開発者に訊きました『Xenoblade3(ゼノブレイド3)』 株式会社モノリスソフト 取締役 高橋 哲哉 株式会社モノリスソフト プロデューサー、ディレクター 小島 幸 企画制作部 第2プロダクションG 横田 弦紀

2022.7.27

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

本記事では、レーティングがCERO C(15歳以上推奨)のタイトルを紹介しています。

今までにない音

ここまで今作のストーリーや、その背景について伺ってきたのですが、それらを表現するためのビジュアル面での工夫も伺いたいと思います。キャラクターのデザインはどのようにつくられたのでしょうか。

高橋

今回は『ゼノブレイド2』に引き続き、
齋藤さん※4にキャラクターデザインを担当いただきました。

ただ、今までよりもシリアス寄りの話になっているので、
等身を上げて年齢層の上がったようなデザインにしたり、
衣装も今回、ストーリーのトーンに合わせて
あまり派手になり過ぎないようにしてもらったり・・・

イメージビジュアルでは異なる服装をしていますが
最初の登場シーンでは、主人公たちは画像それぞれの国家の軍服を着ています。
そういった服装のデザインも含めて、
シリアスな話に合うストイックなスタイル
に調整していただきました。

※4齋藤将嗣。『ゼノブレイド2』、『ゼノブレイド3』のメインキャラクターデザインを担当したフリーランスのキャラクターデザイナー、イラストレーター。

主人公たちのビジュアルデザインは、割とすんなりと決まった感じだったのでしょうか?

小島

いえいえ、それはもう地獄のような試行錯誤でしたよ・・・(笑)。
特にノアの方向性が決まらなくて、大変でした。

開発中、齋藤さんはモノリスソフトに出向して、
一緒に作業してくれてたんです。
席は高橋さんのブースの前だったんですけど。

そこで僕たちの方で高橋さんの言葉からキャラクターのイメージを湧かせて、
「こんな感じがいい」というのを齋藤さんに伝えて
いろんな絵を描いてもらうんです。

ところが、一日の最後にそれを高橋さんが見るんですけど、
「違う。これじゃない。」みたいな(笑)。
もうその繰り返しで・・・

高橋

とにかくノアのデザインが難航しました。
いろんな絵を出してくれるんですけど、
なんだかノアに見えないというか・・・

最初にメインの主人公は哲学者か詩人のような位置づけにしたかった、
とお話ししたと思うんですけど、
意志が弱そうなキャラにはしたくなくて。
でも、偉そうに見えるキャラクターも違うなあ、と。

小島

描いていただいた案が、けっこう両極端だったかもしれないですね。
ワイルドなキャラだったり、ちょっと優しい感じだったり。

高橋

あと高貴な感じのキャラだと、
セリフが上から目線に見えないか気になったり。
「これがノアだ!」っていうキャラクターの方向性を
探すのに難儀しましたね。

小島

逆にほかのキャラクターは、
種族や体格などの外見が
キャラクター設定として定まっていたので
比較的スムーズに決まっていきました。

キャラクターデザインが決まったら、今度はそれをゲームの3D表現にしていかなきゃいけないんですよね。

高橋

そこはかなり開発スタッフが頑張ってくれた部分です。
今回は齋藤さんのイラストの表現を可能な限り活かして、
フィギュアっぽさや、CGっぽさを無くしていきたくて。
肌、髪の毛、服装の表現、輪郭・・・
かなり表現をつくりこんでもらいました。

CGの表現をイラストに合わせていくのは、苦労があったのではないですか。

小島

とにかく高橋さんが齋藤さんの描くタッチを欲しがったんです。
もちろんイラストもデジタルの機材で描いてもらうんですけど、
手を動かして描くものは、そのタッチが残っていて、
輪郭ひとつとっても一定の太さではなく、強弱がついているんです。

ただ、それを素直に3Dモデルにすると
フラットな表現になるので
齋藤さんの持っている絵力を落としてしまう。
それを元の絵のまま表現できないか、というのが高橋さんのオーダーで。

これもまた・・・夜に残ってみんなで相談をするわけですよ・・・(笑)。
「ああでもない、こうでもない。」って話をしていると、
帰宅する高橋さんが横を通って、
ぼそぼそっと、こうつぶやくんです。

・・・「やりなおし。」って(笑)。

一同

(笑)。

横田

リモート勤務が始まる前の話ですよね。

小島

たしかに!
リモートだと、あの開発作業の詰め方はできなかったかもしれないです。

最終的にできあがったものは、高橋さんの満足のいくものになりましたか?

