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2012年1月27日(金)経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会
質疑応答
Q 7

 宮本専務は非常に後輩の育成に注力されているとよく聞くが、専務の中においてのパワーバランス、本来の開発の仕事と後輩の育成のパワー配分はどういうふうなスタンスでおられるかということと、実際の成果を専務はどういうふうに評価されているかについて、教えてほしい。例えば専務が100点満点とすると、何点ぐらいの人が何人ぐらい育ってきているというイメージを知りたい。

A 7

宮本:

 今日は答えにくいお話がご指名で来るので困ってしまいます。パワーバランスという意味では、指導とか言っているんですけど、(自分が)何もしないのが一番だと思います。私がするから育たないという面もありますので、そういう意味であえて引く部分をつくっています。これは野放しにするのではなくて、見るところは見ているのですが、基本的に(自分で手や口を出さないように)我慢をするということです。これはあまりエネルギーかからないですね。だから実際、その結果としては逆に自分の時間が持てるようになっています。その持てる時間を何に使うかという話を含めて取材時に雑談したのが、先日の間違った報道になってしまいました。(開発)チームと今まで(発売されたタイトルの)シリーズ作をしっかりとつくっていくことよりは新しい開発のタネを探すようになっており、先ほどのご質問者の「複数の問題を解決するアイデアは?」という問いに答えるなら、問題を解決するのは大ヒット作ではないかと思っています。大きなヒットが一つ出たらいろんなものが全部変わってしまうというのが娯楽のビジネスです。その一つを探し出すのが一番大事な仕事というように感じて動いています。

 育成の手ごたえはどうかと言われますと、やはりどこの世界もそうだと思うのですけど、自分のチームという意味では、自分を含めた組織構造ができ上がっているんですよね。ですから、その中から自分の代わりをつくるのは難しいのだと思います。ですから、思い切って別の組織をつくるという考えで運営をしているのですが、それに関して、今少しずつ手ごたえも感じていますし、口を出さなくても完成度の高いソフト開発ができるようになってきています。それから面白いのは、よく「優秀な人を集めて優秀なものができている」ように世の中で言われるのですが、実は大学を出てきた時点では誰もそれほど変わらないです。ものすごく成績の良かった人とそうでない人はいるのですが、実際入社して10年経つと、どんな人だったかより、どういう仕事をどういう場所でしてきたかによって実力が決まります。そういう意味では、「任天堂の組織の中に入って10年後に人は本当にその人の能力を活かせているか」ということが大きな課題で、一方で、「評価されていないチームの中にも良い人はいっぱいいる」というように感じています。ですから、今、社内では塾のようなことをしたり、今までそういう仕事をしていなかった人たちだけを集めて新しいことをやってみるというようなことをしています。それを試してみると、自分たちが任天堂に入った頃の任天堂の人たちのレベルは分からないのですが、少なくともここ20年ぐらい、任天堂に入ってきた人たちは、すごく基礎能力が高いですから、「ああ、やっぱり人は信頼してもいいな」という手ごたえを感じているところです。

岩田:

 聞いておられるみなさんのなかに置いてきぼりになっている方がいらっしゃるといけないので補足しておきますと、宮本に関する報道というのは、海外で宮本がインタビューを受けたときに、「(社内で)後輩を育てるために私はいつも引退する、もうすぐ引退すると言っているんだ」と発言したことです。それは、自分がいないということをイメージしないと、みんなが、「これは宮本さんの仕事で、自分の仕事じゃない」と思い込んでいるので、「みんなのマインドセットを変えるためにそう言っているんだ」という発言をした取材があったのですが、「宮本茂、引退を表明」みたいな報道になってしまって、それがインターネット上で、元の記事をまた参照して書いた記事が次々と生まれて、気が付くとすっかり元の発言と全く無関係な中身にすり替わってしまい、改めてインターネットというものは恐ろしいものだと思いました。それから、先ほど宮本も言っていたのですが、任天堂のソフト開発部隊というのは私が見ている部隊と、宮本が見ている部隊が、大きく分けると二つ本部があるのですけれども、その中で人の交流なども最近結構活発にやっており、とにかく「今までと違う人にやってこなかった仕事をやってもらったらどうなるか、もっとどんどん見てみましょうよ」ということを実はやっていて、これが私たちの当初のイメージ以上に手ごたえがありました。ですから、そんなことも含めて、将来「こんなことをしてこんなふうになりました」ということをお話しできるときがくるのではないかと思うのですが、もちろん、時代も違いますし、生きてきた経験も違うので、たったひとりの人間で宮本茂の全てを代われる人間がポンと生まれるということはないと思います。一方で、宮本の周りに、宮本の仕事を見て、あるいは一緒にやり、または突き放されて考えなければいけなくなって、世界を相手にいろいろな商品を提案し、いろいろな経験をしてきた人間がたくさんいるわけですから、人が育っている手ごたえは相当あります。ですので、昔に比べたら、「結局宮本が行って指導しないと商品の質が」という部分が、領域が変わってきているなと思います。もちろんそれでも、「やっぱり宮本が行くと違うよな」と思うところがないことはないのですが、ただ、一代限りの人間と、集団が持っている文化やノウハウという部分でいうと、集団が持っている文化やノウハウという部分は、この10年でずいぶん変わったのではないかと思います。これは、ひとりの宮本ウォッチャーとしての私が感じることです。

Q 8

 先ほど、3DSの3年度目は非常に重要な年であると言われていた。日本では特に『モンスターハンター3(トライ)G』の成功によってコアゲーマー層が恐らく流入しているのではないか思うが、クリスマス商戦を終えての国内のユーザー層の変化を教えていただきたい。また、海外はまだ任天堂ファンの方がようやく買いだした形で、先ほど海外のソフトメーカーさんの変化もあって今後いいタイトルがそろうというコメントもあったが、この辺の海外のコアゲーマー層をどう獲得していくのかについて、戦略を教えてほしい。また、DSの大きなヒットはカジュアル層を大きく、国内外で獲得したということかと思うが、例えば今後出てくる『どうぶつの森』などでネット接続比率が上がることによって、もしくは先ほどの『いつの間に交換日記』などの連動等もあり得ると思うが、この辺の新しいネットワークを加えることによってDSで流行ったソフトがもう一度新しく生まれ変わってカジュアル層を獲得していけるのかどうかについてもコメントをいただきたい。

A 8

岩田:

 これはDSとWiiの各期のソフトの出荷本数の推移で、3年度目が重要と申し上げたように、これらの二つのプラットフォームは3年度目にぐっと伸びています。こうできているときは、プラットフォームのビジネスをすごく大きくできますから、ここを非常に重要なポイントだと思っています。ですから、2年度目と3年度目の差、Wiiのときは2年度目の時点で爆発的に世界的なブームが起きましたので、2年度目から盛り上がりがすごく大きいのですが、やはり、だいたい3年度目にハードの普及とソフトが売れるということのバランスが整ってくるというように思っています。これが一つの考え方です。もちろん、プラットフォームごとにお客様の特性も環境も違うので、必ず毎回こうなるということではなくて、一つのゲームのプラットフォームビジネスがうまく回るときの構造として申し上げているとお考えください。

 『モンスターハンター3(トライ)G』がカプコンさんから発売されたことで、ニンテンドー3DSのユーザー層が変わったというのは、これはもちろんおっしゃる通りの事実で、自分はゲーム上級者だとおっしゃる方が増えています。それから、中学生、高校生、大学生ぐらいの男性のお客様が増えています。以前にニンテンドーDSやWiiのユーザー層について、ユーザー層のピラミッドチャートをお見せしたことがあったと思うのですが、「子供さんの層と親御さんの層に大きな山があって、間がくぼんでいてフタコブラクダみたいなんです」ということを申し上げました。その間のすき間の部分がずいぶん厚くなったと思います。また、そういう事情もあってだと思いますが、任天堂のプラットフォームはこのところだいたい男女比1対1ぐらいでお客様に使っていただいているのですが、今、ニンテンドー3DSは恐らく6対4ぐらいで男性優位だと思います。ですから、女性のお客様も十分多いのですが、男性優位できているのはそういう要因もあってだと思います。


