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2010年3月期 第1四半期 決算説明会
質疑応答
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Q 1  今後の見方について教えていただきたい。私は、貴社の努力で年末商戦以外にもゲームがよく売れるようになったと評価している。しかし今年度の貴社の重点商品は夏以降に配置されていることに加え、サードパーティの主力商品も年末商戦に集中しているように見られるので、例年以上に年末商戦が激化するという可能性はないか伺いたい。例えば、『Wii Sports Resort』等も今回発売時期が若干ずれたが、そういったことに伴い、ソフトの発売スケジュールを見直す可能性が増えていないか差し支えのない範囲で教えてほしい。
A 1

取締役社長 岩田 聡:

 こちらをご覧ください。昨年4-6月期に、『マリオカートWii』と『Wii Fit』というソフトを出し、年間でそれぞれ、1,540万本、1,637万本売れました。もちろん、これは上半期だけに売れたわけではなくて通期でこれだけ売れたということです。一方で今年は、4-6月期には、こういう大きなインパクトのある、全世界で数ミリオン以上売れるようなソフトを任天堂は発売できませんでした。また、ご指摘の通り、『Wii Sports Resort』は、当初はもう少し早い時期の投入をイメージして開発していましたが、1つは「Wiiモーションプラス」を十分な数量作ってから出したいということ、それからもうひと粘りすればグッと面白くなりそうだという手応えもあったことなどから、発売が少しずれ込み、日本での発売は6月末、アメリカでの発売、ヨーロッパでの発売は、先週末、7月の末になりました。そのため、今年の有力ソフトというのは、第2四半期に『Wii Sports Resort』、それから第3四半期に『Wii Fit Plus』と『NewスーパーマリオブラザーズWii』ということになります。

 すでにこれら3つのソフトについては、E3で実演をさせていただきました。触っていただいた方からは非常に高く評価していただきましたし、流通さんからも、「今年の年末のキープレーヤーはやはり任天堂であろう」というふうにご評価いただきましたので、これら3つそれぞれが、世界全体で見れば、通期で1,000万本以上は十分にねらえるポテンシャルがあるソフトだと思っています。

 もし昨年も10-12月の期間にそのようなソフトが出せていたのであれば、今年、今から(通期のソフト)販売を(昨年の水準に追いつくように)挽回することは相当きついんじゃないかということが言えるわけですが、昨年、残念ながら『Wii Music』や『街へいこうよ どうぶつの森』は、私たちの期待通りにはならず、それぞれ265万本、338万本にとどまりました。これらのソフトがロングセラー化していれば今年の前半のソフト不足の影響はもっと小さかったと思います。

 ところがこれらのソフトは比較的短期間で販売数が落ち込んでしまいまして、もっと前に発売した『マリオカートWii』や『Wii Fit』の方が、ハードを牽引しながら売れ続けるという状況で、昨年度について言えば、年度初めに出した2つの有力ソフトがずっと市場を牽引してWiiハードも売れていきました。ただ、どんなソフトも発売から1年を超えてきますと、やはり最初ほどのインパクトは持ち得なくなります。よって、この第1四半期に、もし「Wii Sports Resort」がもう少し早く出せていたらという点と、もし昨年の年末に出した商品がロングセラー化できていたらという点の2つの要因があり、特にWiiの落ち込みというのはそういう要因が複数重なって起きてしまったのではないかと私たちは考えています。やはり、クリスマスだけではなく、年中ビジネスが活況を呈するには、常に定期的に新しいものを出さねばならないわけですが、一方でソフトの開発というのは事前にすべてが分かるわけではないのです。驚きや面白さについて仕様書を書き最初の基本デザインをした時点で100パーセント見通せる人間はいないわけです。ある程度作って初めて分かる部分があるので、完成が予定通りにならないことが起こっているわけですが、私たちも今回はそういうミスを犯してしまったと思います。

 一方で、『Wii Fit Plus』や『NewスーパーマリオブラザーズWii』が、予定通り出せないという心配は、今まったくしていません。今年は昨年と比べますとどうしても有力タイトルが下期偏重、これは任天堂だけではなくて、他社さんにも見られる現象で、そのため、アメリカのNPDデータでも、3、4、5、6月が前年割れという報道がされていますけれども、これは「単純に景気の影響を受けた」というよりは、昨年この時期には私たちにも『マリオカートWii』や『Wii Fit』がありましたし、他社さんでは『グランドセフトオート4』がありましたし、そういうような全世界で1,000万本級のヒットタイトルがあったかなかったか、ということの違いが大きいと思っています。逆に、今年の後半には全世界で1,000万本級のタイトルがあるわけですから、下期に今まで以上に大きなビジネスができるんじゃないかというのが私たちの見立てで、それが期待できると思っています。確かに当第1四半期の業績は私たちが想定した範囲のかなり下限に近い、決してよくない数字であると認識していますけれども、通期では挽回可能であろうということで業績を据え置くという判断をしました。