高橋

そうですね。
顔の表現、髪の毛の表現は、
非常に忠実に再現できたと思います。

特に髪の毛はかなり苦労してつくったのが
伝わるんじゃないかと思います。
シェーダー※5も特別なものを使っていて、シーンによっては
普通に表現するとジャギジャギになって、ノイズが出てしまうところもあり、
デザイナーとプログラマーが両者でかなり調整してくれました。
とても大変だったと記憶しています。

※53DCGにおける、陰影などの描画処理を行うプログラム。演算によって、モノの素材や質感など、多彩な表現をつくり出すことができる。

さて、ここまでビジュアル面のこだわりについてお尋ねしましたが、サウンド面についてもお伺いしたいと思います。
サウンドというと、今作ではノアとミオの役割である「おくりびと」を象徴するアイテムとして、笛が登場しますよね。これはなぜ笛になったのでしょうか。

高橋

「おくりびと」というキャラクターを表現するにあたって、
楽器を使うのが普遍的で伝わりやすいだろうなと思いました。
つまり、音楽で伝えようというのが決まっていたわけですが、
どの楽器を使うのかというのを決めるのには時間がかかりました。

音楽を担当してくれた光田さん※6との相談の中で、
楽器を代表する選択肢はざっくり、
打楽器、弦楽器、管楽器の3つがあるという話で。
ただ、「おくりびと」が打楽器を持っていると、
しんみりとしたシーンや情感あふれるシーンは
ちょっと表現しづらいな、と。

※6光田康典。『クロノ・トリガー』『ゼノギアス』『ゼノブレイド2』などのゲーム楽曲を手がけた作曲家。有限会社 プロキオン・スタジオ代表。

確かに(笑)。

横田

絵面は面白そうですけどね(笑)。

高橋

弦楽器はそういう点はクリアしているんですけど、
良い感じの音を鳴らせる弦楽器は、それなりの大きさになるんです。
ノアたちは戦わなきゃいけないので、
携帯できる楽器でないと、条件を満たせません。

まさか、コントラバスを背負って戦うわけにはいかないですし、
いや、それどこにしまってたんだよ、ってなっちゃうので(笑)。

一同

(笑)。

高橋

それで、じゃあ管楽器で何かいいものはないかな
と探していたところに、光田さんから
「篠笛(しのぶえ)※7なんかどうですか?」と提案がありました。
それで実際に音色を聴かせてもらって、
特徴的な和のテイストも入るし、これならいいんじゃないか、と。

※7篠竹(しのだけ)に穴を開け作られる横笛。日本各地で昔からお祭りのお囃子(はやし)等に使われてきた和楽器。

なるほど。それで笛という楽器が決まって、メインテーマにも笛のフレーズが入って・・・となるわけですね。

高橋

これをメインの音色として扱うということは、
感動的なシーン、悲しいシーン、優しいシーン・・・
それから戦闘シーンでも笛を使うことになるので、
光田さんは大変だったと思いますよ。

笛単独でもメロディとして成り立つものを考えつつ、
さらにいろんなシーンでも
笛の音色を統一されたテーマとして使わなくてはならなかったので。

ちなみに、それらの楽曲は実際に笛を使って収録されたんですか?

高橋

はい。
公式Twitterで公開した「おくられる命」という楽曲は、
冒頭が笛だけで構成されたメロディになっているんですけど
これが一番最初にできあがった曲です。

最初からノアとミオの笛は
サイズも音階も異なるものにしようと思っていたので
2種類の笛を用意して演奏してもらいました。

横田

これ、実は笛をつくるところからやってるんですよ。

えっ、笛をつくるところから? ありものの篠笛ではなくて、新しく楽器自体を製作したということですか?

小島

光田さんが、曲作りに入る前に「笛をつくりましょう」っておっしゃったんです。
なんで笛からつくらなきゃいけないんだろう?って、思ったんですけど、
光田さんは、「一からつくれば、今までにない音がつくれますよ。」と。

高橋さんはノアとミオの2つのメロディを一つの楽曲として
融合する狙いをお伝えしていたので、
笛からつくれば音階も自由に選べるし表現がしやすい、
という考えもあったようです。
そしてなんといっても、ゲームと同じ笛が
リアルに存在することに説得力がありますし、
唯一無二のものになるんです、という言葉を聞いて。
それなら面白そうだし、やってみましょうと。

そこまでのこだわりだったんですね。ところで、そのつくられた笛ですが、見せていただくことはできたりしますか?

小島

これなんですけど・・・
実際にレコーディングで使われることを前提に
モノリスソフトでデザインし、
それを篠笛の職人さんに笛として作ってもらい、
漆塗りの職人さんに装飾をしていただきました。

おお、これは・・・! 確かにゲーム中に出てくるノアとミオの笛そのものですね。横田さんは、実際に笛をつくるところからだと聞いて、いかがでしたか。

横田

今回も高橋さんのつくる世界を大事にしたいと思っていましたし、
光田さんもそのために新しい音を作りたい、と意欲に燃えていたので、
それであれば既存の楽器よりも、ゼロからつくった方が
今作の雰囲気にマッチするだろうな、と思いました。

また、今までのシリーズをあそんでいただいたお客さまには
音楽も楽しみにしていただいていると思うので、
こういった没入感につながる仕掛けがあるのはありがたいと思いました。

