株主・投資家向け情報

2015年2月17日(火)第3四半期決算説明会
質疑応答
Q 5

マーケティングの体制について伺いたい。欧米のNewニンテンドー3DSの初回出荷は良好ということだが、年末商戦だけ振り返ると「欧米でのNewニンテンドー3DSの発売を年末商戦に間に合わせた方がもっとチャンスを活かせたのではないか」「携帯ゲーム機が好調だとホームコンソールゲーム機は軟調になったりするが、バランスをもっとうまくとれるのではないか」など、もっといろいろできることがあるのではないかという印象を受けてしまう。おそらく今後新サービスを投入して事業を多様化していくと思うが、その中でマーケティング体制を具体的にどうやって変えていくのか、もしくはもう変えなくていいのか、説明にあったビジネスそのものの変化に「売る」という機能はきっちりついてこられるのか、考えを聞かせてほしい。

A 5

岩田:

 当社は商品開発においても、マーケティングにおいても、それから、どんどん変化し続けるサービスを提供するということにおいても、それぞれに課題を持っていると思います。例えば「いい商品があるのにマーケティングをしている人たちが無能だからものが売れない」と開発者が考え、逆に、マーケティングの人たちが「開発がつくるものがつまらないから売れない」と社内で考えるようになったら、典型的なダメな会社に見られる「他責で批判をし合う構造」になってしまいます。そのようなことは当然あってはならないわけで、「まず自分たちにもっとできることがあるはずだ」と考えようと(社内に向けて)言っています。会社は人間の集団である以上、逆風が吹くと社内に他責の意見が一切出ないということはあり得ませんので、私は社内でよくそういうことを発言しています。これは普段は外向けにお話しすることではないのですが、あえてお話ししました。

 マーケティングにも課題があって、かつて「テレビCMを使ってお客様に認知していただければ、それでモノがドンと売れる」ということを経験してきた人が、今、マーケティングの中心になっている人たちの中には多いので、どうしても昔うまくいったやり方を続けようとする力が働きます。ただ、今のマーケティング部門の幹部が全員そういうところで凝り固まっているかというとそうではなく、みんな「自分たちが変わらないといけない」という意識を持っています。昨今、任天堂はソーシャルメディアを活用したり、「ニンテンドーダイレクト」のように直接お客様に情報を発信する方法をとったり、「ニンテンドーダイレクト」で情報を出したその直後から予約をデジタルで受け付けたりするようなことを始めたりしています。

 とにかく、今までやっていた、「テレビ宣伝をドカンと流せば、あるいは商戦期にお得な(セールの)オファーを出せば、それでモノが動く」という考え方ではもう完全に通用しなくなっていて、「世の中の情報認知経路も、お客様を説得するための条件も大きく変わっているのだから、私たち自身も変わらなきゃいけない」と、ある意味必死で変革を進めている過程にあります。それがまだ部分的にしか結果をお示しできていない状態でもありますし、昨年の年末商戦で言えば、やはり反省材料はたくさんあります。

 Newニンテンドー3DSは、年内に製造できる数量、すなわち実際にお客様に届けられる数量が限られていましたし、海外では例えばヨーロッパやアメリカは日本に比べると中国で製造してから実際にお店の棚に並ぶまでの時間がかなりかかりますから、「Newニンテンドー3DSが世界中で足りなくなるということをよしとするか否か」という難しい判断がありました。結果的には、(普及の段階が異なるという考えで)こういう(欧米での発売は2015年という)選択をしたのですが、実際のビジネスの結果やNewニンテンドー3DSを発売したあとの反応を見ていると、「年内に間に合わせていたら結果が違ったでしょうね」という結果論的な議論で言えば、全くその通りだと思います。それから、「Newニンテンドー3DSに注目を集める努力をしたことが、日本でWii Uを売る上で妨げになってしまった」ということも、ピークをどうやってずらすのかということの難しさを改めて私たち自身が感じているところで、反省点はたくさんありますし、もっとできることがあったと思います。ただ、そのこと以上に、モノを売るときのこれまでの常道、「ドカーンと宣伝して、ドーンとお得なオファーを出してモノを売る。そうするとモノは動く」というやり方は、5年とか10年前はそれで本当に動いていたと思うのですが、今はそういう時代ではないと考えています。