Q 2  7月に入ってからの販売状況を教えてほしい。特にアメリカ、欧州は『Wii Sports Resort』が発売されてまだ1週間だが、貴社の出荷ベース、セルスルーベース、それをどのように見ておられるのか、今後の販売状況予想を教えてほしい。また、欧州、米大陸、それぞれの国によって温度差があると思う。これについても簡単に説明してほしい。
A 2

岩田:

 まず、『Wii Sports Resort』は、まだ発売したばかりですので、今の数字をもって『Wii Sports Resort』のポテンシャルはどうなのかということを数字で申しあげるにはいかにも早すぎると思います。『Wii Sports Resort』が超初動型の商品で、最初の週に200万本、300万本売れるということであれば、そういう数字を調べてきて、今日私がここでお話しすると皆さんに少しは安心していただけるのかもしれませんが、そういうタイプの商品ではありません。むしろ長い間、じわじわと売れていって気がついたらすごい数に積み上がるというようなタイプの商品と見ていただくとよいと思います。ではその『Wii Sports Resort』が売り出されたらすぐにハードが増えるのか、そうじゃないのかというご質問があるかもしれませんが、ハードは若干増えているようだと聞いていますが、劇的にハード(の週間販売数)がすぐに何倍にも増えるということは起こっていないようですし、また起こらないはずだと思っています。任天堂は、特にDSの『脳トレ』以降、長期にわたって売れ続けて、長い間ハードを牽引するというソフトをいくつか生み出すことができたわけですが、これらのソフトには皆、共通のことがあります。それはハードの牽引が本格的に始まるのは、ソフトが発売されてからおよそ6週間から8週間ぐらいかかるということです。なぜ6週間から8週間なのか、ロジカルな説明ができませんが、例えば「クラブニンテンドー」の登録状況では、お客様がソフトを登録された週に、アカウントの同じお客様がハードも登録されているかいないかは、データをフィルタリングすれば分かるわけです。そうして私たちはソフトのハード牽引率というのを調べているわけですが、どんなソフトでも最初は牽引率というのは非常に低いです。それが6週間から8週間ぐらい経ってきて、それでも売れ続けていくソフトの場合、ハード牽引率というのは高まっていきます。すなわち、そういう(長い間売れ続ける)ソフトがハードを買う動機になったり、あるいはハードを買うときはそれを一緒に買おうということが起こっているということだと思います。

 その意味で、『Wii Sports Resort』がどれぐらいハードを牽引するのかは、あと2ヵ月くらいしてデータが揃わないと、お話しするには早いと思いますが、過去の経験や『Wii Sports Resort』の期待感から申しますと、日本は先行して発売していますから、この1、2ヵ月の間に、手応えがどんどん見えてきて、皆さんにご説明できるようになると思います。

 据置型ゲーム機は、アメリカやヨーロッパでは、7月、8月はあまり売れる時期ではなくて、9月に入ってから盛りあがりがくることが多いようです。ですから7月、8月には、スポーツの商品でこの季節が特によいというような、例えば、エレクロトニック・アーツ社様の『マッデン』のように毎年8月終わり頃に出すと決めておられるソフトを除きますと、据置型のビッグタイトルはあまり発売されません。

 海外の人たちがバックトゥースクールという言い方をする9月頃に需要が盛りあがってくる時期になると、社会的に皆さんが据置型ゲーム機に興味を持っていただける時期が来るので、そういうタイミングで『Wii Sports Resort』の面白さが、既存のお客様に十分知れ渡ってくれば、それがハード牽引に大きく役立つだろうと、そして年末に向けて大きな波になるだろうと思います。ですから、むしろ『Wii Sports Resort』のハードの牽引効果というのは、第3四半期(10-12月)に最大化するはずだというふうに思っています。昨年も『マリオカートWii』と『Wii Fit』を近づけて発売し過ぎではないかという議論が社内でさえありましたが、逆に、「複数(のビッグタイトルが同時期に)あることが相乗効果を生むのではないか」という仮説のもとにあえて近づけて発売し、(結果として)非常にうまくいったと思います。今年はそれに輪をかけて、1,000万本クラスというものを3つ続けて出せるわけですから、「任天堂の歴史にとって最大のクリスマスになったね」と言ってもらえるようにがんばりたいと思います。

