『開発者に訊きました ファイアーエムブレム エンゲージ』

2023.1.17

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

本文内に掲載の画像は開発中の資料です。

「できそう」ではなく「やってみたい」

任天堂のモノづくりに対する考えやこだわりを、
開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第8回として、
1月20日(金)に発売となる
『ファイアーエムブレム エンゲージ』の
開発者のみなさんに話を訊いてみました。

今日の取材はインテリジェントシステムズ※1さんにも
お越しいただきました。
鄭(てい)さん、樋口さん、まずは簡単に自己紹介をお願いできますか。

※1株式会社インテリジェントシステムズ。「ファイアーエムブレム」シリーズや「ペーパーマリオ」シリーズなどの任天堂ソフトや、歴代ハード向けのソフトウェア開発支援ツールの開発をしている会社。本社は京都。通称「イズ」。

インテリジェントシステムズの鄭です。
今作のディレクターとして、
テーマ設定からゲーム全般の方向性などを決めてきました。

樋口

同じくインテリジェントシステムズの樋口です。
シリーズの開発スタッフとしては
1996年発売の『聖戦の系譜』※2から、
プロデューサーとしては日本国内では2015年発売の『if』※3から、
プロジェクトに参加しています。

※2『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』。1996年5月にスーパーファミコン用ソフトとして発売。親世代のキャラクター同士の関係によって、子世代のキャラクターに変化が生まれるシステムが話題となった。

※3『ファイアーエムブレムif』。2015年6月にニンテンドー3DS用ソフトとして発売。シナリオに漫画原作者の樹林伸を起用し、「白夜王国」「暗夜王国」の2種類のパッケージが同時に発売された。

今作、鄭さんはシリーズで初めてディレクションを担当されたとお伺いしました。

はい、そうなんです。
30年以上続くシリーズということで、
開発当初は重責を感じて緊張していましたが
無事に完成までたどり着くことができ、
長い間みんなで頑張ってきて良かったなと感じています。
本日はよろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。
では、横田さん、中西さんからもお願いします。

横田

任天堂の横田です。
今作では任天堂側のプロデューサーとして
企画段階から完成まで、
新しい「ファイアーエムブレム」を
どんなゲームにしていくのか、を考えてきました。

中西

任天堂の中西です。
今作では任天堂側のディレクターを担当しました。
開発を担当いただきましたインテリジェントシステムズさんと
ゲームの内容や開発の手順を相談して決めていくなど、
両社の進行を整理する役割を務めました。
シリーズでは『覚醒』※4から関わっています。

※4『ファイアーエムブレム 覚醒』。2012年4月にニンテンドー3DS用ソフトとして発売。キャラクターデザインにイラストレーターのコザキユースケを起用した。

ありがとうございます。では、横田さん。
簡単に「ファイアーエムブレム」シリーズのご紹介をお願いできますか。

横田

ええっと・・・樋口さんの前で話すのは緊張するのですが(笑)。

一同

(笑)。

横田

「ファイアーエムブレム」シリーズは、
「ロールプレイングシミュレーション」というジャンルで、
自分が選び、育てたキャラクターたちをひとつの軍と見立てて、
マス目状の戦場で敵味方のターンを繰り返しながら戦っていく、
戦術的なゲームです。

戦術の中でどのキャラクターをどう動かすか、
またどのような武器や技をどのタイミングで使うのか、
そんなプレイヤーの選択のひとつひとつが
その後のキャラクターの成長や関係性にも影響するというのが
このシリーズの特長であり魅力です。

ありがとうございます。 ・・・樋口さん、今の説明は合格点ですか?(笑)

樋口

とてもよかったと思います(笑)。
やはり、「ウォーシミュレーション」という戦術的要素と、
キャラクターたちの物語と成長というロールプレイング要素が
掛け合わさったのが、このゲームシリーズの特長だと思います。

「ファイアーエムブレム」と言えば、2019年に同じNintendo Switchで発売された『ファイアーエムブレム 風花雪月』が記憶に新しいと思います。『風花雪月』と今作は、舞台設定やストーリーにつながりがあるのでしょうか。

いえ、今作はこれまでのどの「ファイアーエムブレム」シリーズとも、
ストーリー的にはつながりのない完全新作です。
舞台も「エレオス大陸」という新しい世界になります。

千年前に繰り広げられた神竜と邪竜の戦争で、
世界を救うために戦った主人公のリュールが
千年の眠りから目覚めたところからお話が始まります。

リュールが目覚めたのは、
千年前の戦で封印したはずの邪竜が復活しつつある世界。
それを鎮める力を秘めた12の指輪を求めて世界をめぐる・・・
というのが今作のストーリーです。