 また、海外ではどうしてもソフトメーカーさんの主戦場は据置機になっています。現実に先ほどお示ししたソフトの販売本数の出荷のグラフをご覧いただくと、ソフトの中で据置機の占める割合が非常に高いですから、どの西洋の大手ソフトメーカーさんも、比較的据置機優位で開発を進められやすいのです。今回、3DSは昨年末に市場性があるということが確認できましたので、みなさんそれぞれ、少しずつ対応も変えられています。また逆に、それら(海外のソフトメーカーさん)のソフトがそろうまで、実は日本のソフトメーカーさんにすごく大きなチャンスがあるというように思っていまして、波多野ともよく話しています。日本のソフトメーカーさんのいいタイトルを海外で販売するお手伝いをして売っていくことができたら、そこに市場があることも証明できますし、日本のソフトメーカーさんも市場が拡大できます。そういう流れもできるので、いろいろな意味で価値があるのではないかと思います。「西洋のソフトメーカーさんからそういうソフトが出てくる」ということと、「日本のそういうソフトメーカーさんのタイトルをうまく西洋で売るために任天堂と日本のソフトメーカーさんが協力してやっていく」ということの2つがポイントだというように思っています。

 一方で、DSがうまくいったのは「タッチジェネレーションズ」と当時呼んでいたユーザー層拡大のためのソフト群が斬新でうまくいったからだということを当然みなさんも覚えておられるので、今回もそうしないのかということなのですが、「タッチジェネレーションズ」をただ3DSに載せましただけですと、いかにも新鮮味がありませんので、今年発売するソフトの中でまだ発表はしておりませんが、ユーザー層拡大が狙えるようなタイトルを当然いくつか用意しています。それらを投入することと先ほどお話のあったようにネットワークとか、『いつの間に交換日記』のようなお客様同士のつながりであるとか、「すれちがい通信」による社会での交流とか、そういうことがうまく組み合わさることで、そういうものの面白さが高められたら、また新しく見える、そういうお客様向けのソフトというのが生まれれば当然状況は変わると思います。例えば、今ニンテンドーDSやWiiに比べるとシニア層のお客様はまだニンテンドー3DSには少ないです。今あるソフトというのはその層を対象にしたものが多くありませんので現状では無理もないと思います。ですので、そういうソフトが充実してきたときには変わっていくと思うのですが、まず3DSでは、今3DSを買っていただいたお客様に満足していただけるということを維持しなければいけないので、ユーザー拡大一辺倒になってはいけなく、この辺のバランスが非常に重要だと思っております。

Q 9

 Wii Uの開発について。先ほど、ニンテンドー3DSの発売後にソフトタイトルが不足してしまったというような話があったが、結局のところ現状は開発期間を長くするか人数を投入するかしかないという状況になっていると思う。これについて、宮本専務からは、管理する側から見てソフトの開発期間と人数の問題、今どういう対応をされようとしているのかについてコメントをいただきたい。竹田専務からは、この辺りの問題について、Wii Uのハードでは何か改善できるような方策があるかどうか、確かゲームキューブのときに開発人数を削減できるような工夫をされていたと思うが、そういう取り組みを今回もされているのかどうか、具体的でなくても構わないので教えていただきたい。岩田社長には、ジャッジの立場から見てWii U、さらに将来的な開発費の増大について今どう考えているのかについてコメントをいただきたい。

A 9

宮本:

 開発規模という意味では、具体的には今年いろいろなタイトルが出てきたら、一緒にやっているチームを紹介すると思いますけれども、かなり外部の協力会社と仕事をするようになっています。それから、タイトルに関しては、同じような規模のものを同じようなアイデアで複数のプラットフォームで展開していくと当然開発側も、同じような作業の比率が増えていきますから、仕事としてもあまり面白くないですよね。一方で、Wii Uというのは、HDになるからやっと世間のテレビの環境に追いついたということでは、Wiiの次世代機という言われ方をすると思うのですが、他社の同じようなハードは既にいろいろあるわけですから、そんな中でWii Uは個性的な機械であるべきということを考えて設計しています。ネットワークに関しても今日たくさんはお話しできないのですが、Wii Uのネットワークの部分というのはかなりいろいろな興味を持って準備を整えています。ですから、Wii Uでしかできない新しいものをどれだけ作れるか、ということが勝負だと思うんですね。「それを考える人を育てる」というのが私たちの基本的な姿勢だと考えています。ですので、Wii Uで出てくるものを見て「ああ、こういうことをしようと思っていたのか」、「どういうふうにタイトルが準備されていくのか」ということを驚きとともに理解していただけるようにしたいと思っています。