Q 3  据置型ハードそのものについての考え方をお聞きしたい。
 スーパーファミコンの発売が、日本が1990年で北米1991年、ニンテンドウ64がその5年後の1996年、ゲームキューブがさらに5年後の2001年、直近のWiiがさらに5年後の2006年である。この5年周期の法則をあてはめると、次世代の据置機の発売は、多分2011年の年末頃と思う。そこから逆算すると来年のE3あたりで何らかのアナウンスがあるという気がするが、新型ゲーム機に対する発売サイクルの考え方を教えていただきたい。ただ、ニンテンドウ64とゲームキューブはプレステに押されていたハードで、早く次のものという考えがあったと思うが、Wiiは今回勝ち組ハードということなので、この5年周期はあえてあてはめずもう少しひっぱるつもりなのかについて、考えをお聞きしたい。マーケットも、次の何か新しいニュースフローが任天堂から出るのを待っているのではないかと思うので伺いたい。
A 3

岩田:

 過去にも経営方針説明会や決算説明会等でお話しさせていただく際に繰り返し申しあげてきましたが、「過去に何年サイクルであったから今後も何年サイクルで考えるべきだ」というふうには私はまったく考えていません。ただ、一方で、今言われたように、スーパーファミコンからニンテンドウ64は(海外では)5年、日本だけでいうと6年、ニンテンドウ64からゲームキューブが5年、ゲームキューブからWiiはまた5年ということがありましたから、5年サイクルというものが、どこかで信じられているというのも事実かと思います。過去には、ちょうど5年くらいすると、ビデオゲームをしていただけるお客様にある程度製品が行き渡ってしまい市場が飽和するという点と、5年すると半導体の技術が非常に進むため、同じ値段で作れる半導体で表現できるグラフィックスの質が劇的に変わり、そしてグラフィックスの質を高めるとお客様が明らかに魅力を感じられるという循環が回っておりましたので、5年サイクルというのが続いたわけです。

 本世代の大きな特徴は2つありまして、1つはグラフィックスの向上による刺激にお客様が以前ほど価値を感じられなくなり、一般のお客様には(グラフィックス向上による)差が分かりにくくなってきているという点です。もう1つが、任天堂がお客様の層を広げる取り組みをし、結果的に今までのお客様よりももっとビデオゲームに関与や関心が薄くて、能動的に情報は取りに来られないけれども、面白いものがあったら、そういうものに支出をされるたくさんの方々が、新しくゲームユーザーになっていただいたので、お客様の層が変わり、お客様の人口が増えたという点です。お客様の人口が増えたということは、1年あたりに売れる数量が増えたり、あるいは延べで売れる数量(ハード・ソフトの累計普及数)が変わったりするわけで、そういうことが起こっているのがDSでありWiiのマーケットだと思っています。その意味では私たちは5年周期にとらわれずに考えようと思っています。

 今の話に関連しますが、このようにスローダウンが起こってくると「ゲーム人口拡大もそろそろ限界ではないでしょうか?」ということを多くの方が心配されるようになると思います。

 このスライドは、任天堂が日本、アメリカ、ヨーロッパ(主要な6ヵ国のみ)において、一般消費者の方々のゲーム関与に関する調査を基に推定したお客様の数です。世の中には、今ゲームを遊んでおられる方、「将来ゲームを遊んでもいい」と思っておられる方、そして「金輪際ゲームなんかゴメンだ」と思っておられる方、昔はそう答えていても今では「ゲームをやってもいい」とか、「今ゲームで遊んでいます」と言ってくださるお客様もおられるので、これは固定的なものではなくて、定点調査をしていくと、変化が分かって非常に面白いのですが、これは今年の春時点での世界中のデータです。現在ゲームを遊んでおられる方(現行ユーザー)は、日本に5,380万人、ヨーロッパ主要6ヵ国に9,810万人、アメリカに1億4,370万人いらっしゃるわけです。その他に、「私はゲームを遊んでもよい」と思っている、「ゲームに興味があります」と答えている方、すなわちアクティブユーザーになる準備ができている方々(ポテンシャルユーザー)が日本には2,460万人、ヨーロッパには7,150万人、アメリカに5,340万人いらっしゃいます。特にヨーロッパは、現状の市場の大きさに対して拡大の余地が大きいです。

