2021.10.8

感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。

より良いゲーム体験を実現することに取り組み続ける

さて、ここまでは2017年のNintendo Switch発売以降、ゲーム専用機特有の製品ライフサイクルの中で、お客さまの反応と技術の進歩を捉えて改良を検討し続けた結果が、有機ELモデルの「見える変化」と「見えない変化」につながったというお話を伺ってきました。
ですが、冒頭では、試行錯誤の中で出た改良のアイデアを、発売済みのNintendo Switchに採用していったものがあるということでしたね。そのあたりも詳しくお聞かせいただけますか?

塩田

はい、2017年の発売以降で、
今回の有機ELモデル発売を待たずして改良したことといえば、
まずはバッテリーの持続時間があると思います。

Nintendo Switchは「持ち運べる据置型ゲーム機」ということで、
持ち運べる要素がある以上、発売した後も
「消費電力を下げたい」「バッテリー持続時間をちょっとでも延ばしたい」
という思いがあったんですね。

また、Nintendo Switch Liteのような携帯専用モデルの構想もありました。
ですので、SoC※10に関しては、Nintendo Switch発売後も改良を続けていました。
その結果、新しい半導体技術を採用することで、
ぐっと消費電力を下げることができました。

その成果を、2019年から発売された
「バッテリー持続時間が長くなったモデル」として、
お客さまにご提供しています。

そして、この消費電力が下がったSoCは、
今回の有機ELモデルでも同じように搭載しています。

※10「System on a Chip」の略で、一つの半導体チップ上に、システム稼働に必要な多くの機能を搭載したもの。ここではNintendo Switchの心臓部となるCPUやGPU、その周辺機能を搭載した半導体チップを意味する。

バッテリーの持続時間が変わったのはSoC、つまりゲームのプログラムを動かすCPU周辺の消費電力が大きく作用しているんですね。

塩田

そうですね。
もともとゲームプレイ時の消費電力が約12Wだったのが、
約7Wまで下がりました。

厳密にはSoCだけでなく、
周辺にあるメモリーの消費電力も変わっています。

そういった低消費電力を実現する半導体技術の進歩に乗って、
Nintendo Switchも進歩を続けているということになると思います。

それがお客さま向けには「バッテリー持続時間の延長」という価値となって、
お届けすることができました。

山下

バッテリー持続時間は、
例えば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のプレイ時間※11で言うと、
約3時間だった持続時間が約5.5時間になりましたので、
2倍近い持続時間になりました。

※11目安の時間です。ゲームソフトや使用状況によって、短くなることがあります。  

実際、このSoC開発を進めていく中で、
このバッテリー持続時間の延長を
有機ELモデルのような新モデルと一緒に送り出していく
という構想もありましたが、
せっかく技術的に準備ができていて、お客さまにメリットがあるものを、
すぐに出さない理由はなかろうと考えました。
ですので、普通にNintendo Switchの「改良」として投入していきました。

かなり大きな変更だったと思いますが、それでもあくまで同じNintendo Switchの「改良」として投入したということですね。

山下

はい。その結果、
「バッテリー持続時間が長くなったモデル」という長い言葉を添えて
区別するモデルになりましたが、
こんな言い方をしたいくらいに、
持ち出してプレイする際にメリットを感じていただける性能にできたと思います。

・・・まあ、私も最初にこの言葉が添えられているのを見て、
ストレートな説明なのでビックリしたのを覚えてますけど(笑)。

塩田

消費電力が少なくなったことで、
当初構想にあったNintendo Switch Liteのような
携帯専用モデルもつくれるようになりました。

携帯専用モデルにとっては、
バッテリー持続時間の意味はもう一段大きい。
こういうことを実現するためにも、
SoCの改良は効果が大きかったと思います。

もう一つ、Nintendo Switchの大きな特長の一つであるJoy-Conですが、
お客さまがゲームをプレイされる際の体験は、Joy-Conから得られる部分が大きいと思います。
体験の向上という意味で、この部分に対しての改良はあったのでしょうか。

山下

Joy-Conにはさまざまな機能があり、
それぞれは必ずしも目に見える改良とは限らないのですが、
中でもアナログスティックは発売以降、
部品を継続的に改良していって、
現在も改良に取り組み続けています。

発売当初のJoy-Conのアナログスティックは、
スティックに荷重をかけながら何度も回転を加え続ける方式で、
Wii U GamePadのアナログスティックと同じ基準の
任天堂の信頼性試験をクリアしていましたが、
継続的な改良を図る中で、
実際にお客さまが使用されたJoy-Conを調査し、
耐摩耗性と耐久性の改良を何度も重ねていきました。

Joy-Conのアナログスティックは、
世の中にある既製品の部品を使っているわけではなく、
専用に設計した部品ですので、
この改良にはかなりの検討を行っています。

さらに、信頼性試験自体も改良し、
その新しい試験をクリアするよう、
耐久性を向上させるための改良を加え続けました。

こうした一連の改良は効果が確かめられた段階で、
その時に製造している本体同梱のJoy-Conや、
Nintendo Switch Lite、単品で販売しているJoy-Conに、
速やかに取り入れています。

