開発者に訊きました『Nintendo Switch Sports』 企画制作部 担当部長代理 嶋村 隆行 企画制作部 第4プロダクションG 山下 善一 企画制作部 第4プロダクションG 森井 淳司 企画制作部 第4プロダクションG 森井 淳司 企画制作部 第4プロダクションG 岡根 慎治 企画制作部 第4プロダクションG 横山 夏子

2022.5.27

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

本インタビューはソフトの発売前に実施しています。

人と遊ぶのって、本質的には楽しい

さて、さきほど「ひとりで遊びやすくなった」というお話が出ていましたね。そのうえで重視したポイントをお聞かせいただけないでしょうか。

嶋村

今回はひとり遊びのメインとして
オンライン対戦を楽しんでいただきたい、
と最初から思っていました。

『Wii Sports』シリーズって、
ひとりでCPUと遊ぶ面白さは
みんなで一緒に遊ぶ面白さには敵わないってイメージがあったと思うんです。
だから、今回はその課題をオンライン対戦で解決したかったんですよね。

なるほど。ただ、オンライン対戦は、人によっては敷居が高いように思われる方もいらっしゃるように思いますが・・・。

山下

まず、デザインを見ていただきたいのですが
今回はメニューの一番上に、オンライン対戦の選択肢を置いています。

普通にパーティゲームをつくる場合、メニューの並びは、
「家族と遊ぶ」
「友達と遊ぶ」
「オンラインで遊ぶ」
という順番を考えますよね。

でも、今回は「さぁ、今からオンラインに行くぞ!」っていう、
あの「構えるような感じ」をなくしたいと思っていました。
画像だから、こんな感じになっています。

森井

「オンラインで遊ぶ」がメインになるようには書いてないんですよね。

山下

「オンラインで遊ぶ」って書いてあったら
怖いから選べない、っていう人もいたんです。
だから「オンライン」という言葉をなるべく目立たないようにしました。

結局は「誰かと遊ぶ」というのは同じで
それが身近にいる家族や友達なのか、もしくは世界のどこかにいる人なのか、
というだけの違いなんです。

確かにこれなら、なにも怖がらずにオンライン対戦を始めてしまう気がしますね。

嶋村

それから、オンライン対戦で「勝つこと」よりも
「誰かと対戦すること」そのものを
楽しんでいただきたいと考えました。

これは2006年に発売した『Wii Sports』の時から
ずっと変わらずに大切にしていることなんですけど・・・

やっぱり負けると悔しいですし、
普段ゲームをやらない人が、やってみたけど負けて嫌になっちゃうとか、
初心者の方に「やっぱりいいや」と思われないような
ゲーム作りを大前提にしていて、
今回オンラインプレイを作るうえでも同じことを意識しています。

勝っても負けても、少しずつポイントをもらえるようになっていて
それを貯めるとスポーツメイツの着せ替えアイテムと
交換できるようになっていたり。

勝ち負けではない、お楽しみがあるわけですね。

森井

いろんなアイテムがあるんですけど、
この部分は結構頑張っていて・・・

発売された後の今もまだ制作中なんですけど、
発売から一年間、 画像毎週のアップデートで10個くらいずつ、
衣装やスタンプ、肩書などがもらえるようになっています。

それを集めるだけでもけっこう楽しんでいただけるのではと思います。

山下

・・・と言いつつも、
やっぱり「自分がうまくなったことを確かめたい」という方は
一定数いらっしゃると思うので、
画像「プロリーグ」 というものも用意しました。

ある程度オンライン対戦に慣れてきた頃に、
各種目で招待されるものですが、
レベルに合わせて、いろんなランクを用意しています。

これも最初からプロリーグ戦だと構えてしまう方も多いと思うので
ある程度うまくなったころに、自然に誘導されるような形を取っています。

嶋村

あと、変わった試みとして
画像「プロリーグをお休みする」 というモードも入れました。
これは他のゲームにはあんまりない仕様だと思います。

「お休み」ですか? それはどういった意図なんでしょう。

山下

対戦で勝つ人がいるということは、それと同じ数だけ、
負けてくやしい思いをする人がいるっていうことなんです。

なので、「勝たなきゃ」というプレッシャーにならないように、
ちょっと一息がつける「お休み」するためのモードも作りました。

人と遊ぶのって、本質的には楽しいはずで、
例えば、昼休みに屋上でバドミントンをしたときに、
「勝った」「負けた」のうれしさや、くやしさだけで
大騒ぎはしないと思うんです。