たしかに前作『風花雪月』とは、雰囲気が異なるストーリーのようですね。

前作は士官学校が舞台となる大河ドラマのような壮大な物語で
各勢力の違いによってストーリー分岐が楽しめるような構成でした。

でも今作のストーリーでは
ひとつの大きな目的を追っていくことで構成をシンプルにし、
戦術シミュレーション部分でもじっくり面白さを味わっていただきたいな、と。

そこで、ワールドマップ上で、世界を歩きながら物語を進めていったり、
仲間となるさまざまなキャラクターを成長させていったり・・・
そんな「RPG感覚」で遊べるものを開発することにしました。

というのも、今回は
ロールプレイングシミュレーションの魅力をまだ知らない人にも
見た目で面白そうと思ってもらえるような、
もっと間口の広いゲームを目指したかったからです。

横田

ストーリー分岐っておもしろいですけど
全部の分岐をプレイするぞ!となると
ハードルの高さは少しありますよね。

本作は画像ワールドマップがありますので、
動画エレオス大陸を旅している感覚を少しでも感じてもらえたらな、と。

リュールが旅するのは、
過去に神竜と協力して邪竜を滅ぼした4つの王族の末裔たちの住む国々。
当時、ともに戦った仲間である「紋章士」が宿る指輪を、
その4つの国が大切に保管しているんです。

でも千年も経っていれば、その間にいろいろあって
ちゃんと指輪を守っている国もあれば、
軍事的に怪しい動きをする国もあったり、
神竜ではなく邪竜を信仰する国もあったりして・・・
その冒険は一筋縄ではいきません。

そんな国々を、プレイヤーもリュールと一緒に冒険している気持ちになれるよう、
住民の性格やデザイン、音楽もそれぞれ特徴の異なるものを用意しました。

そういえば、今作のイメージビジュアルはプレイヤーである主人公のリュールが中心に描かれていました。『覚醒』以降のシリーズでは中心に描かれているのは、プレイヤーキャラではなかったように思います。

中西

仰るとおり、最近のシリーズ作では
主人公以外にキーパーソンがいて、
どちらかというとそのキャラクターたちが
中心となるストーリーになっていました。

でも今作では、主人公でありプレイヤーでもあるリュールが、
「紋章士」たちに導かれながら成長していき、
先頭を切って仲間たちと一緒に大義をなすという、
王道のヒロイックファンタジーをイメージしてほしかったんです。
だから、イメージビジュアルではリュールを中心に描くことにこだわりました。

ただ・・・リュールの性格付けについては任天堂さんと紆余曲折ありまして(笑)。

紆余曲折?

ええ。
主人公で、かつ「王族」といえば、勇ましさというか、
運命や試練に対して「よし! 戦うぞ」という使命感があるというのが
一般的なヒーロー像として正しいように思うんですけど、
僕はそれが今の時代に共感を得にくいんじゃないかと
思っているところがありまして。

いきなり「世界を救う使命を、君が負っている」と言われても、
「はい、頑張ります!」とはならないんじゃないかな・・・と。

それで開発当初、リュールが敵を恐れたり、
情けないことを言ったりするシーンをけっこう強めに入れていたんです。

それはそれで等身大の主人公で面白いですね。

いや、それが・・・やりすぎてしまって、任天堂さんから指摘を受けまして(笑)。

中西

主人公として感情移入する前に、お客様が見放してしまうのでは
と不安になったもので(笑)。

あまりにも情けない、と?

中西

はい・・・(笑)。

それで、いい塩梅(あんばい)で最初は頼りなさそうな面を残しつつ、
だんだん勇ましく成長していく形になりました。

プレイヤーである主人公自身が旅に出るという構図は
クラシックな「ファイアーエムブレム」シリーズでは王道ですが、
意識的にストーリーは現代に合わせたようなことをやりたいと思って
調整していきました。

その主人公を支える存在として、今作には「紋章士」という役割で歴代のキャラクターが出てくるようですが、「紋章士」というアイデアはどこから生まれてきたのでしょうか。

中西

「紋章士」のアイデアは、軸となる遊びを検討していたときに出てきました。
その中で、『聖戦の系譜』や『覚醒』『if』に採用されていた
「結婚システム」が話題になったんです。

『聖戦の系譜』の「結婚システム」は、
キャラクター同士が結婚すると、
親キャラクターの能力を引き継ぐ子どもが生まれる、
というもので、自分なりの組み合わせで
キャラクターを育てていくような遊びです。