専務取締役・総合開発本部長 竹田 玄洋:

 今日はWii Uのことを聞かれたら一番困るなと、今度E3で発表するものですから、そのサプライズのためにあまり言えないという状況なんですけれども、さて今のご質問にお答えするということでは、技術的に言えば、HD、いわゆる高解像度の、高品位の映像をどういうふうにシェーダー機能を使いながら魅力的な映像を作るかということになるのですが、各デベロッパーさんはもう既にいろいろなプラットフォームで十分経験されているわけですから、そういう意味では最初の苦労はもう既に克服されている、というのが一番分かりやすい説明だと思っています。それだけでは、先ほどの宮本の言葉を借りればやっと追いついただけだということになるわけですので、やはりユニークな新しさ、差別化をどうしていくか、というところは、Wiiの延長上のコントローラであるとか、今度はマルチディスプレイですから、大きなテレビと小さなテレビが手元にあるというユニークなコンビネーションを十二分に活かすように、私たちの強みでもありますコンテンツを作っている部隊と私たちハード開発部隊が同じ建屋の中に一緒にいるわけですから、密にコンタクトをとりながらやっている、というのが今言える精一杯の答えではないかなと思います。それに先ほど話にありました、NFCというような新しい取り組みも答えの一つになると思います。

岩田:

 ジャッジする立場からというご指名でしたが、ジャッジする立場でもありますし、(ソフトの中身を)考えている立場でもあるので、ジャッジする立場からだけではなく思うのですが、まず、据置型のソフトというのは、HDグラフィックスで、非常にリッチで、パワーゲームになって、人数と時間をかけないと制作できないというソフトは確かにありますし、そういうソフトを一定数用意しないとお客様にご満足いただけないというのは、一面の真理だと思うのですが、全部のソフトがそうでなければいけないのかというと、任天堂が提案しているソフトというのは、必ずしも非常に豪華なグラフィックスで絵をつくって出す、その物量と演出のすごさで圧倒するということだけが勝負のポイントになっているかというと、そうではないことが大きなポイントなのです。例えば去年のヒット作で『みんなのリズム天国』というソフトがあるのですが、このソフトのグラフィックスが超リアルなフォトリアリティーのあふれるグラフィックスになったら一体魅力は増すのかというと、魅力がなくなることはあっても増えることはないですし、同じように、例えば『トモダチコレクション』というソフトを思い浮かべていただくと、開発者が「コンセプトはチープです」と言っているぐらいなので、そういう商品まで何もかにもパワーゲームに持ち込む必要はないわけです。私たちはパワーゲームが必要なところは社内のリソースが足りなければどんどん社外の方と組んでやっていますし、かつて宮本のチームが社外と組んでやることはなかった分野でも、今どんどんそういうことが始まっているのですが、一方でそれとは別に、「社内だけでも十分できるじゃないですか」とか、「今どき据置型機にこんなチープな絵で良いの?でも十分魅力的なんでこれで良いんだ」というように、やれることがいろいろあると思います。幅を狭めないことがすごく大事で、結果、受け入れられるダイナミックレンジを広くしたいと思います。Wii Uに関しても、大きなテレビと手元のコントローラの中にあるスクリーンと二つのスクリーンがあるとしたときに、この活かし方も、本当に一つの掛け算が適用されるだけであっちにもこっちにも波及効果がある、ということがいろいろできそうなので、私たちは2画面の提案をしようとしているわけです。これは6月のE3で実際の形でお見せしますのでそれまでお待ちいただきたいのですが、そういうことで単純なパワーゲームに巻き込まれないものを志向しています。ただ、ここはパワーゲームで勝負しなければいけないという領域があるのは確かで、例えばお客様はWii U向けのゼルダの伝説にチープな表現を絶対に求めてはいらっしゃらないわけですから、そういうことがきたときには、逆に徹底してやると思います。


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