 また、現在のユーザーさんの中で、WiiやDSを使っている人とそうではない人がおられます。日本では、アクティブなお客様、現行のお客様の中でWiiまたはDSを触っておられるお客様の割合は世界一高くて8割以上の方にWiiやDSを触っていただいていますが、それでも「他の機械ではゲームはするけど任天堂の機械ではしてない」という方が結構おられます。これは、特に比率で言いますとアメリカに拡大の余地が大きくて、1億4,370万人のうちWiiやDSのお客様が9,370万人で、新たに5000万人が拡大の余地として残っています。その人たちにWiiやDSを買っていただけるように、私たちは努力したいと思っています。今調査対象の国々で現在のゲームを遊んでおられる方は2億9,560万人で、そのうち2億950万人は、WiiやDSを遊んでおられるのですが、私たちは、実は社内で、「任天堂のお客様を世界で2億人にしよう」と密かなマイルストーンとして置いていたのですが、今年の春の時点で達成できたことが分かったという事実があります。さらに現行のお客様以外の拡大余地が1億4,950万人と、今のお客様の中でまだWiiやDSを触っておられない方が8,610万人、これらの国々にいらっしゃるので、実は今のWiiやDSのユーザー数というのは、理屈の上では、今の倍にさえなりうるわけです。ですから、「(今はもう)サイクルの終わりで、もうすぐ次の機械を出さなきゃいけない」というようにはぜんぜん思っていませんし、そういう意味でも、何年サイクルというのは決めていません。当然、ハードの研究はしていますし、ハードのチームは次のハードの開発をしています。当たり前です。その中で私たちが社内で出てきたアイデアと、それが世の中の流れにものすごくマッチしてリーズナブルな値段で十分な量を作れるということがはっきりした時点で次のハードをいつ出しますということをお話しすることになるのですが、それはまだ、ごくごく近い未来ではないだろうと、私たちは思っています。

Q 4  E3での発表、貴社もマイクロソフトさんもソニーさんも見せていただいた。今年9月以降かなりのタイトルが出てきており、発表タイトルがあまりにも多すぎて時間と財布が足りなくなる可能性が非常に高いのではないかと危惧している。それについて、どのように見ているのか伺いたい。あまりにも競合がきつ過ぎるのではないか。貴社の場合、新しいユーザーが拡大できるので、競合リスクはあまりないと考えているのか。
 加えて、E3での貴社発表の『NewスーパーマリオブラザーズWii』を見ていると、プレゼンテーションでは面白さが伝わらないような感じになってしまっていた。ところが実際にプレイした人のコメントを見てると、面白いというふうなことになっている。去年もそうであったが、E3のプレゼンテーションはあまりよくなかったような印象を持っている。社内ではどのように議論されているのか伺いたい。
A 4

岩田:

 E3後のタイトルが多すぎるということですが、確かに私たちのタイトルの複数のものすべてに興味を持っていただいて、その上、さらに他社さんのいろいろなゲームにも興味を持っていただけるような、そういうお客様がいらっしゃるとすると、Wii以外にDSのタイトルもあり、それらを含めて、あるいは他社さんのタイトルも含めると(今年の後半は)確かにタイトルがある程度多いと思います。財布もそうですし、何よりもやはり、現在では(お客様がゲームを遊んでいただくのに使える)時間が問題になりますね。ある程度お金を出してでも遊びたいと思うものは長い時間楽しめるもの、遊びごたえのあるものを求めるという気持ちが皆さんにおありですし、一方で、皆さん非常に忙しくされていることから、私も時間の取り合いということについては非常に強く意識しています。一方で、私たちは、個々のお客様という見方もしますが、同時に家庭内でそのゲームに関与してくださるお客様が何人いらっしゃるか、ということも同時に考えています。例えばお父さん、お母さん、子どもさんがいらっしゃる家庭があったとしたら、子どもさん、お父さん、お母さんが一番興味を持たれるタイトルは、必ずしも重ならないと思っています。今回『Wii Sports Resort』『Wii Fit Plus』『New スーパーマリオブラザーズWii』、これらのソフトにしても、比較的他社さんの出される強力タイトルといわれるものとあまり重なりはございませんし、この3つはあまりカニバリ(共食い)を起こさない組み合わせではないかと思っています。ただ、確かにこの上にE3でもいろいろなタイトルをお見せし、また他社さんからもいろいろ出ましたが、その中でタイトルが混在するためにポテンシャルが出し切れないソフトというのが出る懸念がないのか、というお話であれば、それはあり得るかも知れないので、それぞれのソフトの特徴を、それぞれのソフトに合ったお客様に的確に伝わるようにしたいと思います。ただこれらの主力ソフトに関しては、ある意味私たちは、「みんなのゲーム」と評する、万人のための、ゲームの上手な人も、ゲームのまったくの初心者の方も両方楽しんでいただけるということを目指して作りましたし、そういう仕上がりになっているという自信もございますので、その意味で大きなインパクトを持って世の中に提案できるだろうというふうに確信しております。