Joy-Conの内部のことになるので、
外からの見た目で改良が分からないのですが、
修理についても、
順次新しいバージョンの部品に
置き換えさせていただいています。

また、このような継続的な改良は
Proコントローラーについても行っています。

物理的に接触する部品である以上、摩耗自体は避けられないということでしょうか。

塩田

はい、例えば車のタイヤは
地面に接触して摩耗しながら進みますが、
それと同じように摩耗する前提で、
それでもいかにして耐久性を上げるか、
そして耐久性を上げるだけでなく、
操作感と耐久性をどう両立させるかに、
継続してチャレンジしています。

山下

材料の組み合わせや、形状などによって
摩耗のしやすさが変わりますので、
なるべく摩耗しにくい組み合わせを
研究しながら改良を続けています。

Joy-Conに新ボタン等の新機能は足さなかったという意味で、
Joy-Conの機能に「変更はありません」
とお伝えしていましたが、
現在出荷しているNintendo SwitchやNintendo Switch Lite、
単品販売のJoy-ConやProコントローラーはもちろん、
今回の有機ELモデルに同梱されているJoy-Conも、
改良が進んだ今お届けできる最新のものです。

今のような話はJoy-Conに限ったことでないと思いますが、
今後もハードウェアを細かく改良し続ける、ということですね。

山下

はい、この姿勢はこれまでも、そしてこれからも続くものです。
お客さまの声をお聞きしつつ、
Nintendo Switchの発売時にはできなかったけど、やりたかったこと、
そして実現できればお客さまに喜んでいただけると思うことを考え続けて、
それを一つの形にしたものが、
今回の有機ELモデルだと思っています。

ですが、今回の有機ELモデルに対しても、
「こうすればさらに良くなる」といったアイデアは
まだまだ出てくるので、
そういった検討はこれからもずっと続けていきます。

任天堂は「新しいハードを出したら、すぐに次のハードを考えます」と、
機会があるたびにお伝えしているのですが、
それは常に新しい製品開発に取り組んでいるということだけでなく、
製品を送り出した後にも、そこからさらに何ができるかという検討に、
絶え間なく取り組んでいるということです。

塩田

任天堂がハードウェアに詰め込む技術というのは、
本当に幅広く調べ、試作するようにしています。
そして、我々はそうやって手にした技術を、
どういった形でお客さまにお届けすべきかを、
入念に考えないといけません。

すでに発売した商品に対して、
それをより良くするために新しい技術を使うこともありますし、
何かまったく新しい体験を
お客さまにお届けできる可能性を感じられる技術の場合には、
新しい製品に使うこともあります。

きっかけはエンジニアの小さな好奇心から生まれる技術への取り組み
であることが多いのですが、
その出口については、
「改良」という形で世に出て行くものもあれば、
新しい製品という方向に向かって出て行くものもあるということです。

そういった任天堂らしい技術の使い方を、
開発メンバーは日々意識して考え続けていると私は思っています。

お客さまの声も、そこには影響するのでしょうか。

塩田

はい。特に改良に関しては、
しっかりとお客さまの声をお聞きしなければならないと考えています。
遊んでくださっているお客さまの声が、
まさに改良のきっかけになることがたくさんあります。

ただ、まったく新しい製品を作る時には、
また違った考え方が必要だと思っています。
というのも、
我々はお客様に新しい娯楽を提案する立場にあり、
「我々が培ってきたアイデアや技術を、
どの様な形でお届けすれば、
新しい娯楽を提案できるのか」
という切り口で、
新たな製品を開発する必要があるからです。

そして、それを実現するには、
ハードウェアを開発するだけでは不十分で、
ゲームソフトの開発とも一体になって、
新たな娯楽の体験を作り上げていく必要があると考えています。

「ハード・ソフト一体型の展開」※12という言葉を
申し上げる機会が多くありますが、
まさにそのことが開発の現場では起きています。

ハードウェアとソフトウェアという
それぞれ異なった強みを持つ社員が
混然一体となって切磋琢磨しあっているのが、
もしかしたら任天堂の強みの一つかもしれません。

※12 ゲーム専用機のハードウェアと、その上で動くソフトウェアを一体にして、お客さまに新しい体験を提供することを目指す任天堂の事業戦略。

そうした強みは、塩田さんが入社された時から?

塩田

私が任天堂の中で見ている限り、変わっていません。
今の世の中はどちらかというと、
どんどん設計や改良を社外に委託していくケースが多いように感じています。
ですが、任天堂はまだまだ社内で、
より良いゲーム体験を実現することに取り組み続けているんですよね。

今日お話ししたように、
自分たちの口でスタンドやスピーカーのことを
語ることができるのは、やはり自ら設計しているからです。

こうしたことが
任天堂のハードウェア開発の文化であって、
それを少しでもこの機会を通して感じていただければと思っています。

本日は、どうもありがとうございました。