『ゼノブレイド3』の世界の、独自の音の表現、ということですね。

横田

ええ。楽曲もノアとミオで2種類の旋律があって。
そのためにノアは大きめの笛で、少し低い音。
それからミオは小さめの笛で、少し高い音になっています。

表面の模様も、とても美しいですね。

小島

この模様はモノリスソフトの2Dデザイナーがデザインしたんですけど
相当細かい模様なんですよね。
当然モノリスソフトでは本物の楽器の、
それも漆で仕上げられる想定のデザインなんてしたことがないものだから、
かなり無茶なデザインを依頼したと思うんです。
でも、職人さんが寸分違(たが)わず再現してくれました。

高橋

ノアの笛は、赤いグラデーションが入っているんですけど
このグラデーションの表現が、漆では非常に難しいそうです。

すごくきれいに表現されていますよね。

小島

動画実際にこの笛をレコーディングで吹いていただいて、
その楽曲がゲーム内で聴けるようになっています。

横田

今回はジングルのような短いものも入れて、140曲くらいあります。

小島

ゲーム音楽で140曲ってすごいですよね(笑)。

高橋

でもね、まだ足りないんですよ。
あと15曲くらいは欲しいんです。

えっ、まだ足りない・・・?

小島

いや、次は減らしたいんですけど・・・(笑)。
でもまあ、高橋さんが欲しがるのもわかるんです。
映画は2時間程度ですけど、
ゲームってプレイ時間がすごく長いですから。

異なる心情のシーンでは、同じメロディでも
少し異なる曲調にしたいですし、
そうなると、どうしてもバリエーションを増やしたくなります。

なるほど。そうしたシーンに合わせた140曲という楽曲数も含めて、今回は「集大成」ということですね。

高橋

楽曲は複数人で手がけてもらっていますが、
ストーリーに関連する部分は光田さん、マリアムさん※8、清田さん※9
環境に関する部分はACEさん※10、平松さん※11を中心に、
ほかの方々にもお願いして、
そのうえでモチーフとなる楽器を笛に統一して。

全体としてみた時に、すべてが非常になだらかに、
ひとつのまとまりある作品として、
すべての曲をつなげることができたように思います。

過去2作で培ってきたノウハウも生かして、
3作目では、たくさんの楽曲に対して
それぞれの持ち味を一番うまく引き出すことができたかなと思います。

※8マリアム・アボンナサー。作編曲家。プロキオン・スタジオ所属。Nintendo Switch『ゼノブレイド2』からシリーズの楽曲制作に参加。

※9清田愛未。作編曲家、シンガー。Wii『ゼノブレイド』からシリーズの楽曲制作に参加。

※10工藤ともり、CHiCOの2人組音楽ユニット。Wii『ゼノブレイド』からシリーズの楽曲制作に参加。

※11平松建治。Wii『ゼノブレイド』ではACEに臨時メンバーとして加わり、楽曲制作に参加した。

そういうこだわりが、物語への没入感につながっているのですね。物語への没入感という意味で、ゲームの途中に差し挟まるイベントシーンも大きな役割を持っていますよね。

高橋

小島さんにはいつも、イベントシーンを短くしろと言われますが(笑)。

モーションキャプチャーを使ったイベントシーンでは、
キャラクターの表情も豊かに見せることができます。
でも、すべてをモーションキャプチャーで表現することはできないので、
動画モーションキャプチャーのシーンとそれ以外のシーンの差
を感じにくくするために、
間に風景を挟んだり、情緒のあるシーンを挟んだりして、
境目が自然につながるように調整をしています。

今作の演出で一番のこだわりポイントです。

確かに、自然につながっていて、見分けがつかないくらいのクオリティに感じますね。

高橋

それだけではなくて、
フィールドシーンからバトルシーン、
バトルシーンからイベントシーンと、
各シーンへの移行をデータを読み込むことなく、
可能な限りシームレスに繫いでいます。

これは初めての試みだったんですけど、
かなり苦労した箇所です。

ひとことでシームレスと言っても、つくるのは大変だということですね。

小島

いやあ、これはめちゃくちゃ大変でしたよ・・・。
でも、ただ無茶を言っているわけではなくて、
担当プログラマーやデザイナーも今回挑戦してみたい、
という気持ちを持ってくれたので。

現場の開発スタッフも、最後までやり切りたい
という気持ちで臨んでいたので、
大変というばかりではありませんでした。

ただ、なかなか安定しなくて、
任天堂さんやマリオクラブさん※12には
ご迷惑をおかけしてしまったんですけど・・・。

※12マリオクラブ株式会社。ゲームソフトのデバッグやモニターテストを手がける任天堂グループの会社。

横田

いえいえ。
以前から、イベントシーンやボスバトルに入るときに
もっと上手に繋げたいよね、という話はありましたよね。
今回は一歩前進できたかなと思います。
苦労もありましたが、やってみて良かったです。

小島

そうですね。
これも、今までの集大成のひとつですし、
今後どんなシチュエーションでも
シームレスに繫いでいけるような
没入感の高い作品を目指していける気がします。

横田

イベントシーンも、音楽も、キャラクターデザインも、
すべてが「ゼノブレイド」シリーズで培ってきたことの集大成で、
今作でのチャレンジは未来により良いものをつくるためのものだ
と思っています。