株主・投資家向け情報

2008年10月31日(金)経営方針説明会/第2四半期(中間)決算説明会
質疑応答
Q 11  つい先日アップされたホームページの「社長に訊く」で、アップルとの比較について岩田さんが言及されているところで、アップルはテクノロジーで、任天堂はエンターテイメントの会社だと、ものづくりにおける優先順位というものは違うんだよと。たとえば薄くするよりも頑丈につくるほうを選ぶと、コメントもあったが、ものづくりではなくて事業戦略における優先順位、たとえば、当然新製品のDSi、ネット接続、アジア展開、いろいろやりたいこと、やらなければいけないことをどういう順番でこうやっていくということについて考えを聞きたい。
 また日米欧の市場性の違いについては、データをもとに説明いただいたが、最近アメリカでのDSのプロモーション、たとえば「I Play For Me」だとか、You Tubeの「Wario Shake」のプロモーションとか、今日、オバマ候補が選挙用のビデオでWiiを引き合いに出しているようだが、かなりアグレッシブなプロモーションが目を引くが、一方で、以前日本は太く短く、海外は細く長くというご説明だったが、ホームマーケットである日本市場というのは、何か特殊な市場になったのかなとの印象で、日本発の「ニンテンドッグス」のようなムーブメントを、これからも同じようなかたちでつくりだすことができるのかどうかお聞きしたい。
A 11

岩田:

 そうですね、ここにいらっしゃる方の中の少なからぬ割合の方が、「やはりプラットフォームサイクルというのがあって、DSはそろそろ下り坂になるんだ」という見方をされるわけですね。ある意味、当然だと思います。これまでのゲームの歴史を見たら、1年目にこう売れて、2年目に数が増えて、3年目にピークが来て、4年目にちょっと下がって、もう5年目は値下げしながら、これまで買えなかった方に買っていただくんだというモデルが、過去のモデルとして複数回続いてきましたから、今回もそうなるんだという考えが主流であることは仕方のないことだと思うんです。

 私は一方で、「いや、こんなにゲームの定義もお客さんの定義も変わったのに、本当にそうなのか」ということを非常に強く思っていまして、DSiという機械を用意したのも、DSiというものを出すことで、「DSというプラットフォームの寿命を、多くの人たちが事前に予想していたより長くできるんじゃないか。それをいま日本でやっておくことが、もっと懐の深いマーケットであるアメリカやヨーロッパのマーケットでも大きくあとで効いてくるんじゃないか」というふうに思っています。

 ですから、その意味ではある意味、優先順の高いこととしては、いまDSやWiiのマーケットの勢いは、海外のマーケットでは十分にあるわけですから、国内でDSiがどう立っていき、軌道に早く乗るか、ということがあります。そのことによって来年以降の海外市場でのDSというプラットフォームの寿命が左右されますので、非常に重要なポイントかなと思っています。

 それから、ゲーム機のネット接続率ということでいえば、接続率はそうそう簡単には高まらないわけで、ネット接続率が高まるわれわれにとってのキラーアプリは何なのかということを探し続けているわけです。で、いろいろな商品を開発していますし、今日まだまだお話ししてない商品もありますし、それから今日お話しした商品のいくつかはネット接続に絡んできます。今日あえて触れませんでしたが、先日お話しした「どうぶつの森」のWiiスピーク対応みたいなものが、どのように日本のネット接続率に影響を与えるかというのも非常に私は楽しみにしてるんですが、いったん(WiiやDSがインターネットに)つながって、このことによる価値を世の中の人にたくさん認めていただくことができたら、これは未来がまた大きく変わるだろうなという意味では、大きなポイントだと思っています。

 ちなみに、今年は、もっと新興市場の開拓に向けてエネルギーを割けると去年の時点では思っていたんですが、私たちがつくれる量のDSやWiiが思いのほか先進国で消化できる状況で、それどころか私はアメリカやヨーロッパの販社の人間から、ほとんど会うたびに「もうちょっとWiiをもらえないの」、「もうちょっと「Wii Fit」をもらえないの」、「もうちょっとDSのハードをもらえないの」というふうに訴えを受ける、ある意味幸せな悩みを抱えられる、きわめて幸運な状況に今年はありました。その状況の中ではアジアの展開を今年一気呵成にというふうにはちょっと残念ながらできませんでした。これはDSiを立ち上げたあと、来年に重点を置くことなのかなというふうに思っています。

 それから先ほどいくつかのプロモーションの話が出てましたけど、さすがにオバマさんの話は、任天堂からお願いをすれば実現できるようなものではなくて、これは以前に、そうですね、アカデミー賞か何かの授賞式のときに、そこで幕間のところで「Wiiスポーツ」を遊んでもらえて、それがちらっとテレビに映ったとかいうような偶然と似た話で、それだけWiiというものが社会的な現象になっていて、私たちが想像もしない場で私たちが知らないうちに取り上げていただけるということが起きているんだなというふうに感じています。