 それからE3の件ですが、当然E3の発表後、私たちも様々な内部議論をいたしました。率直に申しあげて、任天堂の発表会(でのゲームの紹介)がよかったというふうに社内ではまったく評価しておりません。やはり商品の魅力が伝え切れていないと思います。確かに、初めて『Wii Sports』をお見せしたとき、初めて『Wii Fit』をお見せしたときに、明らかに見たことがないことがステージ上でくり広げられましたので、自然と魅力は伝わったと思います。『Wii Sports』のときは、割とすぐに魅力が伝わり、『Wii Fit』のときは最初にまず戸惑いがあり、そして伝わるという印象だったのですが、一方で、今年の『NewスーパーマリオブラザーズWii』は、4人並んで実演をいたしました。4人並んで実演をして、それがいかにも見たことがないようなものであったかというと、そうは見えなかったと思います。また、実際に遊んでいただいた方は逆に、「ああ、マリオって4人で同時に遊ぶとこう変わるのか」という実感を持っていただけたようなのですが、実際に触った人が感じられるような面白さは、どうも感じていただけなかった、ということです。Webキャストを通じて海外やアメリカ国内でご覧になっている方の数が、その場に集まっておられる方の数に対してずっと多いというような状況になってきた今のE3というイベントで、どうすれば私たちの製品の魅力が伝わるのかということをもっともっと研究しないといけないと、非常に強く思っています。その意味では、見せ方について反省のあるショーだったと思います。E3での発表の後、日本で国内の流通さん向けに発表会を行い、そのときに「Wii」の「クロ」ハードを発表したり「DSi」の赤のハードをお見せしたことの方が、ゲームファンの方々に話題にしていただけていたことは、来年に向けて活かしたいと思います。

Q 5  「Wiiバイタリティセンサー」に対応したソフトの考え方なりコンセプトがどこにあるのかという点について、また、今現在、開発されているところを踏まえて、期待度、これまでの『Wii Sports』『Wii Fit』のようにある程度世界的に社会現象になるぐらいいけそうなのか、感触と発売時期のニュアンスだけでも教えてほしい。
A 5

岩田:

 「Wiiバイタリティセンサー」というのはコンセプトをお伝えするのが難しい商品のようで、「任天堂はただ脈拍を測る機械で何をしようとしているのか?」という反応が、E3をご覧になっていた方々の大多数の反応だったかという気がします。「Wiiバイタリティセンサー」でやろうとしていることは、人間の脈というものが、単に1分間に心臓が何回拍を打っているかという情報以外にいろいろな情報が含まれています。それは例えば、自律神経のバランスがどういう状態であるのかなどが、推測できるといわれています。

 従来のゲームでは、面白いゲームというのは興奮できるゲーム、熱くなるゲームというのが、これまでの常識だったと思います。「Wiiバイタリティセンサー」はいろんな応用ができますので、ひょっとすると、例えばホラーのゲームでどれくらいプレイヤーの方がビビッているのかということを調べて、どんなことができるかというような使い方も考えられるんですが、一番最初に私たちが提案したいと思っているのは、お客様の生活を豊かにするために(従来の常識とは真逆の)リラックスをテーマにしたゲームソフトが作れないかということです。例えば皆さんも忙しくお仕事をされているので、経験をお持ちではないかと思いますが、「夜遅くまで一生懸命仕事をして家に帰った、どう考えても疲れているのに、目が冴えて眠れない」ということはないでしょうか。おそらく忙しい方ほどそういう経験があると思いますが、そういう人が、自分自身がリラックスするのに、どういうことをしたらいいかが目に見えるようになったらどうなるだろう、あるいは毎日一回指を入れて測ると自律神経の働きはどんな状態かというのが目に見えたらどうなるだろう、というようなことを考えています。実は任天堂の開発部隊でもいろいろなことを調べていまして、人にもよりますが、週末が近づくにしたがっていきいきとしていく人や、週の頭は元気だけれどだんだんしぼんでいく人や、いろいろなパターンがあるのですが、「こんなに週末が楽しみなのか」ということが目に見えてわかったり、逆に人により全然違うパターンになったりするわけです。また、皆さん、ご経験あると思いますが、気が張っていると自分自身の体調の変化や疲労のパターンが全然自覚できないことがあるわけですが、毎日見ていると、「あっ、こういうことなのか」と分かるようになります。今まで例えば、体重計というもので身体の重さはどれくらいというのははかりに乗れば分かったわけですが、あなたの自律神経の働き具合がもし目に見えたらどんなソフトが作れるか、そこが今までのゲームとはちがうチャレンジです。

