開発者に訊きました『Nintendo Switch Sports』 企画制作部 担当部長代理 嶋村 隆行 企画制作部 第4プロダクションG 山下 善一 企画制作部 第4プロダクションG 森井 淳司 企画制作部 第4プロダクションG 森井 淳司 企画制作部 第4プロダクションG 岡根 慎治 企画制作部 第4プロダクションG 横山 夏子

2022.5.27

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

本インタビューはソフトの発売前に実施しています。

世界一誘いやすい
体感ゲームを目指す

任天堂のモノづくりに対する考えやこだわりを、
開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第5回として、
4月29日(金)に発売となった
『Nintendo Switch Sports』の
開発者のみなさんに話を訊いてみました。

まず、簡単に自己紹介をお願いできますか。

嶋村

『Nintendo Switch Sports』のプロデューサー、嶋村です。
『Wii Sports』『Wii Sports Resort』『Wii Sports Club』の
3つのタイトルはディレクターとして参加させていただきました。
このシリーズにプロデューサーとして参加するのは、今作が初です。

山下

ディレクターの山下です。
『Wii Sports』と『Wii Sports Resort』でも
ディレクターを担当しておりました。

岡根

岡根です。
今作のプログラムディレクターとして参加しました。
『リングフィット アドベンチャー』のプログラムディレクターや
『ジャンプロープ チャレンジ』のディレクターなど
体を動かす系のソフトを担当することが多いです。

森井

森井です。
今作のアートディレクターとして参加させていただきました。
シリーズでは『Wii Sports』でもアートディレクターを担当し、
他には『Nintendo Land』、『1-2-Switch』などに関わっていて、
嶋村さん山下さんとは長い付き合いでお仕事しています。

横山

横山です。
今作はサウンドディレクターとして関わらせていただきました。

このソフトの前は『リングフィットアドベンチャー』のSE※1を担当していて、
岡根さんと同じく、体を動かす系のソフトが続いています。

※1サウンドエフェクト。ゲーム中に出される効果音のこと。

ありがとうございます。それでは、今作の簡単なご紹介を、山下さんからお願いできますか。

山下

はい。『Nintendo Switch Sports』は、2006年にWii専用ソフトとして
発売された体感ゲーム『Wii Sports』シリーズの続編となります。
過去作の人気種目だったテニス、ボウリング、チャンバラに加えて、
今作の新種目としてバレーボール、バドミントン、サッカーを収録しています。
秋にはアップデートでゴルフも追加予定です。

今作のプロジェクトはいつごろスタートしたのでしょうか。最初から『Wii Sports』シリーズの続編、という前提で開発が始まったのですか?

山下

企画の始まりはNintendo Switchが発売されて、しばらくして、といった頃でした。
小泉さん※2に呼ばれて、『Wii Sports』シリーズのSwitch版を開発したい、
というお題をいただき、プロジェクトがスタートしたんです。

※2小泉歓晃。上席執行役員 企画開発本部 副本部長。「Nintendo Switch」の総合プロデューサーを務める。

結構、前から始まっていたんですね。

山下

発売が2022年ですから、なんでそんな時間がかかってるんだ、と
思いますよね。

小泉さんからお題をもらってから、ずっと取り組まれていたんですよね。

山下

はい。
『Wii Sports』と『Wii Sports Resort』では
考えつく限りのネタを出して・・・
そのほとんどを実現して、商品に入れられたので
「やり切った感」がありました。
もしこの先さらに続編があるとしたら、きっとかなり大変だろうな、
というのが当時の感想でした。

だから、今回の『Nintendo Switch Sports』が始まったときも、
「新しく追加できる種目は、もう何も残っていない・・・」
と正直思っていました。

「もう何も残っていない」というところから、新しいことを盛り込む工夫を検討された、ということですか。

山下

はい。
もう新しい種目や遊びはそんなにできないかもしれない。
でも、それじゃあいかんな、と。
しばらくいろいろと考えて、一人で頑張っていました。

そこからメンバーも増えて、試作を重ねる過程で、
「とにかく新しく見えるもの、昔と違うものを作ろう」
ということを意識したんですが、逆にそれを意識しすぎて・・・
「コントローラーを振らなくても遊べる」というところまで
行き着いてしまいました(笑)。

えっ、振らなくても遊べるゲーム? 『Wii Sports』シリーズのSwitch版を作る予定でしたよね?

山下

そうなんです。
スタートは『Wii Sports』のはずなのに、
「新しく見せること」を追求するあまり、振り操作が二番手になってしまって、
世界観とか、それ以外の部分への工夫が
先立ってしまっていたんです。

でも当時は一生懸命やっていたので、それをあまり
疑問には思わなかったんです。
とにかく新しいものをやろうって、意識が強くて・・・。

ところが結果的にはうまくいきませんでした。
迷走して、『Wii Sports』の良さを失いかけていました。
これは違うぞ、と気づいた頃にはもう、年単位で時間が経っていましたね。

始まってからかなりの時間が経っていたとのことですが、「これは違うぞ」と気づいて、そこからどのように方針転換されたんですか。

嶋村

実際に当時の試作を遊んでみると、
操作が複雑で、体感操作も二の次になっていました。
このまま進めると、家に遊びに来た人に「一緒にやろう」と言えるような、
「パッと遊べるもの」にはならなさそうだな、と感じちゃいまして。

