株主・投資家向け情報

2015年5月8日(金) 2015年3月期 決算説明会
質疑応答
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Q 1

来期(2017年3月期)以降の業績の考え方について。「任天堂らしい利益」とは営業利益1,000億円以上と理解しているが、今期(2016年3月期)の営業利益500億円というターゲットは、来期の営業利益1,000億円を意識しているためか、若干強気に見える。来期の目標達成は、これから取り組むと発表されているいろいろなものだけで狙える水準なのか。スマートデバイス向けのゲーム展開がカギになるのか、どのような組み立て方で営業利益1,000億円以上を目指すのか。

A 1

取締役社長 岩田 聡:

 まず、「来期に任天堂らしいと言っていただけるような利益を出せるようにしよう」ということを基本に置いて考えているというのは、今おっしゃった通りです。「任天堂らしい利益」かどうかは投資家の皆様が判断されることなので、それがどういう水準なのかを公の場で私自身が口にするのは適切ではないと思っているのですが、多くの皆様から、「年間1,000億円の営業利益を出せることが任天堂らしい収益構造である」と評価されているという意味では、そのような水準になるように来期を組み立てていきたいと考えています。終わったばかりの2015年3月期は、「崩れた収支のバランスを取り戻す年」と位置付けた通りに着地することができたわけですが、来期に任天堂らしい利益水準を目指すとすれば、今期どういうステップを踏むべきかということを考え、業績予想を作成しました。

 それから、スマートデバイスビジネスの業績に対する寄与ですが、今期に関しては、「年内に最初のゲームアプリのサービスを開始する」と申し上げていますが、今期全体からすると一部の期間しか業績には寄与しないわけです。そして、最初から多くのタイトルを次々に出すということではなく、先ほどのプレゼンテーションで申し上げましたように、来期末までに5タイトル程度を順次出して、一つずつしっかりヒットに導いていこうと思っています。その意味では、今期に関しては、業績予想の中にスマートデバイスのビジネスは盛り込んでいますが、保守的な見通しでしか入れていませんし、今期の収益に対する貢献ということでは限定的になると思います。

 一方で、来期には通期で業績に寄与できるようになります。また、スマートデバイスのアプリというのは、ゲーム専用機のパッケージソフトのように、発売した瞬間にまず売上と利益が最大化するというビジネスではなく、たくさんのお客様に徐々にご理解いただき、遊びたいと思っていただき、そして運営側も徐々にこなれていくことで収益性も高まっていくものです。これまでヒットしたスマートデバイスのアプリにしても、サービスを開始した瞬間に利益が最大化したものは一つもなく、徐々に利益を出せるようになっていったと思います。そしていったん利益が出る状況ができると、長い間、収益に貢献するというような形だと思います。それを考えると、来期においてはスマートデバイス向けのビジネスは、私たちの収益の柱の一つになるとは思います。一方で、その売上や利益への貢献が、いきなりゲーム専用機ビジネスよりも来期に大きくなるのかというと、それは見通しが甘いと思いますので、まず今期出したものをしっかりとヒットに導く流れをつくり、来期はそういうものが複数ヒットするような状況をつくって、通期にわたって収益貢献できるようにしたいと思います。そうすると、一定の割合の収益を支えてくれる一つの柱になるというのが私のイメージです。

 ゲーム専用機のビジネスに関しても、今後の展開の準備、今のあまりよくない流れの部分を変えていく準備はしていますので、そういうことも含めて来期は結果が出せるのではないかと思っています。

Q 2

スマートデバイス向けゲームビジネスは「ユーザー数が億単位で、収益構造でそれなりの柱になる」という話だったが、マネタイズ(サービスの収益化)という部分について教えてほしい。例えばダウンロード数、月間アクティブユーザー数、課金ユーザー数、ARPU(Average Revenue Per User:一人あたりの売上高)、月間売上、そのトレンドといったデータを分析していくのが一般的だが、そういう考え方に、岩田社長は興味があるのか。また、任天堂が考えるマネタイズというのはどういったものなのか。また、以前スマートデバイス向けのビジネスでMiiを活用したものを検討しているという話をされたが、これは今でも生きているのかどうか確認させてほしい。

A 2

岩田:

 一般的にスマートデバイスのビジネスにおいて、「ダウンロード数」や「課金率」、あるいは「お客様お一人あたり、月間にいくら支払ってくださるか」という点に対して、「どのような意味があって、一般的にどう語られているか」は承知しています。そのようなものも一つの指標と思いますが、「そのような考え方で何が一番効率がよいか」ということだけを前提に考えますと、結局、「うまくいっているアプリを分析して、それはなぜうまくいっているのかを考えて、それとよく似た構造のアプリを出す」という、今まさにスマートデバイスのゲームの世界で起こっていることを後追いすることになります。今、(ここにお集まりの)多くのみなさんが、当初のような「スマートデバイスのアプリづくりに参加したら簡単に収益を上げられる」という状況から、「非常に厳しい競争に入って、そうではなくなりつつある」という状況に急速に変化しつつあるのはご存知かと思いますが、「過去の成功パターンと同じ構造をコピーしてつくる」というやり方で、私たちが目指すような姿を実現できるとはあまり思っていません。

 「お金のいただき方」という意味で言いますと、今まで、スマートデバイスでさまざまな実績があるお金のいただき方の中には、「私たちが学ぶべき、参考にすべき要素」があると思いますが、ただ、今世の中にあるものをそのまま単に任天堂のIPと組み合わせただけで結果が出るかと言いますと、短期に結果は出るかもしれませんが、長期にわたって結果が出るとは思えません。地域別という観点からは、日本で結果が出るかもしれませんが、海外市場で結果が出たり、新興国で結果が出たりすることはないと思います。現にグローバル市場でスマートデバイスのゲームアプリを成功されている海外の会社の方が「日本の市場は特殊で、日本のマーケットの構造で一般的に行われていることと、自分たちがやっていることは構造が全然違う」というようなことを発言されている記事をつい最近読みました。任天堂も世界中のお客様が対象と考えていますので、日本で成功されているスマートデバイスのゲームアプリの構造を分析して、それに追随しようという発想はしていません。どちらかと言いますと、今は全体の中で、「少数の、たくさんお金を払ってくださるお客様」を見つけて、そのお客様から「いかにたくさん払っていただくか」ということを研究され、それがうまくいったところが成功されていると思いますが、そのようにやっている限りは、世界に広がって、億単位のお客様に楽しんでいただいて、それが大きな結果につながり、長期にわたって続くとは思いません。

 キーワードとしては、「狭く深く」よりは「広く薄く」、すなわち「広く薄くお金を払っていただく方法をしっかり考える」ということが基本になると思います。ただ、一般的には「狭く深くの方が、広く薄くよりもこれまでうまくいっていた」と言われていますので、私たちは「その中の条件の何を変えたらその壁を越えられるのか」ということを考えています。これについては、実は社内でいろいろな議論があり、私は私でチャレンジのボールを開発者たちに投げていますし、開発者たちもさまざまな議論をしています。いくつかのアイデアが出ていますので、そういうものを順次展開していきたいと思っています。何よりも任天堂はファミリーブランドですから、「親御さんが子どもさんに安心して渡していただける」という構造は変えたくありません。そのような意味では、私たちは「お金のいただき方についてはしっかりこだわりを持ってやっていきたい」と思っています。

 もう一つのご質問のMiiの話ですが、Miiを活用したアプリの開発は生きていますので、具体的にお見せできるようになる時期が来ましたら、「具体的にどんなもので、どういうふうに使っていただけるか」をお見せします。私たちは、複数のプロジェクトを進めていますので、Miiを活用したアプリは現在進んでいるプロジェクトの一つとお考えください。

Q 3

 御社の提携戦略について伺いたい。DeNAさん、Universal Parks & Resortsさんとの提携を相次いで発表されたが、提携先の選定基準や条件等について聞きたい。また、自己株を活用した資本参加を含めたより強固な提携を結ぶことは今後もあり得るのか。提携対象としては、これまではソフト開発の分野でライセンシーとコラボするなどかなり外部リソースを活用してきており、直近では新規事業の分野で協業していくという方針のようだが、今後さらに提携が必要となる分野はあるか。ハード関連でも提携などはあり得るのか。あるいは、岩田社長が目指す新規開拓分野全体を含めて、既にかなり提携の骨子が固まっているのか。その辺りを教えてほしい。

A 3

岩田:

 「DeNAさんと業務提携にとどまらず資本提携も含めて行った」ということは、世の中に一定のインパクトを感じていただけたのではないかと思います。それは、「任天堂が従来からそういうことを選択肢として掲げてはいましたが、これまでに実行したことはあまりなく、また、実行した結果が意外な組み合わせであったために、多くの方に驚いていただき、インパクトがあったのではないか」と思います。私たちは、提携する以上は「短期的なメリットを取りにいく」というよりは、「中長期的にみて、お互いの強み弱みがしっかりかみ合うか」とか、「お互いの企業文化がうまく調和するか」というような要素が両者間でしっかりとかみ合わないといけないと考えています。現実問題として、世の中の提携というものは、実は大半がうまくいっていないと思います。「企業文化の調和がうまくいっていない」とか、「トップの方たちは合意されているのに現場で実際に協働するメンバー同士の共通認識ができていない」といったことがよく起こっていると思います。提携する以上は、「結果が出せなければ何の意味もないだけでなく、むしろ中長期的には企業価値を傷つけてしまいかねない」と思いますので、任天堂はその意味で慎重な会社だと思います。すなわち、「両社の強み弱みを理解し、企業文化の確認を行うプロセス」に一定以上の時間をかけていますし、その間、先方のキーパーソンたちと経営レベルでの話をするだけではなく、現場レベルでの話もして、「本当にお互いにとって提携がよいことなのかどうか」、「お互いの利害が本当は一致していないのに、表面だけ一致しているような形で進んでしまうことがないかどうか」、そういったことを十分に確認してから進めるようにしています。そのため、見方によっては「遅い」と言われるかもしれませんが、提携する以上は打率を高くしたいと思っています。

 Universal Parks & Resortsさんとの提携に関してもう少しだけお話しさせていただきますと、昨年4月、私がアメリカへ出張した際にNBCUniversalのみなさんとお会いしたことがきっかけです。そこでテーマパーク事業の可能性についてご提案がありました。もともと(任天堂IPを活用した)テーマパークの可能性は以前から話題になっていたことですし、任天堂の社内でも何度も話題に上ったことはありましたが、機が熟していなかったり、その時にちょうどご縁のあるよい提携先がなかったりというような理由から、これまでは実現しませんでした。Universal Parks & Resortsさんの場合はご提案が最初から大変具体的であり、また、ちょうどハリー・ポッターのパークをオープンされた後でお会いしましたので、「それがどのようにしてできたのか」という話を詳しくお聞きすることができ、「IPを預けて何かを一緒にやっていく際に、一緒にやって行ける文化をお持ちなのかどうか」ということを考える上で非常に有用な情報をたくさんいただきました。ご提案が非常に具体的だったこともあって、私は帰国してすぐ当社の宮本に「こういう話をいただいたので、前向きに考えたい」と話しました。それから複数回、日本でお会いしたり、私たちから出向いてお会いしたりしました。私やビジネスの交渉担当者だけでなく、クリエイティブのレベルでも、すなわち、実際にアトラクションをつくる方と当社で長年にわたりゲームを作ってきたプロデューサーたちが交流をするということを続けた結果、企業文化に共通点が非常に多いことを認識できましたし、先方の提案に心動かされる部分がいろいろありましたので、「それなら長期で一緒にやっていきましょう」という決断ができました。

 今後もソフトの分野だけではなく、ハードについても、あるいはIP活用という観点でも、さまざまな提携は考えられると思います。現に、非常にたくさんの提携の話や、「任天堂IPを使ってこういうことをやってみませんか」というご提案をいただいています。しかし、それが実際の提携やIPの利用許諾として実現される割合は、それほど高いわけではありません。さらに、「中長期的に会社対会社でしっかりと向き合ってお付き合いしていきましょう」という資本提携の話に進むのはそこからさらに一歩踏み込んだ話になりますので、そこまで至る割合はさらに低くなります。ただ、私は「自分たちだけではできないことを誰かと組めばできるなら、それは一緒にやればよい」と基本的には思っていますし、その際に私たちが持っている自己株式をうまく使うことで強固な資本関係が結べるのであれば、それはそれで一つの重要な選択肢だと思っていますので、今後も全く禁じ手にすることなく、そういうチャンスが来れば、必要な時には大胆に決断したいと思っています。任天堂は、(提携先を考える際には)「先方と中長期の関係がつくれるかどうか」、「企業文化の折り合いがちゃんとつくかどうか」、「両者の強み弱みがうまく補完される関係であるかどうか」ということを非常によく考えて判断をする、というようにご理解いただきたいと思います。また、(この先)このような提携のお話ができるかもしれません。

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