 『Wii Fit』を出す前に「こんなものが売れるのか?」と言われたように、具体的に製品ができ、世の中に提案しても、「こんなものが本当にゲームマーケットで売れるのか」と言われると思います。それが、世の中にどう受け止められるかは、もちろん出してみないと分かりません。ただ、人は皆自分自身がいきいきと活躍したいという強い希望をお持ちのはずですので、それを何らかの形でサポートできる商品ができたときに、世の中に与えるインパクトは少なからぬものになるのではないかと思っています。ですから私たちはできれば毎年ひとつ、少なくとも2年に1回は、こういう誰もやっていないようなコンセプトにチャレンジして、それをものにするんだということをやっていきたいんですが、今年のE3では任天堂は続編ばかり作っている会社だという誤解を受けかねないので、こういうことにチャレンジしているということも宣言しておこうということが(「Wiiバイタリティセンサー」をE3で)お見せした背景です。時期としては、来年のあまり遅くならないうちに世の中に問いたいと思っていますが、先ほども申しあげましたように、ソフトというのは仕上げの最後のひと粘りが非常に重要ですので、発売月を具体的に口にすることはご容赦ください。

Q 6  ハードに関して値下げを今どう考えているか教えてほしい。
A 6

岩田:

 ハードの数量の落ち込みが、割高感があって競争力がない、または魅力がないので売れていないということではなく、あくまで有力タイトルの勢いが市場に出ているときにハードの売れる水準と、それがなくなって時間が経ってからのハードの売れる勢いが違うために、言い替えると、現在のハード販売数量の低下は有力タイトルが(しばらく)なかったことによって起こっていると思っていますので、現時点で値段について何かしようという考えはありません。

Q 7  中国市場はコピーの問題があると思うが、いずれかの時点で貴社の製品がたくさん売れるという可能性はどうか。
A 7

岩田:

 当然、長いレンジで見れば、中国のマーケットというのはポテンシャルがあると思います。いつも私がお話しします通り、最後は人の数が非常に重要でして、なかなか人の数以上にものは売れないわけですから、1人で何台もハードを買っていただくということは難しいので、人の数の多いマーケットは長期的には大事なマーケットだと思っています。一方で、今年は中国市場が勝負の年になるのではと考えていた時期があったのですが、昨年、経済危機が起こり、中国の経済は底支えができていると言われたりもしていますが、現実に人々の生活の中で娯楽のために使える出費がどんどん延びる状況は踊り場に来ている印象がありますので、勝負時が少し先に延びたという印象です。しかしながら、長期的にしっかり考えたいマーケットの1つであることは違いありません。

 コピーの問題は、中国一ヵ国の問題ではなく、世界中、程度の差が若干あるだけです。コピーの問題は、法的な面からのアプローチ、コピーを防ぐためのプロテクト技術におけるアプローチの2つがあります。コピーを防ぐためのプロテクト技術の話は、完全にイタチごっこになるのですが、たとえイタチごっこになろうと、例えばソフトにプロテクトがかかっていてこのように改造するとコピープロテクトは破れるという情報が出回ったとしても、コピーデバイスを持っておられる方全員がそういうことを実際にされるわけではありませんので、コピープロテクトは一定の意味があると思っています。ただ、より進んだ技術を作ること、現地の方にしっかりとそれを認めていただくだけの努力を続けることと、そして他の国々の法の執行がより厳格になるのにかかる時間と、いろいろなことについて時間をかけて改善していくことと思っています。現状においては、中国だけではなく、アジアの国々でビジネスをしようとしますと当然に海賊版の問題に直面します。それは、考えた上で少しずつ改善に向けて動きたいと思っています。

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