本来『Wii Sports』シリーズで大事だったのは
「初めてであっても遊んでもらいやすい」
ということだったのですが、
当時試作していたものにはそこが欠落している、と思ったんです。

それで、途中まで作ってくれていたスタッフのみんなには
本当に申し訳なかったんですけど、
やっぱり「世界一誘いやすい体感ゲーム」が僕らの目指すところじゃないか、
という話をしました。

任天堂には、他にも深くて面白いゲームはいっぱいあるけれど、
それらのゲームとの差別化を考えても、
入るときの間口が目一杯広くて、5歳から95歳に向けた商品をつくるのが
僕らのミッションなんじゃないか? と仕切り直すことにしたんです。

なるほど、それは大きな決断でしたね。では、『Wii Sports』シリーズ最新作という、体感ゲームの続編として再出発するにあたり、最初に何をされたのでしょうか。

山下

初心に立ち返り、
「触ってすぐに手ごたえがわかる」、
ひと振りで「これはなんか面白いぞ」と感じるようなものに
していかないと、と考えました。

幸い、過去作ではお客さまにそう言っていただけたことがあったんですけど、
過去作を知っている方にとっても、新しいお客さまにとっても、
Joy-Conを手に取った瞬間に「ああ、楽しい」って言ってもらえるものにするぞ、と。

ただ、そこに至るには、開発する側も
過去作を知っている人と、知らない人の
差を埋める必要がありました。

たとえば、ここにいる4人(嶋村、山下、森井、岡根)の
体感操作ゲームの開発経験者は、
「昔のこの操作」「昔のあの作り方」と言えば
4人とも「ああ、あれのことね。じゃあこうすれば分かりやすくなる」と
共通の感覚のようなものがあるんですが・・・

横山さん含め、新しく加わってくれたメンバーに
同じように伝えても、
「それって、何なんですか?」っていう状態で。

嶋村

『Wii Sports』の開発という共通の経験があるメンバーは、
「これは大事。この開発は後回し。」と優先度がパッと決められるんですけど、
新しいメンバーには、なぜこの順番で開発をしているのか、
なぜこの作り方をするのか、
というのを、ちゃんと言語化しないと伝わらないんですよね。

ちなみに、『Wii Sports』の開発を知らない新しい人はどれくらいいたんですか。

山下

9割以上は、新しいメンバーでした。
それぞれのメンバーは、思い思いの過去作に対する改善点を
持ってきてくれたりするんですが、
どうしてそういう仕組みにしなかったのか
というところを経験として共有できていないので、
しばらく開発を進めてみて、やっと、
「なるほど、だから過去作はこうなっていたんですね」となったり。
共通の意識を持つまでに、時間がかかりましたね。

体感ゲーム開発ならではの勘どころがないと難しかった、ということですね。

嶋村

例えば、普通のゲームなら
「Aボタンを押せば、みんな同じ結果になる」というところを、
体感操作だと、コントローラーを振るといった動作で
操作することになりますが、同じ体感操作をしているつもりでも、
人によって動き方が違ったりするので、そう簡単にはいかないんです。

確かに、「軽く振る」といっても、「軽く」の程度は人によって違いますよね。

嶋村

僕がイメージする「軽い振り方」で調整したものを
他の人に渡して「軽く」振ってもらっても、
全然同じように動かない、みたいなことが起きます。
過去作もそうだったんですけど、
体感ゲームはそういうところを一つひとつ調整していく必要があるんです。

岡根

結局はことばで説明して伝わったというよりも、
実際に作って遊んでいくうちに、
みんながそれぞれ理解していった・・・という感じでしたね。

実際の開発をたどって、いろいろな気づきを得て、過去の手法も取り入れて改善していくことで共有できた、ということですね。
それで、共通認識ができてからは、開発はスムーズに流れたのでしょうか。

山下

いや、良くはなりましたが、
思っていたよりも、うまくはいかなかったと思います。
自分としては、シリーズ開発も3回目なので
「これくらいの操作なら、これくらいの時間でできるんじゃないか」
みたいな予想があったんですが・・・。

まず、体感操作を実現していく中で、
WiiとSwitchの機械的、機構的な違いが
あまり意識できていませんでした。
開発の中で試行錯誤していくうちに、
「思ったより違いがあるな」とわかって
結果としてはそこにも時間がかかり、大変でしたね(笑)。

嶋村

移植してチョチョイのチョイでできるかと思っていたら・・・(笑)。

みなさん、『Wii Sports』を再現するところまでは簡単にできるんじゃないか、と思っていた訳ですね。

岡根

いや、プログラマーたちは「全然簡単じゃないんだけど・・・」って思ってました。

一同

(笑)。

山下

そうですよね~。
実際にコード※3を書いてないと、その難しさはわからないんです。
僕らはディレクターとして
「これをこういうふうに体感できるようにして欲しいんです。」と
簡単にお願いするんですけど、それを実現するための試行錯誤は
プログラマーさんがやってくれるんです。
一番大変な部分です。

なのに、過去作を開発した時の「いい思い出」だけが残っていて、
ついつい気軽に頼んでしまうんです。

だから、
その~・・・
すみませんでした! この場を借りてお詫びを・・・

一同

(笑)。

※3ゲームのプログラム。どのような入力(体感操作、ボタン操作など)に対し、どのような出力(キャラクターが走る、ボールを投げるなど)を行うかなどの処理をプログラミング言語で記述したもの。