 もちろんプロモーションも、従来のやり方だけだとゲームの情報を能動的に集めに来ていただけない人のところに届きませんから、セレブリティを使ったコマーシャルをやるというようなことにも今年はいくつかチャレンジをしました。それが先ほどおっしゃった「I Play For Me」のキャンペーンですね。

 で、じゃあ、日本市場は特殊なのかという話ですが、個性があることは事実ですが、私は特殊だとは思っていません。また、日本の市場は短期しかものが売れなくて、海外の市場は長期に売れるというのは、かつての傾向として確かにあったんですが、じゃあ日本で売ってきたたくさんのロングセラー商品というのは、確かに日本のほうが情報の伝わりが早い分、ブームが終わるのも早い傾向があるのは事実ですけれども、ですが、長寿命商品としてかつては考えられないようなことを、任天堂でつくった商品と任天堂の新しい売り方によって、いくつも実現できたというふうにも思います。ですから日本は短期にしかものが売れなくて、海外はそうじゃないというふうに、一律には言えないと思っています。逆に、海外でも商品によってはきわめて短期間しか売れない。その発売月にはものすごく売れるけれども、3カ月後にはもうはるか圏外に去ってしまうというものが多くあるのも事実です。

 一つだけ、私がよく意識しているのは、日本のお客様は商品を見る目が非常に厳しいということ、そして商品にすきがあるとそこに対して、悪いうわさが伝わるエネルギーが大きく、非常にスピードが速いなと感じていることです。ですから、「日本で受け入れられたものは、海外のマーケットでも受け入れていただけるチャンスが結構あるのではないか」というふうに私は思っていまして、その意味では、「私たちは日本の厳しいお客様に鍛えていただいている」というふうに考えるべきじゃないかなと思ってものづくりをしています。

Q 12  日本市場で「リズム天国」が非常に継続的によく売れており、先ほどのプレゼンテーションにあったユーザー自身が自分でつくる、いわゆるユーザージェネレーテッドコンテンツ(※)というのが、「どうぶつの森」、「ガールズモード」を含めて、日本でかなり売れそうなイメージがあるが、今後の日本市場での見通しと、アメリカでも「リズム天国」が2009年前半に出るということだが、アメリカでの展開について、どのように考えているのか。

(※)ユーザージェネレーテッドコンテンツ: お客様の創造性を活かして、お客様の間で共有されるコンテンツ。
A 12

岩田:

 日本で「リズム天国」がこれほど売れる前と今では、私は率直に言って、アメリカの販社の人たちの本気度はすごく変わったと思います。昔、私は「ポケモン」というソフトを海外に持っていくときに、まだ私は任天堂に来る前で、HAL研究所の人だったときなんですが、その過程をちょうど見ていましたので、そのときにも感じたことなんですが、彼らの受け入れやすい個性ではないものに対しては、「これって本当に売れるのかな」という反応が最初に返ってきます。

 それは無理もないことなんですよ。ちょうどわれわれがやっぱり異文化のクリエイティブを見たときに違和感を感じて、自文化のクリエイティブのほうが馴染みがいいのと、これはまったく同じことで、私はいまでもすごく強烈に覚えているんですが、ポケットモンスターを見て、「こんなかわいらしいのはモンスターとは呼べない、モンスターというのは筋肉モリモリで、もっとおどろおどろしくあるべきだ」と言って、筋肉ムキムキにしたピカチュウの絵が送られてきて、「これはとてもポケモンをつくった人たちには見せられないよね」ということを話していたのが、ついこの間のことのように思い出されるんです、もう10年ぐらい前のことなんですが。結果、日本のクリエイティブは受け入れられました。受け入れられると、さっきの宮本の話ともつながるんですが、競争するものがないので、普及して認めていただくのは大変なんですが、認めていただくと、同じ軸で戦っているものがないので、独自の地位を築けるんですね。

 その意味で、最近で言えば、「脳トレ」がそういうパターンで、「日本でおもしろいことが起きている」という話を私がいくら語っても、やはり現地の人は、最初はピンと来ないという顔をしていました。それは無理もないことなんです。でも先ほどグラフでお見せしたように、ヨーロッパなんかは、日本の倍ぐらいのところまで「脳トレ」を売ってしまうというようなことが起こるわけです。

 今回、「リズム天国」も、日本で結果がここまで出るまでは、どれだけ本気になれたかというのは個人差があったと思うんです。ですが、こういう結果が出ると、これまでの流れでいくつもあった「日本で結果が出たものを上手に持っていけば、独自の陣地が一つできる」ということになるんですね。そういう点で「リズム天国」は、来年前半に海外で展開したときに、これはどういうふうに受け入れてもらえるのかという意味では、非常に楽しみなコンテンツの一つです。

 それからもう一つ、「リズム天国」はちょっとUGC(ユーザージェネレーテッドコンテンツ)とは言えないんですけれども、今日もご紹介しました「バンブラ」であったり、「Wii Music」であったり、「うごくメモ帳」であったり、「ガールズモード」であったり、「どうぶつの森」もそういう要素がありますし、お客さんが何かをつくって、それを人と共有することが楽しいという遊びですね。

