株主・投資家向け情報

2014年1月30日(木) 経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会
質疑応答
Q 9

 キャラクターIPビジネスに関して、ライセンシングすることによって、『マリオ』や『ドンキーコング』などの人気キャラクターは初めてライセンス化されることになるのか。ライセンス化されて他社がこれを使えるようになった場合に、他社がマリオやドンキーコングのキャラクターを使って、独自にゲームなどのビジネスをすることもできるようになるのか、あるいはそういった可能性はないのか。

A 9

岩田:

 任天堂のIPを使ったライセンスは過去にも行っており、例えばマリオの人形や、マリオの絵が描かれた商品は世の中にたくさん存在しています。そのようなことはこれまでも行ってきたのですが、デジタル分野では行っていませんでした。デジタル分野では行わないと決めていた理由は、「どこからがゲームで、どこからがゲームではない」ということを定義するのが大変難しいためです。例えば、「教育の用途として、マリオをデジタルのPCの教育ソフトにライセンスしてほしい。そうすれば、お子様は大好きなマリオが出ているので楽しく勉強ができる。」という提案をいただいたとします。しかし、お子様がマリオに期待していることは「ゲームで遊ばせてくれること」であって、勉強を教えてくれることではありません。そのため、「最初は勉強のためであったが、いつの間にかPC上でマリオを使用したゲームを作ってしまった」ということが起きかねないこともあり、これまではデジタル分野にはライセンスしないと決め、そういった境界を少し広めに決めていました。ただ、「マリオがいろいろなところで愛されて、可愛がっていただくこと」というのは、私たちの未来にとって決して悪いことではなく、健全にそのようなことができれば、むしろよいことですので、「デジタルはだめ」ということではなく、「もっと柔軟に考えましょう」ということです。一方で、「では、ライセンスしたら、何でもありか」といいますと、さすがに「マリオのゲームを第三者に自由につくってください」とライセンスするようなことはないと思います。ただ、参考までに申し上げておきますと、任天堂のプラットフォームに他のソフトメーカーさんがいろいろなソフトをつくられて、その中にマリオがゲスト参戦するライセンスということは過去にも例がございます。これは「任天堂のプラットフォームの上で動いているので問題無い」ということで、これまでも運用してきており、いくつかのゲームにマリオはゲスト出演させていただいています。

Q 10

 ニンテンドー3DSの海外業績について、「販売状況は年末の直前まで最終的にはどうなるかわからない」と言われていたり、Wii Uの方も、コミュニケーション不足であるという話は何回も出ていて、クリスマス商戦で結果的にまた伝え切れなかったりしていたかと思う。特に日本と海外を見ると、日本はWii Uの方も12月に少しは伝わったかなという感じがあるが、特に海外は以前に比べても全く伝わっていないという印象を受ける。この辺りの海外のアテンションを引けない要因について、どう感じているか。

A 10

岩田:

 ニンテンドー3DSについてですが、「ニンテンドー3DSは海外でもう少しで爆発というところの手ごたえを感じていた」と申し上げたのは、10月に『ポケットモンスター X・Y』が世界中で発売されたときにハードの販売も大きく伸びて、ハードの稼働も大きく活性化したためです。そのときに、「序盤でこれだけ売れるのであれば、最終的に年末にこれぐらいは伸びていくだろう」という手ごたえを感じていたのですが、そうはなりませんでした。逆に申しますと、年末商戦というのは、いろいろなクリスマスプレゼントの候補の中で、お子様のウィッシュリストの一番になったものしか、150ドル、200ドルの商品はなかなか買っていただけませんから、「ウィッシュリストの一番にできなかった」ということだと認識しています。「ウィッシュリストに全く載らなかった」というよりは、「一番になれなかった」ということで、「一番にするために何が足りなかったのか」ということだと思います。一方で、年末に非常に伸びが良かった地域もありまして、例えば、アメリカはあまりうまくいかず、イギリスやドイツも年末の伸びはもう一つだったのですが、フランスは大変年末の伸びが好調でした。「フランスは何が違ったのか」というようなことを現在調べていまして、それをこれから(各地域に)反映していきたいと思います。