 「お客様は良いものは高くてもお買い求めになられる」、逆に言いますと、「良さを本当に理解して得心していなければ、少々お得なオファーが出てもお客様は動かない」また、「商品の魅力が適切に伝わらなければならない」、でも、「プッシュ型の押し込み広告はどんどん効かなくなって、お客様に能動的に引っ張り出していただけるようなアプローチをとらないといけなくなっている」このような変革のちょうど過程にありますので、そこを変え尽くすということも、先ほど話題に出ました「2017年3月期までには任天堂らしい収益にしたい」と申しあげていることの一つの前提条件になると思っています。その意味で課題はあります。

 製品についても課題がありまして、「遊んだら面白いし、metacriticの点数も高くてユーザースコアも高い。でもそんなに売れていないってどういうこと?」ということに対しては、開発側が絶対考えるべきことがあって、全部マーケティングのせいにしていたら進歩がないと思います。ですから、「自分たちがつくっているものの魅力は一目で伝わるだろうか」、「ある人が面白いと思ってくれたとして、それを人に伝えるときに分かりやすく伝えられるようにできているだろうか」、「人を誘いやすくするようにできているだろうか」といった、「商品自体に商品を売り込む機能が非常にうまく入っているもの」が化ける可能性があります。例えば、『マインクラフト』というゲームを世界中で非常にたくさんのお客様が遊んでおられますが、あれはユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツを使って次々と話題が途切れず、人が人を巻き込む力が働いています。私たちも、日本で携帯ゲーム機ビジネスが比較的うまくいった大きな理由は「ローカル・ワイヤレス・マルチプレイ」があって、そこで「教え/教えられ構造」がうまく回ってきたからであると思っています。この「ローカル・ワイヤレス・マルチプレイ」の魅力を「どうやったら車社会であるアメリカに持ち込めるだろうか」、あるいは「アメリカほど車社会になっておらず、電車などの公共交通機関で移動する人もいっぱいいるヨーロッパの都市ではもっとやれることがあるのではないか」ということで、私たちの側からイベントをやってみたり、ファンコミュニティーのイベントの支援をさせていただいたり、いろいろなことを始めました。それを繰り返していくと徐々に手ごたえがあって、(海外の)『モンスターハンター4G』が非常に良いスタートを切れた大きな理由は、コアコミュニティーの人たちが「今度の『モンハン』はいい」ということを言っていただいているからで、だからこそ「前作の2倍3倍という数が一気に動いている」という感じもしています。そのような取り組みが少しだけ成果を出し始めているのが現状だと思います。製品自体にもそのような性格を持たなければいけないですし、売り方も変えなければいけないと思います。先ほど申しあげた「変化し続けるサービス」ですが、今、インターネットでは、毎日新しいニュースや新しい動画が流れ、どんどん(内容が)変わっていきます。でも、私たちがつくるパッケージソフトというのは、「一度完成させるとそれで終わりで、あとはお客様にお届けするだけ」となっていたのが過去のビデオゲームの構造でした。ですが、今や「毎日変化するのが当たり前」と感じておられるお客様にとってそれで良いのでしょうか。

 私たちは(一つひとつの商品に)無限にエネルギーとパワーをかけられないので、「有限な投資の中でどう効率的にお客様に変化を感じてもらいながら新しいことをするのか」というトライもしています。このことは「スマートデバイスをどう活用するか」という話のときにまたご説明しようと思いますが、そのような全部の取り組みがセットにならないといけません。先ほどご指摘いただいたように「マーケティングの課題」だけではなく、「製品開発の課題」、それから「サービス運営の課題」、この3つを上手に解いたときに、任天堂のプロダクトの価値というのはもっと適切に伝わり、理解していただける方が増え、広がりが出て、その結果、「本当に面白いものをつくった者が結果的にモノをたくさん売るんだ」という本来あるべき「コンテンツ・イズ・キング」の勝負に持ち込めるはずですので、そこをしっかりやりたいと思います。

Q 6

今後のエンターテインメントの需要構造はどう変わっていって、岩田社長はそれをどう認識しているか確認させてほしい。先ほど「顧客が変わり、認知経路が変わり」という話があり、過去数年、娯楽市場全体を見ても、いろいろなキートレンドの変遷があったと思うが、最終需要がどう変わっているかというトレンドについて教えてほしい。