だから、最終的に
勝っても負けても楽しいという、
あの感じに持っていきたかったんです。

なるほど。勝負に勝つ楽しみ方もあるかもしれないけれど、純粋にオンラインでの対戦プレイを楽しんでいただきたい、ということですね。確かに、すべての種目で気軽にオンライン対戦ができるようですし。

山下

そこなんですが・・・
当初は、全種目でオンライン対応するとは
言っていなかった・・・いや、
したいとは思っていたけど、スタッフには言わないようにしていました。

実は、体感ゲームをオンライン化するのって、すごく難しいんです。

岡根

体感操作が気持ち良いというのは、
自分の行動した結果がすぐに画面に反映されるからなんですけど、
オンラインだとインターネットを通る分、
どうしてもタイムラグがあるので、
この二つは矛盾しているんです。

ローカル対戦用に作ったプログラムを、オンライン対戦用に流用することはできなかったということですね?

山下

例えば
ローカル対戦でプレイヤーが隣り合って遊ぶテニスで、
Joy-Conを振って、ボールが飛んで行く途中に
「ラケット(Joy-Con)をひねった」のをプログラムが認識したら、
ボールの飛ぶ方向をそれに合わせて変えたりします。
こうすることで、ひねりによる方向変化を実現しつつ、
ボールを打ち返した反応をすぐ感じることができ、
手ごたえをよくできます。

でも、オンラインではラグがあるので、「ラケットをひねった」
という認識をしてボールの挙動を変えようとしても、
その時にはボールが対戦相手に、もう届いてしまっているかもしれない。
そうなると、同じ仕組みは使えないんです。

岡根

そんなふうに、手ごたえをよくするための
ローカル対戦でのノウハウが使いづらくなるので、
オンライン対戦に適した判定の方法を考え直していく必要がありました。
しかも、チューニングが必要な箇所は、種目ごとにまったく異なっていたんです。

もはや、1種目をオンライン化するごとに
新しいオンラインゲームを作るのと同じくらいの作業量でした。
それもあって、全種目をオンライン対応するのは、
「本当に、本当に大変なことですよ!」って何度も話していました。

嶋村

「体感とオンラインと、どっちが大事なんですか!?」
と、開発途中で何度か聞かれた記憶があって。

ちょっと申し訳なさそうな感じで、
「両方・・・」
って答えていたと思います(笑)。

なるほど。オンラインでも自然な操作感を実現するために、そんな努力があったんですね。それで、最終的には満足のいくものに仕上がりましたか?

岡根

「完ぺき」はないので、遊んでくださるお客さまの反応を見るまでは
ドキドキしてるんですが・・・(笑)。
でも、チームで遊んでみて、
自分たちが納得できるところまではみんな頑張りました。

嶋村

発売前に実施したオンラインプレイテストの反響も、
自信につながりましたね。

ここまでのお話で、体感操作にこだわり、また自然にプレイしてもらうために、デザインやサウンドだけでなくオンラインプレイに対しても、細やかな配慮やこだわりがあることが良くわかりました。

・・・ところで、せっかく集まったことですし、みなさんで一度今作をプレイしてみましょうか。

山下

では、新しい種目のバレーボールを・・・。

嶋村

そーれっ

横山

うわ~! えいっ

岡根

おおっと・・・

やっぱりレシーブの手は振り上げますね。

嶋村

そうなんですよ。
そうそう、このソフトは体感ゲームだけど座っても遊べるんです。
チャンバラとか、座ってやってみましょうか。

森井

じゃ、僕は新しいチャージカタナで。

嶋村

僕はツインカタナで・・・負けないっ・・・!

森井

おおっ イテテテテ

嶋村

ぎゃー!やばい!

