつ蓄積していました。

ところが、カービィ特有のいろんな課題があったり、
やっぱり王道のカービィは2Dだろうという意見が
ハル研究所の社内でもあったりして、
本編すべてを3Dアクションとしたカービィの実現
というところまでは、たどり着けてなかったんです。

※32003年7月発売のニンテンドーゲームキューブ専用ソフト『カービィのエアライド』、2017年7月発売のニンテンドー3DS専用ソフト『カービィのすいこみ大作戦』、2017年11月発売のニンテンドー3DS専用ソフト『カービィ バトルデラックス!』等のタイトル。

二宮

私は、任天堂側からその様子を見ていましたが、
カービィはジャンプ、ホバリングなどの要素がありますし、
遊びとしては3Dアクションとの相性は良いだろうな
と思っていました。

また過去作からお付き合いしてきた中で
ハル研さんのカービィの魅力の引き出し方のうまさと
技術力の高さを感じていたので、
ハル研さんから「3Dでやる準備ができた」と言われるのを
じっと待っているような状態でした。

神山

僕自身、3D空間を自由に駆け回れるカービィは楽しくなるだろうな、
というイメージはありました。

ですが、いざゲームをディレクションするとなると
現実的には解決しなきゃいけない問題がたくさんあったんです。
例えば、「すいこみ、はきだし、ジャンプ」
という基本となるアクションですら、
そのまま3Dにすると思うように操作できない
ということに気づかされました・・・。

ですので、過去のゲームの挙動を一通り調べ、
どうすれば3Dでも安心して遊べる
王道の本編カービィをつくれるか、すごく考えました。

熊崎

今作の開発にあたって、神山からもらった企画書は
見たことがないくらい、このタイトルの実現に対して熱量の高いものでした。

社内でよく見るゲームの詳細や新しい冒険の舞台
について書かれたものではなかったのですが、
先ほどお話にあがった3Dアクションでの課題を
「この操作感ならお客さまが安心して遊べるだろう」
と、一つひとつ確実に解決することに
すごくこだわっていて。

これなら大丈夫だ、と思って、この企画のスタートに踏み切りました。

なるほど。3Dアクション化が簡単ではない、というお話ですが、もう少しわかりやすい例で、具体的にどういった部分が難しいのか、教えていただけますか。

神山

はい。
まずは、そもそも、というところなんですが、
カービィのキャラクターデザインが3D表現と
相性が悪いんです。

カービィが丸い形なので、後ろを向いてしまうと
どこを向いているのか、さっぱりわからないんですね。

これは、カービィ特有の問題ですね(笑)。では、ゲーム開発のほうでの難しさは、どんなものがありましたか。

神山

開発環境にも課題がありました。
立体になる分、影をつけたり、配置するものの量が増えたり・・・
見える部分が広くなるので、やることも増えます。
しかし開発の人的リソースも無限ではないので、
地形のモデリング ※4を自動で行うシステムを開発して、
時間短縮、効率化をはかりました。

早くマップ装飾が作れるようになった分、
そのマップ上での遊びを考えることに
時間を充てられるようになったので、
より早く、よりスムーズに
遊びの部分を作る試行錯誤ができるようになりました。

※4ゲームなどに登場する立体的な造形物を制作すること。

3Dアクションというと2Dのものと比べて、少し遊ぶのが難しそうな雰囲気を感じるのですが、難易度の考え方に変化はありましたか。

熊崎

「誰でも楽しめる」「間口が広く奥が深い」は、
「星のカービィ」シリーズとして、
ずっと大切にしてきたコンセプトです。
だから、私も難易度について考え始めた当初は
3歳のお子さんでも遊べる、やさしい難易度の3Dアクションを考えていました。

でも、いざ今まで2Dアクションを作っていたのと
同じ感覚で3Dアクションのゲームを作り進めると、
2Dアクションに比べ、スリルや冒険度が
薄まってしまうことに気づいたんです。

2Dから3Dに変化すると冒険度が薄まる・・・?

遠藤

2Dをそのまま3Dにしてしまうと、
プレイヤーが行動できる範囲が大きく広がるので
敵の攻撃を避け放題になってしまうんです。
3D化で奥行きができて敵を避けやすくなる分、
カービィが敵にしっかり囲まれて狙われないと、
難易度は下がる一方になります。

神山

2Dだとジャンプするか、攻撃するか、
どちらかをしないと、その敵を越えられない。
でも3Dだと戦わなくても、
いろんな角度から逃げて素通りできてしまうんです。

二宮さんは、それをどうご覧になっていたのでしょうか。

二宮

ある程度できあがったものをこちらで遊ばせていただき、
任天堂からもフィードバックするのですが、
敵の配置の調整を何度依頼しても、
毎度毎度フィールドが隙間だらけで・・・。

なぜ密度が上がらないのだろう?と
ハル研さんにお伺いしてみたんです。
そしたら、
「そんなに敵に囲まれたらカービィがかわいそうじゃないですか」
と。

・・・えっ?「かわいそう」?

熊崎

これは冗談でもなんでもなく、
本当に開発しているスタッフはみんなカービィが好きで、
カービィを苦しめてしまう場面づくりに抵抗があったんですね。

また3Dアクションが苦手なお客さまを意識した結果、
牧歌的なフィールド作りが続いてしまって、
倒すべき敵を置いても置いても
うまく隙間が埋められなかったんです。

神山

スタッフはカービィをプレイされるお客さまの中に
アクションゲームが苦手な方や低年齢の方がいらっしゃることを
想像していたんですね。

カービィには、能力を持っていない「素」の状態の時もあれば、
逆に近距離や遠距離の攻撃能力を持っている時もあります。
攻撃能力を持っていない時にカービィが囲まれてしまうと、
かわいそうなくらいダメージを受けてしまうのが
気になってしまって・・・。

そういう部分の調整はかなり難航しました。

二宮

当初は3Dアクションゲームとして
なんだかピリッとしない遊びになっていたのですが、
その原因が、まさか「かわいそう」という感情にあったとは
思いもよりませんでした。

ハル研さんが、こういった今までの経験や感覚を大切にされて
それをベースにゲーム作りをされていることは理解していたのですが、
任天堂としてはお客さまが遊ぶときに持たれる印象を想像しながら
フィードバックを続けていて・・・
このあたりのギャップは、時間をかけてすり合わせていきました。