 それから、Wii Uに関しては二つ事情があると思います。一つは、日本ではニンテンドー3DSが去年の9月、10月に『モンスターハンター4』と『ポケットモンスター X・Y』が連続で発売されて、非常にニンテンドー3DSが活性化していましたので、私たちは(年末商戦期には)コミュニケーションをWii Uにある程度集中することができました。「年末はみんなで集まってWii Uで遊びましょう」というプロモーションを集中的に投下しまして、それが多くの方が驚かれた「週販10万台まで盛り返す」ということにつながったと思います。一方で海外は、「ニンテンドー3DSを何とか爆発させたい、Wii Uも何とかしなければ」という状況でしたので、コミュニケーションが集中し切れませんでした。当初のシナリオでは、「『ポケットモンスター X・Y』の発売時頃にはニンテンドー3DSを盤石にして、年末はWii Uのコミュニケーションに集中しよう」という予定だったのですが、そのシナリオが崩れましたので、両掛かりになってしまいました。両掛かりになった結果、両方とも爆発しませんでしたので、大いに反省するところがあります。

 それから、お客様のアテンションという意味では、コンソールゲーム機で(他社さんから)新しいゲーム機が出た海外のマーケットと、新しいゲーム機は今年に持ち越された日本のマーケットという違いもあったと思います。この(他社さんの新しいゲーム機とWii Uとでは)お客様の層はある程度違うのではないかと思っており、同じ方が迷われた可能性は少ないと思っています。(私たちは)「(Wii Uが)世の中で話題になり、話題になると、たくさんの方が調べていただいて、私たちのメッセージがより伝わりやすくなる」という状況を海外でつくろうとしておりましたが、ハードルは想定よりも高かったと思います。今回は本当に私にとっても反省すべき年末商戦で、自分が社長になってから一番悪かった年末商戦だと、海外市場については思っていますので、早期に立て直しをしたいと思います。

Q 11

 ハード事業について。「ハード・ソフト一体でやることが任天堂の強みである」と、これまでも何度も繰り返しているが、その背景にあるのは、一つは他社との差別化、もう一つは中長期的に目標とするビジネス規模、そして三つめが笑顔ということではないかと思っている。他社との差別化という点においては、例えばゲームの世界を離れると、ハードをやってなくてもソフトだけで差別化をしている企業も世界にはあるように思うが、ゲームもしくは娯楽の分野では違うのか。目標とするビジネス規模について、前サイクルでは、例えば4年平均営業利益4000億円というような期間があったが、もし目標規模を、例えば1000億円、2000億円という規模に下げれば、ビジネスの選択肢は広がるのではないか。また、現状のスマートデバイス上でのゲームビジネスというものが、本質的には笑顔を生んでいない点が、ハード・ソフト一体でいくという方針の決め手になっているのではないか。

A 11

岩田:

 ハード・ソフト一体の有利さということについて申し上げますと、娯楽というのは、お客様に「こんな経験は今までしたことがない」、「新しく、珍しく、面白い」と驚いていただくことができるかどうかが一番重要で、それが非常にうまくいった場合の伝播力、あるいは爆発力というのは非常に大きいと思っています。「ソフトだけでお客様に驚いていただく方法」と、「ハード・ソフト一体でご提案をしてお客様に驚いていただく方法」とでは、ハードも含めてご提案したほうが大きくなりますので、それがハード・ソフト一体型のほうが、ゲームの世界で私たちの選択肢が大きくなるということの重要なポイントになります。任天堂は開発者の人員が増えて、本社社屋の中に開発人員が全員入れなくなり、ハードの開発チームとソフトの開発チームが密接に連携するということが、ここ数年、多少崩れていましたが、今年、本社の開発棟が新しくでき、近い将来、一つの建物でハードとソフトの開発部隊がより密接に連携できるようになります。このことによって、ハードとソフトの両方の開発をしている相乗効果をより大きくお見せしていきたいと思っています。一方で、先ほど「スマートデバイスを使って、アプリをつくって、お客様のアテンションを引き寄せる努力をします」ということを申し上げましたが、ここでは「(お客様に驚いていただくために特別な)ハードという手段は使えない」という前提ですので、私たちなりの工夫と強みを活かして、新しいチャレンジをしたいと考えており、「ハードがないと何もできない」と申し上げているわけではありません。ただ、ハードとソフトが組み合わさりますと、先ほど竹田が「アンプリファイ」という言葉を使いましたが、私たちの持っている力が増幅できると考えており、それは娯楽分野にとって有利なことだと思っています。と言いますのは、世の中のほとんどの産業は、お客様が答えをご存じで、「お客様がどうすればよい」と望まれていることを一番上手にできたプレーヤーが勝つというビジネスの競争なのですが、娯楽では、お客様は答えをご存じなくて、答えをご存じないお客様の目の前に差し出したら「そうそう、これで遊びたかったんだよ」と言っていただけるものができたときに娯楽は爆発しますので、その意味で、「他の産業とは少し違っていて、驚きを生むための材料が多いほど、相対的に有利である」と考えています。

 任天堂が収益のバランスを崩している中で、目標とする規模を「営業利益何千億円です」と申し上げても、皆様に説得力を感じていただけないと思いますので、私のイメージを具体的な数字にはいたしませんが、そのイメージする数字が、ハードを一切使わないソフトビジネスだけでも、何か運の良いヒットがあれば、1年、2年ならできるかもしれません。しかし、例えば、任天堂はゲーム専用機のプラットフォームビジネスを始めて30年経っており、10年、20年、30年というレンジでその規模を維持していくということを前提にしますと、「そちら(ソフトだけのビジネス)へ行ってしまうとあまりに不利である」ということがハード・ソフト一体にこだわっているもう一つの理由です。ただ、ハード・ソフト一体には、非常に大きなハンディキャップがあり、それは、「ハードを買うにはこれだけ出してください」、「ソフトは1本いくらで決まっています」、という今までのビジネスのあり方が、環境が変わったために、お客様からすると割高に見えることがあるようですし、実際にお客様が出されているお金はそれ以上だったりするのですが、その出費が見えにくい形であるために、ゲーム専用機を買っていただく障壁が相対的に高くなってしまっていることです。容易にゲームを始められる「フリー・トゥ・プレイ」型のゲーム、今社内では「フリー・トゥ・スタート」と呼ぼうと言っていますが、のように「スタートの敷居を極限まで下げていくということ」が非常に重要になってきており、それが昨今の娯楽の流れにあります。よって、先ほど、「売り方を変えていきます」というところで申し上げましたように、「ハードと一体にするがゆえに、ハードを買っていただかないと何も始まらないんじゃないか」という課題について、「今まで世の中になかった形で、新しい答えを導き出していきたい」というのが中期的な目標になります。

 「ハード・ソフト一体か、一体でないか」ということと、「笑顔か、笑顔でないか」ということは、一律に関係はしないと思っています。例えば、「スマートデバイスでゲームをつくったら、お客様は笑顔にならない」と決めつけるつもりは全くありませんし、たくさんの方を笑顔にされているゲームもいっぱいあると思います。

 一方で、「世の中であれが儲かっているから任天堂もあれをするべきだ」ということを、たった2年ほど前にかなり多くの方がおっしゃっていましたが、今は誰もそのことをおっしゃらなくなったように、今日、「スマートデバイスのゲームをなぜつくらないんだ」とおっしゃっている方が、3年後に同じことをおっしゃっているかもしれないし、おっしゃっていないかもしれません。これに対して、「私たちは違う形で答えを出す努力をいたします」というのが私たちの中期展望の決意表明であると考えていただきたいと思います。


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