A 6

岩田:

 エンターテインメントの需要そのものは減っているのではなく、むしろ増えていると思います。エンターテインメントを消費するための場としてお客様の手元にスマートデバイスという装置ができ、総時間や総消費量は増えていると思います。ただ、非常に難しい問題は、スマートデバイスというプラットフォームにおいては、プラットフォームホルダーの方々がそれほどコンテンツの価値を高く維持することについてご興味をお持ちではなく、「コンテンツは安いほどよい」、「究極に言えばタダがよい」と思われているということです。ドワンゴの川上会長が「スーパーの特売の卵」という表現をよくされていて、その表現に私自身も共感できるところがあります。

 音楽や映像の産業は、かつてはコンテンツでもっと収益が上げられていたビジネスでしたが、デジタル化の波とともにコンテンツそのもので稼ぐことがものすごく難しくなりました。例えば、かつてはCDを100万枚売っていたアーティストの方が、今はその10分の1以下しか売れず、収入を維持できるかどうかはコンサートなどをやってお客様を動員できるかどうかにかかっているということが言われているそうです。コンサートのような一期一会の機会ではお客様は投資をされますが、「デジタルで手に入ってタダが当たり前」といったんスイッチが入ってしまったお客様のコンテンツ価値というのは簡単に元に戻らなくなります。映像も、何万ライブラリーある映像サービスが月何百円(の定額料金)が当たり前になってくると、もうDVDは以前のように売れなくなります。ハリウッドの映画プロデューサーの方から「映画の収益構造は変わってしまって、収益の前提としてDVDは当てにできなくなったんだ」とお聞きしたことがあります。

 このような変化を見ていると、このデジタル化の波というのは大きなチャンスであると同時に、非常に大きな危機でもあり、いわばチャンスとピンチが両方セットになってやって来るといえます。よく考えないでアプローチすると、コンテンツの価値が一気に毀損してしまいます。そのことについて、私自身は2010年ぐらいからすごく実感していて、2011年のGDC(Game Developers Conference)で 「コンテンツの価値の維持ということをわれわれは考えるべきだ」という話をしました。当時、私の選んだ言葉が適切でなかったのか、あまり適切にはご理解いただけなくて、今振り返ると「あのとき岩田が言っていたのはこういう意味だったのか」とご理解いただける人があの当時よりは増えているのではないかと感じています。ですから、「エンターテインメントの需要は増えた一方で価値の維持がものすごく難しくなった」というのがチャレンジだと思います。「タダが普通」、「非常に安いものが普通」、そしてそこで起こるのは「同質の価格競争やサービス競争」ということになると、本当に未来が明るく展望できませんので、「いかに独自のものをつくるか」、「価値をしっかりと認めていただける方法をつくるか」、あるいは、「新しいお客様からのお金のいただき方をどう発明できるか」という辺りが、大変重要なポイントになってくると思います。

 ですから、エンターテインメントの需要構造そのものは決して小さくなっておらず、むしろ世の中の人は以前よりも豊かになって、「余暇の時間をどうより豊かに過ごすか」、広い意味で言うと、まさに「QOLを向上させるために」お客様は余暇をいろいろな形で楽しんでおられると思います。その余暇を楽しんでいただく手段が増え、デジタル化でディストリビューションのコストが限りなくゼロに近づいていますので「じゃあタダでもよいじゃないか」というようにコンテンツ価値を粗末に扱う人も増え、全体のコンテンツ価値に大きな下方の圧力が働いていくということに対して、どう向き合うかということが大事だと思います。これに正しい答えを出せれば、任天堂という会社はコンテンツをつくる会社としてこれからも栄えることができるでしょうし、ここで大きな間違いを犯しますと、一気にわれわれのビジネスの構造というのが崩れてしまいます。端から見ると「判断が遅い」とか「変化が遅い」とか「動きが手ぬるい」というご批判があることも承知していますが、これを熟考し、「こうすればできるはずだ」という私なりの確信を持った上でそこに踏み出していきたいということがあり、いただいた時間だと思っていますので、その答えを今年、来年、再来年と、お示ししていくというのが私の今のミッションだと思っています。

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