あーーーー!!

森井

バレーボールの次にチャンバラは、いい運動ですよね(笑)。

これはもう完全にスポーツですね(笑)。

山下

ボウリングは横並びでやると、臨場感があるんですよね。

森井

じゃあ、みんなで「せーの」で投げます?

一同

せーのっ

おお~すごい! さすが、みなさんお上手です。Nice Spare!

嶋村

もう一度。せーのっ!

嶋村

あ、森井さん、うまい!

森井

ふふふ・・・

なんだか、本当にボウリング場でみなさんのプレイを後ろから見ている気分です。すごく自然な流れでみなさんが楽しまれているのを感じました。ありがとうございます。

では、最後になりますが、今作をどんな方に、どんなふうにお届けしたいか、一言ずついただけますか。

山下

『Wii Sports』は世代を問わず、
「自分のおじいちゃんとおばあちゃんが、ボウリングで遊んでくれました!」
というような嬉しいコメントをいただきました。

今度はそういった方々が、
「気づいたらオンラインプレイで遊んでました」
くらいになったらいいな、と思っています。

ボウリングで、すんごいスーパープレイの人がいる!と思ったら、
実は自分のおじいちゃんや、おばあちゃんに近い年代の方だったり・・・
そういうスーパープレイヤーが現れたら面白いな、と思います。

岡根

『Wii Sports』には
「みんなで集まって遊ぶパーティゲーム」
というイメージがあったと思います。

でも、それに加えて今回は、オンラインでも快適に遊んでいただけるよう、
プログラムチームとしてもすごく頑張りました。

コロナ禍での開発で、在宅で作業することも多くありましたが、
チームメンバー同士で
「こういうふうに離れた場所から一緒に遊ぶのも楽しいな」と
盛り上がりながら開発できたので、
きっと楽しいものになったのではと思っています。

また、「おためしモード」といって、
Nintendo Switch Onlineに入っていなくても
オンラインプレイのような体験ができるモードも入っているので、
ぜひ、ご家族やご友人と遊んでみてください。

森井

今作では、Miiに加えて「スポーツメイツ」が登場しています。
ユニークで豊富な着せ替えアイテムをご用意していますので、
ぜひご注目ください。

もう一つ、デザインコンセプトとして、
気持ちの地続き感を表す意味で、
「一本の線」をデザインの意匠として
あしらっている部分がけっこうあります。

バドミントンのコートの線が、一本の線で書かれている風になっていたり
そこから線が派生して隣のボウリング施設につながっていたり・・・

一本の線を意識したデザインは各所で使われていますので、
そちらも注目して探してみて、楽しんでいただけたらと思います。

横山

サウンドも施設ごとに響き方を変えたり、
「施設がこの位置関係であればここではこんな音がするはず」
という感じで、細かく作りこみました。

一つひとつの遊び(試合)が短いゲームなので、
繰り返し遊ぶたびに、小さい発見があるといいな、
と思って作っています。

いろんな遊び方をするたびに、サウンドとしても
違う印象を与えられるといいなと思って作りましたので、
じっくり聴けるときは、ぜひ耳を傾けていただきたいです。

嶋村

このソフトは、一家に一本あれば、
来客時にでもパッと出して
すぐに一緒に遊んでいただけるソフトだと思います。

でも、そういう時って、
ホストが遊び慣れていて、ゲストに対して実力差があったりしますよね。
ホストが本気でやったらゲスト側はイヤな気持ちになるかもしれないし、
手を抜いたら、それはそれで、
「あ、手を抜いてやってるなぁ?」と感じてしまうと思うんです。

だから、ぜひ、実力差がある2人が遊ぶときには、
2人で一緒にオンラインに出ていって、
その2人で協力して、インターネット越しのライバルたちと戦う
というのを楽しんでみてください。

勝った時は2人で嬉しいし、
負けた時はお互いに慰め合って、
本当にスポーツでペアを組んでいるような気持ちになれると思います。

ぜひ、怖がらないで、
「オンラインプレイ」を楽しんでみていただけたらと思います!

本日はありがとうございました。