ただ、当時のものは結婚して、子どもが生まれて・・・
というところまで、まずゲームを進めなければいけなかったので
自分の選択した組み合わせの結果が出るのに
とても時間がかかっていたんです。

横田

「いや、こういう組み合わせもいいかも」と後から思っても、
結構最初の方に戻ってやり直しになるんですよね。

中西

それで、もっと気軽にこの「組み合わせ」という遊びができないか
と考えて出てきたアイデアが今回の「紋章士」で。

さきほど「12の指輪を探しながら旅する」と言ったんですけど
動画指輪をつけると、異界の英雄である「紋章士」が顕現 (けんげん)して
「シンクロ」という状態になり、一緒に戦えるようになるんです。
さらに「エンゲージ」してキャラクターと「紋章士」が合体すると、
特別な武器や特殊な能力、それから強力な技を使えるようになります。


指輪はつけ替えることができますし、
今までより気軽にいろんな
キャラクターの組み合わせを
楽しむことができるようになりました。

実際にゲームを遊んでみてちょっと驚いたのですが、この「紋章士」、ゲームの最初から出てくるんですね。こういうご褒美的なキャラクターはある程度、ゲームを進めてから登場するものだと思っていたのですが。

樋口

できるだけ早いタイミングで楽しいと
思ってもらえる要素を入れたかったんです。

シミュレーションゲームはアクションゲームと違って、
操作で得られる「直感的な楽しさ」があまりないなと感じていて。

「直感的な楽しさ」があまりない?

樋口

例えば、アクションゲームの場合
ゲームをスタートして、
ボタンを押すとマリオがジャンプする、
ジャンプして敵を踏みつける。
それだけで最初から直感的な楽しさがあるじゃないですか。

でも思考型のシミュレーションゲームは
戦術を駆使して敵を徐々に倒していって、
少しずつエリアを制圧して、最後にクリアする。
そこまでの段階を経て、やっと楽しさを感じるわけです。
・・・そうなると、「楽しい」が来るのがちょっと遅いんですよね。

操作中の「直感的な楽しさ」があまりない分、
このジャンルをじっくりと触れたことがない方にとっては
近寄りがたいかな、と思っていまして。

なので、今作の特長である「紋章士」との「エンゲージ」では、
わかりやすい強さや必殺技を出し惜しみなく最初から体験してもらって、
できるだけ早くお客様に「楽しい」と思ってもらいたい、
と考えていました。

なるほど。

よく戦術シミュレーションって、難しそう、ハードルが高そう、
と言われるんですが・・・
実は僕自身もあまり得意ではなくて(笑)。

でも、そういったお客様にこれなら「できそう」ではなく
「やってみたい」「面白そう」と思ってもらえるものにしたい、
という思いが当初からありました。

だから今回は一番最初のステージから
動画リュールと「紋章士」のマルスが「エンゲージ」できるようになっています。
繰り出す技のエフェクトもカラフルで派手な演出にしました。

「エンゲージ」をすれば、とてつもなく強い力で、敵をせん滅できる!
とお客様にストレートに伝えなければと、
この部分から制作に取り掛かりました。

中西

「エンゲージ」があることで、遊びやすくなりましたよね。
戦術を考えるのが苦手な方は
最初から「エンゲージ」して強さと勢いで前に進めることもできる。

さらに、シリーズ経験者の方には、組み合わせという要素が加わることで
戦術性が増すので、遊びごたえも感じていただけると思います。

それが、今作のタイトルにもなっているわけですね。

「エンゲージ」には引きつけるという意味もあるんですけど、
名詞形だと約束や絆といった別の意味もあるんですね。
これがストーリー上も大事な意味を持っていまして。

動画紹介映像ではリュールが母親のルミエルと指切り
をしているシーンがあります。


記憶を失ったリュールが旅を進める中で、
少しずつ過去の出来事の真相へと近づいていきます。

千年前にリュールと一緒に戦った「紋章士」のマルスも
眠る前のリュールと交わした約束を果たすために、
物語の冒頭でリュールの前に再び姿をあらわします。

だから、ゲームのシステムとしても、ストーリーとしても
「エンゲージ」はとても大事な言葉になってるんです。
僕自身、この言葉をタイトルとしてめちゃくちゃ推していまして・・・
無事それが通ってよかったです(笑)。

中西

実は「ファイアーエムブレム」のタイトルって
いつもすごく難航するんですよ。
でも今回は一発で決まりましたね。

横田

しかも今回はグローバルで同じタイトルで各国一致しましたしね。

なるほど、ゲームの構想の段階から、テーマや伝えたいことがバッチリ決まっていたのですね。