 ネットワークを使った遊びというと、どうしても、初期の頃には月額で会費を集めて、たくさんの人が仮想世界に入って、そこでもう一つの自分の生活を楽しむゲームが、ネットワークの使い方なんだということであったり、あるいは、ゲームの中で1番になることを争うということは人間の本能に根ざしていますから、ある意味、多くの人が興味を持って熱くなれるテーマではあるんですが、一方で、自分は身の回りの仲間と戦うと結構いい線いけるんだけれど、世界一の腕自慢たちと戦うとコテンパンにやられてしまうとしたら、はたしてその人は(ネットワークを通じて)他の人たちとつながって楽しかったのかということがあって、ずっと「ネットワークの楽しみというのは、対戦じゃなくて共有じゃないか」という話を、ここにいる宮本ともよくしていたんですね。

 最近大分そういうことをできる環境が一般化してきまして、先ほどお話ししたようないくつかのよい事例もできてきました。ですから、私たちは対戦ではないネットワークの使い方、だれかがすごいクリエイティブを発揮してくれたら、それにみんながその恩恵を被ることができて、みんなが拍手喝采をして、つくった人はますます元気になってという循環ができることによって、ゲームがすぐに古びないし、つくり手であるわれわれが想像もしないような発展性があるような製品ができていくのではないかと思っていまして、いろんな商品で、このユーザージェネレーテッドコンテンツの考え方を加えたら何ができるのかなということは、最近必ず考えるようにしているテーマです。

 ですから、こういうことでまたおもしろい発明ができて、ご提案できればいいなというふうに思っていますし、そういう方向で検討している商品が今日ご紹介したほかにも、いくつか進行しています。

Q 13  日本で「バンドブラザーズ」でやっていること(ユーザーの作った楽曲の配信)をアメリカでやるには、日本と違って楽曲の権利管理者が分散しているがどうするのか。
A 13

岩田:

 「バンドブラザーズ」を実現できたのは、日本にJASRACさんという音楽の著作権を広く管理されている組織があったからで、他の国でやろうとすると、どんな曲でもとすると、これは相当に大変です。ですからそれぞれの地域、それぞれの国で、どんな方法なら何ができるかということを、いまいろいろ調べています。

 これがいい答えが見つかったら、ぜひ本格的に展開したいんですけれど、「バンドブラザーズ」について言いますと、日本と同じ仕組みをすぐに来年、海外で展開できるという見通しはまだたっていません。ただ一方で、特定のミュージックレーベル等とうまくディールを組めば、多少選択肢は狭くはなりますが、ある程度いろいろなことができるようなソフトは作りうるのではないかなとも思っています。

Q 14  昨年のこの場で、資本政策について、「いままでやってこなかったことを、そう遠くない将来に実行に移す可能性がありますよ」という発言があったと思うが、いま何か肉付けできることがあれば、教えてほしい。また、Wiiの中国展開について、あの時点で来年にということだったがアップデートをお願いしたい。
A 14

岩田:

 まず資本政策についてですが、当然いろいろなことについて、われわれは可能性を一切排除せず考えておりますので、いつ、どんな政策を取るかということを、われわれは縛るつもりはありません。一方で今日、具体的にこういうことをいついつやりますと、具体的にお話しできる材料もございません。来年、いよいよ株券の電子化になりますので、そのことと絡んで考えなければいけないことはあるかなと思っております。

 それから中国に関しましては、中国のことは経験を積めば積むほど、中国で発表したほうがいいということを痛感していますので、今日ここで具体的に申しあげることは差し控えさせてください。

Q 15  この世界的な株安とか、円高という状況の中で、本日、日本でも日銀が0.2%利下げを決めたようだが、この利下げについて、任天堂の経営、日本経済、世界経済について、どのように影響が出てくると見ているのか。
A 15

岩田:

 任天堂は、いわゆる有利子負債のない会社ですので、利下げについて一番インパクトがあるのは、この利下げが為替レートにどのような影響を与えることになるかということだと認識しています。

 一方で、われわれの業種が不況に強い、娯楽の中では一番コストパフォーマンスがよい部類に入っていて、これまでも景気の変動の影響をあまり受けてこなかった。むしろ景気変動がどうかというよりは、私たちはおもしろい商品を今年出せたのかということのほうが、はるかに業績に与える影響は大きいということが、ずっとわれわれの経験としてありましたし、それはわれわれの産業の特性として、いまも変わっていないと思っています。それでも実体経済が一定以上に本当に悪くなってしまってですね、大きな影響が、本当にそれこそ生きていくことに対して非常に困難な状況がたくさんの人の身にふりかかれば、当然ビジネスがおかしくなりますので、そうならないようにするために、各国の政府がいろいろな政策を打ち出して動いておられるんだと思いますから、その効果が狙いどおりに発揮されるようであってほしいなというふうに思います。

 われわれは今回の利下げということで言えば、一番の関心事はこれで為替レートはどうなるのか、それをこれから見たいということですね。


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